55 / 137
第三章 鉱山都市マリザン
3-17 報告
しおりを挟む「原因は、これです」
それは、札の貼られた小さな魔物の死骸だった。
今回の騒動は、死の穢れと、魔物の持つ穢れの瘴気によるものだった。見つけた際に穢れ払いをして、念のために封じるための札を貼った。
ちなみにロッゾは意識を回復し、セインの足元で正座して顔を伏せている。前髪が盛大に焦げているのは、地下で意識を取り戻した時に、すべてが明るみになるのを恐れてセインに襲い掛かってきたからだ。
当然ながら、コウキの手痛い洗礼を受けた痕跡だ。
「……どういうことですか? まさか、魔物が現れたんですか」
「いいえ、この鉱山に魔物はいなかったはず。きちんとハンターによって魔物は討伐され、定期的に穢れ払いをしていたのだから」
「ええ、その通りです。ただ、実際に……」
「最近、頻繁に穢れの兆候が表れた」
「はい、その通りです。これまでは数か月に一度お願いしてましたが、ここのところは半月に一回ほどに増えておりました」
その都度、待っていたかのように依頼を受けたのが、ロッゾだった。依頼の掲示板に張り付いていなければ、毎回受けることなどできなかっただろう。
まるで、依頼が来ることがわかっているかのように。
「……商業鉱山の安い依頼を受ける方など、少ないのかと思ってました」
毎回同じ人物が受けていたため、ボダンは勘違いしていたようだ。むしろ、商業鉱山の定期点検、穢れ払いは、たとえ依頼料が安くとも人気の依頼である。安全かつ、必ず成功するからだ。
この業界には初参入だったうえに、見知らぬ土地で、まだ商人同士のコミュニケーションが不十分だったところを、ロッゾに付け込まれたのだろう。
「それでは、穢れはまだ……」
騙されたことも悔しいが、ボダンはさっそく損失を取り戻す算段に頭を巡らせた。
「ああ、大丈夫。地下から上がってくるついでに、こや……ロッゾに場所を吐かせて処理してきた。どうやら、ここの採掘が進むたびに、何か所か仕掛けていたらしい」
術による質の悪い呪いや穢れは対処法が難しいが、ロッゾにその知識や技術がなかったのが幸いした。単純に穢れの原因になるものを、すでに採掘が済んで掘り返されることがない場所へ埋めただけ、という単純な仕掛けだった。
ロッゾはこれまでも、幾度かこの方法を取っていたようだ。
いままで明るみに出なかったのは、回数が少なかったことと、死骸が土に還り、大地の自浄効果によって、運よく清められたため何事もなかったのだろう。
「くそ、あのロルシー崩れが、大丈夫だって言ったから、俺は……」
「やっ、やめろ! 俺は関係ない! だいたい、あれはお前が言い出したことだろうが」
「何言ってやがる、俺はいつも慎重にやってたんだ。それを」
「いい手があるからと、アンタがそそのかしただろうが。ロルシーの名があれば、疑われることはないからと調子のいいことを言って、そのくせ分け前をケチりやがって!」
「そ、そうだ、それだ! お前、ロルシー家の縁者なんだろう? これくらいの騒動ならなんとかしてくれるよな」
盛大に罪の擦り付け合いをしているが、悪事の詳細を暴露をしているだけだと気が付いてないのか。ともかく、醜い争いが続いている。
「言っておくが、ベンはロルシー家とは関係がない」
「な、なに? どういう……」
ため息をついたセインが、地べたに這いつくばる彼らに冷たく言い放った。
「……っ! セ、セイン様! どうか、お許しください。このことは、どうか実家には」
前回の土下座より必死さが半端なかったが、セインはかえって白けた気持ちになった。
ロルシー家から追い出され、おそらくベンは実家から勘当同然で追い出されたのだろう。さらに、その顔に泥を塗るような真似をすれば、本格的に縁を切られ、一族名簿からも抹消されかねないと恐れているのだ。
まったくもって懲りないやつである。
それは、札の貼られた小さな魔物の死骸だった。
今回の騒動は、死の穢れと、魔物の持つ穢れの瘴気によるものだった。見つけた際に穢れ払いをして、念のために封じるための札を貼った。
ちなみにロッゾは意識を回復し、セインの足元で正座して顔を伏せている。前髪が盛大に焦げているのは、地下で意識を取り戻した時に、すべてが明るみになるのを恐れてセインに襲い掛かってきたからだ。
