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第四章 忍び寄る影。実は忍んでない
第12話 旅立つ姉妹
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その日の深夜、ルーベンがアジトに顔を出した。ルディは酒を飲みながら釣り竿の手入れをしていた。ふと何かに気が付いて、それを止め、まじまじと見て来た。首付近に包帯がちらっと見えたのだ。
「怪我か? どうしたんだ」
「ああ、腹部に矢を受けたんだよ」
そう言いながらルーベンは椅子に座る。
「その動き、明らかに腹部の怪我じゃないな。肩か?」
「まあ、な。やっぱりお前だけは無理だったか」
ルディは釣り竿の手入れを終えると酒を飲む始める。ルーベンも同じく用意されていたそれに手をかける。
「隠すって事は……女関係か」
「違うよ。凶悪な魔物にがぶって、やられた」
「面白い事を言う。ずいぶんと愛がこもったマーキングだな」
「……本当にな」
「んー? ああ、半分冗談だったが。プリシラにでもやられたか」
「おかげで腹部に怪我をした事にして、誤魔化すはめになった。勘弁してくれって感じだ」
「確かに同じ箇所にそんな珍しい傷があったら勘づかれるな。しかし……この時間帯に来るって事は、その行為には対して効果が無かったようだな」
「今はクロウじゃなくて、デーヴィッドだからな」
「お前らしいな」
「まあ、三日の辛抱だ」
「変な所で律義な奴だな」
「律義ねー。違うなルディ。こう言うのを何て言うか知ってるか?」
「欺瞞か」
「わざとかよ」
「泡沫夢幻、か」
「ん?」
「いや、報われないと思ってな」
「それはそうだろ。知ってて選んだ」
ルディは何処か遠くを見ながら優しい笑みを浮かべて言う。
「選べるだけ贅沢なものだな」
彼もそれを見て少し目線を下にやりながら少し楽しそうに。柔らかい笑顔で返した。
「違いねぇ」
彼等はそのまま静かな夜を過ごすのであった。
【旅立ちの日】
それから三日後、ミラージェス姉妹は遠征当日。ルーベンはギルドの受付嬢に話しかけていた。
「ナディアさん! 今度遊びに行こう。良い所を見つけたんだ」
「良い所ですか?」
「そうそう! 絶対に気に入ると思うよ」
ナディアは彼の背後の人物に気が付くと目を反らした。
「あー。最近、忙しくて、ですね……」
「えー、なら仕方ないかー。じゃあまた今度誘うよ」
その時、背中をバンと一度叩かれた。痛みは無かったが、心当たりの無い攻撃に驚いて後ろを向いた。重そうな荷物を持ったプリシラが何かに腹を立てていた。
「ねぇ、クロウ。ナディアちゃんが困ってるから止めなよっ……」
「なんだプリシラか」
「はぁ? 何よその態度……その肩の傷の事言いふらしちゃうよ?」
「……そう言えば今日からか」
「思い出すのが遅くない?」
ルーベンがふと横を見るとヘシカが睨んでいた。退けと言いたそうだ。横に移動するとナディア達に挨拶をしていた。その間にルーベンはフラフラと歩き出した。
「あっ。ちょっとクロウ」
そうプリシラが言葉をかけた時、集まって来た男がプリシラを囲んで来た。彼女はいつも通りに笑顔で対応をしていた。彼等は泣きそうになりながら見送りの言葉を述べていた。
ヘシカはその間もキョロキョロと周りを見渡している。しかし、目的の人物が見つからずにがっかりしていた。
姉妹が取り囲まれながらもようやく外に出ると、プリシラは気が付いた。遠くの階段にルーベンが座って居た。彼女は、彼に向かって小さく手を振る。それにわずかに手を動かしたのを見て彼女は笑顔になる。そこで歩いて来た男に声をかけられた。
「そうか、今日が遠征の日だったな」
「こ、コール! あ、あのよぉ……あ、いやな、やっぱり何でも無いっ……」
「お姉ちゃんどうしたの? 昨日あんなに……」
「う、うるせーよ」
ルディがそんなやり取りを見ながら言う。
「こんな時代だ。何が起こるか分からない。強敵に会ったら迷わず逃げる事だ。如何なる手段を用いても良いから必ず生きて帰って来い……姉妹揃ってな」
それを聞いてヘシカは嬉しそうにしていた。プリシラが唖然としながら先ほどのルーベンが座って居た場所を見ると彼はもう居なかった。
「お、おうよ! もっと強くなって帰って来るぜ。待ってろよ!?」
ルディはそれを聞くと、何事も無かったかのように去って行った。ヘシカがふとプリシラの方を見ると声を抑えながら腹を抱えて笑っていた。
「どうした?」
「アハハハハ♪ やっと分かったよぉ」
「何がだ?」
「コール様とクロウって似てるねっ」
「ああ? 何処がだよっ。恐ろしいほどに、まるで全然まったく似てねーよッ」
「まあまあ、それじゃあ行こうか」
「……何か、釈然としないな……」
「気を引き締めて行こ―♪」
「ふっ、そうだな。もう、楽はしないぞ。しっかりと着いて来いよッ」
「分かってるよ~。逆に私がお姉ちゃんを守ってあげるからっ♪」
