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第四章 忍び寄る影。実は忍んでない
第10話 逃走
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数日後の深夜、ルーベン達は変装して魔導船に乗っていた。港町テュラー付近の陸から100メートル程の地点で待機している。一緒に乗っているアリスがもの凄く嫌そうに言う。
「はぁー。どうしてこんな事になるったのかしら……」
「知らないのか? 運転手が居ないと船は動かないだろ?」
「ルーベンちゃん……貴方、楽しいパーティーだって言ったわよね?」
「今の俺達は立派なパーティーだろ?」
「普通パーティーはこんなのじゃないのよっ。まったく酷い話だわ……ッ」
「感謝しているゴライ……アぃス」
「ちょっとルディちゃん?」
「何だ?」
「本名はやめてもらえないかしら? 流石の私も怒るわよ……」
「ぎりぎりで区切った。それと俺は発音に自身が無いからな。そう聞こえたなら許せ」
「残念だけど、それはもう禁忌に両足を突っ込んでるのよ……」
「……冷静に考えると、俺はゴライアスに依頼した。だから怒られる所以は無いな」
「聞いてないわよっ。ちょっとルーベンちゃんも何か言ってよぉ~」
「まあまあアリスちゃん。ちょっと素直になれないお年頃なんだよ」
「まあ……ルディちゃん、意外に遅れているんだから。仕方ないわね~」
「そうだ悪いな許せ」
「なんか引っかかる言い方……まるで悪意が感じられないのよね……」
「そろそろ指定された時間じゃないか」
「そうだな」
「あぁーもぉう。帰りたいわ……ちゃんと私を守ってよね」
「大丈夫だ。そこは当たらないはずだからな。じゃあ準備しててね」
「はず……って……」
彼女は運転室に入って行く。そこからしばらく経つとハーヴィーがフラフラと崖に来た。彼は兵士に誘導されていた。作戦の成功した兵士は一度引いたのだった。
ハーヴィーはそれに気が付かずに退屈そうに海を眺めていた。悲しそうな表情をしていた。とその時、彼は崖の下、遠くに船がある事に気が付いた。
ルーベンが彼に向かって手を振るとハーヴィーはしばらく訝しげにそれを見ていた。変装しているので遠目からは分からないのだろう。
「あいつ分かってねーのかな?」
「何かするか?」
「じゃあ、氷魔法を適当に頼む」
ルディが小さな氷の針をハーヴィーに向かって撃つ。彼はそれを砕こうと拳を軽く振るう。その瞬間、彼は驚愕した。彼の巨体が空に浮く。10メートル後ろに吹き飛ばされたのだ。呆然としてながらも、それが何故起きたのか考えていた。
そして、全てを理解した男はとても嬉しそうに笑った。その瞬間、そこから加速をつけると船に向かって大ジャンプをする。
「本当に跳んで来るとは……」
「やれー、ロイドー」
彼が70メール程跳んだ時点で無数に氷を針を飛ばしてハーヴィーを迎撃する。彼は腕で守る防御態勢をとった。体に数カ所かすり傷が出来た。その魔法で勢いを失った男は海へと落ちて行った。ドボーンっと大きな音を立てる。浮き上がった彼は大声で叫ぶ。
「フハハハハハ! この威力! やはりお前は違うッ。この感覚っ。最高だッ」
船が動き出すのに合わせるかのように、彼はバタフライの様な泳ぎで対抗して来た。
「思ったより速いな。アーちゃん! スピード少し上げて~」
「どんだけなのよ!?」
「本当に出鱈目だな……」
そこで事件が起きた。巨大な海蛇の様な魔物がハーヴィーに襲い掛かったのだ。間入れずにそれは大きな口を開けて、彼を飲み込んだ。
「あっ、少し止まって」
「まあまあ、面白い奴だったな」
「どうなったの!? やったのかしら!?」
運転室で辺りが急に静かになった事に慌てながらも、何も起こらない事にホッと胸をなでおろすアリス。しかし、海蛇の口が開く。中から彼がこじ開けていたのだ。
「あ、アーちゃん。スピード上げて~」
「!? っと人使いが荒いわねっ」
ハーヴィーは口から出ると上手く頭まで登る。その過程で肉を掴んだのか、蛇が痛がっていた。彼は言う。
「行け」
「……?」
「あの船を追え……邪魔をしたんだ。逃げられたら殺す」
「!?」
海蛇が言葉を理解したかは分からない。だが、海蛇は船の方に全力で泳ぎ出したのだ。再び、海での追いかけっこが始まった。しかし、それは長くは続かない。ルディが海蛇を魔法で攻撃し続ける。
ハーヴィーは拳で消し飛ばし、魔法の被弾を軽減する。
「貴様等っ。何故俺の前に顔を出したッ。覚悟を決めて戦え!」
