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第二章 四神
2-4 ハンター2
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ほんの数分待たされただけで、セインは父親の部屋に案内された。
書斎に挨拶にいったことはあるが、侯爵の私室にセインが入るのは初めてだった。小さい頃はひどい人見知りで、セインは父親の顔をみると、まるで怪獣のように泣き叫んで大変だったと、ばあやがことあるごとに話していた。
「父上、先日はご迷惑をおかけしました。いろいろお心遣い感謝しております」
セインは、入室するとすぐに姿勢を正して会釈をした。
「いやに堅苦しい挨拶だな。まあ、いい。そこにかけなさい」
侯爵はそう言って、自らもデスクからテーブルがあるソファーに移動して座った。セインも頷いて、向かいに腰かける。すぐにお茶のセットが運ばれてくると、二人のもとへ湯気の立つカップが置かれた。
「お休み中に申し訳ありません」
「構わぬよ、それに帝都へ行く前に少し話したいと思っておったしな」
侯爵はカップを傾けながら、セインの肩に乗っている火の玉を見た。
「式……といったか。不思議な存在だな。お前にそのような才能があるとは」
「今回のことで多少の妖力は得ましたが、変化の儀さえ終えてない半人前なのは変わりません」
「ふむ、この年まで変化しないというのは、わしも聞いたことがない。あるいは、里の医師ならなにやらわかるやもしれぬな。相談するなら、こちらから……」
「いえ! そこまでしていただかなくとも平気です。身体に異常があるわけではありませんので」
きっぱり断るセインに、侯爵はまだ何か言いたそうにしていたので、慌ててここへ来た本来の目的を明かすことにした。
「あの、今日はお願いがあって来たのです」
セインは熱いお茶を一口飲んで、意を決したように顔を上げた。
「未開鉱山の探索がしたいので、ハンターになる許可を頂きたく参りました」
「……ハンターだと?」
実のところ、ロルシー家にはハンターギルドに登録している者は意外と多い。なにしろ、上位のハンターは支援の届かない奥地まで、より深く探索を進めなければならない。その間、あらゆる物資が足りなくなるが、なにより穢れにより動けなくなる危険性が高くなる。
例えば帰還魔法を使う魔法使いが、呪文封じの「穢れ」を受けでもしたら一大事だ。あらゆる魔法には、それを封じるアンチ魔法が存在する。だが、そのデバフを、穢れとして濯ぐことができるのが、穢れ払いの特質だった。
毒であれ、呪いであれ、ほとんどの状態異常が、穢れ払いによって緩和、もしくは無効化される。
これこそが、帝国にとってロルシー家が無視できない理由の一つだ。
妖狐族は、人妖なのでもちろん人間社会では亜人扱いである。
獣人や魔人と違うのは、人間からみて亜人は下等なもの、忌避するものだが、人妖に限っては近寄りがたき存在であった。
例えば、竜人、すなわち竜は、古来より触れてはならぬ天災であり、場所によっては崇める対象にもなった。人魚は、恐ろしい海難事故を起こす天災であり、遭遇すること自体が不運とされた。
彼らの起こす奇跡のほとんどは、人間が防ぎようのない自然現象である天災として扱われてきた。
そんな中で、妖狐ももちろん人間にとって、天災であった。
大昔には、複数尾の妖狐が、あらゆる気候を自在に操り、穢れを振りまき、病気と大災害を起こしたという伝記がいくつもあった。
彼ら人妖は、いずれも独自の文化を築き、人間の力の及ばぬ秘境、または術により作られた隠れ里にて存在しているとされた。
だが、普段は人間と変わらぬ姿ゆえ、気づかれぬうちに人間社会に潜り込んでいる者もいるのでは、などと都市伝説としてささやかれてもいた。
実際にそれは本当の話なのだが、それはまた後程の話である。
「いや、うむ。ハンターになること自体は構わぬが……」
書斎に挨拶にいったことはあるが、侯爵の私室にセインが入るのは初めてだった。小さい頃はひどい人見知りで、セインは父親の顔をみると、まるで怪獣のように泣き叫んで大変だったと、ばあやがことあるごとに話していた。
「父上、先日はご迷惑をおかけしました。いろいろお心遣い感謝しております」
セインは、入室するとすぐに姿勢を正して会釈をした。
「いやに堅苦しい挨拶だな。まあ、いい。そこにかけなさい」
侯爵はそう言って、自らもデスクからテーブルがあるソファーに移動して座った。セインも頷いて、向かいに腰かける。すぐにお茶のセットが運ばれてくると、二人のもとへ湯気の立つカップが置かれた。
「お休み中に申し訳ありません」
「構わぬよ、それに帝都へ行く前に少し話したいと思っておったしな」
侯爵はカップを傾けながら、セインの肩に乗っている火の玉を見た。
「式……といったか。不思議な存在だな。お前にそのような才能があるとは」
「今回のことで多少の妖力は得ましたが、変化の儀さえ終えてない半人前なのは変わりません」
「ふむ、この年まで変化しないというのは、わしも聞いたことがない。あるいは、里の医師ならなにやらわかるやもしれぬな。相談するなら、こちらから……」
「いえ! そこまでしていただかなくとも平気です。身体に異常があるわけではありませんので」
きっぱり断るセインに、侯爵はまだ何か言いたそうにしていたので、慌ててここへ来た本来の目的を明かすことにした。
「あの、今日はお願いがあって来たのです」
セインは熱いお茶を一口飲んで、意を決したように顔を上げた。
「未開鉱山の探索がしたいので、ハンターになる許可を頂きたく参りました」
「……ハンターだと?」
実のところ、ロルシー家にはハンターギルドに登録している者は意外と多い。なにしろ、上位のハンターは支援の届かない奥地まで、より深く探索を進めなければならない。その間、あらゆる物資が足りなくなるが、なにより穢れにより動けなくなる危険性が高くなる。
例えば帰還魔法を使う魔法使いが、呪文封じの「穢れ」を受けでもしたら一大事だ。あらゆる魔法には、それを封じるアンチ魔法が存在する。だが、そのデバフを、穢れとして濯ぐことができるのが、穢れ払いの特質だった。
毒であれ、呪いであれ、ほとんどの状態異常が、穢れ払いによって緩和、もしくは無効化される。
これこそが、帝国にとってロルシー家が無視できない理由の一つだ。
妖狐族は、人妖なのでもちろん人間社会では亜人扱いである。
獣人や魔人と違うのは、人間からみて亜人は下等なもの、忌避するものだが、人妖に限っては近寄りがたき存在であった。
例えば、竜人、すなわち竜は、古来より触れてはならぬ天災であり、場所によっては崇める対象にもなった。人魚は、恐ろしい海難事故を起こす天災であり、遭遇すること自体が不運とされた。
彼らの起こす奇跡のほとんどは、人間が防ぎようのない自然現象である天災として扱われてきた。
そんな中で、妖狐ももちろん人間にとって、天災であった。
大昔には、複数尾の妖狐が、あらゆる気候を自在に操り、穢れを振りまき、病気と大災害を起こしたという伝記がいくつもあった。
彼ら人妖は、いずれも独自の文化を築き、人間の力の及ばぬ秘境、または術により作られた隠れ里にて存在しているとされた。
だが、普段は人間と変わらぬ姿ゆえ、気づかれぬうちに人間社会に潜り込んでいる者もいるのでは、などと都市伝説としてささやかれてもいた。
実際にそれは本当の話なのだが、それはまた後程の話である。
「いや、うむ。ハンターになること自体は構わぬが……」
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