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第六章 受付嬢ナディアの災難
第5話 医療魔導師①
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【少し暗いギルド】
ルーベンが睡眠をとりにギルドに入ると、深刻そうな表情の男達が集まっていた。彼はそれを気にせずに何時もの席に座ると寝た。
深刻そうな男達はルースだった。彼等から声が聞こえてくる。
「容態は?」
「かなり際どいらしい」
先日、白金等級の依頼をこなした彼等は五名の死傷者を出してしまった。四名が死に、その中で一人だけ奇跡の帰還を遂げた魔導師の男がいた。その男の治療は成功したかに思われたが、傷口から菌が入り、容態が悪化していた。
回復薬を使用する者や、魔具の補助により、回復魔導師と似た役割をする者達がいる。回復薬や魔具では傷の応急処置や体力の回復等が可能だが、回復魔導師には劣る。
例外はいるが、その者たちも万能では無い。だから皆は医療魔導師、つまり治療の専門家の元に運ぶのだ。
「くそっ! 俺達には祈る事しか出来ないっ」
「頼む! 頑張ってくれっ」
「折角帰還で来たというのにッ」
「生き延びてくれっ」
それを聞いていたワイアットが呆れた様子で言い放った。
「まったく、おめー等は……信じるしかねぇだろ……俺達がこんな様子だと助かるもんも助からねーだろうが」
「……そう、だな……」
そこでルーベンが退屈そうに立ち上がった。以前、ルディに交換条件で頼まれたお使いを思い出したからだ。丁度良かったと彼は外に出かけようとする。その時ナディアが手招きをしてきた。
「ナディアさん。どうしたの? またデートしたくなった?」
「違います。依頼の話です……それと、デートした事はありません」
「分かったよ。草むしり行って来る。ナディアさんの頼みは断れない」
「え? いえ、違いま……クロウさん! 戻って来て下さい!」
彼は外に出て行った。都市の南西に向かって行った。厩舎のおじさんに話しかける。
「魔馬いる?」
「いるけどぉ。あんた乗れんのか?」
この世界には魔獣と魔物がいる。
魔獣とは魔素を余り所持していない生き物の事を指す。人族や亜人は除く。それは大人しくて臆病なのが多く、そのほとんどが草食系である。
一方魔物は獰猛で危険な生き物である。それを退治するためにギルドが作られたと言っても過言では無いかもしれない。
そして、通常の馬は魔獣を使う、しかし急ぎの際は、より体力とスピード、戦闘に特化した馬。魔物に分類されている魔馬を使用する。気性が荒いので乗れる人が限られる。後は高額なのがネックだ。
「乗れるよ」
「ふん。その虚勢、嫌いじゃないぜ。っと、それよりも高いぞぉ?」
「大丈夫だ、払える」
「ッ……良いだろう……」
彼はそれを苦もせずに払う。するとおじさんは二本角の黒い毛並みが美しい魔馬を貸してくれた。おじさんがルーベンを睨んでいると、魔馬が舌を出して舐めて来た。彼は馬の顔を優しく撫でる。おじさんはムっとした表情で言った。
「……まあまあだな」
「何が?」
「……そいつは中々人に懐かねーで有名な奴でな」
「ふーん。懐いてるっぽいな」
「ふんっ、自惚れるなよっ。本当に難しいのはッ」
彼がその声を気にせずに上にまたがると、猛スピードで前進し、あっという間に居なくなった。
「…………」
おじさんはそれを唖然と見送った。
「ちっ! 俺の方が懐かれてるもんねー!」
おじさんの悔しそうな声が響き渡った。
【森の悪路。南へ】
次々と周りの景色が移り変わっていく。魔馬は本当に速かった。彼は街道を通らずに、山々の悪路を突き進んでショートカットをする。
これも魔馬の良い所の一つだろう。木々が聳え立つ危険な森をさらに加速する。途中で魔物が襲い掛かって来たが、魔馬をそれに突進し、次々に薙ぎ払う。そして、ルーベンも剣で撃退する。彼は珍しく子供のように笑っていた。
その時、魔馬が丘を跳ぶ。すると大きく鳴いた。それは耳が痛くなるほどの声であった。馬は調子に乗り過ぎて、凄まじく高い場所から飛んでしまったのだ。まさに空中を飛んでいたのだ。
