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第五章 天魔降伏編

第26話 カンデンブルグ国王の真実

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吹き荒む冬の木枯らし。
寂しい夜に竹笛の音。

魔王スマターは、何故か
竹笛の音を吹くと心が落ち着く。

♪ヒュールルル
♪ピーリリー……。

どこか悲しい音色。

人の頃の記憶なのだろうか。
懐かしくも悲しい旋律。
 
原曲など無い。

今宵は三日月。
マーラの月は地球のそれとは違い、
大きく、斑だ。

白光の月に魔王の竹笛は木霊する。

次の日ハサンは、マヨールの街にある
領主ウェーダー卿の元を尋ねる。

復活のお礼と今後についてだ。

ウェーダー卿は
「カンデンブルグを討つので
力を貸して欲しい」
と率直にハサンに訴えてきた。
 
条件は、カンデンブルグ国王の暗殺であった。

おいおい、ちょっと待てよ。

この親父はアホか。
今、国内で争っている場合じゃないだろ。

「ウェーダー殿。今は内戦や権力闘争に
明け暮れている場合じゃありませんぞ!」
セシアが援護してくれる。

いや、当然だよ。

「ハサン殿はどうお考えか?」
ウェーダー卿は、苦虫を
噛み潰した顔でこちらを睨む。

いやいや、おかしいだろ。
国家転覆なんて。
それに今なの?
そしてなぜ私が? 

「まず、カンデンブルグ国王を討つ
理由を教えていただきたい」
ハサンは応える。

ウェーダーは恐るべき真実を話し始めた。

「あれは人ではない。邪神の類である。」

ん??
話が突拍子も無い方向へ進む。

どういうことですか?と問うハサンら。

元々側室の子として生まれた長男
ウェーダー。
しかし実は自身は
王の器では無いことに気付いていた。

正室の子としてラーロン、
後のカンデンブルグ国王が生まれ、
むしろホッとしたところもあった。
 
学問、特に薬学を愛し祈祷や
医療の類を好んだウェーダーは、
おおよそ民を統べるタイプでも無かった。

そしてウェーダーは、
ラーロンとも仲が良かった。

そんなある日、ラーロンは見た。
18歳の誕生日、ラーロンが即位した夜。

仲の良い兄弟でいられる最後の夜だと、
ウェーダーがラーロンの寝室に入ると、
邪神がラーロンに憑依しするところを見たのである。

ラーロンの口が見たこともないくらい開く。
ラーロンの目は白目となり、
空いた口からは「アハハハハ」
と不気味な笑い声を放つ。

その口の中に強引に邪神と呼ぶに相応しい
禍々しい影がラーロンへと入り込んだのだ。

ラーロンは、そのまま
意識を無くし眠りについた。

それからカンデンブルグ8世を名乗り、
本格的に王政を敷くこととなる。

カンデンブルグはあれから人が変わった。
反対派の粛清に乗り出す。

口にするのもはばかる拷問や、
夜討ち、夜襲、毒殺等のはかりごと
も行うようになった。

あの、虫も殺せなかったラーロンが?


「夢ではないのか?にわかには信じられんぞ。」
ハサンはウェーダーに詰め寄る。

ウェーダーは涙ながらに訴える。
「民をおもえばこそだ。」

カンデンブルグの圧政と度重なる
遠征による兵役と増税に民は苦しんでいた。

「出来ればラーロンを救いたい。」
ウェーダーは、実は民思いの領主なんだな、
と感慨に耽っていたところ

「ウェーダー様。カンデンブルグ国王からの
兵士が館を囲んでいます!」
と家人からの報告が入る。

扉が音を立てて開く。

「ウェーダー卿。
聖騎士ハサンと召喚士一行に、
逆賊として捕縛命令が出ている。」
とカンデンブルグ国王直属の兵が
令状を読み上げる。

謀られた。最初からウェーダーの行動は
読まれていた。

ジンタンは、ハサンとセシアに
「ここは大人しく捕まりましょう」
と提案してきた。

考えがあるのか?
ウェーダー卿もいるので、手荒な真似は出来ない。

機を待つか。

次回へ続く
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