「はっ、言ってろ」
こうしてミラージェス姉妹は再び遠征に行くのであった……。
☆☆☆☆☆☆☆
「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思った方は、お気に入り・評価をよろしくお願いします。
「怪我か? どうしたんだ」
「ああ、腹部に矢を受けたんだよ」
そう言いながらルーベンは椅子に座る。
「その動き、明らかに腹部の怪我じゃないな。肩か?」
「まあ、な。やっぱりお前だけは無理だったか」
ルディは釣り竿の手入れを終えると酒を飲む始める。ルーベンも同じく用意されていたそれに手をかける。
「隠すって事は……女関係か」
「違うよ。凶悪な魔物にがぶって、やられた」
「面白い事を言う。ずいぶんと愛がこもったマーキングだな」
「……本当にな」
「んー? ああ、半分冗談だったが。プリシラにでもやられたか」
「おかげで腹部に怪我をした事にして、誤魔化すはめになった。勘弁してくれって感じだ」
「確かに同じ箇所にそんな珍しい傷があったら勘づかれるな。しかし……この時間帯に来るって事は、その行為には対して効果が無かったようだな」
「今はクロウじゃなくて、デーヴィッドだからな」
「お前らしいな」
「まあ、三日の辛抱だ」
「変な所で律義な奴だな」
「律義ねー。違うなルディ。こう言うのを何て言うか知ってるか?」
「欺瞞か」
「わざとかよ」
「泡沫夢幻、か」
「ん?」
「いや、報われないと思ってな」
「それはそうだろ。知ってて選んだ」
ルディは何処か遠くを見ながら優しい笑みを浮かべて言う。
「選べるだけ贅沢なものだな」
彼もそれを見て少し目線を下にやりながら少し楽しそうに。柔らかい笑顔で返した。
「違いねぇ」
彼等はそのまま静かな夜を過ごすのであった。
【旅立ちの日】
それから三日後、ミラージェス姉妹は遠征当日。ルーベンはギルドの受付嬢に話しかけていた。
「ナディアさん! 今度遊びに行こう。良い所を見つけたんだ」
「良い所ですか?」
「そうそう! 絶対に気に入ると思うよ」
ナディアは彼の背後の人物に気が付くと目を反らした。
「あー。最近、忙しくて、ですね……」
「えー、なら仕方ないかー。じゃあまた今度誘うよ」
その時、背中をバンと一度叩かれた。痛みは無かったが、心当たりの無い攻撃に驚いて後ろを向いた。重そうな荷物を持ったプリシラが何かに腹を立てていた。
「ねぇ、クロウ。ナディアちゃんが困ってるから止めなよっ……」
「なんだプリシラか」
「はぁ? 何よその態度……その肩の傷の事言いふらしちゃうよ?」
「……そう言えば今日からか」
「思い出すのが遅くない?」
ルーベンがふと横を見るとヘシカが睨んでいた。退けと言いたそうだ。横に移動するとナディア達に挨拶をしていた。その間にルーベンはフラフラと歩き出した。
「あっ。ちょっとクロウ」
そうプリシラが言葉をかけた時、集まって来た男がプリシラを囲んで来た。彼女はいつも通りに笑顔で対応をしていた。彼等は泣きそうになりながら見送りの言葉を述べていた。
ヘシカはその間もキョロキョロと周りを見渡している。しかし、目的の人物が見つからずにがっかりしていた。
姉妹が取り囲まれながらもようやく外に出ると、プリシラは気が付いた。遠くの階段にルーベンが座って居た。彼女は、彼に向かって小さく手を振る。それにわずかに手を動かしたのを見て彼女は笑顔になる。そこで歩いて来た男に声をかけられた。
「そうか、今日が遠征の日だったな」
「こ、コール! あ、あのよぉ……あ、いやな、やっぱり何でも無いっ……」
「お姉ちゃんどうしたの? 昨日あんなに……」
「う、うるせーよ」
ルディがそんなやり取りを見ながら言う。
「こんな時代だ。何が起こるか分からない。強敵に会ったら迷わず逃げる事だ。如何なる手段を用いても良いから必ず生きて帰って来い……姉妹揃ってな」
それを聞いてヘシカは嬉しそうにしていた。プリシラが唖然としながら先ほどのルーベンが座って居た場所を見ると彼はもう居なかった。
「お、おうよ! もっと強くなって帰って来るぜ。待ってろよ!?」
ルディはそれを聞くと、何事も無かったかのように去って行った。ヘシカがふとプリシラの方を見ると声を抑えながら腹を抱えて笑っていた。
「どうした?」
「アハハハハ♪ やっと分かったよぉ」
「何がだ?」
「コール様とクロウって似てるねっ」
「ああ? 何処がだよっ。恐ろしいほどに、まるで全然まったく似てねーよッ」
「まあまあ、それじゃあ行こうか」
「……何か、釈然としないな……」
「気を引き締めて行こ―♪」
「ふっ、そうだな。もう、楽はしないぞ。しっかりと着いて来いよッ」
「分かってるよ~。逆に私がお姉ちゃんを守ってあげるからっ♪」
「はっ、言ってろ」
こうしてミラージェス姉妹は再び遠征に行くのであった……。
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