「はははは! やっちまったな!」
「ヒヒ~ン!」
馬は死を覚悟し、悲しそうに鳴く。空中で足をバタバタと動かしていて、それは可愛らしい。
「今度は気を付けろよー」
ルーベンが空間を掴んだ。割れた中からこの世の色とは思えないほど神秘的な。漆黒に近い剣を取り出す。
その後、遥か下まで急速落下した馬は見事に着地した。しかし、まるで痛みが無かった。骨も折れた様子も無い。着地音も静かであった。
落下の慣性なのか? ポクポクと数歩前に進む。生きているのが疑問に思ったのか、馬が止まって振り返った。着地した場所を見た後に、高い崖を不思議そうに見上げていた。
「?」
「気にするな。行こう」
ルーベンが剣を収納して、馬を撫でる。馬が喜びの鳴き声をあげて前足を浮かせると、しっかりと着地し、再び加速する。
【草原・王都近郊の裕福層が集まる街への道中】
そこに馬車が進んでいた。そこには八人の男女が乗っていた。操縦者も合わせれば九人。その中の男が御者に対して怒鳴り始めた。
「君ぃ! もっと急いでくれんかね?」
「え……しかし、お客さん。これ以上速度を出すと危険ですよ」
「黙れ! 俺は客だぞ! ここには盗賊も現れるそうじゃないか!」
「しかし……」
「見回りの兵がいないなら急ぐしかないだろう! 早く!」
街道には兵が定期的に巡回しているが、偶然その時間帯は居なかったようだ。そこで品のあるおじさんが横暴な客に言う。
「君……子供も乗っている。一旦落ち着こう……」
「黙れ!」
そう言って彼はおじさんを手で押した。彼はバランスを崩して倒れてしまった。
「おい御者! 早くしないとお前もこうだぞ!」
「ひぃ!」
馬車は加速する。車体を大きく揺らすが、それに負けずに順調に走り出す。彼の操縦技術は相当のものだった様だ。女の子がその速度に喜んではしゃぎ出す。
「すご~い! はや~い!」
「ふんっ。ほら! 俺の言った通りだろう!」
その時、馬車が大きく揺れた。ガンっと大きな音と共に左右強く揺れる。
「な、何をしている! 下手くそが……! ん? お、おい! 前を!」
そして、馬車は横転した。その後、地面には血が染み出してきた……。
ルーベンが睡眠をとりにギルドに入ると、深刻そうな表情の男達が集まっていた。彼はそれを気にせずに何時もの席に座ると寝た。
深刻そうな男達はルースだった。彼等から声が聞こえてくる。
「容態は?」
「かなり際どいらしい」
先日、白金等級の依頼をこなした彼等は五名の死傷者を出してしまった。四名が死に、その中で一人だけ奇跡の帰還を遂げた魔導師の男がいた。その男の治療は成功したかに思われたが、傷口から菌が入り、容態が悪化していた。
回復薬を使用する者や、魔具の補助により、回復魔導師と似た役割をする者達がいる。回復薬や魔具では傷の応急処置や体力の回復等が可能だが、回復魔導師には劣る。
例外はいるが、その者たちも万能では無い。だから皆は医療魔導師、つまり治療の専門家の元に運ぶのだ。
「くそっ! 俺達には祈る事しか出来ないっ」
「頼む! 頑張ってくれっ」
「折角帰還で来たというのにッ」
「生き延びてくれっ」
それを聞いていたワイアットが呆れた様子で言い放った。
「まったく、おめー等は……信じるしかねぇだろ……俺達がこんな様子だと助かるもんも助からねーだろうが」
「……そう、だな……」
そこでルーベンが退屈そうに立ち上がった。以前、ルディに交換条件で頼まれたお使いを思い出したからだ。丁度良かったと彼は外に出かけようとする。その時ナディアが手招きをしてきた。
「ナディアさん。どうしたの? またデートしたくなった?」
「違います。依頼の話です……それと、デートした事はありません」
「分かったよ。草むしり行って来る。ナディアさんの頼みは断れない」
「え? いえ、違いま……クロウさん! 戻って来て下さい!」
彼は外に出て行った。都市の南西に向かって行った。厩舎のおじさんに話しかける。
「魔馬いる?」
「いるけどぉ。あんた乗れんのか?」
この世界には魔獣と魔物がいる。
