かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第八章 謎の男たち

第7話 依頼続行

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【状況の確認】

 ルーベンはツィーディアの治療。フィンも魔具を使えば治癒の魔法が使えるらしく、自身の治療をしていた。彼は自身の治療を終えるとプリシラを治療していた。

 ヘシカは冷や汗をかいていた。原因はルーベンとルディだ。

 それもそうだろう。自分より強い女憲兵がいた。だか、その力を、さらに高く上回る傭兵がいる。そして……それと互角の敵、【無情】が現れた。ここでもうお手上げだった。

 だが、そこで話は終わらずに、彼等を簡単に倒せる敵が潜んで居た。何より最後に現れたこれは、それを一蹴して見せた。頭が痛いどころではない。まるで底が見えない。


 そして、それがさも当然の様に会話を続けるフィン。

「ほんと助かったぜ……あー、何て呼べばいい?」

「俺はセミス。相方はハルプだ」

「俺はフィン。向こうは姉妹のヘシカとプリシラ。その子はツィーディアだ」

「壊滅したのか?」

「ああ、見ての通りだ。敵の雇った奴がな……運が悪かった」

「相手は誰だ?」

「【人間兵器】と【無情】だ。まさか、あの二人が手を組んでいるとは……」

「ああ、あれが噂の」

「ふっ……興味なし、か。羨ましいよ」

「相手の強さなんて、その場で感じるものだろう?」

「ははは、そんな台詞言ってみたいねー。俺は対策をしないと生き残れないんだ」

 ルーベンがさらっと言った。

「もちろん情報は重要だ。だが、情報は常に変化するもの。過信は良くないって話だ」

「……分かってるつもりなんだけどな……実際は難しいもんだ」

 ツィーディアを治療し終わった頃にルディが現れた。肩にはハンスを抱えていた。

「追加だセミス」
「血みどろだな……」

 そこで疑問に思ったのか、フィンが訊いた。

「ハルプは回復はいけるか?」

「俺はそっちは……出来ない」

「? そうか……」

 ルーベンが優先してハンスを治療する。フィンが治療をしていると、プリシラが目を覚ました。それならとフィンが協力してハンスの治療する。ヘシカが近づいて来た。

「プリシラ……! 大丈夫か!?」

「あれ……お姉ちゃん。ここは? ぃっ……」

「大人しくしてろって……」
「……生き……てる、の? 私……」

「当たり前だッ馬鹿野郎! 心配かけやがってッ」

 しばらくして、プリシラの少し後にツィーディアも目を覚ました。彼女は苦痛の表情を見せながらもしっかりと体を起こした。

「ハン、スは……?」

「死にはしない」

「……そうか」

 少し経つと彼女たちはお礼を言った。妹も助かり冷静さを取り戻したヘシカがジッとルディを見ていた。彼に恐る恐る訊いた。

「お前は、魔導師……なのか?」
「そうだが?」

「な、何故……一人で行ったんだ……その……」

「戻って来れる自信があったからだ」

「ッ……」

 フィンが複雑な表情を見せ、口を挟んだ。

「ねーちゃん。気にするな。そいつらはおかしい……参考にすると早死はやじにするぜ」

 ヘシカは素直にそれを受け入れた。言われなくても分かっている。そこでプリシラが力なく微笑んだ。まだ、完全に癒えていないようだ。

「また、助けられちゃったね」

「結果的にはそうだな……偶然通りかかっただけだ」

「何だ。お前等知り合いか」

「デュシスの街で少しな」

 ここでツィーディアがフィンに訊いた。

「それで……さっきの魔人化とは何だ?」

 フィンが面倒そうな表情をした。しかし、仕方ないと言った様子で話す。

魔導人間強化計画まどうにんげんきょうかけいかく。簡単に言うと、強化の魔法だ。ただし、自分の肉体に直接、魔導媒体を埋め込む」

 フィンが皆の顔を見た。頃合いを見て再び話す。

「少ない魔素の消費で、常に強化された状態になるんだよ。非人道的な魔法研究の末に生み出された……外法の魔法。それだけに特化している分、通常の強化魔法では得られない様な異常な効力を得ている」

