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第七章 醜いお姫様
第11話 女王と英雄
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【日が昇る頃】
疲れ切った姫様をそのままベッドに残して、彼は去って行った。
ティナが目を覚ますと、ドアのノックする音が聞こえた。慌てて起きると目の前にドレスが置いてあったので着る。どうやら騎士団の様だ。団長が優しい声をかけた後は黙って待ち続ける。
彼女は警戒していたが、部屋から出ると彼等はまるで敵意が無かった。不思議な感じだった。彼女が招かれるままに付いて行く。そこは玉座であった。
「これは……」
「良くお戻りになられました。ティナ女王陛下」
「え?」
「驚きになるのは無理もないでしょう……我々は真実を知りました。罰は後日、如何ほどでも受け入れます……しかし、今はどうか……」
「待ってください。急にそんな……」
「いいえ、国民は不安になっております。悲劇が重なり過ぎました。どうしようもない理不尽に誰もが困惑し、迷子になっております。この事態を収集する事が陛下以外の誰が出来ましょうか」
「……しかし、私はっ」
その時、外が騒がしくなった。バルコニーへと出てみると分かり易い所で変なのが二人暴れていた。少し離れた所に恐怖におびえる国民がそこには居た。
「あれは……」
兵士が何人か倒れていた。だが、怪我は無い。団長の方を見ると、彼は目を伏せジッと待っていた。
「そんな……誰よりも頑張ったお二人にそこまでの罪を背負わせる訳にはッ。そんなのあんまりです!」
「……これが先代の国王……いえ、代々の国王が背負って来た重みでございます」
「ッ……」
「彼から伝言を承っております……」
「どのような……」
「民が憎いか……と」
ティナは一瞬泣きそうな表情をしたが、堪えた。そして、威厳を漂わせ、前に出た。
「それ以上、国民を傷つける事は許しません!」
彼女が大声を出すと皆が止まり、一斉にティナを見た。そこで、驚いたルーベンが大袈裟に言った。
「馬鹿な! ティナ王女殿下は、絶対に出られない強固な檻に閉じ込めたはず! 姫様の偽物まで用意したというのに! チェルシー嬢とエドガー王子め! じくじりやがったな!」
それを聞いた者達がざわざわと騒ぎ出す。
「貴方たちの企みもこれでもう終わりです! この国の女王、ティナ・ディル・マーシアの名のもとにッ。如何なる悪も討ち滅ぼします! お覚悟を!?」
そこにいる誰もが耳を疑った。
「ティナ王女殿下……」
「い、いや。違う……ティナ女王陛下!」
「ティナ女王陛下だ! ティナ女王陛下が居るぞ!」
「ははははは! 愚かな民よ! 我々の企みがこの程度で止めれるとでも!」
「ええ! この国の騎士を侮らない方がいいですよ? さあ、お行きなさい! この国の守護者にして、最強の騎士、ケラヴノス!」
団長が小さく呟いた。
「え?」
彼の台本にはそう書いていなかった様だ。
「団長だ! 団長がいるぞぉぉぉおお!」
「「「「「うおぉぉぉぉ!」」」」」
民が歓喜の声を上げた。団長コールが鳴りやまない。
「あ、いえ……ティナ女王陛下……?」
「これで今までの事は帳消しですよ。ケラヴノス」
「はは……はははは……はは……強く……なられましたな……」
ティナは笑顔でそう言った。団長は顔を引きつらせて、バルコニーから飛び降りると、二人の元に威厳を放って近づいて行った。流石は団長と、事情を知っている者の誰もが、そのアドリブ力を心の中で褒めたたえた。
それに対して、ルディが前に出た。彼等は知っている。前日、この王宮で大暴れをした化け物だ。しかし、団長は微妙に小股になった程度で、決して歩みを止めない。
そして、ルディが開幕、その凄まじい魔法を解き放った。団長は目を瞑って、剣を立てたまま構え、死を待った。すると、国民が感嘆の声を上げる。
「ぉぉぉぉおおおお!!!?」
