かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第七章 醜いお姫様

【番外編】 三つ子は誰の子? ※七章から約三年後のお話

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【ケラヴノス団長の悩み・リベムール王国】


 ティナ女王陛下が国を救って、三年の月日が流れた。ティナが即位して約十ヶ月後に三つ子は生まれ、その三つ子は元気にすくすくと育っている。

 外交と内政も上手くいっているようだ。三年前の出来事もあるので、軍にも力を入れ、騎士団はかなり強化されている。

 この国を守る最強の盾といえる雷光騎士団の団長ケラヴノスは、長男アルベールと剣の稽古をしていた。一メートルにぎりぎり満たない男の子。本日が初の稽古デビューである。

 小さな木剣を持たせ、握り方と振り方を教えた。その様子は弱弱しく、お世辞にも上手いとは言えなかった。しかし、その平穏にケラヴノスはほっこりする。

「はっはっは、殿下。その調子ですよ」

「えへへ! 上手く振れてますか?」

「はい、もちろんですとも! これは私より強くなる日も遠くないですな~」

 彼は嬉しそうにそう言った。

「わーい、やったー! ねぇ、勝負しましょうよー。団長~」

「き、危険ですよ殿下。お怪我でもされたら大変です」

「大丈夫、大丈夫~」

 彼は嫡男だからなのか。しっかりとした口調で話していた。ケラヴノスは弟や妹よりも先に進みたいだろうと、子供心を察した。医療魔導師を配置し、安全を期して、それを承諾する。

 お互いが向き合う。ケラヴノスが説明をしようとした時、フライングをした殿下がフラフラと突っ込んで来た。

「殿下、焦らずとも……お、っとッ!!? 危ないっ」

 殿下はつまずいた拍子に凄いジャンプ突きを、ケラヴノスの股間を目掛けて繰り出す。団長は何とかそれを避けた。殿下はヘッドスライディングみたいになったが、芝生しばふの上だったので、怪我は無い様だ。

「はぁ……はぁ……はぁ……大丈夫ですか、殿下!?」

 自分も危なかったが、それよりも殿下を心配するケラヴノス。彼を起こすと、意外に元気だった。

「こけちゃいましたね……あはは」

 怪我が無い様で安心する。

「はっはっはっは、殿下。焦る事はありません。ゆっくり行きましょう」

「うん! もう一度やろー」

「……次で最後ですよ」

「分かったー」

 お互いが向き合う。そして、ケラヴノスが何か言う前に、またフラフラと突っ込んで来た。しかし、今度は彼の真横を通り過ぎた。

「はははは! そちらに私はいませ……」

 通り過ぎた瞬間、鋭い剣が飛んで来た。

「なにぃぃぃぃ!」

 間一髪。首元を狙う一閃を剣で何とか止めた。すると殿下はバタンとこけた。

「……ははは……中々、凄い一撃でしたよ」

「え~? 何が?」

「ははは、初心者の頃は無我夢中むがむちゅう。その御かげか、稀に凄い事をしでかすのですよ」

「んー? 今の、凄かった?」

「それはもうっ。やられるかと思いました。はっはっはっは!」

「よく分からないけど、やったー」

 ケラヴノスはその無邪気な笑顔を見て、優しく微笑み返した。しかし、何処か違和感を覚えた。その瞳の奥には悔しさがにじみ出ている、そんな気がした。こうして、今日の剣の稽古が終わった。

 お昼が過ぎた頃、ケラヴノスは王宮の二階の廊下を歩いていた。すると中庭にアルベールが見えた。

「おや、アルベール殿下。何をやって……」

 その時、ケラヴノスは驚愕した。木剣を振っていたのだ。しかも、その素振りの力強い事。それはとても一朝一夕いっちょういっせきで出来るモノでは無かった。あのつたない素振りは芝居しばいだった様だ。最低でも半年は訓練しているだろうと予測する。

