拳で語るは村娘

テルボン

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第2章 新たなナニゲ村

第25話 見知らぬ救い手

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 ナニゲ村に到着すると、建設中の建物から音が聞こえる。馬車を止めて近づいてみると、ジョージとサエルは既に作業にとりかかっていた。

「あ、おはようございます」

 アルテ達に気付いたサエルが、作業を止めて笑顔で挨拶をしてきた。対照的に、ジョージは軽く一瞥したら再び作業を開始する。

「おはようございます。すみません、少し遅くなりました。かなり進んでますね。ゆっくり休めませんでした?」

「いや、ちゃんと休みましたよ。じっとして居られない性分なだけでやんす。ただ、資材がそろそろ無くなりそうなんですけど…」

「分かりました。直ぐに持って来ますので、できるところまで進めていてください」

 アルテはアンナ達に馬車を降りてもらい、自分は中へと乗り込む。そこで魔高炉を出し、昨日の片付けの際に取り込んでいた廃材で材木とセメントを生成した。そして、あたかも始めから馬車に積んであったかのように取り出して、シェアした物体重量操作によりサエルの前へと運ぶ。

「とりあえず、昨日の段階で手配できたのはこれだけです」

「この量の資材も馬車に乗せて来たんですかい?」

 用意された資材の量を見てサエルは目を丸くする。確かに彼女達が乗っている状況にこの資材の量は有り得ないかもしれない。

「あ、ひょっとしてアルテさんも収納技能スキル持ちなんすか?羨ましいなぁ。収納技能スキルは超希少だから、高額サポーターくらいしか見た事無いんすよ」

「ま、まぁね」

 (収納技能スキル?ああ、ゲームで言う所のアイテムボックスやインベントリとかいうやつか。確かに有れば便利だな。俺の魔高炉は廃材を利用して作り変えるリサイクル的な魔法だからなぁ。作り変えたくない物は手持ちだし。今度、時間に余裕がある時に、そのサポーターとやらに会いに行ってみるか)
 もちろん、シェアルームに入れてオリジナル技能スキルを作る目的だけど。

「ところで、剣士の坊やとあの美人さんはまだ資材の手配で居ないのは想像付きますが、更に今日は一人少ない気がしやすね。あの大人しいお嬢ちゃんはどうしたんですかい?」

「ああ、アネットの事?彼女はちょっと体調を崩してね。村で休ませているの。想像通りアレックスと明美には、引き続きいろいろ手配に回ってもらってるわ」

「それは心配でやんすね」

 この男、女性陣をいろいろ監視しているのか?でも監視というより目線がいやらしいな。

「それで?ゴッズさんが見当たりませんけど、どうしたんですか?」

「だ、旦那ですかい?アルテさん達がまだ来ないならと、周辺を散策しに出掛けちゃったんすよ」

  明らかに動揺して何か嘘っぽいなと思い、サエルの記憶をシェアする。すると、既にゴッズは昨日の夕方から居らず、ジョージとサエルでゴッズの帰りを待っていた記憶が伝わる。ただ、二人もゴッズが何処に出かけたかは分からない様子だ。

「そうですか。なら、彼の事は放って置いて、今日の作業を始めましょうか」

 今日はアレックスも居ないので、索敵サーチも使えない。シェアルームの範囲内で技能スキル以心伝心により念話で情報のやりとりをするしか無い。
 今日はサエルとジョージは監視対象としてもちろん枠に入れて、残りの三人はアンナ、メグ、イザベルにシェアルームを発動する。
  当然アンナ達には技能スキルのシェアを許可してある。

「それで、今日の作業内容は?」

「今日は、棟上げが終わった宿屋と店舗(雑貨屋)の屋根と外壁を終わらせたいでやんすね」

「屋根ですか。この国の煉瓦の瓦と形も素材も違いますが、やれそうですか?」

 この世界の瓦はいわゆる西洋瓦に似ているのだが、旅館風の宿屋にしたくてあえてセメント素材の和風瓦をジョージに技能スキルで制作してもらったのだ。

「大丈夫ですよ。確かにこの国じゃ見ない建物ですが、要領は一緒でやんすから。先ずは平木張りから始めやしょうか」

「ええ、お願いします」

 サエルが準備に取り掛かると、アルテは皆んなの今日の役割を伝える。

「アンナとミカは昨日と同じで、馬の世話を頼む。ナタリーとイザベルも昨日と同じで、食材確保を優先しつつ、罠の確認も頼む。ファーは一度王都に帰り、このメモの買い物を頼む。フロウはジョージの手伝いを、メグは俺を手伝ってくれ」