王宮の高さを超える程の巨大な氷が、団長と王宮に居る女王を避けるかの様に、真っ二つに割れていた。どうやら団長が女王陛下を守った様だ。団長は威厳を纏って固まっていた。そして、彼は小さく呟いた。
「……信じていたぞ。名も知らぬ魔導師」
続けて、彼は精一杯叫んだ。
「その程度の魔法が私に効くとでもッ! この国はティナ女王陛下と、この国の最強の盾である我等、雷光騎士団がお守りする!」
そこでルディが叫んだ。
「馬鹿なー。私の全力の氷魔法が効かないだとー!」
「く! こいつ等はやばいぞ! 一旦引くぞ!」
団長はその茶番を無の表情で見ていた。ティナも叫んだ。
「彼等をとらえよ!」
ルーベンが最後に捨て台詞を吐く。
「ふははは! 我々は決して諦めぬ! 貴様等が信じる心を忘れた時! 再びこの国を滅ぼしに来るぞ!」
そして、二人は猛スピードで去って行った。
「脅威は去りました! 私がいる限り、この国は決して滅びないッ。そして、さらなる繁栄を約束します! 先代の国王であり、我が父でもあった。ライオネル・ディ・マーシアに誓いましょうッ!?」
「「「ティナ女王陛下!」」」 「「「ティナ女王陛下!」」」
国民の声が何度も響き渡り、その地を震わせる。
【捕まらない男たち】
二人は街道を堂々と歩いていた。馬に乗った兵士に声をかけられる。
「君達、この辺で人相の悪い二人組を見なかったか?」
「知らないな」
「見かけたら教えます~」
「君達は?」
「私達は旅の者です。北に大きな海があると聞きましてね~。楽しみですよ」
「そうだったのか。それはそれは……」
「そう言えば凄い速度の馬と馬車が通ったような。中は見えなかったが……」
「あ~、通りましたね~」
「なんですとっ。そうですか! ご協力感謝!」
別の兵士は彼等をよく見て呟いた。
「……二人組?」
「ちょっと失礼」
彼等は魔具を使って、変装解除の魔法を使った。しかし、何も起こらなかった。彼等の変装魔法の隠蔽はそんなモノでは見破れない。痕跡を決して残さない。それほどの魔法。特別な魔法。
「? どうされましたか?」
「い、いえ! 何でもありません! 良い旅を!」
「兵士さん、頑張ってください」
「はっはっは。君達も気を付けてっ。それではッ」
そう言って兵士達は去って行った。知っているのは一部だけのようだ。少し可哀そうだが、これも必要な事だろう。
しばらく歩いていると、ルーベンが言の葉で遊び出す。
「この地の酒は身に染みる。今も変ること無し」
ルディがそれにのって来た。彼等は交互に言葉を紡ぐ。
「清げなる酒、誰が作った。仰ぐ習慣、誰が作った」
「魅惑の地酒を守らねば」
「蠱惑の地酒を紡がねば」
「然らば我等が紡ごうか」
「吟遊詩人が詩を紡ごう」
「我等は月を包むだけ」
「朧の月は誰が罪」
「月光無くば生きられず。虚無と踊る事は無し」
「日の出と共に我等も消えよう」
無秩序で意味が無い。意味の分からない。そんな不思議な詩を二人は詠う。
【後日、ギルドにて】
ルーベンが何時も通り、テーブルでぐったりと寝ていると、騒がしい二人が入って来た。
「いえ~い♪ 皆元気♪」
「ふぅー。やっと着いた」
ミラージェス姉妹だ。かなり高いプリシラのテンションにノって来る一部の人々。彼等に適当に挨拶をすると、受付に歩き出す。そこで彼女等は気が付いた。
「あれ? あんな人居たっけ?」
「あ~? 誰だったか?」
本当は少しだけ知っているが、わざと煽った。それに気が付かないナディアが答えた。
「クロウさんですよ。コールさんと同期の」
「ああー、いたねーそんなのー」
プリシラは興味なさそうに言った。
「それよりもナディアちゃーん! コールちゃん見なかった?」
「いえ、今日は見かけてませんが……」
「おいおい、プリシラ。まさかあんなのが好みなのか? 暗い奴だぞ?」
「え~、お姉ちゃんには、コールちゃんの良さが分からないの~?」
「確かに等級が一気に上がってるのは凄いけどなぁ」
「はぁ~。相変わらず勘が鈍いんだから~。ねー、ナディアちゃん」
「え? あ、はぁー……」
「じゃあお姉ちゃん取らないでよ~」
「取るか! 私は笑顔が似合う強い好青年が好きなんだよ」