 そこで中庭に侍女が近づいて来た。アルベールは木剣を隠すと、蜘蛛くもを観察しているフリをしだした。

「また、蜘蛛さんですか? 毒を持っているものいるので、近づかないでください」

「ごめんなさい」

 侍女が蜘蛛は危ないと軽く注意をすると、手を引いて連れられて行く。

 その時、ケラヴノスは思わず高速でしゃがんでしまった。同時に彼が上を見上げ、窓の方を見て来た。

「殿下? どうされましたか?」

「ん~。窓に誰かいたような……」

 侍女も二階の窓を見るが、誰も居ない。

「居ませんねー。殿下の気のせいだと思いますよ」

 そして、二人は去って行った。

(私としたことが、何故か隠れてしまったっ。何かいけないモノを見てしまった様な……)

 ケラヴノスは確信した。金的を狙って来たのも、首を狙って来たのも偶然じゃない、と。

(あの時の違和感は正しかったというのか? 今まで沢山の子供の稽古をして来たが、普通はあの歳なら、私に負けて泣くことはあっても、悔しいからと自主訓練しようとはならない)

(アルベール殿下は本気で、私を倒しに来た? しかも、自身の実力を理解し、対策をこうじた……と?)

 この日、ケラヴノス団長の心の声が暴走した。そして、子供に負けるわけにはいかないので、密かに猛特訓をする事になる。


【王宮の書庫】

 ある日、ケラヴノス団長は調べ物をしようと、書庫に来た。するとテーブルの椅子に次男のレイドルフが座って居た。近づくと彼に話しかける。

「おお! レイドルフ殿下。何をお読みになられているので?」

「ケラヴノス団長、こんにちは。今、お母様が作ってくれた絵本を読んでおりました」

「おお! それは凄い! その歳で字が読めるのですか! ん? もう、読めるのですか……?」

「ええ……少しなら」

「少し見せて頂いてもよろしいですか?」

「はい! もちろんです」

 タイトルは雷光騎士とお姫様だ。

 絵本を見ると、少なく短い文字に、陛下が書いたであろう挿絵が所々に合って、子供用に読みやすく作られていた。その可愛らしさにホッと肩をなでおろした。

「素晴らしい……読めない文字はございますか? もしよろしければ、お教えしますよ」

「大丈夫ですよー。以前、お母様に教えて頂きました」

「そうですか。博識はくしきでいらっしゃる。あ、いえ……」

「わーい、褒められたー。嬉しいです~」

「え……?」

「どうされましたか?」

「難しい言葉を知っておられるな、と……」

「博識ー、分からないー。教えて―」

「……た、たくさん知っていて、偉いという事ですよ……」

「やったー、えらいー」

 ふとレイドルフの隣にある椅子に目が行く。彼はぎょっとした。自分なら絶対に手に取らない様な、難しい魔導書まどうしょが幾つも積んであったのだ。

 これは魔法媒体の魔導書では無く、知識を得るためのモノだ。その隠し方の雑さからたった今、急いで隠した様な感じがうかがえる。

「で、殿下……それは?」

「……あー、これー……本棚の上に手が届かないから踏みだ……んーっとね。さっき、高い所から落ちて来たんだよ~。片付けるのを手伝って欲しいです~」

(そうだよな。その言い分だと本末転倒ほんまつてんとうになる。その本棚の上の方は難しい本しかないからな? あれ、何かこの子たち、怖くない?)