「……そんなモノが誰にでも出来ると言うのかッ?」

「いいや、今は出来ない。高度な魔法だ。何より適性者が少ない」

「あの兵たちは?」

「奴等も魔人化をしている。そういう者たちを集めたのだろうな……」

「魔法陣……いや、媒体を体に埋め込んでいると言ったな。あれ程の力だ。他の魔法が使えないのではないか?」

「最近まではそうだったかもしれない」

「というと?」

「【人間兵器】のあの爆発は炎の魔法だ。恐らくは次の段階に進んだのだろう」

「だとしたら不味いぞ……軍の戦力が……均衡が……ッ」

「……ただし、奴等はそれなりの代償を払っている」

「代償だと?」

「寿命さ……自身の限界を超えて体に大きな負荷をかけ続けるんだ……当然の結果だ」

「ッ……」

「ツィーディア……あんた少し考えただろ? 止めとけ、あれに良い事は無い」

 フィンは言わなかった。近年のいくさでは既に導入されているという事を。

「……」


 そこで、ルディが話を変えた。というよりもこれが本題だろう。

「お前等はこれからどうするんだ?」

 彼等が少し静かに見つめ合った。そこでフィンが代表する様に言った。

「……正直言って俺は下りたい……皆、満身創痍まんしんそういだからな。だが、お前達を雇えるなら話は別だ」

「特に用事は無い。俺達は構わないが」

 そこでツィーディアが目を細めた。

「その二人の実力は?」

「俺よりも圧倒的に強い。というか見ただろ? あの【人間兵器】が迷わず撤退てったいを選んだ。存在が畏怖いふそのもの。出会えば死、だ……俺も見るのは初めてだよ……」

「……」

「それでツィーディア、姉妹もだ。この依頼はどうする?」

「続けるに決まってるだろっ。強力な援軍があったんだ」

「使い魔が欲しいしね!」

「私もだ。借りがある……やられっぱなしは嫌だ」

 フィンは言わなかった。今の状態のヘシカたち四人では、この樹海の脱出が出来ない事だ。魔物に殺されるだろう。むしろこの二人と一緒にいたほうが生存率が高い。

 しかしそれでは、明らかな足手纏いとなるだろう。だから帰ろうとすれば止めた。

 だが、これには問題がある。この二人がそれを了承しなければならない。そう考えていると、ふとルディと目が合った。フィンは思わず目を反らした。それとは裏腹にルディは淡々と言った。

