45 / 129
第三章 鉱山都市マリザン
3-7 花
しおりを挟む
「……すみません、兄上。結局、引き取ることになってしまって」
屋敷に帰ってきて、まず奴隷の少女をメイドたちに預けた。なにしろ髪の毛は埃で固まってるし、肌は正常なターンオーバーがされてないのか、ガサガサのうえ、場所によっては皮膚がめくれている。
小さな手の爪も、戦闘の際にはがれたり折れたりしていた。下手をすると指の形や、爪の形が悪くなる。戦闘奴隷としても、いいことはなにもない。
風呂に連れていかれる猫のごとく、慌てふためく彼女をちょっと可哀そうに思ったセインだったが、少なくともこの屋敷に入れるには、あんな恰好のままにしておくわけにもいかない。
「仕方がないね。もっとも、君が奴隷を持つこと自体には反対しないよ。お付きの召使いを失ったって聞いたし、ここにいる間も護衛は必要だしね」
彼女を護衛として側に置く気はなかったが、セインは特に反論せずに頷いた。
「ありがとうございます。今日はいろいろあってハンター登録ができなかったので、明日改めて行ってきます」
デオルへの報告を終えると、セインは客間へと戻った。
この屋敷で、セインが与えられた部屋である。豪華すぎて落ち着かなかったが、今はありがたく使わせてもらっている。
すると、しばらくして扉がノックされた。メイドが少女を連れて戻ってきたのだ。
「ご苦労様、もういいよ」
「こちらは、お手荷物でございます」
彼女が身に着けていたものらしく、花の模様の書かれた髪留めだった。あのぼさぼさの髪と、大きな角に隠れて見えなかったのだろう。メイドを下がらせると、受け取ったそれを見た。
――花、ちょっと桔梗に似てるな……それが三つ並んで……何かの意匠のようだが。いや、ただの飾りかな。
「桔梗は紫の花だが、この髪飾りは銀色だから、色はわからないな。あれ、これって髪飾りじゃなくて、ひょっとして……」
少女はちょっともじもじしながら、そこに立っていた。
質素ではあるが、薄い藤色のワンピースを身に着けていた。髪も綺麗に切りそろえられていた。短いところがあったりとめちゃくちゃな切り方だったのが、可愛いショートカットになっていた。
「これ、角飾りだね」
少女は、コクリと頷く。
「前の、その前のご主人様、これ隠しておけって、私が攫われた時、持ってたものだって」
商人の前の主人は、寂れた大きな屋敷に住む老人だったらしい。まだ乳飲み子だった彼女を奴隷としてではなく、肉親のように育ててくれたが、六年ほど前に亡くなったとのことだ。その際、その角飾りを見つからないように持っておくようにと言われたらしい。
老人の意図はわからないが、ともかく彼女に害意があった人ではなかったようだ。
「つけてあげるよ、そこに屈んで」
とっさにに跪こうとするので、セインは彼女の手を引いてソファーに座らせた。留め金らしきものはなかったが、ゆるくカーブになっているところを角に沿わせてみた。
「あれ、ちょっと緩いかな……えっ、わっ?」
すると、金属がぐにゃっと曲がって角にピッタリと嵌った。少しではあるが、妖力が抜けるような感覚があったので、もしかしたら魔力などに感応する金属なのかもしれない。
「そうか桔梗か、ムラサキ……長いな、サキかな。ちょっとこの辺じゃない名前だけど……」
「サキ……?」
「名前だ、今日から君の名前はサキだ」
ぼーっとした顔でこちらをみているので、嫌なのかと思っていたらぱっと笑顔がはじけた。
「サキ! ありがとうございます、ご主人様」
セインは、少女の本当の笑顔を始めて見たような気がした。ちょっと驚いた顔をしたセインに、何を勘違いしたのか、彼女はソファーから飛び上がるように立ち上がり、そのまま床に膝まづいた。
「す、すみま……申し訳ありません、お、大きな声を……」
――まずは、これを辞めさせないとな。
