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第二章 四神
2-7 長男ドゥマル
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荷物を厳選してもなお、自分の身体が隠れるほどのリュックを背負って、セインはおんぼろ館を後にした。
「ここも、住めば都……に、していかないとな」
二階建ての、大きさだけは立派な元使用人屋敷。
そのうち改装とかできればいいんだけど、と独り言をつぶやきつつ、セインは侯爵家の敷地の外へ出る門へと向かった。
「大きなリュックが歩いていると思ったら、なんだよチビ助じゃねえか」
後ろから急に声を掛けられて、セインは驚いて振り向いた。
「……ドゥマル兄上」
侯爵家長男のドゥマル、父親にそっくりで、大きく逞しい体つき、身長だけならとっくに追い越している。
乗っていた馬から飛び降り、セインの前に立った。
まるで壁のように陽の光を遮り、セインは完全に日陰に入ってしまう。
――そういえば、鉱山都市マリザンを任されているのは、彼ではなく、次男のデオルだったはず。父上も、到着したら挨拶しておけ、と言っていた。
公爵領で、かなり有益で大きな都市だ。考えてみれば、どうして次男のデオルだったのだろう、とセインは今更ながら疑問に思った。
正夫人の息子だからかもしれないが、この辺の事情を実のところセインはあまり知らなかった。もっとも正直なところ、ちょっと前まではそんなことを気にする余裕もなかったが。
「マルザンに行くそうだな?」
――うっ、頼むから、睨むのやめろ! あ、足が、膝が笑ってきた。相変わらず軟弱だな、この身体は!
本人にその自覚があるのかないのか、腰をかがめるようにグッと近づき、めちゃくちゃ威圧するかのように顔を近づけてきた。
「は、はい、あの……」
「ぴっ、ぴ! ぴよっ!」
危なく腰が砕ける寸前、肩に乗っていたこうきが、ぱたぱたっとドゥマルに突進した。セインが敵認定していないからか、ただの「ひよこ」のくちばし攻撃である。
ちょっとだけ、火の粉はとんでいるが。
「熱ちちっ、おっと。こいつが例の、おまえの従魔か」
「ああ、すみません。こらっ、コウキ戻っておいで」
大きな手袋のような手のひらで軽くあしらうドゥマルから、なんとかコウキを取り戻してセインは定位置の肩へ乗せた。いきなり襲い掛かったこちらに非があるので、ぺこりと頭を下げる。
「いいって、そんなにかしこまるな。だが、父上がよく半人前を外に出す気になったな」
そう言って、ドゥマルは無骨な指で、セインの灰色の髪をひと房くるりと弄び、そのままぐりぐりと頭を撫でた。
「それは僕が無茶を言ったからで、ロルシー家には迷惑が掛からないように……」
「まあ、気にすることないさ」
すると、ドゥマルは撫でていた手を、ポンと頭にのせて。
「あそこへ行くなら、デオルのところへ寄るんだろ? じゃ、ま……俺がよろしく言っていたと伝えてくれ」
逆光のせいで表情まではよくわからなかったが、それだけ言うと彼は屈めていた腰を起こし、颯爽と馬へと飛び乗って「じゃあな、チビ助」と、門の方へと馬を走らせていった。
「ここも、住めば都……に、していかないとな」
二階建ての、大きさだけは立派な元使用人屋敷。
そのうち改装とかできればいいんだけど、と独り言をつぶやきつつ、セインは侯爵家の敷地の外へ出る門へと向かった。
「大きなリュックが歩いていると思ったら、なんだよチビ助じゃねえか」
後ろから急に声を掛けられて、セインは驚いて振り向いた。
「……ドゥマル兄上」
侯爵家長男のドゥマル、父親にそっくりで、大きく逞しい体つき、身長だけならとっくに追い越している。
乗っていた馬から飛び降り、セインの前に立った。
まるで壁のように陽の光を遮り、セインは完全に日陰に入ってしまう。
――そういえば、鉱山都市マリザンを任されているのは、彼ではなく、次男のデオルだったはず。父上も、到着したら挨拶しておけ、と言っていた。
公爵領で、かなり有益で大きな都市だ。考えてみれば、どうして次男のデオルだったのだろう、とセインは今更ながら疑問に思った。
正夫人の息子だからかもしれないが、この辺の事情を実のところセインはあまり知らなかった。もっとも正直なところ、ちょっと前まではそんなことを気にする余裕もなかったが。
「マルザンに行くそうだな?」
――うっ、頼むから、睨むのやめろ! あ、足が、膝が笑ってきた。相変わらず軟弱だな、この身体は!
本人にその自覚があるのかないのか、腰をかがめるようにグッと近づき、めちゃくちゃ威圧するかのように顔を近づけてきた。
「は、はい、あの……」
「ぴっ、ぴ! ぴよっ!」
危なく腰が砕ける寸前、肩に乗っていたこうきが、ぱたぱたっとドゥマルに突進した。セインが敵認定していないからか、ただの「ひよこ」のくちばし攻撃である。
ちょっとだけ、火の粉はとんでいるが。
「熱ちちっ、おっと。こいつが例の、おまえの従魔か」
「ああ、すみません。こらっ、コウキ戻っておいで」
大きな手袋のような手のひらで軽くあしらうドゥマルから、なんとかコウキを取り戻してセインは定位置の肩へ乗せた。いきなり襲い掛かったこちらに非があるので、ぺこりと頭を下げる。
「いいって、そんなにかしこまるな。だが、父上がよく半人前を外に出す気になったな」
そう言って、ドゥマルは無骨な指で、セインの灰色の髪をひと房くるりと弄び、そのままぐりぐりと頭を撫でた。
「それは僕が無茶を言ったからで、ロルシー家には迷惑が掛からないように……」
「まあ、気にすることないさ」
すると、ドゥマルは撫でていた手を、ポンと頭にのせて。
「あそこへ行くなら、デオルのところへ寄るんだろ? じゃ、ま……俺がよろしく言っていたと伝えてくれ」
逆光のせいで表情まではよくわからなかったが、それだけ言うと彼は屈めていた腰を起こし、颯爽と馬へと飛び乗って「じゃあな、チビ助」と、門の方へと馬を走らせていった。
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