「誰も下りないという事だな。承知した」

 フィンは驚いた。何故かそれを簡単に了承したからだ。

「……だそうだ」

 姉妹は嬉しさを隠さず、そのまま気合を入れた表情になった。

 ツィーディアは鋭い目つきで二人とフィンを一瞥した。

「……【デッドエンド】を知っているか?」

「いいや、知らないな。稀に聞く名前だ」

 ルーベンが即答した。ルディは淡々としていた。

「あれはただの噂だろ」

「いや、それすらも分からん。もしかしたらいるかもしれないな」

 ルーベンが適当な口調でそう言った。彼女は自分の探し物が如何に困難な事かを再認識する。

「そうか……お前達も傭兵か?」

「いいや、違う。だが金で雇われると言う点では同じだ。まあ、何でも屋ってところだ」

 彼女は憲兵だ。下手な嘘はいずればれる。なのでそれっぽい事を言う。

「……頼めば、それを探してくれるのか?」

「それ相応の金はもらうがな……だが、良いのか?」

「何がだ?」

「その眼……恐らく復讐。他人に任せて満足するのか? それに得た情報を適当な人に売るかもしれないぞ」

「ちッ……自分で探すに決まっているッ……参考までに訊いただけだ……」


「それで依頼内容は?」
「考古学者と古文書の奪還。そして、魔導都市までの護衛だ」

「依頼料は?」

「え!?」

 フィンは周りを見渡したが、皆無言だった。

「お、俺が決めるのかよ……」
「お前の感覚で良い」

「そうだな……さっきのを合わせて……金貨50……いや、65か?」

 ヘシカが驚きの表情を見せた。金の動き方が可笑しい。

「はぁ? お、お前そんなに持ってるのかよ……流石に……」

「もしかしたら敵が増えるかもしれん……80枚?」
「それは考えなくていい。それに意味は無いからな」

「追加は要らないってか。優しい事だ。それなら……決めたぜ!」

「……それで?」

「金貨十枚だ! 持ち合わせがねぇー。拠点にもなッ! はっはっはっは!」

 その場がシーンと静まり返った。しかし、雇えないとなるのは只度とではない。

「……わ、私達も八枚くらいなら……貸すぜ?」

「えー、お姉ちゃん。この前こっそり使っちゃったー。残り三枚くらいしかないよ?」

「聞いてねーぞ! 何してんだ、プリシラぁ!」
「そう怒らないでよ~。毎回返してるじゃん」

 フィンが実はそんなにお金を持って無かった事を明かすと、恐る恐る二人を見る。正直に怖いと思った。だからフィンはプリシラの発言を参考にして言う。

「怒らないでー冗談だよ~……あ、嘘だって! 後払いも考えてるからっ!!」

「金貨十枚だな。承った」

「え! 嘘だろ! 言ってみるもんだなー! ……ぁ」

 フィンは顔を引きつらせた。彼等にはそれほどの依頼なのだろう。

「……た、頼もしいかぎりだ……」

「それで、どうする?」

「フィン、【無情】はいけるか?」
「負傷も考えて、勝率七割くらいか」

「十分だ。一番重症なのはハンス。流石に戦うのは厳しいだろう。誰かが守ってやれ。後はツィーディアか。左腕が折れてるし、回復しきって無い」

 そして、彼は最後に付け加えた。

「プリシラもダメージが残ってる。無理はするな」

 ルーベンとルディ以外の皆が頷いた。そこで、ヘシカが疑問をぶつけた。

「二人があの強いの二人と戦えばフィンが空くんじゃないのか?」

「何も起こらなければそれで良い」

「皆負傷している。基本は俺達が何とかする。だが、念のため状況の確認だ」

 勝手に状況を確認して動けという事だろう。

「相手が態勢を整える前が良い。急ごう」

「あんたらの戦いが生で見れる何て貴重だ」


【樹海の中】

 ロッサムたちが考古学者と歩いていた。

「わ、私をどうするつもりだ」

「安心しろ。殺しはしない。ただ古代都市アトラスに興味がある。むしろ協力しようとしている。悪くない話だろ?」

「ふ、ふざけんな! 古代の遺産の価値が分からない奴等と組めるものか!」

「分かってるさ。この肉体、どうやって得たのか分かるだろう?」

「魔人化……まさか、アトラスにその答えがあると?」

「無い話ではないだろう?」

「ど、独占する気だろう。貴様のような奴と組むなど虫唾が走る!」

「馬鹿が。拒否権は無いんだよ」


 しばらく歩いていると人影が見えた。ロッサムはその男に言う。

「おい、肝心な時に何処に行ってた」
「迷ったに決まってるだろ?」

「クソが……」

「それ……考古学者と古文書だろ? 依頼は終わったか。つまらんな」
「いや、まだだ」

「どういう事だ?」
「敵が取り返しに追って来る」

「お前が、殺せなかった敵がいると?」

「【早打ち】と【エルガレイオン】がいた」

「何……? クククク、フハハハハハ!」

「何がおかしい! 一歩間違えれば死ぬ所だった」

「いや、縁があると思ってな」
「知り合いなのか?」

「向こうは俺の事なんか知らないだろうな」
「それは俺も同じ事だ」

「ふむ……だが、お前よりかは深い関係だ。何て言ったって俺がこの体になれたのは、あいつらのおかげ何だからな」

 銀髪に赤い瞳。鋭い眼光を持つ男だった。ロッサムはその不遜の表情を見て安心する。

「ふん、まあいい。なんにせよ期待しているぞ。【  】……のアダン」

 話し方から、恐らくこの二人は対等な存在なのだろう。そして、兵を含めた彼等は戦闘態勢に入った。

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