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第1章 それは自業自得だろ?
凄腕ハンターの二つ名 ①
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世界一の大国であるオーリジン王国の西には、未だ未開の地で魔物や野生動物が蔓延る危険な森林地帯がある。
それを人々は【原始の樹海】と呼んでいた。
樹海はその危険度から、魔物の進行を阻むように高く巨大な防壁が築かれていて、出入りができる門は開閉時間も制限されていた。
そんな危険な場所にも関わらず、樹海に踏み入る者は絶えなかった。
というのも、その樹海には、超貴重な薬草、鉱石、素材が確認されているからだ。
その貴重なお宝は、他国には無い薬、魔道具、伝説級の武具等、国の経済に大きく貢献していた。
今日も樹海の入り口で、一攫千金となるそのお宝を手に入れようと、様々な種族の冒険者、採集者、ハンターが多く集まっていた。
その大半が3人以上のチームを組んでいて、どのチームも他のダンジョンや戦地で名を挙げた様な熟練者ばかりだ。
先ずは位置取りが重要な入り口で、どのチームも近寄らない男が居た。
「おいっ、あの野郎が居るぞ⁉︎」
「ゲッ、マジかよ!他のルートから入ろうぜ」
「今からじゃ出遅れる。クソッ!」
その男から逃げる様にチームが離れている。
その男の名はアッシュ。彼は一匹狼、もとい誰からもチームを誘われない単独だった。
職種は狩人。雑用や調査、護衛といった様々な依頼をこなす冒険者とは違い、狩りの仕事だけを請け負い、魔物や害獣の体の素材となる一部を持ち帰り販売する職業だ。
彼の場合、衣装はクァーヌと呼ばれる豹の魔物の毛皮を纏っている以外は軽装である。
ただ、とても臭い。臭いの元は、毛皮に塗られた香草によるものだ。
「奴の今日の狙いは魔鳥ガズーだな。被らなくて良かったぜ。早々に離れられる」
後ろに居たチームもハンター達で、その臭いの意味を理解していた。
魔鳥ガズーはワイルドボアを好む大型の魔物だ。
生息地は樹海の湿地帯で、泥浴びに来たワイルドボアを捕食に現れるのだ。
そのワイルドボアが、この臭い香草を良く食べるのだ。
「ワイルドボアを先に捕まえて、囮の罠を仕掛けるつもりだね。でもソロでガズーなんて大物を穫れるの?」
「奴は【竜殺し】だぞ?竜種に比べたらガズーなんて余裕だろ?」
「でも、それも嘘かもしれないんでしょ?だって【捏造者】の通り名もあるんだし」
そんな外野の戯れ言が聞こえるが、彼は全く気にしていない。今日も確実な成果を上げるだけだ。
やがて門番が門の閂を外し、扉が開かれると同時に皆が樹海へと駆け出した。
樹海に入って直ぐに、ボールパイソンという身を守る際にとぐろから球状になる蛇の魔物が飛び出して来た。
一瞬で喉元を掴み、親指に装備している付け爪で首を刎ねる。
付け爪には毒が塗ってあるので、落とした蛇の頭部分はもう食えない。
首も少し落とし、残りは走りながら血抜きする。
このボールパイソンのような低級な魔物は、防壁の内側にも生息しているが、自ら強者に挑む事は少ない。
だが、防壁の外側に住む魔物達は、例え相手が自身より数倍大きくとも、自ら襲う程に凶暴だった。
「フン、今回もバカ共が尾けて来たか…」
アッシュが進む後方に、冒険者と思われる気配が後を尾けて来ていた。
(追跡に甲冑の音をたてやがって、素人かよ)
アッシュを狙う冒険者は割といる。それは、彼に恨みを持つ者達からの依頼を受けた者達や、単に獲物の横取り・掠奪を考える者達だ。
(面倒くせぇが…来る者拒まずってな)
追跡者達は、どうやら剣士、槍士、斥候の3人の冒険者の様だ。
動きからして、外壁経験者じゃない。
アッシュは、正面から相手にするのも面倒だと、あっという間に距離を突き放した。
「クソッ、見失った!」
「ハァッ、ハァッ、ちょっと待て。こんな道でも無い場所を、突っ切るなよ!」
「お前だけは斥候なんだから追いかけろよ!俺達より軽装だろうが!」