魔獣とは魔素を余り所持していない生き物の事を指す。人族や亜人は除く。それは大人しくて臆病なのが多く、そのほとんどが草食系である。
一方魔物は獰猛で危険な生き物である。それを退治するためにギルドが作られたと言っても過言では無いかもしれない。
そして、通常の馬は魔獣を使う、しかし急ぎの際は、より体力とスピード、戦闘に特化した馬。魔物に分類されている魔馬を使用する。気性が荒いので乗れる人が限られる。後は高額なのがネックだ。
「乗れるよ」
「ふん。その虚勢、嫌いじゃないぜ。っと、それよりも高いぞぉ?」
「大丈夫だ、払える」
「ッ……良いだろう……」
彼はそれを苦もせずに払う。するとおじさんは二本角の黒い毛並みが美しい魔馬を貸してくれた。おじさんがルーベンを睨んでいると、魔馬が舌を出して舐めて来た。彼は馬の顔を優しく撫でる。おじさんはムっとした表情で言った。
「……まあまあだな」
「何が?」
「……そいつは中々人に懐かねーで有名な奴でな」
「ふーん。懐いてるっぽいな」
「ふんっ、自惚れるなよっ。本当に難しいのはッ」
彼がその声を気にせずに上にまたがると、猛スピードで前進し、あっという間に居なくなった。
「…………」
おじさんはそれを唖然と見送った。
「ちっ! 俺の方が懐かれてるもんねー!」
おじさんの悔しそうな声が響き渡った。
【森の悪路。南へ】
次々と周りの景色が移り変わっていく。魔馬は本当に速かった。彼は街道を通らずに、山々の悪路を突き進んでショートカットをする。
これも魔馬の良い所の一つだろう。木々が聳え立つ危険な森をさらに加速する。途中で魔物が襲い掛かって来たが、魔馬をそれに突進し、次々に薙ぎ払う。そして、ルーベンも剣で撃退する。彼は珍しく子供のように笑っていた。
その時、魔馬が丘を跳ぶ。すると大きく鳴いた。それは耳が痛くなるほどの声であった。馬は調子に乗り過ぎて、凄まじく高い場所から飛んでしまったのだ。まさに空中を飛んでいたのだ。
「はははは! やっちまったな!」
「ヒヒ~ン!」
馬は死を覚悟し、悲しそうに鳴く。空中で足をバタバタと動かしていて、それは可愛らしい。
「今度は気を付けろよー」
ルーベンが空間を掴んだ。割れた中からこの世の色とは思えないほど神秘的な。漆黒に近い剣を取り出す。
その後、遥か下まで急速落下した馬は見事に着地した。しかし、まるで痛みが無かった。骨も折れた様子も無い。着地音も静かであった。
落下の慣性なのか? ポクポクと数歩前に進む。生きているのが疑問に思ったのか、馬が止まって振り返った。着地した場所を見た後に、高い崖を不思議そうに見上げていた。
「?」
「気にするな。行こう」
ルーベンが剣を収納して、馬を撫でる。馬が喜びの鳴き声をあげて前足を浮かせると、しっかりと着地し、再び加速する。
【草原・王都近郊の裕福層が集まる街への道中】
そこに馬車が進んでいた。そこには八人の男女が乗っていた。操縦者も合わせれば九人。その中の男が御者に対して怒鳴り始めた。
「君ぃ! もっと急いでくれんかね?」
「え……しかし、お客さん。これ以上速度を出すと危険ですよ」
「黙れ! 俺は客だぞ! ここには盗賊も現れるそうじゃないか!」
「しかし……」
「見回りの兵がいないなら急ぐしかないだろう! 早く!」
街道には兵が定期的に巡回しているが、偶然その時間帯は居なかったようだ。そこで品のあるおじさんが横暴な客に言う。
「君……子供も乗っている。一旦落ち着こう……」
「黙れ!」
そう言って彼はおじさんを手で押した。彼はバランスを崩して倒れてしまった。
「おい御者! 早くしないとお前もこうだぞ!」
「ひぃ!」
馬車は加速する。車体を大きく揺らすが、それに負けずに順調に走り出す。彼の操縦技術は相当のものだった様だ。女の子がその速度に喜んではしゃぎ出す。
「すご~い! はや~い!」
「ふんっ。ほら! 俺の言った通りだろう!」
その時、馬車が大きく揺れた。ガンっと大きな音と共に左右強く揺れる。
「な、何をしている! 下手くそが……! ん? お、おい! 前を!」
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