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第四章 ハンター
4-25 天空
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「えっ? 今、……うっ!」
疑問の声を上げる暇はなかった。
こっちの都合もお構いなしに、強引にセインに憑依してきたのだ。当然ながら、ゆらはその勢いのまま弾き出されてしまう。
セインは前のめりに手前の岩に手を付き、ゆらは空中に投げ出された瞬間、鬼の形相で振り向いた。
『そなた! なんという無礼な……あ、いえ、セイン様。す、すみません』
振り向いた先には、当然ながらセインがおり、構図としてはセインに怒鳴りつける形になってしまい、ゆらは恐縮して頭を下げる。
『天空! おぬし、天空じゃな! 主の許しもなく憑依するとはなにごとじゃ!』
ツクもキレまくるが、すでに憑依しているので本人はどこ吹く風である。一瞬だけ目を回したセインだったが、なんとか立ち直って頭を軽く振った。
瞬きするその瞳は、飴のような透き通る黄色に変わっていた。
「……ゆらの方は、大丈夫だったか?」
「はい、少し驚きましたが大丈夫です。それより、セイン様こそ大事ありませんでしたか?」
正直なところ、頭を後ろから殴られたかのようなショックがあったが、今はなんとか落ち着いている。ゆらとの過去二回の憑依で、多少慣れていたのが幸いしたのだろう。
「まあ……ちょっと頭が痛いけど、平気だ」
笑顔で返した穏やかな言葉とは裏腹に、ゆらもツクも新参者を窘める口を思わず噤んだ。なぜならもうその必要がないからだ。きっと、その代償は自ら払うことになるのだから。
そして、ゆらに取って代わってセインに憑依したのは、ツクがすぐに察したように十二天将の一人、天空だ。
憑依した瞬間、セイン自身も、身をもってそれを確認した。
――しかし、こんな破天荒なやつだったかな。こういっては何だが……いや、これは皆に共通するが、前世の彼らとはいささか性格が違っているようだ。
魂に封印されていた彼らは、セインが転生したことによって、もしかしたら何かしら影響があったのかもしれない。
だが、ツクやゆらの言動や行動を鑑みるに、まったくの別人というわけではないので、新たに生まれ変わったというわけではないだろう。
「さて、天空のことは、とりあえず今はいい」
彼の記憶と能力を憑依させたことで、セインは新たに出来ることの可能性を見出していた。
登場の仕方はいただけなかったが、確かに本人が言うように、今この時に現れたのはジャストタイミングだったようだ。
「サキ、身を低くして、岩場に隠れてて」
討伐挑戦しているゼフたちは、常にヌシからのヘイトを集めて、セインたちの方へ行かないように距離を取ってくれている。さらには寝ている雑魚を起こさないように、奥へと移動してくれているようだ。
「巻き込む心配はなさそうだな……」
まずは小手調べ、手前にひとかたまりになって寝ている雑魚の集団に、セインは狙いを定めた。
「砂塵よ舞い上がれ、我は天空。従いて、答えよ。我の領域を侵す者を貫き、滅せよ! 急急如律令!」
次の瞬間、風一つなかった空間に、そこだけ暴風が巻き起こったように渦を巻いた。しかも、その辺に転がっている大小とりどりの石や玉、尖った鋭い金属鉱石も巻き込み、それらが魔獣へと襲い掛かった。
「砂塵じゃなくて、ここの場合は石礫だな。さて……ん? これって」
巻き込むのは石だけではなかった。その辺に眠っている魔獣すらも巻き込んで、渦の中に取り込まれ、哀れにも礫の嵐にすり潰されている。
収まってみれば、魔物のほとんどが高速の礫攻撃によって倒されていた。
当然ながら、セインはがっつりと霊力を搾り取られた。
けれど、思ったほどの悪影響はなかった。まえにゆらが言っていた通り、少しづつではあるが力は戻ってきているようだ。
「……まじかよ、アイツとんでもないな。てか、戦力にならないって言ってなかったかよ」
ヌシの攻撃を何とかかわしながらも、ゼフはこちらの様子もうかがっていたようだ。その顔には、心配して損した、とありありと書かれている。
――あ、いや待て。嘘は言ってないぞ。断じて、出し惜しみしてたわけじゃないし。
セインは全力で言い訳したかったが、あちらは忙しそうなので、今はとりあえず苦笑を返すしかない。
封印が解けるとともに、力の源のようなものの容量が増えていく感覚はあったが、これはそんな単純な話ではなさそうだ。式が増えるとともに、セインの能力値も正比例で上がっている。