「ああ⁉︎お前達が遅い上に音を立て過ぎるから逃げられたんだろ!ふざけるな!」
勝手に仲間割れを始めた冒険者達は、木の上で見下ろすアッシュに気付かない。
「うん?何だあれは…立て札?」
冒険者達は目立つ場所に立てられた立て札を見つけた。
『この先、魔物捕獲用の設置罠多し。無断に立ち入った者の命の保証は無い。引き返す事を推奨する。 設置者 アッシュ』
「バカにしてやがる!」
剣士は立て札を怒り任せに蹴り倒す。一方で、斥候は冷静になったようで、息を殺して森の奥を凝視している。
「【罠探知】のスキルを使う」
集中した斥候の体が、スキルの発動と同時に僅かに鈍く光る。
(…神の恩恵スキル持ちか)
この世界には、スキルの取得方法は大きく分けて2種類存在する。
一つは、神や精霊等の信仰や寵愛による恩恵として得るスキル。
ただ、恩恵スキルには特徴があり、スキル使用時に魔力消費とその恩恵を与えた対象の色を放つのだ。
もう一つは、多大な熟練によって学び得たスキル。魔力消費も無く、誰でも修得可能だ。
なので比較的に使い慣れた得物による技等が多い。
まぁ、言わずもがな、俺は後者をかなり多く持っている。
恩恵スキルは、俺自身、正直持っているかすら分からない。
というのも、俺は神や精霊を信仰していないし、鑑定系スキルを持たないからだ。
冒険者ギルドでは、有料で自身が持つスキルを鑑定してもらえるらしい。
「…エグい罠が沢山あるな」
斥候のスキルにより、前日に仕掛けていたワイルドボア用の罠の場所がバレてしまった。
今回、ワイルドボアは素材目的ではない為に、どれも殺傷能力の高い罠ばかりだ。
その罠を斥候が潰しながら、冒険者達は先へと進んでいく。
(まぁ、今までもだったが、設置型の罠は感覚が冴えている奴なら、それなりに防げるからな)
アッシュは木から降りると、先回りするべく獣道を駆け出す。
「どうせなら、手伝ってもらうとするか」
今までも、俺を狙って来た奴等は倍返ししてやった。
獲物を狙う奴からは身包みを剥ぎ、罠に嵌めようとした奴は更に酷い罠に嵌め、命を狙って来た奴は遠慮なく葬った。
奴等の狙いが何にせよ、俺を狙った事を後悔することになるだろう。
それを人々は【原始の樹海】と呼んでいた。
樹海はその危険度から、魔物の進行を阻むように高く巨大な防壁が築かれていて、出入りができる門は開閉時間も制限されていた。
そんな危険な場所にも関わらず、樹海に踏み入る者は絶えなかった。
というのも、その樹海には、超貴重な薬草、鉱石、素材が確認されているからだ。
その貴重なお宝は、他国には無い薬、魔道具、伝説級の武具等、国の経済に大きく貢献していた。
今日も樹海の入り口で、一攫千金となるそのお宝を手に入れようと、様々な種族の冒険者、採集者、ハンターが多く集まっていた。
その大半が3人以上のチームを組んでいて、どのチームも他のダンジョンや戦地で名を挙げた様な熟練者ばかりだ。
先ずは位置取りが重要な入り口で、どのチームも近寄らない男が居た。
「おいっ、あの野郎が居るぞ⁉︎」
「ゲッ、マジかよ!他のルートから入ろうぜ」
「今からじゃ出遅れる。クソッ!」
その男から逃げる様にチームが離れている。
その男の名はアッシュ。彼は一匹狼、もとい誰からもチームを誘われない単独だった。
職種は狩人。雑用や調査、護衛といった様々な依頼をこなす冒険者とは違い、狩りの仕事だけを請け負い、魔物や害獣の体の素材となる一部を持ち帰り販売する職業だ。
彼の場合、衣装はクァーヌと呼ばれる豹の魔物の毛皮を纏っている以外は軽装である。
ただ、とても臭い。臭いの元は、毛皮に塗られた香草によるものだ。
「奴の今日の狙いは魔鳥ガズーだな。被らなくて良かったぜ。早々に離れられる」
後ろに居たチームもハンター達で、その臭いの意味を理解していた。
魔鳥ガズーはワイルドボアを好む大型の魔物だ。
生息地は樹海の湿地帯で、泥浴びに来たワイルドボアを捕食に現れるのだ。
そのワイルドボアが、この臭い香草を良く食べるのだ。
