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第四章 ハンター
4-6 鉱山探索へ
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いよいよ、依頼書の攻略初日。
以前の依頼は自分で選んだものではなかったし、今回がほぼ初仕事と言っていいだろう。
まだ調査中の鉱山なので、いろいろなハンターたちが探索や採集、魔物討伐などにやって来る。そのため、入鉱山手続きをしなければならない。
入場して何をするのか、最長どのくらいの滞在になるか、万一の時の捜索クエを事前に出すのか、などを記した書類を提出しておくのだ。
事前捜索クエストとは、もし最長日数を超過しても戻らない時に発動する、自分のために出す捜索クエストである。
ハンターのほとんどは、捜索クエストの事前申請はしない。なぜなら掛け捨ての保険のようなものだからだ。結構な金額を取るのに、無事に帰還できた場合は当然ながら金は戻ってこない。
だが、それは同時にすべて自己責任ということだ。保険を掛けなかったのだから、いざというときは諦めるしかないのである。
ちなみに遺品などを鉱山内で拾った場合は、見つけたもの勝ちになることが多い。鉱山主が雇った開拓チームが見つけた場合は、遺族に返還するのが慣例なので、そうなった場合は運がよかったといえる。
「捜索クエストの事前申請は、なし。採集予定の植物はモギ草に、ピポ花と、あとは湧き水。他に治癒系薬の材料、各種と。それほど深部までいく必要はなさそうですね。では、カードを見せて」
受付担当の青年に依頼書を渡すと、ひととおり確認してカードの提示を求めた。
「ビギナーだね、比較的安全なクエストのようだけど無理はしないように。あと、滞在日程は、ビギナーは基本一日だから、いいね」
セインは頷く、もとより無理をするつもりはない。
ここの鉱山はすでに半分以上調査が終わっていて、浅い部分なら安全だと聞いている。今日のところは、めぼしいものを採取して、ギルドへ持って帰って鑑定してもらうことを目的としている。
なにしろ、セインはあまり植物の知識はないからだ。急にハンターになろうなどと思い立ったはいいが、考えてみたら割と何も知らないのだ。
家庭教師が付いていたのはほんの子供の頃。やっと文字を覚えて、いくつかの書物を読みながら、礼儀作法をぼちぼちはじめ、そろそろ本格的にいろいろ習おうというときに、別館に追い出された。
よってこちらの世界の知識は、正真正銘、ろくに勉強していない年齢通りの子供のものなのである。
セインの横を、ベテランハンターたちが次々と通り過ぎ、地下へ降りる階段に進むのを眺めつつ、脇に生えている草の前に座った。
「ま、気長にやるさ。のんびり、草集めするのも悪くない」
負け惜しみではなく、なんだか普通に面白いと感じていた。今手にしている草が、果たして依頼にあったモギ草かどうかはわからないが、持ってきた枯れツタで編んだ籠に放り込む。
「毟らない方がいいな、この匂いが効くのかもしれないし……根もいるのか? その辺は書いてないな」
青々としてピンと真っすぐ伸びた草は、薄荷のような清々しい良い匂いがした。乱暴に毟ると、その匂いがかなり揮発するので、有効成分が飛んでしまうのかもしれないと思った。
『晴明……いや、セインじゃったの。そなたの言う通りじゃ、それはモギ草で、匂いが重要なんじゃよ』
いきなり耳元で聞こえてきた声に、セインは思わず手に取った草を取り落した。咄嗟に振り返ったそこには、隙間もないくらいアップの少女の顔があって、さらに驚いて尻もちをついた。
「わっ! ……うわ」
『それと、根には効能がないゆえ、持って帰ってもゴミになるだけじゃよ』
ゆらよりも甲高く幼い声だが、喋り方は老人のようでちぐはぐな印象を受けた。後ろに倒れ込んだセインを、どこか意地の悪い顔でくっくっくと小さく笑った少女は、黒髪のおかっぱ頭で、丈の短い着物姿に下駄という姿だった。
