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第五章 拠点
5-11 双子の失態
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セインが入室すると、そこには書斎デスクの椅子に座る父親を前に、デオルが神妙な顔で立っており、双子の兄が並んで床に正座していた。
彼らはセインに気が付くと、うつ向いた顔を捻じ曲げて、こちらを恨めしそうに覗き見た。
無駄に高いプライドがひどく傷ついているのか、まるで睨むような勢いである。全く状況が分からないのに、なんとも筋違いな敵対心を向けられて戸惑うばかりだった。
「お呼びとのことですが……えと、僕がなにか?」
ただならぬ雰囲気に居心地悪そうなセインに、デオルは苦笑しつつ首を振った。
「違うよ、むしろセインには申し訳ないお願いをしなくてはならなくてね」
「……お願い?」
セインは確認するようにデオルに問い、そして父である侯爵を見た。ここに呼ばれたということは、デオルだけでなく、公爵家にも関係することだろうと思ったからである。
「……デオルの話だと、お前の穢れ払いの能力は、上の姉たちにも劣らないと聞いた」
「い、いえ、そんな。僕はまだ」
いきなりそんな風に問われて、セインはとっさに首を振った。謙遜とかではなく、セインの場合、式の力を借りて行うため、いささか不安定であり、未だ完全に使いこなしているとは言えないのだ。
すべての式を集めてもいないし、なによりこの身体がまだ能力に十分適用していない。
大きな力を使うたびにぶっ倒れていては、胸を張って威張れる状態ではない。本当の能力の開花というなら、今世に於いては、やはり妖狐族として成人の儀を行うことだろう。
「……なんで、こいつがここに」
「こんな出来損ないをどうして……」
小声ではあったが、双子からは、かわるがわる不平が飛んだ。すぐにデオルに睨みつけられて縮んだが、まだぶつぶつとなにやら言っている。
「あの、とりあえず状況がわからないんですが」
正座させられも尚、つまらない悪態をつく双子に、さすがに帰りたくなったセインだったが、そんなわけにもいかないので要件を急かした。
なかなか肝心の要点を話さなかったデオルが、そこでようやく重い口を開いた。
「数か月前、セインも私の館で、この……二人に会っただろう?」
セインは、小さく頷く。
あの時は、自分のことでいっぱいいっぱいで、彼らのことなど、その後きれいさっぱり忘れていたけれど。確か、彼らはどこかの依頼を受けて、仕事に出かけるところだったと思い出した。
定例行事である、数年に一度の大きな祭事。
農村部の守護樹である大樹の、祭壇を作って行う、それなりに大がかりな穢れ払いの祭事。
高位術者であるフロンやウーセが出張るほどではないが、主に二女である十二歳のルチアが担当していたレベルの行事だ。
ルチアはまだ幼いが、フロンと同等の能力者になると見込まれており、近頃では侯爵の代行として帝国へ赴くフロンの手伝いをするために度々家を空けるようになっていた。ちょっとしたゴタゴタがあって、デオルが一時はセインに頼もうとしていたものの、本来ならそれほど難しい行事でもなかった。
もちろん、彼らにとっては初めての大仕事だったし、穢れ払いに特化した能力の持ち主ではなかったが、これくらいの行事であれば十分に任せられると踏んでのことだった。
説明しているうちに怒りが込み上げてきたのか、しばらく沈黙したデオルは、頭痛を堪えるようにこめかみを揉んで、最後にこう締めくくった。
「…………結果的に、守護樹が二つに割けた」
――ええ!? それってどういう状態? 何をどうしたらそうなるんだよ。
とっさに叫びそうになったセインは、なんとかそれを飲み込んで、改めて背中を丸める双子を見下ろした。
彼らはセインに気が付くと、うつ向いた顔を捻じ曲げて、こちらを恨めしそうに覗き見た。
無駄に高いプライドがひどく傷ついているのか、まるで睨むような勢いである。全く状況が分からないのに、なんとも筋違いな敵対心を向けられて戸惑うばかりだった。
「お呼びとのことですが……えと、僕がなにか?」
ただならぬ雰囲気に居心地悪そうなセインに、デオルは苦笑しつつ首を振った。
「違うよ、むしろセインには申し訳ないお願いをしなくてはならなくてね」
「……お願い?」
セインは確認するようにデオルに問い、そして父である侯爵を見た。ここに呼ばれたということは、デオルだけでなく、公爵家にも関係することだろうと思ったからである。
「……デオルの話だと、お前の穢れ払いの能力は、上の姉たちにも劣らないと聞いた」
「い、いえ、そんな。僕はまだ」
いきなりそんな風に問われて、セインはとっさに首を振った。謙遜とかではなく、セインの場合、式の力を借りて行うため、いささか不安定であり、未だ完全に使いこなしているとは言えないのだ。
すべての式を集めてもいないし、なによりこの身体がまだ能力に十分適用していない。
大きな力を使うたびにぶっ倒れていては、胸を張って威張れる状態ではない。本当の能力の開花というなら、今世に於いては、やはり妖狐族として成人の儀を行うことだろう。
「……なんで、こいつがここに」
「こんな出来損ないをどうして……」
小声ではあったが、双子からは、かわるがわる不平が飛んだ。すぐにデオルに睨みつけられて縮んだが、まだぶつぶつとなにやら言っている。
「あの、とりあえず状況がわからないんですが」
正座させられも尚、つまらない悪態をつく双子に、さすがに帰りたくなったセインだったが、そんなわけにもいかないので要件を急かした。
なかなか肝心の要点を話さなかったデオルが、そこでようやく重い口を開いた。
「数か月前、セインも私の館で、この……二人に会っただろう?」
セインは、小さく頷く。
あの時は、自分のことでいっぱいいっぱいで、彼らのことなど、その後きれいさっぱり忘れていたけれど。確か、彼らはどこかの依頼を受けて、仕事に出かけるところだったと思い出した。
定例行事である、数年に一度の大きな祭事。
農村部の守護樹である大樹の、祭壇を作って行う、それなりに大がかりな穢れ払いの祭事。
高位術者であるフロンやウーセが出張るほどではないが、主に二女である十二歳のルチアが担当していたレベルの行事だ。
ルチアはまだ幼いが、フロンと同等の能力者になると見込まれており、近頃では侯爵の代行として帝国へ赴くフロンの手伝いをするために度々家を空けるようになっていた。ちょっとしたゴタゴタがあって、デオルが一時はセインに頼もうとしていたものの、本来ならそれほど難しい行事でもなかった。
もちろん、彼らにとっては初めての大仕事だったし、穢れ払いに特化した能力の持ち主ではなかったが、これくらいの行事であれば十分に任せられると踏んでのことだった。
説明しているうちに怒りが込み上げてきたのか、しばらく沈黙したデオルは、頭痛を堪えるようにこめかみを揉んで、最後にこう締めくくった。
「…………結果的に、守護樹が二つに割けた」
――ええ!? それってどういう状態? 何をどうしたらそうなるんだよ。
とっさに叫びそうになったセインは、なんとかそれを飲み込んで、改めて背中を丸める双子を見下ろした。
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