かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第六章 受付嬢ナディアの災難

第9話 失った尊厳。それでも彼女は微笑んだ

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【翌日・気温も程よく、誰もが過ごしやすい日】

 ナディアは清楚な恰好で待ち合わせ場所に来て、スクルタを待っていた。

 何時まで待っても彼は来ず、かなり遅れてやって来る。取り巻きはいるが、何時もよりは少し距離を開けていた。第一声は悪びれる事の無い心無い言葉であった。

「ふん……もっと良い服はなかったのか?」

「……も、申し訳ございません」

 彼の機嫌きげんを損ねぬようにすぐに謝り、その場をやり過ごす。

「それで?」
「はい? なんでしょうか?」

「まずは何処に行くのだ?」
「え?」

「まさか、考えて来てないのか?」
「も、申し訳ございません! えっと……」

「ちっ、田舎娘がぁ」

 ナディアはすぐに思いつかなかったため、取り合えず行きつけの店に入った。

「ここで休憩しましょう」

「小さい店だなっ」

 そう言いながら部下と共にゾロゾロと中に入って行く。

「いっ! いらっしゃいませ!」

 ナディアが気を引き締める。急いで飲み物を注文した後に、案内してから席に着く。男は不機嫌そうに席にドスンっと大きな音を立てて座る。

 店員が雰囲気を感じ取ったらしく怯えていた。男はナディアの顔と胸を舐めまわすように凝視していた。

「ん? なんだそのダサイ髪飾りは。俺といる時は外せっ」

「え……髪のセットが乱れますので……どうかご勘弁を……」

「ちっ……今度、もっと高いのを買ってやる。喜べよ」
「ありがとう……ございます」

 店員が怯えながらも慣れた手付きで、飲み物をテーブルに置く。

「遅いんだよ。このブスが!」

「ひぃっ……申し訳ございません!」

 彼女は謝るとそそくさと持ち場に戻る。彼は持って来た飲み物を口に含む。

「不味いな……」

 そう言って床にそれをぶちまける。

「な、何をするんですか!」

「ああ? 五月蠅いな。俺に逆らうのか?」

「さ、先ほどからの態度、目に余ります!」

「はぁー。思ったよりもうるせー女だ。つまらない所に連れて来る方が悪いだろ」

「そんな……」

 そこで男は何かを思いついたらしく。気持ちの悪い笑みで言う。

「もっと胸を出してさぁ」

 彼はナディアの胸を撫でまわした後に、はだけさせるために一番上のボタンを外そうとした。

「止めてください!」

 彼女はそれに耐えられずに思いっきりビンタをしてしまった。

「……はぁ? ってーなぁ……」

 彼女はハッとした。すぐに謝ると彼女は立ち上がってカウンター席にお金を置いた。

「申し訳ございませんっ。ご迷惑をおかけしました……少ないですが」


 走って出て行くとナディアはギルドに向かう。彼女自身も自分で何をしでかしたのかを理解する。それでいながらどうしたら良いかが分からずに、混乱状態に陥っていた。彼女の足は自然にギルドに向かっていた。

 ギルドに入ると、人が多かった。この時間帯は皆が依頼から戻って来る頃だ。入口付近で彼女は立ち止まっていると、皆が不思議そうに見つめて来る。同僚がナディアの表情を見てただならぬ気配を感じ近寄って来た。

「ナディア! だ、大丈夫? 何かあったの?」

「……わ、私……とんでも無い事を……っ」

 明らかに震えていた。様子がおかしい。何時ものナディアでは無い。今、ここにいる誰もがそれを感じ取った。同僚がもう一度、優しく問いかける。

「何があったの……?」

「た、叩いてしまいました……ッ」

「!?」

 事情を知っている者達はすぐにその不味さが分かった。そこで仲間から離れたルースが近づいて来た。

「何があったんだ?」

「実は……」

 同僚が昨夜の出来事からサッと説明する。ナディアが先ほどの出来事を語る。それを聞いたルースもどう言って良いのか、答えを出せない。

「全面的にナディアは悪く無い。しかし、これは……不味い事になるな」

「ど、どうすれば……」

「俺からもスクルタに掛け合ってみる」

「あ、ありがとうございます」


 そう答える事しか出来なかった。そんな時、勢いよく扉が開いた。スクルタだ。


「ナディア! 貴様!」

「も、申し訳ございません……」

「謝って済むなら憲兵も騎士団もいらねぇんだよ!」

 そこでルースがナディアの前に出る。

「スクルタさん……いかりをお納めください。どうか彼女をお許しください」

「ああっ? 誰だてめーはっ!」

「私はこのギルドに所属しております。金等級のルースと申します」

「ああ? 金等級?」

 彼はボディーガードの方を見る。

「はっ、スクルタ様。上から六番目の等級でございます」

「クククク、雑魚じゃねーか。そんなクソみたいな奴が俺にくちを出すだぁ?」

「等級云々うんぬんではございません。このような事……貴方のお父上が見たら……」

「ハッハッハッハ……めてくれるさぁ……なんせ俺のパパは五賢人ごけんじんだからなぁ。当然だろぉおッ!!」

「ッ……」

 ルースの説得もまるで意に介さず、得意げにそう言い放った。そして、ボディーガードを睨みながら言う。

「おい、こいつは邪魔だ」

御意ぎょい

 大柄の男がルースを思いっきり殴った。そして、彼はテーブルに方へと吹き飛ばされて大きな音と共に倒れた。

「何やってんだよルース!」

「そうだよ。あんなにぶい攻撃っ。ルースなら!」


 ナディアがそれを見て今にも泣きそうな表情で名前をんだ。

「ルースさん!」

 ルースは腕で仲間をせいした。

「止めろ……」

 彼女が止めようと必死にさけぶ。

「スクルタ様……もう止めてください……私がッ」

 そこで、ワイアットが何時の間にか接近していた。大柄の男の首を剣で切り落とそうとした時、ルースが叫んで制止させる。

「止めろッワイアット!」

 それを聞いてピタリと腕を止めた。スクルタはゴミを見る目をしていた。

「ちっ、下賤げせん野蛮人やばんじんめ」

 その瞬間に大柄の男が、ワイアットを吹っ飛ばした。ルースよりも激しく音を立てながらテーブルにぶつかるとその場に倒れた。

「ナディア……どうすれば良いか分かってるよな?」

「はぃ……」

「そうだ……その服はダサイ。何時ものギルドの制服に着替えて来い。そっちの方がいくらかマシだ」

「わ、分かりました」

 最後にスクルタは皆に聞こえる様に言う。

「ナディアは今日から俺のモノだ。よって、このギルドを辞める」

「はぁ! てめっ」
「おい! 止めろ!」

 ナディアは一瞬、大きく目を見開いた。その言葉は彼女には辛過つらすぎた。しかし、今。彼女が泣くことは許されない。

「クククク、これはばつだ。それと……誰かがもし、これ以上余計な事をしようモノなら、さらに大きな罰を与えるっ」

「な、なんだとっ……」

「まっ、とは言ってもそれなりの手続きがある。精々あと数日間、俺の女との別れの挨拶を考えておくんだな」

 スクルタは高笑いをしながら、ナディアを連れて外に出て行った。

「くそっ!」

 ワイアットがルースを睨みつけた。

「なんで止めた……ッ」

「確かに俺等なら……彼等を倒せるだろう……だがっ……その後どうなるかくらい君にも分かるはずだっ。国を敵に回す事になるかもしれないっ……それだけは駄目だ……」

「ちっ……くだらねぇ……」


【適当な街中】

 スクルタはナディアを連れまわす。道の真ん中を歩き目立っていた。すれ違う人、皆が距離を取る。

「ふむ……この辺りか?」

「何がでしょうか?」

「おい、アレをやるぞ」

「え……?」

 大柄の男達は手慣れた様子でナディアを動けない様に押さえつけると、服をやぶり始めた。スカートが太もも程の長さに、腕と脇が見えるくらい露出させる。そして、最後に腹部の部分を破った。

「何をするんですかッ!?」

「……早くしろ」

「な、何を言っているのですか?」

「っほんとっに、鈍い奴だっ。下着を脱ぐんだよ!」

「そ、そんな事出来ません!」

「まだ……自分の立場を理解出来てないのか? 頭の悪い女だ」

「ッ……」

 彼女が下着を全て外すと、男は満足そうにニヤけた。彼が目で合図をすると、ナディアにひものついた首輪をつけた。

「こ、こんな格好……お許しくださいっ……」

「ふん……言ったろ。これは罰だ。俺を殴った事と、あのクソ生意気な男たちのせいだ」

「そんな……」

「おらっ、何をしてる! これで歩くぞ!」

 彼は首輪に着いた紐を思いっきり引っ張る。ナディアが苦しそうにする。抵抗するほど息苦しくなるので、大人おとなしく歩き始めた。人々の声が聞こえてくる。

「おい、何だあの女……」

「痴女か?」

「うわぁ変態だぁ」

「大胆ね~。そう言うのが好きなのかしら?」

 その時、恐れていた事が起きた。

「あれ? 良く見ると、ギルドの制服せいふくじゃないか?」

「嘘? そんな事ないだろ~」

「あれ? って! もしかして、ナディアちゃんじゃないか!?」

「え? 本当に?」

「ほんとだっ!」

「え? ナディアお姉ちゃん?」

 ニヤニヤとした視線が集まる。彼女は顔を真っ赤にしながら下を向いて、短くなったスカートと服を手で抑えて無理やり引っ張り、必死に隠していた。

「くっくっく。人気者じゃないか。ナディア」

「もう、許して……ください……」

「本当は喜んでいるんだろ。変態がぁ」

「!? ち、違います!」

「ち、認めないか。お仕置きが足りないようだな。おら! 早く歩け」

 そう言って否定する彼女を引っ張る。少し歩くと人気のない場所に来た。彼はここの土地勘が無いらしく残念がる。これでは人に見せられない。戻ろうとした時、彼はニタリと笑った。

「四つん這いになれ」

「え……そ、そんな事をして何の意味がっ」

「早くしろ!」

「は、はぃ……」

 通り過ぎる人が皆見て来る。短くなったスカートの中を覗き込もうとしてくる者もいた。ナディアはそれを必死で手で隠す。しかし。

「おら! 何をしている!」

 彼が無理やり引っ張ってそれを許さない。彼女がバランスを崩して地面に転がった。

「許してください。もうこんな事は……っ」

「はぁ? 逆らうならギルドがどうなるか……分かっているな?」

 その脅し文句は彼女に効果的なようで、スクルタもそれを理解していた。

「なっ……どうか関係ない人を巻き込むのはッ」

「なら! もう無駄な問答はするなよ? 怒りで何をするかは分からん」

「そ、そんな……こんな事っ……ぅぅ……」

 周りの男達もそれに気が付いたようでニタニタとそれを見ていた。誰もがお互い了承している関係だと疑わないそうだ。彼女もその視線を感じ、すぐに膝だけで起き上がると隠そうとする。

「ほら早く立てよ!」

「お願いします! もう少しゆっくりと……」

 それは聞き入れられずに、彼女は街中を歩き回った。夕暮れ時、彼は恥ずかしがるナディアを見ているとある事に気が付いた。

「その髪飾り邪魔だな……」

「え? 嫌! 止めて!」

 彼が無理やり立たせて、間入れずそれを取る。ナディアが取り返そうと手を伸ばす。だが、彼は拳で頬を殴った。

「ぅぐ!」

 彼女は地面に倒れる。地面に強く叩きつけられ、すぐには立てなかった。

「生意気な眼だ。ムカつくな」

 そう言って男はそれを地面に落とすと、思いっきり踏みつけて壊した。終に彼女は泣き出した。

「ぁ……そんなっ……酷い……っ……」

 その様子を見て彼はニタニタと笑みを浮かべる。

「そうだ。ナディア、これからは、じっくりと調教してやる」

「調教……? な、何を言って……」

「まずは触られるだけですぐにイケるようにする! 命令すれば何処でも俺の肉棒を舐め、何処でも股を開くようになるっ。どの穴も自分から広げるようになるんだ!」

「む、無理ですっ。絶対にそんな事しません!」

「逆らうなら奴隷商に売り飛ばすぞ!」

「そ、そんなっ」

 スクルタは考える。調教に飽きたらナディアを売ってしまおうと。

「明日も同じ時間に……」

「スクルタ様……明日から三日ほどそれぞれ別で、面談予定が……」

「ちっ……そうだったか……聞いたかナディア! 四日後にまた来る。その間は俺を喜ばせる事だけを考えておくんだな」

 彼はそう言って去って行く。その時、遠くから背の高い筋肉質のメイドが近づいて来た。周りの人が皆驚いていた。スクルタが思わず呟く。

「うぉ! 何だあいつ……」

「あら……こんばんは」

「ぁ、ああッ? な、何か用かぁ!?」

「……この都市で、余りおいたしちゃぁだめよぉん」

 彼女は可愛らしくウインクをした。

「うげ……気持ち悪っ」

「んっまぁ! ……失礼な男ねぇ」

 スクルタは怒らなかった。逆に冷めた様子でそれに関わるまいと、筋肉メイドを避けてどこかへ去って行った。倒れていたナディアに、メイドが近づいて来た。

「大丈夫?」

「あ……はい……」

「って……大丈夫じゃなさそうね……」

 アリスはメイド服の下に動きやすい軽装を着こんでいた。メイド服を渡してナディアに着させる。ぶかぶかだが、紐で何とかそれを着れるように頑張った。そして、自然な流れで首輪を握って粉砕ふんさいした。

「あ、ありがとうございます」

「いいのよぉ、それじゃあね」

「す、すいません。今度お返しします。お名前は……?」

「私はアリス。服は気にしないで良いわよ……あげるわ♡」

「でもっ……」

「んー、それにしても貴方可愛いわね。娼婦になりたいなら私の元に何時でも尋ねておいでなさい。歓迎するわぁ」

「そ、それはっ……」

「もう、冗談よ」

「そ、そうですか……」

 そこで彼女は少し寂しそうな表情をした。

「……貴方は……悲しくも優しいやみに好かれているのね……幸運こううんだわ」

「え?」

 アリスはそう言って去って行った。ナディアは涙を拭いて立ち上がった。家に帰らねば。しかし、ふらふらだった。

 先の事を考えると頭が重い。体が重い。今すぐまぶたを閉じたい。しかし、明日の事を考えた。ギルドの皆を悲しませない為、ナディアは無理やり笑顔えがおを作り出し、歩き始めた。

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