かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第五章 怪物

第4話 頑張り屋の子供

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 ルーベン達は姿を変えて、宿屋に来ていた。扉を開けると10歳くらいのおとこが二人に元気よく話かけた。黒髪でブラウンの瞳をした子供。店番の様だ。

「いらっしゃいませ!」
「子供か……」

 テーブルにはつえが置いてあった。足が悪いらしい。

「あ、お父さんは奥で作業をしていて。お手伝いです」
「そうか。五日ほど泊まりたいのだが」

 声が聞こえたのか男が奥から出て来た。彼の目元めもとにはクマがあり、やせ細っている。しかし、髪と瞳の特徴が子供とそっくりだった。

「やあ、いらっしゃい。驚かせてすまないね。えーっと、旅人ですかな?」

「南の小さな村から来た。オルビス大陸に素晴らしい教会があるらしくて。どうしても見ておきたいんだ」

「なるほど。ところで五日間でしたかな?」
「そうだ」

 男は、息子の頭を撫でながら交代した。彼は椅子から降りて、杖を持つ。そして、嬉しそうに父親の足に抱き着いていた。ルディが帳簿ちょうぼに名前を記入きにゅうする。

「しかしまあ、大変な時期に来たものだね」
「大変な時期?」

「……やはり知らないんだね。殺しだよ……もう15名も亡くなってる」

「それは物騒ぶっそうだ」
「気を付けないとだな」

「そうだとも。それのせいで最近は客がめっきりってな。我々も大変だよ」
「……銅貨どうか、いや。銀貨ぎんか一枚で足りるか?」

 わざとらしく付け加えられた言葉に反応した彼等は、少し高めの値段を言う。もし気に入らければ訂正ていせいしてくるはずだ。

「はい、勿論です。お食事の方はいかがなさいますか?」
「それは自分達で何とかする」

「さようですか。それでは204号室をお使いください」

 子供が足からはなれると店主が近づいて来た。かぎをもらうと二階に上がり荷物を置く。彼等はそのまますぐに依頼人と持ち合わせた場所に向かう。一階に降りると店主が話しかけて来た。

「お出かけですか?」

「ああ、街を見て来ようと思ってな」
「日が暮れる頃には戻る」

「承知しました。お気を付けください」


【依頼主との邂逅かいこう

 ルーベン達はとある建物に入ると男が立っており、部屋に案内された。その部屋には男が座って居た。

「君達が?」
「俺はルーベン。こっちはルディだ」

「待ちわびたぞ! さあ、座ってくれっ」

 二人が座わり、早速話さっそくはなしを始める。

「依頼の話だが、この街でいる殺人鬼さつじんきを殺してほしいッ!!?」
「捕まえる、では無くてか?」

「ふっ。それを望むのなら憲兵にでも頼んでいるさ」
「大方、復讐ふくしゅうってところか」

「ははは……私の様な依頼人は多いのかね……?」

 男の口元は笑っていたが、覇気はきの無い瞳をしていた。二人にとっては見慣れた表情。それに淡々と返答した。

「そこそこにな」

「まったく、ひどい時代だな……」
「まあ、そう悲観ひかんするなよ。いつの時代もそんなもんだ」

「……そう、なのかもな」

「なるべく情報が欲しい。もう少し教えてくれ」

「私が独自どくじに調べた事でよければ……」
「頼む」

「……初期の犠牲者ぎせいしゃ身寄みよりのない子供だ……しかし、8人を殺した辺りから市民や貴族もねらい始めた……そして、13人目に殺された子供はッ……」

 そう言って男は憎悪ぞうおに満ちた表情を見せた。

「来月の、八歳はっさいの誕生日を楽しみにしていたのにっ。クソぉッ」

「標的は子供だけか?」

「それは違う。大人もだ。三人殺されている」
「憲兵か?」

「いや、旅人たびびとだ。所持していた武器や体の古傷ふるきずからして、かなりの修羅場しゅらばをくぐり抜けている感じではあった。理由は最初の頃と同じだろう。旅人は身元が判明しにくい」

「そんな奴等がやられるのか」
「ああ……まるで拷問をしたかのように新しいきずいくつもあった。これは全ての遺体に共通きょうつうしている」

「殺人の周期しゅうきは?」
「細かくは不明だが、大体だいたい、週に一回だ」

「大人が殺された後に、それが遅くなったりはしたか?」

「変わって無いなようだったが……」
「なるほどな」

「遺体はどんな状況で発見されたんだ?」

「橋の付近や、裏路地、何時もバラバラだが、基本は人の目の着きにくい所だな。血痕の跡から、もしかしたら殺された場所は違うかもしれん。そして何より、遺体を隠そうとはして無かった。まるで見つけてくれと言わんばかりにな……」

「……なるほどな」
「犯人像をどう考えている?」

「……屈強な戦士だ。身長はお前達と同じか……それよりも少し高い男だな。武器は恐らくは剣だろうな。動機は不明。金目の物は取られてはなかった。愉快犯ゆかいはんだとしか……今はこれくらいだな」

「そうか。あ、それと最後に事件が起きたのは何時頃だ?」
「四日前くらいだ……時間帯はおそらくは深夜。何時も通り……むごたらしい遺体だったよ」

 二人は立ち上がるとこの場を離れようとする。

「絶対に殺してくださいッ……よろしくお願いいたしますっ!?」
「安心しろ、依頼は完了させる。五日後にまた会おう」

 二人は外に出て街をうろついていた。犯行を行いやすい場所を確認していた。ついでに目撃情報が無いか聞き込みもしていた。

「収穫は無しだな」
「この街について間もない。焦っても仕方ないだろう」

「酒場にでも行くか」
「賛成だ」


 酒場に着くと早速強いお酒を注文する。それを待ちきれ無いと言った様子で美味しそうに飲むルディ、一方ルーベンはエールをちょびちょび飲んでいた。彼はどちらかというとご飯が目当てらしい。

