上 下
6 / 27
第1章 それは自業自得だろ?

追加討伐だろうと楽勝

しおりを挟む
 確認できた標的のドラゴンはワイバーン種で、その肌は白みがかっていた。
 それは、生物なら全てに存在するが、極めて稀にある白変種と呼ばれる個体だ。

 世間では、神の使いだとも言われているが、ある国では白変種の牛を神よりも偉大になれると、嬉々として食べた王族が居たらしい。

 まぁ、俺も信じないがな。ただ、どこにでも愛好家はいるらしく、双頭馬の白変種を捕獲した際には、毛皮にかなりの高値が付いた。
 ドラゴンの白変種ともなれば、その価格は想像もつかないな。

 ただ、今のところ単体のドラゴンと卵しか見当たらない。
 つがいと聞いていたので、片割れを確認したいところだ。

 ジリジリとバジリスクを背負い近付くのも、これ以上は目に付き無理がある。
 手頃の窪みに入りとぐろを巻いた状態で固定すると、指輪以外を脱ぎ裸となり収納すると、土を自らの体に擦り付けた。

 日の陰りを待ち、雲の影が差し掛かったタイミングで窪みから這い出した。
 地を這うような低い姿勢で、巣穴を見下ろせる位置まで移動する。

 ドラゴンの竜鱗を貫くには、強弩での射程距離は短くなる。
 遠距離でも有効な強弓では、風切り音が出るので初撃には向かない。

 だから初撃だけは、できるだけ近距離からの狙撃がベストだ。

(ん、寝ているのか?)

 先程から、卵を温めている親竜が長い時間目を閉じている。
 アッシュは更に確認するべく、巣穴へと近付く事にした。

(驚いた。マジで無警戒に寝ているな)

 グルルルッ…。

 寝息の音を立てながら、完全に寝ている。 
 いくらこの辺りでドラゴンに天敵が無いとはいえ、卵が狙われる可能性もある。
 疲れが溜まっていたのかもしれないが、これはアッシュにとっては好都合だった。

 【気配感知】で辺りに反応は無い。片割れが戻る前に、先に仕留めるとしよう。

 全長15メールはあるドラゴンに、死角から最接近したアッシュの手には、指輪型マジックバッグから取り出した刃渡りの長い槍が握られている。

 僅かに見える内腹へ、渾身の力で槍を突き刺した。

 ガッッ⁉︎

 突然の衝撃と激痛でドラゴンは身を捩らせたが、アッシュは構わず槍を足で更に押し込んだ。
 槍の柄の端まで埋まる辺りで、心臓部に届いた。
 バタバタと暴れるドラゴンから、アッシュは卵を抱えて飛び退いた。

 5秒程翼をバタつかせた後は、ピクピクと痙攣しながら恨めしそうにコチラを睨んでいた。

(先ずは1頭…)

 運良く楽に倒せたわけだが、ここからが忙しい。
 片割れが戻る前に、この遺体を処理収納しなければならない。
 指輪のマジックバッグには、まだ使える武器が多い為に、このドラゴンを丸々収納できる空きは無い。
 とりあえずバッグ型マジックバッグを取り出し、ドラゴンの遺体を小分けにして、マジックバッグへと入れていく。
 今回は血抜きをする時間が無い。食用は2頭目で考えるとしよう。

ピィーーッ‼︎

 突然ハーピーらしき鳴き声が聞こえ、【気配感知】に反応が現れた。
 感知の端に複数のハーピーが飛び回っている。その後ろから巨大な反応が現れた。

「片割れが帰って来たか‼︎」

 反応は、真っ直ぐにこちらへと向かって来ていて、ハーピーはそれから逃げ回っているようだ。

(討伐の痕跡を消す間が無い!)

 辺りの血を隠す間が無い。咄嗟にバジリスクの内臓を取り出しばら撒いてから、巣穴から急ぎ飛び出した。

 岩影に身を隠すと、直ぐに体の匂い消しに取り掛かる。
 今の自分にはバジリスクの血の匂いが強く染み付いている。
 先ずはパライゾ草(麻痺毒)の葉を体に擦り付ける。
 パライゾ草は、毒薬にも麻酔薬にも使える。すり潰す程度では軽い痺れが広がる程度(アッシュに限る)で、何より強い刺激臭があるので、血の匂いの上書き効果があるのだ。

 痺れる指で何とか服を着たアッシュは、クァーヌの衣装の頭を被り、クァーヌになりきって蹲る。
 元からクァーヌに擬態する為に、軽装服の色や素材も合わせている。
 よほど目を凝らして見ない限りは、これでクァーヌと勘違いするだろう。

バサッ!バサッ!

 やがて、巣穴の前につがいであるドラゴンが帰って来た。
 ワイバーン種なだけあって、その翼は立派で大きい。
 このドラゴンも白変種だが、先程のドラゴンよりも2回りは大きい。
 頭部に2本の角があるので、こちらが雄だろう。

 雄ドラゴンが翼を畳み身を屈めると、その背より小さい何かが落っこちた。

 よく見ると、それは白変種の子熊だ。まだ幼く、転がり落ちたショックか呆けている。
 雄ドラゴンが、子熊に軽く息を吹きかけて土埃を飛ばした。
 どうやら餌として連れて来た訳では無さそうだ。

(白変種ばかり…これは思わぬ追加討伐だな…)

 戯れようとする子熊を躱して、雄ドラゴンが巣穴へと先に入った。
 直後に雄ドラゴンの怒声が響く。

 グォォォォォォォッ‼︎‼︎

 無理もない。居るはずの片割れと卵が無く、魔物の血と残骸が散らばっているのだから。
 驚き座り込む子熊を無視して、雄ドラゴンは巣穴から飛び出した。
 卵が無い状況からして、卵を狙った魔物の仕業だと考えているのだろう。

 上空へと飛び立った雄ドラゴンは、目下に潜む大型魔物を探し始める。
 きっと血の匂いにより、バジリスクにを付けているだろう。

 案の定、アッシュが放置したバジリスクの亡き骸を目掛けて急降下し始めた。

(掛かった‼︎)

 アッシュは立ち上がり強弓を構える。もう指の痺れは無い。
 怒りに我を忘れている今の雄ドラゴンなら、風切り音も気付かない筈だ。

 【身体強化】でギリギリと、ドラゴンの筋繊弦を可能な限り限界まで引く。

 雄ドラゴンが、バジリスクの亡き骸を鷲掴みにしたタイミングで、その翼を狙撃した。

 グギャァッ‼︎⁉︎

 突然の翼の激痛に、雄ドラゴンは体勢を崩し落ちる。
 続け様に、もう片方の翼も撃ち抜く。
 雄ドラゴンは混乱して暴れているが、更に翼を傷めるだけだ。

(良し!完璧に両翼の関節を撃ち抜いた。これで飛んで逃げる事はもうできない)

 竜鱗の無い翼だからこそ、この距離で撃ち抜けた。
 後は安全圏から強弩でなぶり殺すだけだ。

「さてと…」

 極めて楽に討伐が完了できるとなったアッシュは、先に子熊を仕留める事にした。

 子熊は未だ訳が分からない様で、巣穴の入り口でウロウロしている。
 アッシュは再び四つん這いになり、狙撃ポイントまで移動する。
 竜鱗と違い熊皮なら、多少離れたポイントからでも、強弩で充分の殺傷力がある。

「フッ、追加でも楽勝…」

 アッシュは、子熊がこちらを見たタイミングで、その眉間を撃ち抜いた。
 直後、アッシュは頭部に衝撃を感じ、意識を失ったのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...