「うんうん♪ そういえばお姉ちゃんの好みって、意味分かんないよねー」
「はぁ? 分かり易いだろ」
「ふーん。じゃあアレとかどう? 口説いてる時は胡散臭い好青年っぽいよ」
プリシラがクロウを指さした。
「ふざけんな……あんな奴誰も好きにならねーよ」
「アハハハ♪ 確かにぃ~。アレより雑草と付き合った方がマシって感じ。そんな人が居たら顔を見て見たいね♪」
「言えてるな……頭悪そうだし」
「弱いしー」
「鈍そうだしな……」
「良いところ一つも思いつないね~」
「あ、あの……」
「どうしたの? ナディアちゃん」
「彼も頑張ってますので……余り酷い事を言うのは……」
「え? まさか、好きなのー?」
「いえ、まったく。ですが、彼。心は強いと思いますよ」
「……へ? ん~」
「プフフ♪ 確かにぃ~。これだけ言われて良くギルドに来れるよね。ナディアちゃんの言う通り~」
「これは私達の負けか?」
「そうだね~。さ~すがナディアちゃん♪」
この頃の姉妹は一番攻撃的だったかもしれない。この後、二人は徐々に丸くなっていくのであった。
【現代のアジト】
ルーベンが手紙を読みながら色々と思い出していた。
「あの頃のプリシラは良かったな……」
「何故急にプリシラを?」
「いや、思い出したんだ。あの時のプリシラは絶対に、俺に近づいて来なかった……」
「俺は今のプリシラの方が良いと思うがな」
「それはお前の都合だろ?」
「そっくりそのまま返す」
そして、本題を思い出した。
「ああ……確かにこれルディの酒だな」
「ようやく思い出したか。さあ、早くよこせ」
それを渡すと、ルディが魔法で毒が入って無いかを確認し、ルーベンが一瞬何かを掴んだ後に匂いを確認した。すると、ルディが酒を飲み始める。
そこで、ルーベンが追伸に気が付いた。
「お、最後に何か書いてある」
「何と?」
「おっ! おめでたいな」
「早く言え」
「三つ子が生まれたそうだ。今から一か月半後、お祝いのパレードがあるって」
「……お前」
「いや、何も書かれてないから違う」
「そうか……」
「王子の名前はアルベールとレイドルフ。王女はルナだってよ」
「アルベールか、良い名だ」「ほう、レイドルフ、良い名だ」
「「ルナか、きっと姫様似だな」」
地味に息が会う二人であった。
「パレードはどうする?」
彼が悩んでいると、隙を見てルディが手紙を奪う。どうやらまだ追伸が書かれてあった。ルディに向けられていた。
「送れなかった最高の酒を、大量に準備して待ってるらしいな。だからルーベンを連れて来い、と書かれている」
「はぁ? なんで?」
「理由などどうでも良い。そこには酒がある」
「……いかねーよ」
「それで、幾ら欲しい? どうせ金欠だろう?」
「……金貨五」
「良いだろう」
「いいか? 連れて来い、までだぞ?」
「先の事など分かるはずが無い」
【そして、噂の彼女・遠征中】
「くちゅんっ!」
プリシラは高い丘に立っていた。そこでくしゃみをした。
「おい、風邪か?」
「きっとクロウが、私の事の良い所を噂してるんだよ♪ もー、直接言ってくれればいいのに~」
「はぁ~? そんな事があるのかよ。どうせ娼館にでも行って、よろしくやってるぜ」
「……悔しいけど否定は出来ないね」
「あんな甲斐性なし。ほっとけよ」
「え~。そんな事ないよ。だって実は生活力高いし、私の事大切にしてくれてるし」
「何処がだ……ったく」
「普段は中々見せてくれないけどさ~。でも、いざとなったら必ず助けてくれるの♪」
「うそくせー。白等級だぞあいつ」
「だから、白だけど、いざとなったら格好いいの!」
「ふーん……そいつはすげーなー」
「お姉ちゃん……」
「何だ?」
「初めはコール様に気が無かった癖に……」
「……妹よ。時々お前は、えげつない攻め方をするな?」
「アハハ♪ 私はこういう性格なの~! あ、クロウはこんな私でもちゃんと受け止めてくれるよ」
「隙があればすぐに惚気を挟むな……」
「アハハ♪ ごめんごめん……さあ、休憩は終わりだね」
「……良し、行くかっ」
こうして物語は紡がれていくのであった……。