屋敷に帰ってきて、まず奴隷の少女をメイドたちに預けた。なにしろ髪の毛は埃で固まってるし、肌は正常なターンオーバーがされてないのか、ガサガサのうえ、場所によっては皮膚がめくれている。
小さな手の爪も、戦闘の際にはがれたり折れたりしていた。下手をすると指の形や、爪の形が悪くなる。戦闘奴隷としても、いいことはなにもない。
風呂に連れていかれる猫のごとく、慌てふためく彼女をちょっと可哀そうに思ったセインだったが、少なくともこの屋敷に入れるには、あんな恰好のままにしておくわけにもいかない。
「仕方がないね。もっとも、君が奴隷を持つこと自体には反対しないよ。お付きの召使いを失ったって聞いたし、ここにいる間も護衛は必要だしね」
彼女を護衛として側に置く気はなかったが、セインは特に反論せずに頷いた。
「ありがとうございます。今日はいろいろあってハンター登録ができなかったので、明日改めて行ってきます」
デオルへの報告を終えると、セインは客間へと戻った。
この屋敷で、セインが与えられた部屋である。豪華すぎて落ち着かなかったが、今はありがたく使わせてもらっている。
すると、しばらくして扉がノックされた。メイドが少女を連れて戻ってきたのだ。
「ご苦労様、もういいよ」
「こちらは、お手荷物でございます」
彼女が身に着けていたものらしく、花の模様の書かれた髪留めだった。あのぼさぼさの髪と、大きな角に隠れて見えなかったのだろう。メイドを下がらせると、受け取ったそれを見た。
――花、ちょっと桔梗に似てるな……それが三つ並んで……何かの意匠のようだが。いや、ただの飾りかな。
「桔梗は紫の花だが、この髪飾りは銀色だから、色はわからないな。あれ、これって髪飾りじゃなくて、ひょっとして……」
少女はちょっともじもじしながら、そこに立っていた。
質素ではあるが、薄い藤色のワンピースを身に着けていた。髪も綺麗に切りそろえられていた。短いところがあったりとめちゃくちゃな切り方だったのが、可愛いショートカットになっていた。
「これ、角飾りだね」
少女は、コクリと頷く。
「前の、その前のご主人様、これ隠しておけって、私が攫われた時、持ってたものだって」
商人の前の主人は、寂れた大きな屋敷に住む老人だったらしい。まだ乳飲み子だった彼女を奴隷としてではなく、肉親のように育ててくれたが、六年ほど前に亡くなったとのことだ。その際、その角飾りを見つからないように持っておくようにと言われたらしい。
老人の意図はわからないが、ともかく彼女に害意があった人ではなかったようだ。
「つけてあげるよ、そこに屈んで」
とっさにに跪こうとするので、セインは彼女の手を引いてソファーに座らせた。留め金らしきものはなかったが、ゆるくカーブになっているところを角に沿わせてみた。
「あれ、ちょっと緩いかな……えっ、わっ?」
すると、金属がぐにゃっと曲がって角にピッタリと嵌った。少しではあるが、妖力が抜けるような感覚があったので、もしかしたら魔力などに感応する金属なのかもしれない。
「そうか桔梗か、ムラサキ……長いな、サキかな。ちょっとこの辺じゃない名前だけど……」
「サキ……?」
「名前だ、今日から君の名前はサキだ」
ぼーっとした顔でこちらをみているので、嫌なのかと思っていたらぱっと笑顔がはじけた。
「サキ! ありがとうございます、ご主人様」
セインは、少女の本当の笑顔を始めて見たような気がした。ちょっと驚いた顔をしたセインに、何を勘違いしたのか、彼女はソファーから飛び上がるように立ち上がり、そのまま床に膝まづいた。
「す、すみま……申し訳ありません、お、大きな声を……」
――まずは、これを辞めさせないとな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
37
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる