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第十一章 六道輪廻編

第75話 農夫タロサの箴言

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以前俺ハデルが、カントン国を旅している時に『とある農夫』に出会った。

ヤビツという山間やまあいの村。

農夫は農夫だった。
小麦を栽培し、時に猟師として
肉や薬に加工して生きていた。

彼の家に泊めて貰ったことがある。

「納屋でいいなら寝ていけ。さしずめ家のニワトリからは苦情は出てない」だってさ。

その農夫の名前はタロサと言った。

タロサは夜話があると、
小高い見晴らしの良い丘に案内してくれた。

そこで焚火をしながら、
俺達にマシカの肉やドテチンの肉が
に入ったカントン国の郷土料理鍋を振る舞ってくれた。

「あんた聖騎士だろ?ハサンかい?」
タロサは俺に聞いた。

いや違う。俺はハデルだ。
そうタロサに言ったところ

「あー。2番手な。
苦労するよな2番手は。」
そうタロサは呟いた。

タロサがそう言うには理由があった。

彼には歳の離れた兄がいた。
非の打ち所の無い性格も優しい
尊敬する兄が。

ところが、38年前兄はアヤカシに襲われた。
兄は小さい俺を逃した。

そしてアヤカシに殺された。

アヤカシに殺された者はアヤカシとなる。

兄はその日から、兄では無くなった。

似ても似つかぬ兄の姿
幽鬼ピシューチャとして食人鬼に
成り下がってしまった兄。

討伐隊も組まれたが、
ことごとく撃ち倒してしまった。

奇しくも幽鬼ピシューチャと化した兄を天へ送ったのは前聖騎士ハサンことシオリだったのだ。

シオリが三鈷剣で天へ送る際に、
僅かに優しかった兄に戻りにこやかに、
笑いながら浄化して行った。

タロサは言う。
「俺は、この日を境に分をわきま
天命に従い生きると決めた。
だから、農民として生きるのも猟師として命を糧として生きるのも天命。
いいか、ハデル。『今』を生きろ。
そして希望から絶望に変わった後、
全て受け入れたらお前は強くなる。」

鍋を回しながらタロサは話した。
そして、「今は食え」とお椀を出してくれた。

じゃが芋と、里芋と、マシカとドテチンの肉がゴロゴロ入った田舎の鍋だ。

タロサは受け入れている。
そしてこの世界には、こんな悲しい思いをした人が大勢いる。

長い旅路の一瞬の篝火かがりび

焚き火の側で、こぼした農夫の一言に救われた。

「いやー。流石にダメかなって思ったよ~」
ハサンの野郎はヘラヘラしてやがる……。

フッ。あの人らしい。

ジンタンも気付いたようだ。
良かった。どうやら正気だ。

さて、俺は行くか。
病魔の村の瘴気は全て浄化した。

転移してきたから、皆(パーティのメンバー)が心配している。

「ハサン、後はお前達でやるんだな」
俺は再度転移の術で皆の元へ戻る。

遠くで「ハデルありがとう!」
と、ハサンの声が聞こえた気がした。
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