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第4章 新旧時代大戦

報酬と今後

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 太股を軽くパシパシと叩かれ、うっすらと瞼を開ける。自分は、いつの間にか心地よい揺れで眠りに落ちていたようだ。

「おい、そろそろ見えて来るぞ。帰り着くまでがリーダーだろ?」

 ジョンに寄り掛かっていたらしく、ゆっくりと起こされた。
 辺りを見渡し、馬車の中に居た事を思い出した。
 二台の馬車に、ブルゲンとソドムの姿は無い。
 過去から帰還した際に、ブルゲンはドワーフ王家の後継問題や兵士達の狂戦士バーサークの後遺症等、色々忙しくなるのでそこで別れる事となった。
 ソドムは、仲間達を連れて故郷へと帰るらしい。何やら戦をしに行く様な面持ちだったのが気になるが、また会う事を誓ったので大丈夫だろう。

「トーキオを出発して、四日程しか経っていないのに、かなり懐かしく感じるな」

「まぁ、かなりの強行軍だったし、世界観が全然違うからね」

 見慣れた防壁が地平線から見え始め、その街並みが現れ始めた。違和感を感じるのは、氷河期の古代都市に行っていたから、まぁ当然だと思うけど。

「因みに、タケルは今回のクエストでどれくらい職業ジョブレベル上がったよ?」

「探検家レベルは5まで上がっているよ。常に索敵サーチを使っていたからかな」

「へぇ、凄いじゃないか!だが、俺らも負けちゃいないぜ?」

 ジョンは剣士レベルが25、レベッカは23。マイクも狩人レベルが23に達したらしく、帰ったら上級職昇格クラスチェンジ申請するそうだ。

 馬車内で今後の職に盛り上がる中、門は開門されトーキオの街に馬車は進入した。
 聞こえてくる賑やかな話し声と、漂ってくる香ばしい香りで商店街にいるんだと気付いたタケル達は外を見る。

「え?何だこの光景は?」

 目に飛び込んで来たのは見慣れた商店街ではなかった。
 色とりどりのTシャツで行き交う人々。変わったのは服装だけではない。見た事の無い道具やらがあちこちにある。

「おい、あれってブルゲンが居た時代で見たやつじゃないか?」

 それは、風呂上がりに使用していた扇風機と呼ばれていた道具に似た物。調理された揚げ鶏の香りを通りに拡散している。

「まさか、たった数日でマリの発明がここまで浸透したのか⁈」

 扇風機だけではない。タケルも持っているバーナーや、魔石灯を筒型にし光を収束して遠くまで照らす魔石電灯なるもの等etc…。
 これは環境がかなり変わったのではないか?

 馬車がギルドに到着すると、一同はギルドの応接間に集められた。

「フム。マリ殿は凄いな。各々、募る感動は置いといて、無事トーキオに帰り着いた訳だが…」

 ギルド長であるウィルソンはそう切り出すと、腰に着けてある巾着?みたいな四次元バックパックから大きな包みを取り出した。

「先ずはクエストをクリアおめでとう‼︎これはブルゲンから渡された報酬だ!」

 包みが解かれると、中には様々な宝石や金や銀の武器・装飾品・美術品の数々が現れた。

「うぉぉぉっ⁈凄ぇ‼︎」

「宝石は全て本物だし、武器や装飾品はドワーフが製造した超一級品だね!」

 タケルは次々と鑑定を進めていく。その後でマイクやジョンは武器を物色し、レベッカは宝石に頬ずりしている。

「ウム。分配は各々平等にしてくれよ?さて、タケル。ちょっといいか?」

 タケルはウィルソンに呼ばれて別室へと移動する。何故か扉に鍵を掛けると、ウィルソンは真剣な表情をしてタケルを見た。

「君だけ呼んだのは、当然だが訳がある。今回のクエストで、我々人間はドワーフとリザードマンと共に行動した。今までに前例は当然無い。君から見て、彼等の事をどう思うかね?」

「どうって言われましても…ドワーフ達とは、昔から本来関わり自体を避けていたし、リザードマン達に至っては砂漠地帯では戦闘が日常的に起こる程に仲が悪い状態です。…ただ、今回のクエストで、元は同じ人間であることが分かったし、ソドムの様な者達とは手を取り合い共存できるんじゃないかと思います。直ぐには無理でしょうけど…」

