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第五章 拠点
5-12 穀倉帯
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鉱山都市マリザンは、その街の外に大きな穀倉帯を持つことで知られている。
たくさんの鉱山の発見により、近年は鉱山都市として有名になったが、それより以前は、主に農業により発展した複数の村の大集落だった。
穀倉帯は、鉱山都市を囲む塀からずっと先、一番近い関所あたりまで続いている。収穫期には普段は討伐専門のハンターまでが駆り出され、それが季節の風物詩にもなっていた。
都市内の集落にも畑や果樹園はあるが、それらは個人の財産であり農作物だ。けれど、穀倉帯の収穫物は、鉱山都市マリザンのものなのだ。
そのため穀倉帯を統べるのは、当然ながら都主であるデオルだが、過去の大集落から脈々と受け継がれ、今もなお穀倉帯を含む集落を守る首長には、デオルでさえも敬意を示す相手なのである。
『あの双子は、ずいぶん傍若無人に振る舞っておったそうじゃな』
「……そうだね」
腕を組んだツクの呆れ声に、セインも苦笑いするしかない。
依頼を受けるつもりなら、その辺りのことを調べていかない方がおかしい。そもそも、自領の、しかも兄が治めている街のことだというのに。
「まあ、あんな二人でも、札づくりや術使いとしては優秀らしいけど……」
実際に成人も早かったらしく、すぐにもデオルに次ぐ実力者になると、期待もされていたようだ。
『蓋を開けりゃ、問題ばっかおこして自宅謹慎の連続ってか』
テンがそう言いながら、にやりと悪ガキのように笑う。
お前が言うか、という視線を全員から受けながらも、テンはすぐに興味を失ったように、猫じゃらしのような草でハクにちょっかいを掛けている。
「姉上とルチアはしばらく帰ってこない、ウーセまで遠征中……で、結局僕のところに戻ってきたというわけだ」
もとはといえば、セインに任せるつもりだったということだが、あの時とは状況がぜんぜん違う。双子がこれでもかと好き勝手にかき回してくれた後始末がおまけについてくるのだ。
せっかく完成した別館を堪能する前に、またもや旅に出る羽目になって、セインも少しだけ憂鬱である。
『セイン様、ゆらにお任せください! 今からでもあのうつけ二人にお仕置きしてまいりましょう』
「いや……」
セインは小さく笑って。
「ほっとけばいいよ。ゆらがしなくても、今頃たっぷりお仕置きされてるから」
何といっても、今回やらかした失敗は冗談では済まされない。他領への交易優位性を保つための輸出に加え、領地の胃袋のほとんどを、あの穀倉帯が支えていると言っても過言ではないのだ。
余談だが、穀倉帯の見回りや、稀に発生するモンスターの討伐は、職にあぶれたハンターの貴重な収入源にもなっている。だからこそ常に十分の数のハンターを確保でき、鉱山トラブルなどの大討伐にも人材不足になったりしないという利点さえあった。
そんな街を支える穀倉帯の守り神、守護樹をあられもない姿にしたのだ。
双子を見るに、あまり反省している様子ではなかったが、普段は誰にでも優しいデオルとはいえ、とっておきのお仕置きをしてくれるに違いない。
そしてセインは、哀れな双子の兄の末路を見ることなく、大急ぎで準備を済ませると屋敷を後にした。
数か月前に訪れたマリザン。農地や果樹園がある集落はもちろん、その壁の向こうの穀倉帯にはまったく足を踏み入れていなかったので、ほとんど初めての場所といっていいかもしれない。
守護樹。
ある程度ならモンスターを近づけず、穢れが原因の病気や、呪いさえも防ぐと言われている。
だからこそ、儀式を伴う祭事、正式の穢れ払いが重要だった。
