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第七章 海への道
7-13 女将さん3
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「えっと、あれ……確か、以前に」
セイン同様、相手も気が付いたようだ。「あの時の……」と言って、しばらく絶句している。女将さんは、双方を交互に見て、戸惑っている。
「あなた、お知り合いだったの?」
「い、いや、知り合いというほどではないが……、あっと、これはすまない。改めて自己紹介させてもらう。俺はジャズ、ハンターだ。こいつは家内のハンナ。話は聞かせてもらったが、なんとも面目ない。改めてお詫びさせていただく。本当に申し訳なかった」
ジャズが頭を下げると、女将さんも深々と頭を下げた。
「ご夫婦だったんですね。本当にもういいです。頭を上げてください」
ここには椅子が一つしかないので、ジャズ夫婦にはベッドに腰かけてもらった。セインは、テーブルを挟んで向かい合うように木製の小さな丸椅子に腰かけた。
テーブルには、件の人魚の卵を置いた。相変わらずハクがぐるりと卵の周りを囲うように眠っていたが、場所を移動する際に、ぴょこっと頭を動かす。
「その白い敷物は従魔だったのね。いきなり立ち上がったものだから、驚いてしまって……」
女将さんが卵に触らなくて本当に良かった、とセインは改めて胸を撫でおろした。
卵を守るように、としか言いつけていなかったので、持ち去るような仕草でも見せようものなら、どんな反応をしたかわからない。
セインにとっては大切なものだが、まさか価値のないハズレ卵に興味を持つ者が現れるなど思ってもいなかっため、適当な指示しか与えてなかったのだ。ハクがどこまで自分の判断が出来るかわからないが、よもや手加減なしで相手を叩き伏せでもしたら大変なことになっていた。
「実は、今年十五になる息子がいるのですが……」
そんなことを考えていると、ハンナが膝の上に置いた両手を交互に握りながら、ゆっくり語り出した。セインも知っていたので頷いたが「そういえば」と首を傾げた。ジャズと同様に見かけたことがなかったからだ。
そのくらいの歳なら、宿屋の手伝いなりをして顔を出しているはずだが、もしかして息子もハンターを目指していて、常に家を外にしているのだろうか。
次の言葉を待っていたが、ハンナはなかなか口を開かなかった。不思議に思っていると、小さくため息をついた隣のジャズが代わって続けた。
「息子はずっと寝たきりで……ここ最近は、とくに悪くてな」
話を聞くと、この半年は部屋から一歩も出ることが出来ないほどだという。けれど、この話が人魚の卵の話にどうつながるのかと、セインは口を挟むことが出来なかった。
「家内は……その、ちょっと珍しい種族でな。昔はこの辺りにもちょいちょいいて、とくに港町では陸地で家庭を作る者もいたほどなんだが」
ここまで聞いて、セインはなぜかピンときた。ちょうど、調査の対象だったこともあるが、どこか年に似合わぬハンナの容姿が、ようやく腑に落ちた気がした。十五の子供がいるにしては、若々しく、海辺に住むにしては、白い肌、おしゃれだと思っていた首元に結ばれたスカーフも、とある特徴を隠すためだとすれば納得がいく。
「あ……こけら族?」
「お? おう、よく知ってたな。そう、こけら族……ただ、こいつは人間とのハーフだ」
セイン同様、相手も気が付いたようだ。「あの時の……」と言って、しばらく絶句している。女将さんは、双方を交互に見て、戸惑っている。
「あなた、お知り合いだったの?」
「い、いや、知り合いというほどではないが……、あっと、これはすまない。改めて自己紹介させてもらう。俺はジャズ、ハンターだ。こいつは家内のハンナ。話は聞かせてもらったが、なんとも面目ない。改めてお詫びさせていただく。本当に申し訳なかった」
ジャズが頭を下げると、女将さんも深々と頭を下げた。
「ご夫婦だったんですね。本当にもういいです。頭を上げてください」
ここには椅子が一つしかないので、ジャズ夫婦にはベッドに腰かけてもらった。セインは、テーブルを挟んで向かい合うように木製の小さな丸椅子に腰かけた。
テーブルには、件の人魚の卵を置いた。相変わらずハクがぐるりと卵の周りを囲うように眠っていたが、場所を移動する際に、ぴょこっと頭を動かす。
「その白い敷物は従魔だったのね。いきなり立ち上がったものだから、驚いてしまって……」
女将さんが卵に触らなくて本当に良かった、とセインは改めて胸を撫でおろした。
卵を守るように、としか言いつけていなかったので、持ち去るような仕草でも見せようものなら、どんな反応をしたかわからない。
セインにとっては大切なものだが、まさか価値のないハズレ卵に興味を持つ者が現れるなど思ってもいなかっため、適当な指示しか与えてなかったのだ。ハクがどこまで自分の判断が出来るかわからないが、よもや手加減なしで相手を叩き伏せでもしたら大変なことになっていた。
「実は、今年十五になる息子がいるのですが……」
そんなことを考えていると、ハンナが膝の上に置いた両手を交互に握りながら、ゆっくり語り出した。セインも知っていたので頷いたが「そういえば」と首を傾げた。ジャズと同様に見かけたことがなかったからだ。
そのくらいの歳なら、宿屋の手伝いなりをして顔を出しているはずだが、もしかして息子もハンターを目指していて、常に家を外にしているのだろうか。
次の言葉を待っていたが、ハンナはなかなか口を開かなかった。不思議に思っていると、小さくため息をついた隣のジャズが代わって続けた。
「息子はずっと寝たきりで……ここ最近は、とくに悪くてな」
話を聞くと、この半年は部屋から一歩も出ることが出来ないほどだという。けれど、この話が人魚の卵の話にどうつながるのかと、セインは口を挟むことが出来なかった。
「家内は……その、ちょっと珍しい種族でな。昔はこの辺りにもちょいちょいいて、とくに港町では陸地で家庭を作る者もいたほどなんだが」
ここまで聞いて、セインはなぜかピンときた。ちょうど、調査の対象だったこともあるが、どこか年に似合わぬハンナの容姿が、ようやく腑に落ちた気がした。十五の子供がいるにしては、若々しく、海辺に住むにしては、白い肌、おしゃれだと思っていた首元に結ばれたスカーフも、とある特徴を隠すためだとすれば納得がいく。
「あ……こけら族?」
「お? おう、よく知ってたな。そう、こけら族……ただ、こいつは人間とのハーフだ」
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