89 / 119
第十一章 六道輪廻編
第75話 農夫タロサの箴言
しおりを挟む
以前俺ハデルが、カントン国を旅している時に『とある農夫』に出会った。
ヤビツという山間の村。
農夫は農夫だった。
小麦を栽培し、時に猟師として
肉や薬に加工して生きていた。
彼の家に泊めて貰ったことがある。
「納屋でいいなら寝ていけ。さしずめ家のニワトリからは苦情は出てない」だってさ。
その農夫の名前はタロサと言った。
タロサは夜話があると、
小高い見晴らしの良い丘に案内してくれた。
そこで焚火をしながら、
俺達にマシカの肉やドテチンの肉が
に入ったカントン国の郷土料理鍋を振る舞ってくれた。
「あんた聖騎士だろ?ハサンかい?」
タロサは俺に聞いた。
いや違う。俺はハデルだ。
そうタロサに言ったところ
「あー。2番手な。
苦労するよな2番手は。」
そうタロサは呟いた。
タロサがそう言うには理由があった。
彼には歳の離れた兄がいた。
非の打ち所の無い性格も優しい
尊敬する兄が。
ところが、38年前兄はアヤカシに襲われた。
兄は小さい俺を逃した。
そしてアヤカシに殺された。
アヤカシに殺された者はアヤカシとなる。
兄はその日から、兄では無くなった。
似ても似つかぬ兄の姿
幽鬼ピシューチャとして食人鬼に
成り下がってしまった兄。
討伐隊も組まれたが、
尽く撃ち倒してしまった。
奇しくも幽鬼ピシューチャと化した兄を天へ送ったのは前聖騎士ハサンことシオリだったのだ。
シオリが三鈷剣で天へ送る際に、
僅かに優しかった兄に戻りにこやかに、
笑いながら浄化して行った。
タロサは言う。
「俺は、この日を境に分を弁え
天命に従い生きると決めた。
だから、農民として生きるのも猟師として命を糧として生きるのも天命。
いいか、ハデル。『今』を生きろ。
そして希望から絶望に変わった後、
全て受け入れたらお前は強くなる。」
鍋を回しながらタロサは話した。
そして、「今は食え」とお椀を出してくれた。
じゃが芋と、里芋と、マシカとドテチンの肉がゴロゴロ入った田舎の鍋だ。
タロサは受け入れている。
そしてこの世界には、こんな悲しい思いをした人が大勢いる。
長い旅路の一瞬の篝火。
焚き火の側で、こぼした農夫の一言に救われた。
「いやー。流石にダメかなって思ったよ~」
ハサンの野郎はヘラヘラしてやがる……。
フッ。あの人らしい。
ジンタンも気付いたようだ。
良かった。どうやら正気だ。
さて、俺は行くか。
病魔の村の瘴気は全て浄化した。
転移してきたから、皆(パーティのメンバー)が心配している。
「ハサン、後はお前達でやるんだな」
俺は再度転移の術で皆の元へ戻る。
遠くで「ハデルありがとう!」
と、ハサンの声が聞こえた気がした。
ヤビツという山間の村。
農夫は農夫だった。
小麦を栽培し、時に猟師として
肉や薬に加工して生きていた。
彼の家に泊めて貰ったことがある。
「納屋でいいなら寝ていけ。さしずめ家のニワトリからは苦情は出てない」だってさ。
その農夫の名前はタロサと言った。
タロサは夜話があると、
小高い見晴らしの良い丘に案内してくれた。
そこで焚火をしながら、
俺達にマシカの肉やドテチンの肉が
に入ったカントン国の郷土料理鍋を振る舞ってくれた。
「あんた聖騎士だろ?ハサンかい?」
タロサは俺に聞いた。
いや違う。俺はハデルだ。
そうタロサに言ったところ
「あー。2番手な。
苦労するよな2番手は。」
そうタロサは呟いた。
タロサがそう言うには理由があった。
彼には歳の離れた兄がいた。
非の打ち所の無い性格も優しい
尊敬する兄が。
ところが、38年前兄はアヤカシに襲われた。
兄は小さい俺を逃した。
そしてアヤカシに殺された。
アヤカシに殺された者はアヤカシとなる。
兄はその日から、兄では無くなった。
似ても似つかぬ兄の姿
幽鬼ピシューチャとして食人鬼に
成り下がってしまった兄。
討伐隊も組まれたが、
尽く撃ち倒してしまった。
奇しくも幽鬼ピシューチャと化した兄を天へ送ったのは前聖騎士ハサンことシオリだったのだ。
シオリが三鈷剣で天へ送る際に、
僅かに優しかった兄に戻りにこやかに、
笑いながら浄化して行った。
タロサは言う。
「俺は、この日を境に分を弁え
天命に従い生きると決めた。
だから、農民として生きるのも猟師として命を糧として生きるのも天命。
いいか、ハデル。『今』を生きろ。
そして希望から絶望に変わった後、
全て受け入れたらお前は強くなる。」
鍋を回しながらタロサは話した。
そして、「今は食え」とお椀を出してくれた。
じゃが芋と、里芋と、マシカとドテチンの肉がゴロゴロ入った田舎の鍋だ。
タロサは受け入れている。
そしてこの世界には、こんな悲しい思いをした人が大勢いる。
長い旅路の一瞬の篝火。
焚き火の側で、こぼした農夫の一言に救われた。
「いやー。流石にダメかなって思ったよ~」
ハサンの野郎はヘラヘラしてやがる……。
フッ。あの人らしい。
ジンタンも気付いたようだ。
良かった。どうやら正気だ。
さて、俺は行くか。
病魔の村の瘴気は全て浄化した。
転移してきたから、皆(パーティのメンバー)が心配している。
「ハサン、後はお前達でやるんだな」
俺は再度転移の術で皆の元へ戻る。
遠くで「ハデルありがとう!」
と、ハサンの声が聞こえた気がした。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
俺がいなくても世界は回るそうなので、ここから出ていくことにしました。ちょっと異世界にでも行ってみます。ウワサの重来者(甘口)
おいなり新九郎
ファンタジー
ハラスメント、なぜだかしたりされちゃったりする仕事場を何とか抜け出して家に帰りついた俺。帰ってきたのはいいけれど・・・。ずっと閉じ込められて開く異世界へのドア。ずっと見せられてたのは、俺がいなくても回るという世界の現実。あーここに居るのがいけないのね。座り込むのも飽きたし、分かった。俺、出ていくよ。その異世界って、また俺の代わりはいくらでもいる世界かな? 転生先の世界でもケガで職を追われ、じいちゃんの店に転がり込む俺・・・だけど。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる