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第六章 守り神
6-8 お約束?
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盗賊の登場か、とセインたちは身構えたが、飛び出してきたのはどう見ても普通の村人風の男たちだった。
よく見ると衣服が薄汚れ、何日も着替えた様子がない。
持っている武器も、使い古した刃の欠けたナイフは上等の方で、後ろに控えた年若い少年などは、その辺で拾ったような棒きれを両手で抱えている。あの様子では、振り回したら重さに引っ張られて転ぶのがオチだろう。
「てっ、手に持っているものを、下に置いてたた、立ち去れ!」
緊張のせいかひっくり返った声で、年長の男がそう指示した。
セインたちが持っていたもの、それは粗末なパンとひときれの干し肉。
普通ならここで「武器を捨てろ、金を出せ」と要求するところなので、護衛も一瞬ぽかんとしたが、地面にパンを置いた手ですぐに腰の武器の柄を掴んだ。
「……待って、言う通りにしよう」
彼らが守るように背にした岩の向こうには、さらに人の気配を感じる。
護衛は逡巡するような様子を見せたが、半分抜いた武器をベルトの鞘に戻した。雇い主でも無謀な要求をすれば、さすがに無条件には従わないが、今回はセインに同意して頷いた。
「みんな、行くよ」
手にしていたパンと干し肉に加えて、腰に下げていた革製の水筒の一つを街道の石畳の上に置いて、セインは相手を驚かせないようにゆっくりと立ち上がった。
出発する馬車を、しばらくは警戒した様子で武器を抱えたまま見送っていた彼らは、やがて地面に置かれた食料にワッと飛びついた。
「よろしかった、でしたか? あのまま放って、おいて」
サキが御者台から、後ろを気にしつつそう言った。
「よくはないね。でも、彼らは長老の言っていた盗賊ではないと思うよ」
場所から考えても、彼らはこの先のオアシスの町の住人だと思われた。そして、彼らが要求したのは食べ物。金目の物や、現金でないところを見ると、すぐには食料に交換できる当てがないということだ。
何らかの事情で町に戻れない、さらには行くあてさえないのかもしれない。砂漠を渡るにも、マリザンに行くにも、準備は必要だし、今の情勢では盗賊や魔獣が出てもおかしくないからだ。
何があったか知らないが、この先のオアシスで何か起きていることは間違いなさそうだ。
「……フラムの町は、ロルシー領だよね」
デオルのようにがっつり常駐するとは限らないが、それぞれ重要な町には、ロルシー家の血縁が町の運営に関与することはよくある。セインはついこの間まで、悪い意味で箱入りだったこともあり、まだ家族や血縁者がどこに拠点を置いて活動しているかわかっていなかった。
――やっぱり、勉強は必要だな。ようやく別館も出来たことだし、ゆっくり腰を据えて、せめて一族のことくらいは知識を付ける必要がありそうだ。
ふと先の方に視線をやると、まだかなり遠いが、小さな町の入り口が見えてきた。
フラムは大きな町ではないが、交易の要所であり、国境の町だ。直接ではないにしろ、兄弟の誰かが関わっていてもおかしくはない。
誰だろうか、と考えてふと一人思い当たった。そういえば、僻地の小さな町を任されていると聞いた記憶があった。
「まさか、ドゥマル兄上が?」
よく見ると衣服が薄汚れ、何日も着替えた様子がない。
持っている武器も、使い古した刃の欠けたナイフは上等の方で、後ろに控えた年若い少年などは、その辺で拾ったような棒きれを両手で抱えている。あの様子では、振り回したら重さに引っ張られて転ぶのがオチだろう。
「てっ、手に持っているものを、下に置いてたた、立ち去れ!」
緊張のせいかひっくり返った声で、年長の男がそう指示した。
セインたちが持っていたもの、それは粗末なパンとひときれの干し肉。
普通ならここで「武器を捨てろ、金を出せ」と要求するところなので、護衛も一瞬ぽかんとしたが、地面にパンを置いた手ですぐに腰の武器の柄を掴んだ。
「……待って、言う通りにしよう」
彼らが守るように背にした岩の向こうには、さらに人の気配を感じる。
護衛は逡巡するような様子を見せたが、半分抜いた武器をベルトの鞘に戻した。雇い主でも無謀な要求をすれば、さすがに無条件には従わないが、今回はセインに同意して頷いた。
「みんな、行くよ」
手にしていたパンと干し肉に加えて、腰に下げていた革製の水筒の一つを街道の石畳の上に置いて、セインは相手を驚かせないようにゆっくりと立ち上がった。
出発する馬車を、しばらくは警戒した様子で武器を抱えたまま見送っていた彼らは、やがて地面に置かれた食料にワッと飛びついた。
「よろしかった、でしたか? あのまま放って、おいて」
サキが御者台から、後ろを気にしつつそう言った。
「よくはないね。でも、彼らは長老の言っていた盗賊ではないと思うよ」
場所から考えても、彼らはこの先のオアシスの町の住人だと思われた。そして、彼らが要求したのは食べ物。金目の物や、現金でないところを見ると、すぐには食料に交換できる当てがないということだ。
何らかの事情で町に戻れない、さらには行くあてさえないのかもしれない。砂漠を渡るにも、マリザンに行くにも、準備は必要だし、今の情勢では盗賊や魔獣が出てもおかしくないからだ。
何があったか知らないが、この先のオアシスで何か起きていることは間違いなさそうだ。
「……フラムの町は、ロルシー領だよね」
デオルのようにがっつり常駐するとは限らないが、それぞれ重要な町には、ロルシー家の血縁が町の運営に関与することはよくある。セインはついこの間まで、悪い意味で箱入りだったこともあり、まだ家族や血縁者がどこに拠点を置いて活動しているかわかっていなかった。
――やっぱり、勉強は必要だな。ようやく別館も出来たことだし、ゆっくり腰を据えて、せめて一族のことくらいは知識を付ける必要がありそうだ。
ふと先の方に視線をやると、まだかなり遠いが、小さな町の入り口が見えてきた。
フラムは大きな町ではないが、交易の要所であり、国境の町だ。直接ではないにしろ、兄弟の誰かが関わっていてもおかしくはない。
誰だろうか、と考えてふと一人思い当たった。そういえば、僻地の小さな町を任されていると聞いた記憶があった。
「まさか、ドゥマル兄上が?」
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