以前の依頼は自分で選んだものではなかったし、今回がほぼ初仕事と言っていいだろう。
まだ調査中の鉱山なので、いろいろなハンターたちが探索や採集、魔物討伐などにやって来る。そのため、入鉱山手続きをしなければならない。
入場して何をするのか、最長どのくらいの滞在になるか、万一の時の捜索クエを事前に出すのか、などを記した書類を提出しておくのだ。
事前捜索クエストとは、もし最長日数を超過しても戻らない時に発動する、自分のために出す捜索クエストである。
ハンターのほとんどは、捜索クエストの事前申請はしない。なぜなら掛け捨ての保険のようなものだからだ。結構な金額を取るのに、無事に帰還できた場合は当然ながら金は戻ってこない。
だが、それは同時にすべて自己責任ということだ。保険を掛けなかったのだから、いざというときは諦めるしかないのである。
ちなみに遺品などを鉱山内で拾った場合は、見つけたもの勝ちになることが多い。鉱山主が雇った開拓チームが見つけた場合は、遺族に返還するのが慣例なので、そうなった場合は運がよかったといえる。
「捜索クエストの事前申請は、なし。採集予定の植物はモギ草に、ピポ花と、あとは湧き水。他に治癒系薬の材料、各種と。それほど深部までいく必要はなさそうですね。では、カードを見せて」
受付担当の青年に依頼書を渡すと、ひととおり確認してカードの提示を求めた。
「ビギナーだね、比較的安全なクエストのようだけど無理はしないように。あと、滞在日程は、ビギナーは基本一日だから、いいね」
セインは頷く、もとより無理をするつもりはない。
ここの鉱山はすでに半分以上調査が終わっていて、浅い部分なら安全だと聞いている。今日のところは、めぼしいものを採取して、ギルドへ持って帰って鑑定してもらうことを目的としている。
なにしろ、セインはあまり植物の知識はないからだ。急にハンターになろうなどと思い立ったはいいが、考えてみたら割と何も知らないのだ。
家庭教師が付いていたのはほんの子供の頃。やっと文字を覚えて、いくつかの書物を読みながら、礼儀作法をぼちぼちはじめ、そろそろ本格的にいろいろ習おうというときに、別館に追い出された。
よってこちらの世界の知識は、正真正銘、ろくに勉強していない年齢通りの子供のものなのである。
セインの横を、ベテランハンターたちが次々と通り過ぎ、地下へ降りる階段に進むのを眺めつつ、脇に生えている草の前に座った。
「ま、気長にやるさ。のんびり、草集めするのも悪くない」
負け惜しみではなく、なんだか普通に面白いと感じていた。今手にしている草が、果たして依頼にあったモギ草かどうかはわからないが、持ってきた枯れツタで編んだ籠に放り込む。
「毟らない方がいいな、この匂いが効くのかもしれないし……根もいるのか? その辺は書いてないな」
青々としてピンと真っすぐ伸びた草は、薄荷のような清々しい良い匂いがした。乱暴に毟ると、その匂いがかなり揮発するので、有効成分が飛んでしまうのかもしれないと思った。
『晴明……いや、セインじゃったの。そなたの言う通りじゃ、それはモギ草で、匂いが重要なんじゃよ』
いきなり耳元で聞こえてきた声に、セインは思わず手に取った草を取り落した。咄嗟に振り返ったそこには、隙間もないくらいアップの少女の顔があって、さらに驚いて尻もちをついた。
「わっ! ……うわ」
『それと、根には効能がないゆえ、持って帰ってもゴミになるだけじゃよ』
ゆらよりも甲高く幼い声だが、喋り方は老人のようでちぐはぐな印象を受けた。後ろに倒れ込んだセインを、どこか意地の悪い顔でくっくっくと小さく笑った少女は、黒髪のおかっぱ頭で、丈の短い着物姿に下駄という姿だった。
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