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第2章 爆誕⁉︎召喚されし者達の女神

第30話 交渉

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 仕事を始めて2度目の満月の日。

 大きなバックパックを担いだアカネが、地上と繋がる扉を開いて現れた。

「随分と持ち込んだな?」

「えへへ…。主に本と護身グッズですけど」

 ハヤトの【看破眼】は、それ等以外に女性特有の必要な用品や下着を多く入れてある事を見抜いた。
 確かに、向こうの世界に同等のそれ等があるとは限らないし、あったとしても慣れるまで時間が掛かるだろう。
 原動機械の資料本は、あっちの世界では【言語理解】のスキル持ち以外には解読できない文字だろうから、ギリギリセーフかな?
 まぁこの程度なら、持ち込みを黙認しても良いだろう。

「おはようございます、ハヤト神」

 そこへ、ユースティティアが現れた。彼女も、今回の交渉の場にて監査するので同行するのだ。

「おはようございます、ユースティティア様」

 目隠しをした背の高い女神に、アカネは驚き口をパクパクさせている。

「ゆ、ゆ、ユースティティア⁉︎あのジャスティスな女神⁉︎」

 いきなり土下座を始めたアカネに、ユースティティアは若干引いている。

「この子が、今回の転移者ですか?」

 何故か、今までの自分の不摂生や社会への不満を反省しだした彼女に、ユースティティアは疑念を抱いたようだ。

「はい。適性はかなり高いです。彼女であれば、ブラフーマ様の要望に応える事ができるでしょう」

 ハヤトの迷い無い答えに、ユースティティアはそれならば良いですと納得したように頷いた。

「では、参りましょうか」

 ブラフーマ邸に向かう道中、話を聞きつけていた神々が、アカネを見に道脇や物陰から伺っていた。

「あわわわわっ…」

 アカネは、神々からの視線に怯えながらも懸命についてくる。
 こんな時、天使がまだ居たら付き添わせて不安を解消させられるのだが、サブリナは陳さんとミノルが邸宅に居るので待機させている。
 これからは、天使を増やすべきかもしれないな。

 ブラフーマ邸に到着すると、門の周りにも神々が集まっていて、入り口どころか門にすら近づけない。
 これは、ちょっとした近所迷惑になっていそうだ。

 しばらくして、門が中から開き始めると、ぞろぞろとブラフーマ仕えの天使達が現れ、邪魔な神々を遮り道を開けた。

 ブラフーマと敵対したい訳じゃない神々は、流石に天使達に手を出さないようだ。
 入り口が通れるようになったので、ハヤト達は先へと進んだ。

「大変お待たせしました、ブラフーマ様」

 笑顔の青年の面をしたブラフーマは、モブリアとハヤトが頭を下げようとするのを止めた。

『いやいや、待ち侘びたけど君等のせいじゃないよ!暇を持て余している奴等が妨害するのが悪いだけさ?でもまぁ、無理もないさ。君達は今、神界では凄い注目度だからね?』

 窓のカーテンを少しずらすと、隙間から覗こうとしていた神が天使に見つかり逃げている。

『神々の娯楽とも言える転移や転生も、今やモブダリア神により制限されているからな。俺の転移依頼が終わり次第、我先にと次の転移の順番を狙っているのさ』

『ブラフーマ神の仰る通り、私にもいろいろな神々が、貴女への口利きを頼んできましたわ。もちろん、お断りしましたが』

 ユースティティアは、スラっと愛剣を取り出し見せて微笑む。
 彼女にも、神々が付き纏っていたのか。不正を許さない女神の彼女に頼むとは、怖い物知らずな神だな。

「陳さんの料理を食べに来る常連様も、目当ては、私かハヤトさんに近付く目的だったかもしれませんね」

 いや、あの満足の笑みを浮かべてた神達は、本気で料理を味わいに来てたとは思うけど。

『ともかく、みんなが注目する初転移だ。先ずは、君が選んだ転移者を紹介してもらおうかな?』

 緊張した面持ちのアカネは、気持ちを奮い立たせて前に出た。

「彼女は、アカネ=スズハラ。3人の中から選ばれた日本人の候補者です。22歳と、少し歳ではありますが、その知識量は満足頂けると思います」

(ちょっと、年齢は失礼でしょ⁉︎)

 アカネは、紹介したハヤトを軽く睨む。転生なら若返りができるが、今回は転移だ。
 若返りまでは、流石に望めない事はアカネにも分かっている。

『そうか、ならば早速、交渉に移るとしよう。アカネよ、座りたまへ』

「は、はひっ…」

 対座となる目の前に座るように促され、アカネは震えながらも座った。
 それを監視する位置に、ユースティティアも座る。

『転移先であるアッサムニアの事は、どの程度知っている?』

「…国の数、種族の勢力、文明の程度は聞かされています」

『ならば話は早い。我が其方に望むのは、文明レベルの底上げだ。但し、様に頼む』

「…!なるほど、種族間の話が出るのであれば難しい条件ですね。ですが、それをただやれと仰られても、私には苦行でしかありません。…御助力は頂けないのですか?」

「それに関しては、私から提案を出させて頂きます」

 ハヤトが挙手して話に割って入る。これはもともと打ち合わせ通りの内容だ。

「先ずは、貴女が転移するにあたって、ブラフーマ様には恩恵であるスキルを与えて頂きます。但し、スキルを選ぶ権利は転移者が持ちます。それ等のスキルには価値で点数がつけられており、ブラフーマ様には、転移者が選んだスキルの合計値が100点内以下であれば、