「ワイルドボアを先に捕まえて、囮の罠を仕掛けるつもりだね。でもソロでガズーなんて大物を穫れるの?」
「奴は【竜殺し】だぞ?竜種に比べたらガズーなんて余裕だろ?」
「でも、それも嘘かもしれないんでしょ?だって【捏造者】の通り名もあるんだし」
そんな外野の戯れ言が聞こえるが、彼は全く気にしていない。今日も確実な成果を上げるだけだ。
やがて門番が門の閂を外し、扉が開かれると同時に皆が樹海へと駆け出した。
樹海に入って直ぐに、ボールパイソンという身を守る際にとぐろから球状になる蛇の魔物が飛び出して来た。
一瞬で喉元を掴み、親指に装備している付け爪で首を刎ねる。
付け爪には毒が塗ってあるので、落とした蛇の頭部分はもう食えない。
首も少し落とし、残りは走りながら血抜きする。
このボールパイソンのような低級な魔物は、防壁の内側にも生息しているが、自ら強者に挑む事は少ない。
だが、防壁の外側に住む魔物達は、例え相手が自身より数倍大きくとも、自ら襲う程に凶暴だった。
「フン、今回もバカ共が尾けて来たか…」
アッシュが進む後方に、冒険者と思われる気配が後を尾けて来ていた。
(追跡に甲冑の音をたてやがって、素人かよ)
アッシュを狙う冒険者は割といる。それは、彼に恨みを持つ者達からの依頼を受けた者達や、単に獲物の横取り・掠奪を考える者達だ。
(面倒くせぇが…来る者拒まずってな)
追跡者達は、どうやら剣士、槍士、斥候の3人の冒険者の様だ。
動きからして、外壁経験者じゃない。
アッシュは、正面から相手にするのも面倒だと、あっという間に距離を突き放した。
「クソッ、見失った!」
「ハァッ、ハァッ、ちょっと待て。こんな道でも無い場所を、突っ切るなよ!」
「お前だけは斥候なんだから追いかけろよ!俺達より軽装だろうが!」
「ああ⁉︎お前達が遅い上に音を立て過ぎるから逃げられたんだろ!ふざけるな!」
勝手に仲間割れを始めた冒険者達は、木の上で見下ろすアッシュに気付かない。
「うん?何だあれは…立て札?」
冒険者達は目立つ場所に立てられた立て札を見つけた。
『この先、魔物捕獲用の設置罠多し。無断に立ち入った者の命の保証は無い。引き返す事を推奨する。 設置者 アッシュ』
「バカにしてやがる!」
剣士は立て札を怒り任せに蹴り倒す。一方で、斥候は冷静になったようで、息を殺して森の奥を凝視している。
「【罠探知】のスキルを使う」
集中した斥候の体が、スキルの発動と同時に僅かに鈍く光る。
(…神の恩恵スキル持ちか)
この世界には、スキルの取得方法は大きく分けて2種類存在する。
一つは、神や精霊等の信仰や寵愛による恩恵として得るスキル。
ただ、恩恵スキルには特徴があり、スキル使用時に魔力消費とその恩恵を与えた対象の色を放つのだ。
もう一つは、多大な熟練によって学び得たスキル。魔力消費も無く、誰でも修得可能だ。
なので比較的に使い慣れた得物による技等が多い。
まぁ、言わずもがな、俺は後者をかなり多く持っている。
恩恵スキルは、俺自身、正直持っているかすら分からない。
というのも、俺は神や精霊を信仰していないし、鑑定系スキルを持たないからだ。
冒険者ギルドでは、有料で自身が持つスキルを鑑定してもらえるらしい。
「…エグい罠が沢山あるな」
斥候のスキルにより、前日に仕掛けていたワイルドボア用の罠の場所がバレてしまった。
今回、ワイルドボアは素材目的ではない為に、どれも殺傷能力の高い罠ばかりだ。
その罠を斥候が潰しながら、冒険者達は先へと進んでいく。
(まぁ、今までもだったが、設置型の罠は感覚が冴えている奴なら、それなりに防げるからな)
アッシュは木から降りると、先回りするべく獣道を駆け出す。
「どうせなら、手伝ってもらうとするか」
今までも、俺を狙って来た奴等は倍返ししてやった。
獲物を狙う奴からは身包みを剥ぎ、罠に嵌めようとした奴は更に酷い罠に嵌め、命を狙って来た奴は遠慮なく葬った。
奴等の狙いが何にせよ、俺を狙った事を後悔することになるだろう。
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