「……ははは、片付けなら任せなさい。それよりもお怪我はありませんでしたか?」

「大丈夫です」

「そうですか。それは良かった……」


【ケラヴノス団長の安堵】

 団長は深刻そうな表情で歩いていた。陛下のご子息が変だ。変と言うより、年齢の割に賢い、気がする。というか、それだけならまだしも、何故かそれを隠そうとしている。

 それは偶然なのか故意なのか分からない。故意だとしたら、その目的が分からない。とにかく怖すぎる。

 ケラヴノスは混乱する。ふらふらと歩いていると、王女ルナが床に座って泣いていた。

「!? どうされましたか!? ルナ殿下!」

「だんちょ……」

「何処かお怪我を?」

 泣きながら何とか言葉を出す。

「アル、べーと。レイーが。あそんでくれないの……」

「え?」

「にぃが。あそんで、くれいないー--ー--!」

 ほっこりとした表情にケラヴノスはなった。純真無垢。これこそが求めていたモノだと、彼は確信した。

「私でよければ遊びましょうか!」

「ほんとー-!?」

「はい、何をしますか?」

「おままごとー」

 ルナは幾つか手作り感あふれる人形を取り出した。おそらく陛下が作ったのだろう。

「ルナ、ママやるー。だんちょ、パパーやって」

「お任せください!」

 こうして団長とルナは遊ぶのであった。


【城下街で遊びたいのだが】

 ある日、アルベールとレイドルフがコソコソと何かやっている。侍女に見つからない様にモノ陰に隠れながら何処かに行こうとしていた。ケラヴノス団長はそれを偶然見つけて後を付けていた。

「それで、この辺なのか?」
「うん。もう少しだよ、ルベ兄」

 二人が歩く。すると、見つかりにくそうな場所に来た。

「お、ここか。じゃあ行こうか。城下街に!」

「おー! 皆は怒るだろうけど……見聞を広める事は大切だからね!」

(……)

 ケラヴノス団長が声をかけようとした時、その前に声をかける者が現れた。ルナだ。偶然見つけたので近づいて来たのだ。

「にぃ、にぃ。あそぼー」

「げ、ルナ……」

「ルナ、今はちょっと遊べないかなー……ごめんな」

「やだー! あそぼっ」

「ちょっと用事があるから、また今度な」

「どこかおでかけ? ルナもいくー」

「あー、危険な所だから。あ、侍女を呼んでくるからさー」

「やだやだやだやだ! にぃとあそぶー!」

 ルナが二人に抱き着こうと慌てて走ると、こけてしまった。足を擦りむいた。遅れて痛い事に気が付くと泣きわめく。二人がルナを起こし、頭を撫でながらあやす。

 ケラヴノスが出て行こうとするが、見た所軽傷。二人がどう判断するのか見たくなったのだ。アルベールが言う。

「レイドルフ、回復魔法は使えるか?」

「使える。怪我をした魔獣に試して、何度も成功してる」

「よし! それなら!」

(今成功してるって言った? それよりも、いかん!)

 ケラヴノスは駆け付けようと急いで立ち上がる。しかし、踏みとどまる。

「……駄目だ。回復魔法は攻撃魔法とは違う。失敗すれば俺だけでなく、ルナの人体にもその影響が出る可能性がある」

「くっ……仕方ない。今回は外に出るのは諦めるか」

「まあ、何時でも行けるし。ルナの方が大事だよ」

「じゃあ、大人を呼んで来る」

「頼む、ルベ兄。俺はここでルナを見ているよ」

 ケラヴノスは茫然とそれを見ていた。魔法のリスクを知ったうえで、感情に流されずに冷静な判断をする子供の図。しっかりと大切なモノが何かを天秤にかけた。それを見て、安心したと同時に震えていた。

 アルベールが走り去った後、レイドルフはルナに言葉を投げかける。痛みはあるだろうが、徐々に安心しきった緩やかな泣き声になっていく。

 そこでケラヴノスが出て行く。治療をするためだ。この程度の傷ならば、魔具の力を借りて治療が可能。それに気が付いたレイドルフが言う。

「ケラヴノス団長! ッ……申し訳ありません。治療をお願い出来ますか?」

「お任せください」

 治療が終わると、レイドルフは安心した表情になる。そして、言う。

「僕たちが外に出ようとしたばかりに……ルナをしっかりと侍女に預けて行けばこんな事には……それに、後から怒られるのは他の者になると知りながら、好奇心を抑えきれずに。申し訳ありません……」