 「あ、あの…」

 渡したメモを見てファーが首を傾げる。

「ああ、それね。今朝、君達が仕入れに向かう前に頼もうと思っていたんだけど、先にディオソニスに会いに行ったからね。この村にも農園を作ろうかなぁと思ってさ。ファーがいつも食材の選別をしているのを聞いてたから、良い種や苗を選ぶかもなと思って。野菜の種類は君に任せるよ。ただ、アレックスが居ないから一人で行ってもらう事になるんだけど…」

「それは大丈夫です。王都の商店街はある程度覚えましたし、買いたい物の店は心当たりがありますので」

 心配いりませんとファーは財布を受け取り、馬車の転移鍵ポートキーの扉で王都へと向かった。

「それじゃあ、俺達も仕事に掛かろうか」

 各自持ち場に向かうと、イザベルから早速念話が届く。

《アルテさん、あの嫌な冒険者さんが帰って来ましたよ~》

 ゴッズが帰って来たという報告を受けて、アルテは直ぐにイザベルの元に駆け付けた。村から少し離れた地点、罠が仕掛けてある付近で、くたびれた姿のゴッズがそこで座っているのが見えた。イザベル達は、じゃあ行くわねと狩りに戻って行った。

「ゴッズさん」

「ありゃ、お出迎えですかい?」

 アルテに気付き、疲れた表情のままニヤニヤ笑って見せる。

「こんな時間まで何処に出かけていたんですか?」

「ちょっと、近辺の偵察をね~。だけど乗ってた馬が足が折れちゃって、走りながら帰って来た訳よ~」

 偵察に馬で出てる時点で近辺じゃないだろうとツッコミ入れたくなるけど、気になるのはその行き先だ。リリム達の後を追った可能性もある。
 一時的にメグをシェアルームから外し、代わりにゴッズを枠に入れて記憶を探る。だが、やはりシェアしても名前以外の情報も記憶も入って来ない。

「まぁ、疲れていようが仕事はこなして貰いますけど」

「ホント、村長さんだけでなく、嬢ちゃん達も全員疲れ知らずだよなぁ。冒険者顔負けだぜぇ?」

 それはオートチャクラの技能スキルによるものだけど、体力的な疲れは取れても疲労感は残る。皆んな、頑張ってくれているのだ。

「村を復興させたいという気力によるものですよ」

 ゴッズには重い腰を上げてもらい、今日は村の一画を耕してもらう事にする。

「どうやら貴女は最悪な依頼者だったらしい」

 ゴッズは、うへぇと悪態をつきながらも、鍬を持って作業に取り掛かる。

(明後日には新たな冒険者が来る。それまでは、ゴッズコイツには可笑しな素ぶりはさせないようにしないとな)

「後で見に来ますね」

 アルテは逃げ出さないようにと釘を刺し、自分の持ち場へと帰るのだった。



 少し離れた建物のバルコニーから、双眼鏡で二階建ての貸家を観察している男がいる。風貌は冒険者だが、ならず者と言ったと方がしっくりくるだろう。
 その男が、たった今、建物の扉が開き一人の女性が出て来たのに気づくと、その隣で居眠りをしていた男を軽く蹴る。