☆☆☆☆☆☆☆
「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思った方は、お気に入り・評価をよろしくお願いします。
疲れ切った姫様をそのままベッドに残して、彼は去って行った。
ティナが目を覚ますと、ドアのノックする音が聞こえた。慌てて起きると目の前にドレスが置いてあったので着る。どうやら騎士団の様だ。団長が優しい声をかけた後は黙って待ち続ける。
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「良くお戻りになられました。ティナ女王陛下」
「え?」
「驚きになるのは無理もないでしょう……我々は真実を知りました。罰は後日、如何ほどでも受け入れます……しかし、今はどうか……」
「待ってください。急にそんな……」
「いいえ、国民は不安になっております。悲劇が重なり過ぎました。どうしようもない理不尽に誰もが困惑し、迷子になっております。この事態を収集する事が陛下以外の誰が出来ましょうか」
「……しかし、私はっ」
その時、外が騒がしくなった。バルコニーへと出てみると分かり易い所で変なのが二人暴れていた。少し離れた所に恐怖におびえる国民がそこには居た。
「あれは……」
兵士が何人か倒れていた。だが、怪我は無い。団長の方を見ると、彼は目を伏せジッと待っていた。
「そんな……誰よりも頑張ったお二人にそこまでの罪を背負わせる訳にはッ。そんなのあんまりです!」
「……これが先代の国王……いえ、代々の国王が背負って来た重みでございます」
「ッ……」
「彼から伝言を承っております……」
「どのような……」
「民が憎いか……と」
ティナは一瞬泣きそうな表情をしたが、堪えた。そして、威厳を漂わせ、前に出た。
「それ以上、国民を傷つける事は許しません!」
彼女が大声を出すと皆が止まり、一斉にティナを見た。そこで、驚いたルーベンが大袈裟に言った。
「馬鹿な! ティナ王女殿下は、絶対に出られない強固な檻に閉じ込めたはず! 姫様の偽物まで用意したというのに! チェルシー嬢とエドガー王子め! じくじりやがったな!」
それを聞いた者達がざわざわと騒ぎ出す。
「貴方たちの企みもこれでもう終わりです! この国の女王、ティナ・ディル・マーシアの名のもとにッ。如何なる悪も討ち滅ぼします! お覚悟を!?」
そこにいる誰もが耳を疑った。
「ティナ王女殿下……」
「い、いや。違う……ティナ女王陛下!」
「ティナ女王陛下だ! ティナ女王陛下が居るぞ!」
「ははははは! 愚かな民よ! 我々の企みがこの程度で止めれるとでも!」
「ええ! この国の騎士を侮らない方がいいですよ? さあ、お行きなさい! この国の守護者にして、最強の騎士、ケラヴノス!」
団長が小さく呟いた。
「え?」
彼の台本にはそう書いていなかった様だ。
「団長だ! 団長がいるぞぉぉぉおお!」
「「「「「うおぉぉぉぉ!」」」」」
民が歓喜の声を上げた。団長コールが鳴りやまない。
「あ、いえ……ティナ女王陛下……?」
「これで今までの事は帳消しですよ。ケラヴノス」
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ティナは笑顔でそう言った。団長は顔を引きつらせて、バルコニーから飛び降りると、二人の元に威厳を放って近づいて行った。流石は団長と、事情を知っている者の誰もが、そのアドリブ力を心の中で褒めたたえた。
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「ぉぉぉぉおおおお!!!?」
王宮の高さを超える程の巨大な氷が、団長と王宮に居る女王を避けるかの様に、真っ二つに割れていた。どうやら団長が女王陛下を守った様だ。団長は威厳を纏って固まっていた。そして、彼は小さく呟いた。
「……信じていたぞ。名も知らぬ魔導師」
続けて、彼は精一杯叫んだ。
「その程度の魔法が私に効くとでもッ! この国はティナ女王陛下と、この国の最強の盾である我等、雷光騎士団がお守りする!」