「うむ。ここの酒は中々旨い」
「だな」

 彼等は食事をしながらも周りの声に聞き耳を立てていた。そんな時、衛兵らしき男達が何人か入って来た。そして、二人はその光景に一瞬驚いた。街道で会ったライラとセシリアが混ざっていたからだ。

「貴族様が何でこんな所にいんだよ」
「さあな。店でも間違えたんじゃないか」

 その中の魔導師が索敵さくてき系統の魔法を発動させる。だが良い成果は得られなかったようだ。

 次にまた別の魔法を発動させた。何人かの変装魔法が解除された。彼女達は他のお客さんに睨まれていたが、付き添いの兵士がそれをなだめる。

 彼女等はキョロキョロと周りを見ると、ため息をついていた。その時、目が合った。仕方ないと言った感じで近づいて来た。

「お食事中に失礼します。ルシとアノという人物をご存じですか?」
「存じ上げません。珍しい名前ですね。んー、女性ですか?」

「あ、いえ! 男性ですよ……失礼ですが、この街の人ですか?」
「……いえ、旅人です。もうかれこれ一週間も経つので、そろそろ西の街へ帰ろうと」

「そうでしたか……あ、旅人が好みそうな場所とかをご存じないですか?」

「あー、どうでしょう……よく分からないですが、東の街に行く旅人は多いらしいですね。何でも大きくて綺麗なみずうみがあるのだとか」

「はぁー、駄目そうですね」
「いえ、ライラ様。彼等は釣竿を……」

「なるほど! 参考になりました。ありがとうございますっ」

 彼女たちはその他に数人に似たような質問をすると、残念そうに帰って行く。因みに先ほどの質問の回答は自分達の目的地とは逆方面を言った。セシリアに感謝する二人であった。

「さぞかし高貴な任務なのだろう」
「はは、兵士は大変そうだな」

【再び動き出すルーベン達】

 すっかり日が暮れたので、会計を済ませ宿屋に戻ろうと夜道を歩き出す。その途中、ゴツイおとこが路地裏でコソコソしているのが見えた。さり気なく寄って行くと、男達が二人に気が付いて近づいて来た。

「おい、お前等……この辺で小僧を見なかったか? クソ生意気なガキだ……」

 男は手で130センチのくらいの身長を表現する。宿屋の子と同じくらいの身長だが、彼は生意気ではない。

「いや、知らないな」
「それと、そうだなぁ。真っ赤な瞳をしている。髪は黒い」

 男は少し緊張した様子でそう言った。しかし、知っている子は髪は黒いが瞳の色は違う。

「見覚えが無い」
「ちっ」

「その男の子とはどういう関係だ?」
「ああ? お前等に教える義理はねぇ」

「最近この辺りで、子供が殺害さつがいされているらしいな。先週で15人目だそうだ」
「何?」

 それを聞くと面倒そうな表情で軽い駆け足で走り出す。質問した男もそれ以上何も言わずに男は去って行く。そんなに慌ててない様にも見える。彼は少し離れた場所で数人の男達と合流していた。

「見るからに怪しいが……」
「関係があるとなると微妙だな。事件の事も詳しくなさそうだったしな」

「あんな目立つ動きをしてるのに、関連の不穏ふおんな情報は無かったはずだ」
「……一旦帰るか」

「だな」

 部屋に戻りくつろぐ二人。深夜になろうという時間帯。一階で小さな足音が聞こえた。木窓をコソっと開けると店主が何処かに歩いて行く。

「こんな時間に何処に行くのか」

「夜釣りも悪くない」
「あ~、だと良いがな」

 彼を付けようとした時に、ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

 ドアが開くとそこにいたのは店主の息子だった。杖をつき、ゆっくり歩いて来る。

「あの……」
「どうした?」

「お客さんにこんな事を言うのは……気が引けるのですが……」
「何だ?」

「ぼ、僕と一緒に寝てもらえませんか!?」
「? どういう事だ?」

「え? あの、さびしい……から。その……」

「お前の親父さんは、何時も夜中に外出するのか?」
「……毎日では無いですけど、大体です。それで一人で寝るのが少し怖くて……」

「何をしてるかは知っているのか?」
「確か、お金を借りている方の所にお手伝いに行っていると、昔に聞きました」

「ふーん。なるほどね」
「他に違和感はないか? 例えば怪我けがをして帰って来るとか」

「いえ……特にそんな事は……あ!」
「何かあるのか?」

「たまに美味しいクッキーを持って帰ってくれます!」

 彼は屈託くったくのない笑顔でそういった。

「……そうか。それは良かった」

「それで……あの……」
「お前の名は?」

「クリスティです」
「俺も丁度寝る所だった。隣に来いよ」

 ルーベンがそう返答すると、嬉しそうな表情をしていた。一度ドアの外に出るとおけぬのを持って来ていた。体をく用だ。二人は体を拭くと寝る準備をする。

 ルーベンはベッドに、ルディは少し離れて床に横になる。クリスティは杖を近くに杖を立てかけるとルーベンの隣に潜り込む。

「あっ……」

 一度落ちそうになったが、彼がしっかりと掴んで引き寄せる。すると人懐っこい笑顔を見せながらルーベンの腕にしがみ付いてきた。

「えへへ、あたたかいです」
「それは良かった」

 ルーベンが頭を撫でると更に抱き着いて来た。スヤスヤと息を立てて寝たのを確認すると、ルディが移動音を完全に消して窓から出て行った。
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