 レイドルフは事情を聞こうとしない団長を見て、一部始終を見ていたのだと推測し、素直に謝って来た。その時、丁度侍女を連れて戻って来たアルベールが言う。

「今回の事は私が言い出しました。レイドルフには責任はありません。どうか叱るなら私を……」

 傷の痛みが引くと、幼いながらも兄たちに迷惑をかけてしまった事に責任を感じ、ルナが泣きだす。

「ごめんなさいー、ごめんなさいー」

「いいんだ。むしろルナのおかげで大事故を防げたかもしれない……ルナは悪くないぞ」

「よしよし~。大丈夫だからな。良し、後で遊ぼう」

「ほんとー?」

「ああ、本当さ」

 二人はルナの頭を撫でてあやす。ケラヴノスがこのやり取りを見て、気持ちを切り替え、無理やりほっこりとした。

「……私たちと行くのでは退屈かもしれませんが、今度護衛を付けて城下街へ行きましょう。陛下にも進言しておきます」

「盛大なお気遣い痛み入ります……」

 二人は片膝を付いて、それを大袈裟に喜んだ。

「ただ、内緒で外に出ようとした事は陛下にも報告しますよ。しっかりと怒られてくださいな。はっはっは」

 二人は小さく呟いた。

「「……くっ、気が付いたか」」

「ん?」

「いえ、当然の処置だと思います」
「はい、思いますー」

(え? 今こそっと何か言わなかったか?)

「ははは、はっはっは。立派な判断力。まったく将来が楽しみですなー」

(怖い……)


【図鑑で遊ぼう】

 ある日、ケラヴノス団長は書庫にいた。アルベールとレイドルフに図鑑を見せていた。

「殿下、魔物図鑑ですよ。これには沢山の魔物が描かれております。今日は探し方を教えましょう」

「すごいですー!」

「魔物が一杯だねー、ルベ兄ー」

 二人は興味津々にそれに喰いついて来た。うんうん、と頷く団長。ここから問題を出し、二人に探してもらうゲームをする。

 団長は、この二人なら文字は簡単に読めるだろうと予測する。彼は意地悪をして、魔狼ノティロリュコスを名前では無く、特徴を伝えて探させる事を選ぶ。これなら魔物の特徴を読まなければ、答えには辿り着けない。

「それでは殿下。今から言う魔物を探してください」

「「はーい」」

「風の魔法を使い、白銀の毛を持つ、大きな狼といえば?」

 すると、二人は大雑把に本を開いた。アルベールは一瞬迷ったがすぐ左に三ページめくる。レイドルフは迷わず右に五ページめくる。そして、同時に魔狼ノティロリュコスのページに辿り着く。苦も無く、速攻で見つけていた。団長はその早さに固まっていた。

 二人はハッとして一旦本をパタンと閉じた。そこでレイドルフは最初のページ、アルベールは最後のページから一枚づつ、ゆっくりとめくり始める。

「風の狼さん……風の狼さん」
「どれだろー! どこだろー」

「アルベールより早く見つけるぞー」

「何だとー。レイドルフには負けないぞー」

(……で、殿下。もう見つけてましたよ? 正解しておりますよ? もしかして、図鑑にある魔物のページを覚えているのですか? というか、何時もの流暢りゅうちょうな敬語はどうしたっ?)


【模擬実験の遊戯】

(こ、子供が遊んでる! 何と素晴らしい光景だ!)

 ある日、ケラヴノスが書庫に入ると、アルベールとレイドルフが狼のぬいぐるみを使って、おままごとをしていた。静かに近づいて二人を観察する。二人は会話に耳を傾ける。

「じゃあ、今度はそっちな」
「分かった」

(? あれは……どんな、ままごとだ?)

 アルベールが言う。

「まずは敵だ。えー、じゃあ魔狼ノティロリュコスな」

「うわー、出、た、よ……ッ」

(え? 何やってんの? この殿下殿下でんかでんか

「魔物の兵は五体。で、伏兵が二体かな。本体と合わせると計八体だ」

 そう言いながらぬいぐるみを配置した。

「なるほど、難易度は金等級……いや、銀等級か」

「妥当だな」

(何でギルドの等級を把握している? はぁ? というか、まさか訓練を模した遊びなのかっ?)

「今の俺じゃ即死だな。よって、十歳に設定して良いか? この歳の目標は黒等級の強さだ」

「良い塩梅あんばいだ。レイドルフは得意なの炎魔法だっけ?」

「そう。前も言ったけど、回復魔法もいける」

(え? この子供、数年後の明確な目標がある? ……殿下、三歳だよな……?)