そこでルディが叫んだ。
「馬鹿なー。私の全力の氷魔法が効かないだとー!」
「く! こいつ等はやばいぞ! 一旦引くぞ!」
団長はその茶番を無の表情で見ていた。ティナも叫んだ。
「彼等をとらえよ!」
ルーベンが最後に捨て台詞を吐く。
「ふははは! 我々は決して諦めぬ! 貴様等が信じる心を忘れた時! 再びこの国を滅ぼしに来るぞ!」
そして、二人は猛スピードで去って行った。
「脅威は去りました! 私がいる限り、この国は決して滅びないッ。そして、さらなる繁栄を約束します! 先代の国王であり、我が父でもあった。ライオネル・ディ・マーシアに誓いましょうッ!?」
「「「ティナ女王陛下!」」」 「「「ティナ女王陛下!」」」
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「知らないな」
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「そうだったのか。それはそれは……」
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「あ~、通りましたね~」
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「……二人組?」
「ちょっと失礼」
彼等は魔具を使って、変装解除の魔法を使った。しかし、何も起こらなかった。彼等の変装魔法の隠蔽はそんなモノでは見破れない。痕跡を決して残さない。それほどの魔法。特別な魔法。
「? どうされましたか?」
「い、いえ! 何でもありません! 良い旅を!」
「兵士さん、頑張ってください」
「はっはっは。君達も気を付けてっ。それではッ」
そう言って兵士達は去って行った。知っているのは一部だけのようだ。少し可哀そうだが、これも必要な事だろう。
しばらく歩いていると、ルーベンが言の葉で遊び出す。
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「蠱惑の地酒を紡がねば」
「然らば我等が紡ごうか」
「吟遊詩人が詩を紡ごう」
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「日の出と共に我等も消えよう」
無秩序で意味が無い。意味の分からない。そんな不思議な詩を二人は詠う。
【後日、ギルドにて】
ルーベンが何時も通り、テーブルでぐったりと寝ていると、騒がしい二人が入って来た。
「いえ~い♪ 皆元気♪」
「ふぅー。やっと着いた」
ミラージェス姉妹だ。かなり高いプリシラのテンションにノって来る一部の人々。彼等に適当に挨拶をすると、受付に歩き出す。そこで彼女等は気が付いた。
「あれ? あんな人居たっけ?」
「あ~? 誰だったか?」
本当は少しだけ知っているが、わざと煽った。それに気が付かないナディアが答えた。
「クロウさんですよ。コールさんと同期の」
「ああー、いたねーそんなのー」
プリシラは興味なさそうに言った。
「それよりもナディアちゃーん! コールちゃん見なかった?」
「いえ、今日は見かけてませんが……」
「おいおい、プリシラ。まさかあんなのが好みなのか? 暗い奴だぞ?」
「え~、お姉ちゃんには、コールちゃんの良さが分からないの~?」
「確かに等級が一気に上がってるのは凄いけどなぁ」
「はぁ~。相変わらず勘が鈍いんだから~。ねー、ナディアちゃん」
「え? あ、はぁー……」
「じゃあお姉ちゃん取らないでよ~」
「取るか! 私は笑顔が似合う強い好青年が好きなんだよ」
「うんうん♪ そういえばお姉ちゃんの好みって、意味分かんないよねー」
「はぁ? 分かり易いだろ」
「ふーん。じゃあアレとかどう? 口説いてる時は胡散臭い好青年っぽいよ」
プリシラがクロウを指さした。
「ふざけんな……あんな奴誰も好きにならねーよ」
「アハハハ♪ 確かにぃ~。アレより雑草と付き合った方がマシって感じ。そんな人が居たら顔を見て見たいね♪」
