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第七章 海への道
7-5 気がかりな札
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海運貿易で財を成した、港町マリンで三本の指に入るヘイデ商会。
港のすぐ近く、倉庫兼事務所のような場所が今回の依頼の指定場所だった。表はがっつり倉庫のような無骨な建物だが、商店街通りに面した側面には小綺麗な事務所の入り口があった。
セインが入っていくと、受付嬢がにこやかに挨拶した。
「ハンターギルドの依頼で来ました。こちらを」
セインはすぐに紹介状と、自分のギルドカードを見せた。いつものことだが、どうみても子供の姿のサキとセインの二人連れに、一瞬だけ驚いた顔をしたが、そこはさすが客商売の受付である、何事もないように微笑んだ。
「お待ちしておりました。まもなく担当の者が参ります、しばらくこちらでお待ちください」
しばらくすると二十歳前後の若い青年が現れた。
受付に報告を受けていたのか、セインたちを見るといささか肩を落とした様子で、それでも営業スマイルで軽く会釈をする。
なにしろこれまで度重なる失敗、前回は銀ランクのハンターにまで無理だと断られたのだ。次こそは、と期待していたに違いない。
「依頼を受けていただきありがとうございます。とりわけ穢れ祓いに於いて有名な、ロルシー一族の方に来ていただけるとは、光栄でございます」
――その割には子供ハンターにがっかりしてたようだけどね。まあ、ちょぴり嫌味な言い回しな気もするが、露骨に見下してくるよりは、大人な対応である。
青年の名はルーカス。この商会のトップの三男で、今は修業中の身ということらしい。
事務所の応接間から、従業員用の扉を抜けて階段を上り、粗末な机が置かれた小さな部屋に通された。
「狭くて申し訳ない。ここは私が仕事場にしている場所なんですよ。この第一倉庫は一の兄が仕切っていてね、僕はここでは下っ端という扱いで……いや、関係ない話ですみません」
セインとしてはそれほど顔に出したつもりはなかったが、最初に通された応接間に比べて、あまりに粗末な部屋でちょっとばかり驚いたのは事実である。
『どこの兄弟も格差はあるものじゃな? のう、主よ』
ツクは面白そうに論じたが、セインはそれをスルーして、ルーカスとともに部屋に入った。床に置かれた箱の傍までやってきて、確認するようにセインに目配せを送る。どうやら問題の品物はそこにあるようだった。
ルーカスが箱の封印札を剥がすと、獣を捌くナイフと、戦闘用の剣が、それぞれ数本入っていた。封印も不完全な様子で、穢れ自体はそれほどひどくないが、なんというか、中途半端で放置されたせいでいろいろ拗れた印象がある。
例えるなら、生肉を燻すなり煮るなり適切な処理をせず、腐らせてしまったような、そんな状態だ。穢れを感じる能力が高ければ高いほど、耐え難いほどの気持ちの悪い感覚である。
「……その札、見せてください」
ふと、ルーカスが剥がした札が気になった。
受け取った札を見てすぐに、この札の異様さに気が付いた。書かれた文字は丁寧だが、まるで修業中の弟子が練習で作ったような、いびつで不完全かつ、出来損ないの出来栄えだ。
それなのに――。
「この短冊は……どうして」
港のすぐ近く、倉庫兼事務所のような場所が今回の依頼の指定場所だった。表はがっつり倉庫のような無骨な建物だが、商店街通りに面した側面には小綺麗な事務所の入り口があった。
セインが入っていくと、受付嬢がにこやかに挨拶した。
「ハンターギルドの依頼で来ました。こちらを」
セインはすぐに紹介状と、自分のギルドカードを見せた。いつものことだが、どうみても子供の姿のサキとセインの二人連れに、一瞬だけ驚いた顔をしたが、そこはさすが客商売の受付である、何事もないように微笑んだ。
「お待ちしておりました。まもなく担当の者が参ります、しばらくこちらでお待ちください」
しばらくすると二十歳前後の若い青年が現れた。
受付に報告を受けていたのか、セインたちを見るといささか肩を落とした様子で、それでも営業スマイルで軽く会釈をする。
なにしろこれまで度重なる失敗、前回は銀ランクのハンターにまで無理だと断られたのだ。次こそは、と期待していたに違いない。
「依頼を受けていただきありがとうございます。とりわけ穢れ祓いに於いて有名な、ロルシー一族の方に来ていただけるとは、光栄でございます」
――その割には子供ハンターにがっかりしてたようだけどね。まあ、ちょぴり嫌味な言い回しな気もするが、露骨に見下してくるよりは、大人な対応である。
青年の名はルーカス。この商会のトップの三男で、今は修業中の身ということらしい。
事務所の応接間から、従業員用の扉を抜けて階段を上り、粗末な机が置かれた小さな部屋に通された。
「狭くて申し訳ない。ここは私が仕事場にしている場所なんですよ。この第一倉庫は一の兄が仕切っていてね、僕はここでは下っ端という扱いで……いや、関係ない話ですみません」
セインとしてはそれほど顔に出したつもりはなかったが、最初に通された応接間に比べて、あまりに粗末な部屋でちょっとばかり驚いたのは事実である。
『どこの兄弟も格差はあるものじゃな? のう、主よ』
ツクは面白そうに論じたが、セインはそれをスルーして、ルーカスとともに部屋に入った。床に置かれた箱の傍までやってきて、確認するようにセインに目配せを送る。どうやら問題の品物はそこにあるようだった。
ルーカスが箱の封印札を剥がすと、獣を捌くナイフと、戦闘用の剣が、それぞれ数本入っていた。封印も不完全な様子で、穢れ自体はそれほどひどくないが、なんというか、中途半端で放置されたせいでいろいろ拗れた印象がある。
例えるなら、生肉を燻すなり煮るなり適切な処理をせず、腐らせてしまったような、そんな状態だ。穢れを感じる能力が高ければ高いほど、耐え難いほどの気持ちの悪い感覚である。
「……その札、見せてください」
ふと、ルーカスが剥がした札が気になった。
受け取った札を見てすぐに、この札の異様さに気が付いた。書かれた文字は丁寧だが、まるで修業中の弟子が練習で作ったような、いびつで不完全かつ、出来損ないの出来栄えだ。
それなのに――。
「この短冊は……どうして」
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