守護樹はあらゆる穢れを避けているわけではなく、その身に引き受けてくれているのだ。それをきちんと清浄な状態に戻してあげるのが、本来の穢れ払いのお仕事というわけである。
たくさんの鉱山の発見により、近年は鉱山都市として有名になったが、それより以前は、主に農業により発展した複数の村の大集落だった。
穀倉帯は、鉱山都市を囲む塀からずっと先、一番近い関所あたりまで続いている。収穫期には普段は討伐専門のハンターまでが駆り出され、それが季節の風物詩にもなっていた。
都市内の集落にも畑や果樹園はあるが、それらは個人の財産であり農作物だ。けれど、穀倉帯の収穫物は、鉱山都市マリザンのものなのだ。
そのため穀倉帯を統べるのは、当然ながら都主であるデオルだが、過去の大集落から脈々と受け継がれ、今もなお穀倉帯を含む集落を守る首長には、デオルでさえも敬意を示す相手なのである。
『あの双子は、ずいぶん傍若無人に振る舞っておったそうじゃな』
「……そうだね」
腕を組んだツクの呆れ声に、セインも苦笑いするしかない。
依頼を受けるつもりなら、その辺りのことを調べていかない方がおかしい。そもそも、自領の、しかも兄が治めている街のことだというのに。
「まあ、あんな二人でも、札づくりや術使いとしては優秀らしいけど……」
実際に成人も早かったらしく、すぐにもデオルに次ぐ実力者になると、期待もされていたようだ。
『蓋を開けりゃ、問題ばっかおこして自宅謹慎の連続ってか』
テンがそう言いながら、にやりと悪ガキのように笑う。
お前が言うか、という視線を全員から受けながらも、テンはすぐに興味を失ったように、猫じゃらしのような草でハクにちょっかいを掛けている。
「姉上とルチアはしばらく帰ってこない、ウーセまで遠征中……で、結局僕のところに戻ってきたというわけだ」
もとはといえば、セインに任せるつもりだったということだが、あの時とは状況がぜんぜん違う。双子がこれでもかと好き勝手にかき回してくれた後始末がおまけについてくるのだ。
せっかく完成した別館を堪能する前に、またもや旅に出る羽目になって、セインも少しだけ憂鬱である。
『セイン様、ゆらにお任せください! 今からでもあのうつけ二人にお仕置きしてまいりましょう』
「いや……」
セインは小さく笑って。
「ほっとけばいいよ。ゆらがしなくても、今頃たっぷりお仕置きされてるから」
何といっても、今回やらかした失敗は冗談では済まされない。他領への交易優位性を保つための輸出に加え、領地の胃袋のほとんどを、あの穀倉帯が支えていると言っても過言ではないのだ。
余談だが、穀倉帯の見回りや、稀に発生するモンスターの討伐は、職にあぶれたハンターの貴重な収入源にもなっている。だからこそ常に十分の数のハンターを確保でき、鉱山トラブルなどの大討伐にも人材不足になったりしないという利点さえあった。
そんな街を支える穀倉帯の守り神、守護樹をあられもない姿にしたのだ。
双子を見るに、あまり反省している様子ではなかったが、普段は誰にでも優しいデオルとはいえ、とっておきのお仕置きをしてくれるに違いない。
そしてセインは、哀れな双子の兄の末路を見ることなく、大急ぎで準備を済ませると屋敷を後にした。
数か月前に訪れたマリザン。農地や果樹園がある集落はもちろん、その壁の向こうの穀倉帯にはまったく足を踏み入れていなかったので、ほとんど初めての場所といっていいかもしれない。
守護樹。
ある程度ならモンスターを近づけず、穢れが原因の病気や、呪いさえも防ぐと言われている。
だからこそ、儀式を伴う祭事、正式の穢れ払いが重要だった。
守護樹はあらゆる穢れを避けているわけではなく、その身に引き受けてくれているのだ。それをきちんと清浄な状態に戻してあげるのが、本来の穢れ払いのお仕事というわけである。
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