「なるほどね。それで、一緒に戦う兵はどうする?」

「ケラヴノス団長……ってのは面白くないな」

(はぁ? 面白くないとは何だ! 失礼な殿下だ!)

「はははは、レイドルフいらね。ボーっと立ってろよ~」

(許す……俺が強すぎるって事か)

「だよな~。上位40人禁止にする?」

「だな……簡単に倒せたら訓練の意味ないもんな」

(もっと妥協してください。安全に倒しませんか、王子!?)

「誰が良いかなー……」

「悩んでるなら42位のドーグさんにしたら? 強いぜぇ~」

(……あれ? 上位40って、何時の間にか、団員に順位が付いたのか? いや、上から10数人程度なら確かに順位はついてはいるが……そんなに細かくは付いてないはずだ)

「騙されるか!? ドーグさんは森の戦闘が苦手だろ。それより48位のオロフさんだろ」

「ちっ……覚えてたか」

「平野の戦いなら迷わずドーグさんにしたけどな」

(え? 殿下……まさか騎士団の一人一人の特徴、強みと弱みを覚えているので? そればかりか順位を個人で付けてる? というか順位だけじゃなくて、状況によって選んでるって事ですか!? というか何で、しているのですかッ!?)

 最初の頃、二人は団員全員の順位を得て不手などの情報込みで、紙に記録を付けていた。しかし、日ごとに自身の観察の眼が成長していくので、順位に大きな変動が生じる。そのため、幾ら紙を使っても足りないと感じる。

 ある日を境に二人は、頭の中に情報を全て叩きこむ事にした。もちろん更新した情報を都度報告をして、共有している。ゲームのルールも全ては彼等の頭の中にある。その姿は、まるで自分のルールでうたを紡ぐ者達の様である。

「じゃあ他は? 早くしろよ~。長考は禁止な」

(焦らせてミスを誘ってる!?)

「41位のアラリコさんは外せないな。45位ヤルミルさん……最後に87位マルコさんだな」

「く~渋い! マルコさんはハマればやばいな! 好きだぜ、そういうの!」

(た、確かに激熱げきあつな戦いになりそうだ。俺は流石に順位はつけていないが、今言った彼等なら良い感じの戦いになる。しかし、負ける事はないだろう……)

「あ、体調はどうする?」

「えーと、疲れて七割くらいの力に落ちてる感じで。魔素は残り六割程度。大けがは無し、レイドルフいるし」

「だと思った」

(なんかの道中で遭遇してんのかい! それなら最悪死ぬかもしれん! 一体結果はどうなるんだ!)

 そこで興奮したケラヴノスが椅子に足を引っかける。遊びに夢中になっていた殿下が、その音で団長に気が付いたが、あえて彼の方を見ない。

 そこには短い沈黙があった。そして、狼のぬいぐるみを両手に持って遊び始めた。

「ワンワンワン! ぶーん! えいや!」

「クソ! やったなー! ワンワンワン! バババババん! てい!」

「こうなったら! くらえ狼の拳だ!」

「なんの! 狼高速移動!」

「おいおい、これは避けれない攻撃なんだよー」

「ははははは、これは絶対に避けれる移動方法なんですー」

(逆に怖いっ)

「あ! ケラヴノス団長だ! 何時の間に! ご無沙汰しております」

「ふむ……」

(ご無沙汰してない、毎日会っている)

「今、アルベール兄様と楽しく遊んでおりました。ところで、どのような御用件ですか?」

「あー……」

 特に用など無かったので言葉に詰まる。そこでルナが書庫に入って来た。

「あ~、にぃいた~。あ、だんちょもいる~」

 トタトタと走って来て、ギュッと団長の足を掴んだ。

「おや、ルナ様。どうされましたか?」

「だんちょあそんで~」

(まさか、この二人と一緒に遊べるのか!? ルナ様もまさか!)