それを聞いてルーベンは、はっはっはっは、と面白いジョークを聞いた時の様に笑っただけだった。しばらく追いかけっこをしていると、海蛇がついに氷魔法に倒れる。蛇は勢いよく転覆した。
その影響でハーヴィーは勢いよく海に投げ出された。そして、彼はまた流れる様に泳ぎ出す。
ずっと追いかけっこをしているとさらに事故は起きた。鯨のような大きな魔物がハーヴィーと船の間を丁度横切ろうとしたのだ。
彼はそれを見て魔物の上に立つと、魔物を強く蹴って大きく跳躍する。魔物は海深くへと沈んで行った。それとは逆に大きく空を飛ぶ男は船にもの凄い速度で近づいて来る。
「うぉっ。やっべっ」
そこでルーベンが船尾の甲板に剣を置いた。
「アッシュ。迎撃するぞッ」
ルディが少し本気を出そうとした時、ルーベンがそれを止める。
「それは殺せるか、殺されそうかの時だけ見せた方が良い。下手に見せると更に気に入られるぞ」
「それは嫌だな」
「俺は一度見られてるからな」
「頼む」
会話が終わった時、ルーベンが目の前の空間を掴む。すると空間にヒビが入り、穴が開いた。その穴の中から剣を掴むと取り出す。それは少しだけ黒ずんでいるようにも見えた。ハーヴィーはそれを見て空中で嬉しそうに笑う。
「待ちわびたぞッ」
「悔いの無いように全力で殴れよ」
「愚問ッ」
ハーヴィーが拳を振り下ろすと、ルーベンは跳びながらそれを剣で真っ向から受ける。その衝撃の影響で船が大きく揺れる。
「ちょっとぉ何してるのっ!? 船が沈むわよッ」
アリスは命の危機を感じながらも前方を見ていた。次の瞬間、彼等はお互い吹き飛ばされた。
ルーベンは船の進行方向に。船よりも高速で船外に吹き飛ばされる。ルディがそうはさせまいと風の魔法で包み込むが、余りにも凄まじい力ですぐには戻せない。船に戻そうと歯を食いしばっていた。
一方、ハーヴィーはある事をする。それは彼の中で新しい試みだ。それは空中で拳と蹴りを意識的に放つ事。それにより強力な風圧が船を襲ったのだ。彼はそれと同時に叫んだ。
「そこから降りろっ」
そして、ハーヴィーはそのまま勢いよく飛ばされる。まるで平らな石のように海を跳ねて遥か遠くに飛ばされて、その内見えなくなった。
ルディが風魔法を操りながら、同時に氷の大きな壁を一枚作る。それがぶつかり合った時、氷にはひびが入った。だが、彼の放った風はその氷に阻まれて消えていく。
ようやくルーベンの勢いが衰えて、船に音を立てながら落ちると、何事も無かったかのように立ち上がりルディの方に歩き出す。
アリスの死角に入ると、剣は虚空へと消えていった。そして、一仕事終えた雰囲気で実体の剣を拾う。そこでアリスが心配そうに話しかけた。
「だ、大丈夫っ、る、アッシュちゃん!」
「問題ない。それよりもそのまま大陸に行ってくれ。これだけ寄ればもう大丈夫だろう」
「わ、分かったわ……」
ようやく勢いを失ったハーヴィーは海に沈むんだ。少しすると彼はザバンっと水面上に出る。
「……もう少しだった。たったあれだけの距離が。何という遠さか……」
彼はかつてない強敵に出会った嬉しさと、戦えなかった不満が合わさった表情をしていた。
「それにあの魔導師……奴の魔法の速度、恐ろしく凶悪……フフフ、だがその本質は速度では無く……魔力、か? フハハハハハ、愉快だ。魔導師でありながら俺と似るとは……世界は広いものだなッ」
この時ハーヴィーは北では無く、かなり東に寄っていた。しかし、彼にとってはそれはどうでもいい。このままルーベン達を追う。
そして数時間後、陸に上がると彼等が乗っていた船があった。船内を調べるが誰も居ない。燃料の魔素が少なくなっている事を確認すると彼は外に出て一撃でその船を沈める。そのまま楽しそうにその大陸に入って行った。
一方ルーベン達は予め用意していたもう一艘の船でオノール王国へ戻っている最中であった。
「本当に怖かったわぁー……作戦、上手く行ったのかしらね?」
「さあな、後は偵察の報告待ちだ」
ルディが操縦室に入る。
「ゴライアス。操縦を変わる。疲れただろう?」
「……残念だわ。その呼び方さえ何とかすれば、まるで船上でデートする恋人同士の会話のようなのにね」
「それと狭い。早く外に出ろ」
「酷いわねぇ……女の子に何て事を言うのよぉっ」
「俺は船の話をしたのだが」
「あー、酷い酷い」
ルーベンが淡々とそう言うとが、それを気に留めずにルディに操縦を変った瞬間、船は超加速した。
「でも、ルーベンちゃんも人の事は言えないけどね」
「なんで?」
「貴方ぁ、プリシラちゃんはどうするの?」
「どうするって、特に何も? いつも通りだ」