そして、それは式たちにも同じことが言えるのかもしれない。
疑問の声を上げる暇はなかった。
こっちの都合もお構いなしに、強引にセインに憑依してきたのだ。当然ながら、ゆらはその勢いのまま弾き出されてしまう。
セインは前のめりに手前の岩に手を付き、ゆらは空中に投げ出された瞬間、鬼の形相で振り向いた。
『そなた! なんという無礼な……あ、いえ、セイン様。す、すみません』
振り向いた先には、当然ながらセインがおり、構図としてはセインに怒鳴りつける形になってしまい、ゆらは恐縮して頭を下げる。
『天空! おぬし、天空じゃな! 主の許しもなく憑依するとはなにごとじゃ!』
ツクもキレまくるが、すでに憑依しているので本人はどこ吹く風である。一瞬だけ目を回したセインだったが、なんとか立ち直って頭を軽く振った。
瞬きするその瞳は、飴のような透き通る黄色に変わっていた。
「……ゆらの方は、大丈夫だったか?」
「はい、少し驚きましたが大丈夫です。それより、セイン様こそ大事ありませんでしたか?」
正直なところ、頭を後ろから殴られたかのようなショックがあったが、今はなんとか落ち着いている。ゆらとの過去二回の憑依で、多少慣れていたのが幸いしたのだろう。
「まあ……ちょっと頭が痛いけど、平気だ」
笑顔で返した穏やかな言葉とは裏腹に、ゆらもツクも新参者を窘める口を思わず噤んだ。なぜならもうその必要がないからだ。きっと、その代償は自ら払うことになるのだから。
そして、ゆらに取って代わってセインに憑依したのは、ツクがすぐに察したように十二天将の一人、天空だ。
憑依した瞬間、セイン自身も、身をもってそれを確認した。
――しかし、こんな破天荒なやつだったかな。こういっては何だが……いや、これは皆に共通するが、前世の彼らとはいささか性格が違っているようだ。
魂に封印されていた彼らは、セインが転生したことによって、もしかしたら何かしら影響があったのかもしれない。
だが、ツクやゆらの言動や行動を鑑みるに、まったくの別人というわけではないので、新たに生まれ変わったというわけではないだろう。
「さて、天空のことは、とりあえず今はいい」
彼の記憶と能力を憑依させたことで、セインは新たに出来ることの可能性を見出していた。
登場の仕方はいただけなかったが、確かに本人が言うように、今この時に現れたのはジャストタイミングだったようだ。
「サキ、身を低くして、岩場に隠れてて」
討伐挑戦しているゼフたちは、常にヌシからのヘイトを集めて、セインたちの方へ行かないように距離を取ってくれている。さらには寝ている雑魚を起こさないように、奥へと移動してくれているようだ。
「巻き込む心配はなさそうだな……」
まずは小手調べ、手前にひとかたまりになって寝ている雑魚の集団に、セインは狙いを定めた。
「砂塵よ舞い上がれ、我は天空。従いて、答えよ。我の領域を侵す者を貫き、滅せよ! 急急如律令!」
次の瞬間、風一つなかった空間に、そこだけ暴風が巻き起こったように渦を巻いた。しかも、その辺に転がっている大小とりどりの石や玉、尖った鋭い金属鉱石も巻き込み、それらが魔獣へと襲い掛かった。
「砂塵じゃなくて、ここの場合は石礫だな。さて……ん? これって」
巻き込むのは石だけではなかった。その辺に眠っている魔獣すらも巻き込んで、渦の中に取り込まれ、哀れにも礫の嵐にすり潰されている。
収まってみれば、魔物のほとんどが高速の礫攻撃によって倒されていた。
当然ながら、セインはがっつりと霊力を搾り取られた。
けれど、思ったほどの悪影響はなかった。まえにゆらが言っていた通り、少しづつではあるが力は戻ってきているようだ。
「……まじかよ、アイツとんでもないな。てか、戦力にならないって言ってなかったかよ」
ヌシの攻撃を何とかかわしながらも、ゼフはこちらの様子もうかがっていたようだ。その顔には、心配して損した、とありありと書かれている。
――あ、いや待て。嘘は言ってないぞ。断じて、出し惜しみしてたわけじゃないし。
セインは全力で言い訳したかったが、あちらは忙しそうなので、今はとりあえず苦笑を返すしかない。
封印が解けるとともに、力の源のようなものの容量が増えていく感覚はあったが、これはそんな単純な話ではなさそうだ。式が増えるとともに、セインの能力値も正比例で上がっている。
そして、それは式たちにも同じことが言えるのかもしれない。
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