 そこで、ルナがある事に気が付いた。

「あー、ずるい! 狼さんで遊んでる! ルナもまぜて~」

「いいぞー。ちょうど良かった」

「こっちにおいで、ルナ」

 ルナが満面の笑みで、その遊びに入る。狼を持っていう。

「だんちょのけんをくらえー」

「ぐあー!」
「なんて強さだー」

「どどどダーーーん!」

「うわー-!」
「はやいー! やられたー」

(あ、良かった。何か三歳っぽい。自分のやりたいことを抑え、完全にルナ様を気持ちよくさせるだけの接待が多少怖いが……)

「こおりをわるこうげきー。ばーん!」

 それに対して、アルベールが急に真顔になった。

「いや、氷を割ったのは都市伝説だろ。その規模の攻撃魔法は団長では防げない」

「おいおい、ルベ兄。今回はそういうでもいいだろ」

「それもそうか……」

 その指摘を受け入れたアルベールはレイドルフと共にそのままやられた。

「ぐあぁぁああー!」「うわぁぁああー-!」

(あれ? 今なんか、一瞬おかしくなかった? というか生まれる前の事を何故知っている?)

「流石はリベムールの英雄!」

「これが世界最強。雷光の騎士、ケラヴノス団長の力なのかー!」

「だんちょは~、かならずかつのだ~」

(ちょ、ちょっと盛り……まあ。それほどでもないけど? この国の最高戦力だし?)

 まんざらでもない団長であった。


【陛下と団長】

 ある日、団長とティナが楽しそうに会話をしていた。そこで団長が思い出したかの様に話を振った。

「そういえば……三年前……いえ、約四年前ですか。殿下にあのお話をしたのですか?」

「ええ、しましたよ。もうそんなに経つのですね……魔物にされたお姫様、悪い人たちと氷を割った団長の最強伝説! あの話をした後は大変でしたよ」

「ど、どのように?」

「凄い、凄い! 雷光騎士カッコイイ! とか。ケラヴノス団長最強だぁ! とか。それは、もう! 三人とも嬉しそうにっ」

「本当の事は伝えて無いのですか?」

「ええ……当然ですよ。他国にもそう伝わっております。そもそも、それがこの国の真実なのですっ!」

 それを一つの抑止力として利用している。この国には恐ろしく強い男がいると。ケラヴノスは知りたくなかった事実に気が付きた。

(し、真実は告げてないのに、そこに辿り着いておりましたが……? 陛下のご子息が怖いのですが……)


【書庫に通う者たち】

 ケラヴノスはアルベールとレイドルフに訊く。

「殿下は何故、遊びにギルドの制度を使っているのですか? まさか、将来ギルドへ入りたいとか……?」

「いえ、入りません。私は王子ですよ? 国を守るのが仕事です」

「僕も今の所、ルベ兄を陰ながら手伝う予定ですが? まあ、無能なら交代しますが」

「ないない!」

「はははは、僕に抜かれないよう、頑張ってくださいね、兄さん」

「……そ、そうですか。安心しました。それにしてもよくギルドの事を知ってましたね」

「時間の節約になるからですよ。ギルドには色々な人材が居ます。その様々な……人材が仕事をこなし、報告する。集積した情報を優秀な職員が何年もかけて、多面的視点ためんてきしてんから統計を取ってます」

「そうそう。そんな便利な道具を利用しない何て、勿体ないですよ」

「ははは、まったくだ。まあ、報告や統計が捏造されてたらどうしようもないけどっ」

「あははは、それはありそうだねー」

「……そ、そうですか。はははは、流石殿下ぁ……あはは」


 ケラヴノスは顔を引きつらせて同意した。そこでもう一つ訊いた。

「そうだ、もう少し大きくなったら騎士団に入りませんか? レイドルフ殿下は……いえ、アルベール殿下も文武両道の様ですから、きっとすぐに入団できます」

「いえ、入りませんよ」

「何故ですかっ!?」

 その即答に団長はうろたえる。

「予定としては、自分の騎士団を起ち上げます」

「もっと何故ですか!? 私と同じ騎士団で良いじゃないですかッ!?」

「え? でも、僕たちが団長になってしまうので……」

「それは困るよな……」

(か、確定なのか……)