『了解した。それでは、其方が我の要求に応えると誓うならば、更に30点足そう』

「30⁉︎」

 もともと、20点の加点は例であげた数字だ。提案はしていたが、後の判断はブラフーマの意思に任せてある。

「ブラフーマ様、転移者の加護におかれましてはどうされます?」

『そうだなぁ…。アッサムニアに関わる神は、創造神である我以外に、森と生活の神ファウヌスと森と狩猟の神ヴィーザルが居る。我々の誰かに信仰を捧げるのであれば、それに見合ったスキルを授けよう』

 ブラフーマの加護の特典は、点数ではなくスキルのようだ。

「では、創造神ブラフーマ様を信仰すると誓います」

 アカネは、2柱の名を知らなかった。創造神たるブラフーマよりも、2柱の力が弱いと睨んだアカネは、主神であるブラフーマを選んだ。

『良かろう。ならば、我は其方に【言語理解】、【脳内地図】、【不老長寿】を授けよう』

「…っ‼︎(嘘っ⁉︎やった‼︎)」

『お待ち下さい、ブラフーマ様。貴方様のその世界での【不老長寿】は、信仰に対して過剰な恩恵ではありませんか?』

 喜びも束の間、ユースティティアの横槍が入り、明らかにアカネは驚愕の表情をしている。

『ん…。(確かに、アッサムニアにはエルフの様な不老長寿種族は居ない)ならば、【長寿】で良いか?5年に1歳老化する。これならば、不審がられる事もないだろう?』

『はい、英断かと思います』

 《老いない》から、《老いを緩やかに取る》スキルとなったが、アカネに不満など言える状況じゃない。

『まぁ、スキル以外にも加護はある。通常の人間種族よりも、体力はあるし、状態異常に対する耐性もある。自身の状態のみ、ステータス画面として見れる様にしよう。どうだろう、不満はあるか?』

「いえ、滅相もないです。有り難くお受けします」

 おそらく、他の2柱を選んでも【言語理解】は貰えただろう。但し、【脳内地図】と【長寿】はブラフーマだからこその恩恵に違いない。

『では、与えた30ポイントと元ある100ポイントを用いて、実用的で必要なスキルを選ぶが良い』

 アカネの前に、先に見たアッサムニアのスキル表が提示された。
 価値ポイントも、ハヤトがブラフーマに渡した結果のままだ。

「私が選ぶのは…」

 彼女が選んだスキルは、

【身体強化】15p
 一時的に身体を強化するスキル。基礎筋力を上げる事により、持続時間と効果も増加する。

【交渉術】10p
 あらゆる交渉の場において効果を発揮する。対象の情報が多い程、優位に進めることができる。成功数が増えるにつれて、不利益な状況も緩和される。

【鍛治】30p
 鍛治に関する知識と技術を得る。熟練度があり、場数が増える程に精度が上がる。

【建築】30p
 建築に関する知識と技術を得る。熟練度があり、場数が増える程に精度が上がる。

【絵師】10p
 絵を描くことができる。模写、製図、着色、調色の技術を得る。

【操縦士】15p
 あらゆるに対して操縦する技術を得る。熟練度があり、場数が増える程に精度が上がる。

【観察】5p
 対象を集中して見ることができる。使用中は、些細な事には動じなくなる。

【鼓舞】5p
 対象を励ます。対象の心の変動に比例して、自身にも効果がある。

【勤勉】10p
 スキル所持者は常に、励む事に抵抗が薄まる。何かに励んでいる時、その効果は増加する。

(言語理解を先に得た事で、更に多くスキルを選べたわ。良かった)

 彼女のこのスキル選びは、おそらく商人に違いない。
 【鑑定】の代わりに、下位互換である【観察】を選んだあたり、素材を覚えて商品を自作して販売する考えの様だ。

『ふむ、興味深い選択だな。よろしい、ポイントに応じてスキルを与えよう』

 ブラフーマの手がアカネの額に当てられる。淡い光がアカネに灯り、しばらくして消えた。

『交渉は成立した。では女神モブダリア、この者の転移をお願いする』

「承りました」

 アカネは立ち上がり、モブリアと向き合う。

「お世話になりました!私、お2人には感謝しかありません!」

 ハヤトとは軽い握手と、モブリアにはハグをした後、彼女は意を決して目を閉じた。

「転移者アカネの行く末に、幸多からんことを…」

 アカネの立つ床に、転移魔法陣が浮かび上がり彼女を包み込んだ。
 一気に光が収束すると、そこには彼女の姿はもう無かった。

「これにて、転移は完了でございます」

『うん、面白い取り引きだった。報酬は天使に送り届けさせるよ。これからも、よろしく頼むよ?』

 ブラフーマと、ハヤトとモブリアの2人は握手を交わし、神としての初仕事を成功させたのだった。
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