当然ながら、コウキの手痛い洗礼を受けた痕跡だ。
「……どういうことですか? まさか、魔物が現れたんですか」
「いいえ、この鉱山に魔物はいなかったはず。きちんとハンターによって魔物は討伐され、定期的に穢れ払いをしていたのだから」
「ええ、その通りです。ただ、実際に……」
「最近、頻繁に穢れの兆候が表れた」
「はい、その通りです。これまでは数か月に一度お願いしてましたが、ここのところは半月に一回ほどに増えておりました」
その都度、待っていたかのように依頼を受けたのが、ロッゾだった。依頼の掲示板に張り付いていなければ、毎回受けることなどできなかっただろう。
まるで、依頼が来ることがわかっているかのように。
「……商業鉱山の安い依頼を受ける方など、少ないのかと思ってました」
毎回同じ人物が受けていたため、ボダンは勘違いしていたようだ。むしろ、商業鉱山の定期点検、穢れ払いは、たとえ依頼料が安くとも人気の依頼である。安全かつ、必ず成功するからだ。
この業界には初参入だったうえに、見知らぬ土地で、まだ商人同士のコミュニケーションが不十分だったところを、ロッゾに付け込まれたのだろう。
「それでは、穢れはまだ……」
騙されたことも悔しいが、ボダンはさっそく損失を取り戻す算段に頭を巡らせた。
「ああ、大丈夫。地下から上がってくるついでに、こや……ロッゾに場所を吐かせて処理してきた。どうやら、ここの採掘が進むたびに、何か所か仕掛けていたらしい」
術による質の悪い呪いや穢れは対処法が難しいが、ロッゾにその知識や技術がなかったのが幸いした。単純に穢れの原因になるものを、すでに採掘が済んで掘り返されることがない場所へ埋めただけ、という単純な仕掛けだった。
ロッゾはこれまでも、幾度かこの方法を取っていたようだ。
いままで明るみに出なかったのは、回数が少なかったことと、死骸が土に還り、大地の自浄効果によって、運よく清められたため何事もなかったのだろう。
「くそ、あのロルシー崩れが、大丈夫だって言ったから、俺は……」
「やっ、やめろ! 俺は関係ない! だいたい、あれはお前が言い出したことだろうが」
「何言ってやがる、俺はいつも慎重にやってたんだ。それを」
「いい手があるからと、アンタがそそのかしただろうが。ロルシーの名があれば、疑われることはないからと調子のいいことを言って、そのくせ分け前をケチりやがって!」
「そ、そうだ、それだ! お前、ロルシー家の縁者なんだろう? これくらいの騒動ならなんとかしてくれるよな」
盛大に罪の擦り付け合いをしているが、悪事の詳細を暴露をしているだけだと気が付いてないのか。ともかく、醜い争いが続いている。
「言っておくが、ベンはロルシー家とは関係がない」
「な、なに? どういう……」
ため息をついたセインが、地べたに這いつくばる彼らに冷たく言い放った。
「……っ! セ、セイン様! どうか、お許しください。このことは、どうか実家には」
前回の土下座より必死さが半端なかったが、セインはかえって白けた気持ちになった。
ロルシー家から追い出され、おそらくベンは実家から勘当同然で追い出されたのだろう。さらに、その顔に泥を塗るような真似をすれば、本格的に縁を切られ、一族名簿からも抹消されかねないと恐れているのだ。
まったくもって懲りないやつである。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~
昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。
前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。
ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。
俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。
領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。
その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる