かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第六章 受付嬢ナディアの災難

第7話 語られる物語

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 ルーベンがギルドにある何時ものテーブルで寝ていると、辺りでワイワイと楽しそうな声が聞こえた。ルース達だ。

「それであいつが言うんだよ……ハーヴィーとフューリーに助けられたっ、てねっ?」

 それを聞いて皆が大爆笑をしていた。ルースやワイアットでさえ、それを笑わずには言われない。

「中央の連中をヤった奴に助けられたって!! ねーよね-よぉぉおお! あっはっはっはっは!」

「しかも二人だとよぉ! っはっはっははははは!」

「お腹がぁ! お腹がぁ! もぉー笑わせないでよー」

「ククク、面白い奴だろっ」
「フフフフ、ワイアットっ。余り笑ってやるなっ。あいつも頑張ってる」

 彼等の言うあいつ、とは重症だった男の魔導師であり、現在入院中の男である。何故か偶然にも医者の中でも飛びぬけた技術を持つ者がいたらしく、彼に無料で治療してもらった。治療後、順調に回復しているらしい。

 因みに彼等はその人物を馬鹿にしたいのではない。もう少しで退院するのが嬉しいので、ふざけているのだ。一緒に笑っていたルースが少しクールダウンをしていう。

「だがまあ……本当にそこにあるのなら」
「ああ……準備が出来次第、そこに行って見る価値はある……」

 彼等は先ほどとは真逆の雰囲気で、しんみりとそう言った。生きるためなら仕方ない事もある。しかし、彼等とて見捨てたくてそうした訳では無い。出来るなら、しっかりと弔いたいと思っている。

「でも、良かったな」
「ええ……二度も助かる何て……理不尽な世の中だけど……奇跡って本当にあるのね……」

「まだまだ捨てたもんじゃねーな」
「だな……」

 その話が聞こえていたナディアとその隣の同僚もその話題をしていた。

「『偽りの絶望』、ね……ナディアはどう思う?」
「私は……いるんじゃ無いかとは思ってますけど……」

「確かに彼等が嘘を言うとは思えないしね」
「実は昔からその報告例はあるんですよ」

「へー、あるんだ。じゃあ」

「でも、その魔物の一部を持って帰って来た人は誰もいません。倒すと消えていく、と。それと、そういう書物も幾つか知ってます……それ故皆はこう思うのです。おとぎ話……もしくは伝説上の怪物……と」

「はぁ……なんだかよく分からない生物だねー」

「それよりも私は、ハーヴィーとフューリーが気になりますけど……」
「でも彼は一人でしょ?」

「分かりません……実際に対応したのは騎士団や憲兵ですから……」
「ははは、もしかしたら彼等、集団で幻覚でも見たのかもねぇ~」

「それは彼等に失礼ですよ」
「ごめんごめん。じゃあもし、その二人が居たらどんな人達だと思う?」

「そう言われましても」

「私はきっと格好良い、美男子だと思う! 清潔でぇ冷静でぇ紳士的でぇ私だけに優しくてぇお金持ちの男性!」

「えー? そうですか? ん~私は。案外その辺に居る男の人なんじゃないかと思いますよ?」

「ははは、夢がないねーナディアは。ひょっとしてあれの事言ってる?」

 同僚の女性が彼を目線で指す。

「ち、違います! 流石に彼はありえません! 例え世界が崩壊してもありませんって!」

 彼女は全力で否定した時、ルーベンが眼を見開いた。そして立ち上がる。近くの男が尋ねた。

「どうしたんだ雑草……急に勢いよく立ち上がって……まさか……」
「ああ……今日の夜の営みはリサちゃんに決定だなッ」

「死ねよ」「馬鹿が」「下らねー」

 何人かがそれに参戦した。それを聞いてルース達も呆気にとられた表情になっていた。さらに次の瞬間、彼はナディアを口説いていた。しかし、何か会話をした後に高速で外へと去って行った。ルース達は言う。

「何かあれを見てると、あの地獄が夢みたいだね……」

「「「「「「まったくだ……」」」」」」


 夜になるとお店から出て来たルーベンがふらふらとしながらアジトに向かう。彼が到着してからの第一声、ルディが言う。

「ルーベン。この酒、どこで買ったんだ?」
「ルディの行きつけの店だけど?」

「うむ……」
「不味かったのか?」

「逆だ。旨い……」
「ほんとかよ。ちょっと飲ませて」

「断る。自分で買ってこい」

「はぁー。それは無いだろ。てか感想が旨いって、本当に飲み慣れてんのかよ。はぁー、俺の舌はルディのそれを越えてるんだがな。見せられ無くて残念だ」

「理解する気が無い者に語っても仕方あるまい。下らない挑発だ……だが、良いだろう。ノってやる」

 彼がそのまま、自分のコップで飲もうとするとルディが言う。

「そのままか」
「当たり前だろ」

 そして、ルーベンがそれを飲んだ後に感想を言った。

「旨い!」
「だろうな」

「そういえば……凄い医者に会ったぞ」
「そうか……」

「……ルディ、伝書魔鳥を飛ばしてただろ……」
「さてな……」

「おかげで無駄な出費したじゃねーか」

「それはすまなかったな。だが、誰かを助けたと聞いたが? それを考えれば……」

「さあな。俺が居なくてもあの医者なら何とかしただろーさ……」


 そこでルディが少し思いを巡らせると適当に呟いた。

「理不尽……か。人は何処まで行くんだろうな……」

「何処までもさ。矛盾で遊ぶのは人だけだ……」

 二人はそれを嘲笑うかの様に言った。

「「やはり人は恐ろしい」」

 二人は声を出して笑っていた。そう、この二人は今の生活を気に入っているのだ。そして、彼等は善人ではない。きっとこれからもずっと。
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