晴明、異世界に転生する!

るう

文字の大きさ
上 下
69 / 129
第四章 ハンター

4-12 ぷよぷよ石

しおりを挟む
 残り物の依頼と、いつものシャルロットの依頼を手に、最近よく来る鉱山にやってきた。
 ここの鉱山は、まもなく商業化するとも言われる成熟した場所だ。すでにハンターが入るようになって、五年ほど経つ。状態としては最後の仕上げに入っているらしく、彼らが倒した魔物のおこぼれや、調査の際に落ちた鉱石の欠片、魔獣がいてこそ採取できる植物などはほぼ狩りつくされている。

「かなり奥まで行かないと、ろくに採集もできないな」

 セインたちはほとんど駆け足で地下五階まで降りてきた。整備されているのでさして時間はかからないが、何しろビギナーランクはその日のうちに退出しなければならない。難癖をつけてきた双子のせいで、採集時間まで短縮されてしまい、なにもかもが押している状態である。

「今日は下見で終わりそうだな……サキ、もうそれ以上進まなくていいぞ」
「わかった、です……あれ?」
「ん? どうかしたか」
「これ、この石……ぶよぶよしてる」

 一見すると何の変哲もない石だが、指でつつくとぷよんとはじき返してくる。

「まさか、ジェリー石? おかしいな、この辺りはとっくに調査は終わってるはずだが」

 ジェリー石は、柔らかい身体を持つジャムという魔物が、石などを溶解したときに身体から排出される物質である。軟膏や湿布、はては薬にとろみをつけるために用いる汎用性の高いものだ。
 それほど高価なものではないが、問題なのはそこではない。
 それがここにあることが問題なのだ。この鉱山は地下三十八階まであり、まもなくすべての調査が終わると聞いている。
 本来なら魔物の痕跡があってはいけないのだ。
 ……とはいえ、ジャムは岩場の暗闇を好む魔物で、とにかくそこかしこにいる。下手をすると、民家の軒下の石の裏などにも小型のジャムが入り込むことすらあるのだ。

「サキ、せっかくだからジェリー石は全部回収して」

 手早く採集を済ませて、セインはギルドへ報告へ向かうことにした。この鉱山は思った以上に深く、所有者の目論見をはるかに超えて五年という長きに渡って調査が続けられている。もしかしたら、開拓を急ぐあまり調査済み地域の見回りが、多少おざなりになってしまっているのかもしれない。

「他に採集者はいないようだけど、念のため穢れ払いをしておくか」

 ジャムは岩場に隠れて、いきなり飛び出してくる魔物である。それほど強い魔物ではないが、鉱山に出現するクラスになるとやはり油断はできない。初心者でもこの辺りまでなら降りてくるので、簡単な封じ込めをしておこうと思った。
 二枚の札を取り出して、素早く指で刀印を結んで文字をなぞると、一枚を貼りつけ、もう一枚を指に挟んで手を合わせる。

「清めよ、祓え、闇潜む魔を縛れ、我が命ずる。急急如律令!」

 セインの声とともに、その辺り全体の岩がざわっと動いて、すぐに時が止まったかの如く、しんっと静まった。

『……セイン様!』

 その直後、ゆらが警戒するような声を掛け、振り向いたセインを庇うように、サキが素早く回り込んだ。コウキもフードから飛び出してセインの肩に乗り、ハクは首に巻きついたまま黄色い目をぱちりと開いた。

「待ってくれ、気配を消して近づいたのは悪かったが、こちらも警戒していただけだ」

 両手を上げて無害をアピールしつつ体格のいい男と、その後ろに二人の背の高い男女が、岩影から現れた。その装備から、そこそこ上位のハンターのパーティだと思われた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【第一章完結】半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:696

流刑地公爵妻の魔法改革~ハズレ光属性だけど前世知識でお役立ち~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,507pt お気に入り:4,277

転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,530pt お気に入り:2,483

推しの兄を助けたら、なぜかヤンデレ執着化しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:20,380pt お気に入り:1,651

異世界で魔工装具士になりました〜恩返しで作ったら色々と大変みたいです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:9,190pt お気に入り:1,319

 だから奥方様は巣から出ない 〜出なくて良い〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:141,646pt お気に入り:1,866

獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,231pt お気に入り:1,248

処理中です...