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第九章 光陰矢の如し
第56話 青葉台のおじさん
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私が未だ人間で日本にいた頃、
今から14年前の話。
私は日本橋で呑んでいた。
北海道から友人が来ていたからだ。
当時自営業をしていた私は、
今後の展望を彼女としていたのだ。
いい気分で酔った。
久々だった。
家路に向かう電車で、
隣のおじさんが絡んできた。
歳の頃は、うちの親父より若いだろうが
60手前くらいの年齢だろうか。
向こうも酔っ払っており、
最初はいなす感じで話をしていたが、
最後の方は意気投合してしまった。
「君は若いのに見所がある!
いいから家に来なさい!
大丈夫だから!大丈夫!
おじさんの所に泊まりなさい。」
人は大丈夫と言われると弱いよな。
私はおじさんの甘言に甘えて、
一晩泊めて貰うことにした。
田園都市線で、青葉台という駅まで電車は走る。普段絶対降りないところだ。
嫁さんに電話する。
「事情があって、成り行きでおじさんの家に
泊まる事になった」
「は?!」
嫁さんは驚くが事情を話して納得して貰った。
出来た嫁だ。
普通は納得しないし、北海道の彼女との不倫と間違えられてもしょうがないタイミングである。
おじさんは、お願いだから
必ず返すから5000円貸してくれと言ってきた。
え?!私もなけなしの金である。
見ず知らずの『おじさん』
に大金を貸す義理も道理も無いわけだ。
でも貸してあげた。
何故なら、おじさんは持ち家だったし
奥さんがいたからだ。
おじさんは家に着くなり『寝る!』
と言って寝てしまった。
奥さんは事情を説明する。
「すいませんね。あの人は、若い男の子を見ると酔ってると直ぐに家に連れ帰っちゃうのよ」
私も当時で33歳で、そこそこのおじさんだったのだが、60の人から見たら30過ぎなんて若造なんだよね。
宿と翌朝朝ごはんまでご馳走になり、おじさんの出社と共に、おじさんの家をおじさんと出る。
吃驚したのは、おじさんの態度だ。
行為が終わった後の彼氏みたいに、本当に素っ気無かった。
あんなに愛想の良いおじさんは、
どこにもいなかった。
昨日はありがとうございましたとお礼を述べたら一言、
「ごめん。覚えてない」
だとさ。
奥さんからはきっちり5000円返して貰ったので良い思い出だ。
何故青葉台のおじさんを思い出したのか?
それ程、倶利伽羅剣の進化は劇的にハサンの内面を大きく変える出来事だった。
だが、ちょっと心の琴線を触れる懐かしい感じがしたのだ。
それが、何だか青葉台のおじさんと重なった。
もう会わないだろう。
二度と会わない、顔も思い出せない。
あのおじさん。
今日も若者を家に招いているのかなと
ふと思うハサンであった。
次回へ続く
今から14年前の話。
私は日本橋で呑んでいた。
北海道から友人が来ていたからだ。
当時自営業をしていた私は、
今後の展望を彼女としていたのだ。
いい気分で酔った。
久々だった。
家路に向かう電車で、
隣のおじさんが絡んできた。
歳の頃は、うちの親父より若いだろうが
60手前くらいの年齢だろうか。
向こうも酔っ払っており、
最初はいなす感じで話をしていたが、
最後の方は意気投合してしまった。
「君は若いのに見所がある!
いいから家に来なさい!
大丈夫だから!大丈夫!
おじさんの所に泊まりなさい。」
人は大丈夫と言われると弱いよな。
私はおじさんの甘言に甘えて、
一晩泊めて貰うことにした。
田園都市線で、青葉台という駅まで電車は走る。普段絶対降りないところだ。
嫁さんに電話する。
「事情があって、成り行きでおじさんの家に
泊まる事になった」
「は?!」
嫁さんは驚くが事情を話して納得して貰った。
出来た嫁だ。
普通は納得しないし、北海道の彼女との不倫と間違えられてもしょうがないタイミングである。
おじさんは、お願いだから
必ず返すから5000円貸してくれと言ってきた。
え?!私もなけなしの金である。
見ず知らずの『おじさん』
に大金を貸す義理も道理も無いわけだ。
でも貸してあげた。
何故なら、おじさんは持ち家だったし
奥さんがいたからだ。
おじさんは家に着くなり『寝る!』
と言って寝てしまった。
奥さんは事情を説明する。
「すいませんね。あの人は、若い男の子を見ると酔ってると直ぐに家に連れ帰っちゃうのよ」
私も当時で33歳で、そこそこのおじさんだったのだが、60の人から見たら30過ぎなんて若造なんだよね。
宿と翌朝朝ごはんまでご馳走になり、おじさんの出社と共に、おじさんの家をおじさんと出る。
吃驚したのは、おじさんの態度だ。
行為が終わった後の彼氏みたいに、本当に素っ気無かった。
あんなに愛想の良いおじさんは、
どこにもいなかった。
昨日はありがとうございましたとお礼を述べたら一言、
「ごめん。覚えてない」
だとさ。
奥さんからはきっちり5000円返して貰ったので良い思い出だ。
何故青葉台のおじさんを思い出したのか?
それ程、倶利伽羅剣の進化は劇的にハサンの内面を大きく変える出来事だった。
だが、ちょっと心の琴線を触れる懐かしい感じがしたのだ。
それが、何だか青葉台のおじさんと重なった。
もう会わないだろう。
二度と会わない、顔も思い出せない。
あのおじさん。
今日も若者を家に招いているのかなと
ふと思うハサンであった。
次回へ続く
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