「言えてるな……頭悪そうだし」
「弱いしー」
「鈍そうだしな……」
「良いところ一つも思いつないね~」
「あ、あの……」
「どうしたの? ナディアちゃん」
「彼も頑張ってますので……余り酷い事を言うのは……」
「え? まさか、好きなのー?」
「いえ、まったく。ですが、彼。心は強いと思いますよ」
「……へ? ん~」
「プフフ♪ 確かにぃ~。これだけ言われて良くギルドに来れるよね。ナディアちゃんの言う通り~」
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「そうだね~。さ~すがナディアちゃん♪」
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「何故急にプリシラを?」
「いや、思い出したんだ。あの時のプリシラは絶対に、俺に近づいて来なかった……」
「俺は今のプリシラの方が良いと思うがな」
「それはお前の都合だろ?」
「そっくりそのまま返す」
そして、本題を思い出した。
「ああ……確かにこれルディの酒だな」
「ようやく思い出したか。さあ、早くよこせ」
それを渡すと、ルディが魔法で毒が入って無いかを確認し、ルーベンが一瞬何かを掴んだ後に匂いを確認した。すると、ルディが酒を飲み始める。
そこで、ルーベンが追伸に気が付いた。
「お、最後に何か書いてある」
「何と?」
「おっ! おめでたいな」
「早く言え」
「三つ子が生まれたそうだ。今から一か月半後、お祝いのパレードがあるって」
「……お前」
「いや、何も書かれてないから違う」
「そうか……」
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「送れなかった最高の酒を、大量に準備して待ってるらしいな。だからルーベンを連れて来い、と書かれている」
「はぁ? なんで?」
「理由などどうでも良い。そこには酒がある」
「……いかねーよ」
「それで、幾ら欲しい? どうせ金欠だろう?」
「……金貨五」
「良いだろう」
「いいか? 連れて来い、までだぞ?」
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【そして、噂の彼女・遠征中】
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プリシラは高い丘に立っていた。そこでくしゃみをした。
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「きっとクロウが、私の事の良い所を噂してるんだよ♪ もー、直接言ってくれればいいのに~」
「はぁ~? そんな事があるのかよ。どうせ娼館にでも行って、よろしくやってるぜ」
「……悔しいけど否定は出来ないね」
「あんな甲斐性なし。ほっとけよ」
「え~。そんな事ないよ。だって実は生活力高いし、私の事大切にしてくれてるし」
「何処がだ……ったく」
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「うそくせー。白等級だぞあいつ」
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「ふーん……そいつはすげーなー」
「お姉ちゃん……」
「何だ?」
「初めはコール様に気が無かった癖に……」
「……妹よ。時々お前は、えげつない攻め方をするな?」
「アハハ♪ 私はこういう性格なの~! あ、クロウはこんな私でもちゃんと受け止めてくれるよ」
「隙があればすぐに惚気を挟むな……」
「アハハ♪ ごめんごめん……さあ、休憩は終わりだね」
「……良し、行くかっ」
こうして物語は紡がれていくのであった……。
☆☆☆☆☆☆☆
「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。
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