「そう。直ぐには無理だし、我々だけじゃ意味が無い。ブルゲン、ドワーフ達とは、近々同盟を結ぶように王に働き掛けるつもりだ。これを実現するには、ドワーフの王にブルゲンが王になる事が前提だが、まぁ大丈夫だろう。問題はリザードマン達、亜人達への対応だ」

 単純に、魔物と同じとしか見ていない世間の間違った常識。それに比例して人間を憎む亜人。

「確かに、世間が彼等を人間と同等として見ることは難しいですね。争いが続いた時間が長過ぎる…何か良い手は無いんですか?」

「フム。無い事もない」

「え?あるんですか⁉︎」

 タケルは驚き、思わず声が裏返りそうになる。

「多種族が一つになるには君が鍵となる。君以外にはおそらく務まらんだろうな」
 
「は?俺が鍵?すいません、言ってる意味が全然分かりませんけど…」

 困惑するタケルの両肩をウィルソンががっしりと掴む。

「君に勇者になってもらう。そして仲間に亜人達を引き連れて、魔王を退治してもらえば万事上手くいく」

 は?何言ってるの?魔王退治とか俺にできる訳無いじゃないかとタケルはウィルソンの目を見るが、彼の目は本気マジだ。

「早速、三日後にはトーキオを出て、王と謁見してもらい、勇者になる試練に向けて特訓を開始する。かなり忙しくなるぞ」

「いやいやいや、ちょっと…」

「もちろん、やってくれるだろう?」

 何だろう?満面の笑みのウィルソンから、有無を言わさぬ殺気を感じる。既に選択肢が無いじゃないか!
 タケルが声に出せない心の叫びを上げている頃ーーー


 トーキオより北西に位置し、センダール王国の首都である王都グラハバン。
 そのグラハバン城の資料室の扉が開かれる。既に先客が居り、一冊の古い書物を見ていたが、来客者に気付き手を止める。

「おお、来たかラネット」

「お久しゅうございます。ボルト大司祭」

 書物を見ていたのは、ボルト大司祭と呼ばれた白髪の老人だが、肌はよわい80とは思えないほどに血色が良く、所作に気品がある。
 一方で来客したラネットと呼ばれた女性は、黒の三角帽子とローブに紫のケープを羽織っており、聖職者である司祭とは対照的な魔術師である。紫のアイシャドウと口紅で、妖艶な表情を見せる色香漂う大人の女性だ。

わたくしが、呼ばれた理由は何でしょう?」

「呼ばれたのは私と其方だけでは無いらしいぞ。後にバンカーやウィルソンも駆け付けるらしい」

「あら、あの筋肉馬鹿マッチョも?嘗てのパーティメンバーを集めて、何を始める気かしら」

「こいつがどうやら見つかったらしい」

 司祭はそう言うと、手にしていた書物を机の上で広げて見せる。ラネットは、それを見て目を細める。

「本当に?今や多忙な皆さんを集めて、間違いでしたじゃ済まないと思いますよ?」

 その文献には一文でこう書かれてある。

『髑髏の兵士を従えし魔王は、逃げ惑う我等の脳に直接語りかけてきた。我と合間見えるべきは勇者のみ。その他の雑兵に用は無い。我が名は魔王ノゾム。世界を闇で統べる者也。数多の月日が流れるとも、彼の地での約束通り、我はお前の来訪を待つ』

「大体、魔王は千年も昔に現れて存在しているのに、そんな昔に約束をしたタケルという勇者(人間)が、現代に生きている訳無いでしょうに」

「…今までも、タケルの名を持つ者達を見て来たが、どれも器の無い者ばかりであった。ところが、ウィルソンが数日前に手紙を寄越してな。タケルという若者と古代に向かう。見定めてくる。とな…」

 ラネットはいやいやと頭を振った。

「あのマッチョの言う事ですよ?」

「だから皆で会って見ようという事なのだろう」

 でもと言いかけて、ラネットは口を閉ざす。世界が勇者を渇望しているのは確かだ。本物なら、それは素晴らしい事なのだ。それならば、自分の目で確かめてやろうと静かに文献を見下ろすのだった。

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