 子供の言う事なのでその辺は許し、さらに深く訊くケラヴノス。

「何が困ると言うのですか……」

「ケラヴノス団長の伝説が勿体ないからですよ」

「え?」

 意外な言葉にケラヴノスは唖然とする。

「何故、わざわざ国の抑止力をろさねばならないのです?」

「だよなー。経験の浅い王子が団長になった方が危険だ。なるにしても他国が震えるような実績をしっかりと積み重ねないとなー」

「団長が歳だって言うなら考えるますが、まだまだ若いですから。もし、伝説を信じずに侵攻してくるなら、僕たちが作った騎士団でボコります。そして言うのです」

「我々はケラヴノス団長に比べれば赤子同然だ。この国と戦いたくば覚悟せよ、ってね」

「早く強くならないとだね」

「だなー」

「……」

 自分を神格化しんかくかする予定を突き付けられて、震える団長であった。


【三つ子の父親】

 外でアルベールが剣の稽古。その近くでレイドルフが魔法の練習をしていた。ルナは別の場所で侍女が遊んでいる。木剣でアルベールがひたすら団長に打ち込む。それを彼は全て防ぐ。

「殿下、そう言えば御父上の事は気にならないのですか? その……憎くは無いですか?」

 普通の子供には訊かないが、彼には良いだろうと質問する。

「急にどうしましたか?」

 お互いに打ち込みながら会話をする。もちろん、ケラヴノスは手加減をしている。

「ルナ様がたまに御父上の事を訊いて来るのですが、お二人からは特に聞かれないので……逆に気になりました」

 因みにルナから訊かれた時には、適当にお茶を濁し、誤魔化している。

「んー。気にならないというば嘘になりますね……しかし、語れない事情があるのは分かってますので」

「……」

「……昔、母上に訊いた事があります」

「……何とおっしゃられましたか?」

「大半は惚気のろけでしたね。陛下の仮面ががれ、まるで少女のようでした。その様子から察しました。未だに愛しておられるのだと……だから、憎くはありませんよ」

「……そうでしたか」

 少し遠くにいるレイドルフが少し寂しい笑顔で言った。

「ええ、僕たちに向ける優しい顔とは少し別の……優しい表情でした……少しいてしまいます」

 団長が恐る恐る言う。

「もし、御父上がまだ生きておられるのだとしたら……」

「きっと優しい方か、最悪のくずのどちらかでしょうね……」

「ははは、確かに!」

「え……ッ!?」

 それを訊いたケラヴノスはその言葉に何とも言えない表情になる。

「ただ、母上は言ってました。もし私が民を苦しませる事があるのなら、きっと彼が殺しに来てくれる、と。きっと父上にも何か信念があるのでしょう」

「あの時の顔は、とても穏やかな顔だったな……」

 そこで、団長は愚考する。もし、ティナ陛下が彼に会いたいとしたら。民を……。

「そ、それは! 考え方によっては危険なのでは……?」

 しかし、それに冷静に返答する。

「大丈夫です……母上にとって、それはもっとも悲しい事の様ですから」

「わ、私とした事が……今の失言、お許しください」

「あはは、団長は悪くありませんよ。父上が悪いのですきありぃ!」


 様々な事を考えて、複雑な心境に陥る。その弱体化したケラヴノスに、アルベールが不意打ちで、鋭い一閃を放ったが、団長は何とか防いだ。


「ッまだっまだ甘いですよっ、殿下ぁ……はっはっはっは……」

(あぶなッ……この殿下、油断も隙も無い!)

「あーあ。ルベ兄、勿体ないな……折角協力してあげたのに」

「くー。いけたと思ったのになー」

(言葉による援護射撃!? まさかの共闘だった! ……陛下のご子息が怖いのですが……)



 ここ、リベムール王国は本日も平和である。




☆☆☆☆☆☆☆

「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。

面白いと思った方は、お気に入り・評価をよろしくお願いします。

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