「おい!やっぱり居るじゃないか!」

「え?さっき建物内を捜索した時は誰も居なかったよ?」

 蹴られた男は寝ぼけながらも、双眼鏡を受け取り確認する。

「あ、居るね。どうする?後を着ける?」

「・・・・」

  男達は商店街へと歩いて行くファーを見て、顔を見合わせニヤリと笑った。



「ファーちゃん、頼まれた苗や種はこれで全部だよね?」

 あらゆる青果が並ぶ店内の隅で、ファーは店主に探してもらった苗と種を、一つ一つ確認していた。

「ハイ、間違いないです。あ、あと、水樽を三つ程お願いします」

「はいよ。水樽は後で貸家に届けてあげるよ」

「いつもありがとうございます」

 笑顔で代金を支払うと、店主は照れながら商品を木箱に詰めてくれた。

「そういえばファーちゃん、飛行船って知ってるかい?」

「飛行船?知りません。船が空を飛ぶんですか⁈」

「いや、海の船が空を飛ぶ訳じゃなくてね。飛行船っていうのは大きな気嚢に軽い気体を沢山入れて浮き、尾翼等で空を自由に移動できる乗り物の事なんだ。まぁ、気球より機動性の高い乗り物と思った方が早いかな。隣の帝国は沢山所有していて、戦争でも使われているらしい。製作にかなりの費用が掛かるらしいから、この国には当然無いんだけどさ。ただ、今朝方にこのナゲイラ国に急接近したらしくてね」

「ま、まさか、帝国が攻めて来たんですか⁈」

「それは無いよ。このナゲイラ国と隣のヒノデル帝国は同盟国だからね。考えられるのは演習中の一隻が迷って来たとかかな。それにしても、遠巻きでも一度見てみたいけどね」

「確かに、私も見てみたいかも」

 その後も店主と軽い雑談をした後、ファーは残りの買い物を素早く済ませて村へ帰ろうと貸家に入るなり扉に鍵をかけた。
 水樽はいつも貸家の外に運んで置いてもらっている。調理の際や必要な時にはいつでも王都に戻れるので、非力な彼女達は、樽ごと村に運ぶ必要は無いのだ。
 なので、しっかりと戸締りを見て回り、村へと帰るだけだ。

「…あれ?」

 ファーは閉まっていた筈の共同炊事場の扉が開いているのに気付いた。

「もしかして、メグさん…?」

 昼食の段取りにメグが帰って来たのだろうかと、何気なく部屋の中を覗く。
 彼女は左からぐるりと見渡して凍り付いた。

「‼︎⁉︎」

  目の前に見知らぬ男が二人、ファーを捕まえようと飛び出して来たのだ。直ぐさま扉を閉めようとノブを掴み引っ張るが、男達に扉を掴まれてしまった。当然、力負けして扉は開かれる。

(誰⁉︎空き巣⁉︎逃げなきゃ‼︎でも、村への扉がバレちゃう!)

 ファーは急いで二階へと駆け上がり、自室に隠れる。
 村の馬車への転移鍵ポートキーが繋がっているのは、炊事場隣の備品倉庫の扉である。咄嗟に二階へと来てしまったが、このままでは逃げ場が無い。

「見~つけた!」

 扉が蹴破られ男達が入って来た。

「きゃーっ‼︎誰かーっ!」

必死に逃げ回るが、直ぐに腕を掴まれ抑え込まれる。

「大人しくすれば、酷い事はしねぇよ。大事な人質だからな」

  一人の男がそう言うと、騒がないように無理矢理猿轡をされる。

「おや?空き巣ではなく、人攫いだったみたいだぞ?ナビー」

『そのようですね。どうやら雇われ冒険者のようですが、Bランク程度の実力しかありませんね』

 部屋の入り口から突然話し声が聞こえ、その場に居た男達は素早く身構えた。
 入り口に立っているのは、見た事の無い異国の服装。少量の白髪混じりの短髪で筋肉隆々の見た目40代の男だ。
 その肩付近に、ふわふわと球体が浮いている。

「な、なんで貴様が居るんだ⁉︎【藤浪 雲水】‼︎」

 ファーを捕まえている男が震えながら叫んだ。

「愚問だな」

『愚問ですね』

 球体が喋った?と思った瞬間、ビタン!という音が後方から聞こえた。ゆっくりと振り返ると、壁に二人の男が貼りついていた。いや、

「答える訳無かろう?」

 細長い剣らしきものを腰に直し、物凄いドヤ顔で見下ろしている。
 最早、混乱して何がなんだか分からないファーの前に、勇者の一人である【藤浪 雲水】が、偶然か意図してか、結果的に救い手として現れたのである。
 
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