「何も、って……聞いたルディちゃん。しかも、クロウちゃんを助けようと頑張ったプリシラちゃんの絶体絶命の危機に駆け付けなかったのよぉ。彼女、今も落ち込んでるわよ……」
「それは酷いな。責任でも取ったらどうだ?」
ルディもまるでお返しとばかりに淡々と言う。
「はぁ? その時は重要な、外せない用事があったんだよ。何も無いのにタイミングよく駆けつける方が怖いだろ……それ以前に、元々ルディの案件だろ?」
「違うな。プリシラがそれを選んだ。俺には関係の無い話だ」
「よく言う。まあ、確かに俺の不注意ではあったけどな」
「だろ?」
「どっちもどっちね……本当に素直じゃないんだから……それでこの船は誰に返せばいいの?」
「え? 普通にもらうけど?」
「これで船釣りが出来るな。楽しみだ」
「だなっ。この前やったら思ったより楽しくてな。どうにか手に入らないかと考えてたんだよ。いやー運が良いな」
「まさか、あんた達……その為に事が起こるまで隠れてたんじゃないでしょうね……」
「っなわけーねーだろ」
「俺はギルドの依頼を優先しただけだ」
「……はぁー。プリシラちゃんに謝るしかないわね」
「そこでなんでプリシラが出て来るんだよ?」
「何ででもよ……」
「はぁー。どうしてこんな事になるったのかしら……」
「知らないのか? 運転手が居ないと船は動かないだろ?」
「ルーベンちゃん……貴方、楽しいパーティーだって言ったわよね?」
「今の俺達は立派なパーティーだろ?」
「普通パーティーはこんなのじゃないのよっ。まったく酷い話だわ……ッ」
「感謝しているゴライ……アぃス」
「ちょっとルディちゃん?」
「何だ?」
「本名はやめてもらえないかしら? 流石の私も怒るわよ……」
「ぎりぎりで区切った。それと俺は発音に自身が無いからな。そう聞こえたなら許せ」
「残念だけど、それはもう禁忌に両足を突っ込んでるのよ……」
「……冷静に考えると、俺はゴライアスに依頼した。だから怒られる所以は無いな」
「聞いてないわよっ。ちょっとルーベンちゃんも何か言ってよぉ~」
「まあまあアリスちゃん。ちょっと素直になれないお年頃なんだよ」
「まあ……ルディちゃん、意外に遅れているんだから。仕方ないわね~」
「そうだ悪いな許せ」
「なんか引っかかる言い方……まるで悪意が感じられないのよね……」
「そろそろ指定された時間じゃないか」
「そうだな」
「あぁーもぉう。帰りたいわ……ちゃんと私を守ってよね」
「大丈夫だ。そこは当たらないはずだからな。じゃあ準備しててね」
「はず……って……」
彼女は運転室に入って行く。そこからしばらく経つとハーヴィーがフラフラと崖に来た。彼は兵士に誘導されていた。作戦の成功した兵士は一度引いたのだった。
ハーヴィーはそれに気が付かずに退屈そうに海を眺めていた。悲しそうな表情をしていた。とその時、彼は崖の下、遠くに船がある事に気が付いた。
ルーベンが彼に向かって手を振るとハーヴィーはしばらく訝しげにそれを見ていた。変装しているので遠目からは分からないのだろう。
「あいつ分かってねーのかな?」
「何かするか?」
「じゃあ、氷魔法を適当に頼む」
ルディが小さな氷の針をハーヴィーに向かって撃つ。彼はそれを砕こうと拳を軽く振るう。その瞬間、彼は驚愕した。彼の巨体が空に浮く。10メートル後ろに吹き飛ばされたのだ。呆然としてながらも、それが何故起きたのか考えていた。
そして、全てを理解した男はとても嬉しそうに笑った。その瞬間、そこから加速をつけると船に向かって大ジャンプをする。
「本当に跳んで来るとは……」
「やれー、ロイドー」
彼が70メール程跳んだ時点で無数に氷を針を飛ばしてハーヴィーを迎撃する。彼は腕で守る防御態勢をとった。体に数カ所かすり傷が出来た。その魔法で勢いを失った男は海へと落ちて行った。ドボーンっと大きな音を立てる。浮き上がった彼は大声で叫ぶ。
「フハハハハハ! この威力! やはりお前は違うッ。この感覚っ。最高だッ」
船が動き出すのに合わせるかのように、彼はバタフライの様な泳ぎで対抗して来た。
「思ったより速いな。アーちゃん! スピード少し上げて~」
「どんだけなのよ!?」
「本当に出鱈目だな……」
そこで事件が起きた。巨大な海蛇の様な魔物がハーヴィーに襲い掛かったのだ。間入れずにそれは大きな口を開けて、彼を飲み込んだ。
「あっ、少し止まって」
「まあまあ、面白い奴だったな」
「どうなったの!? やったのかしら!?」
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「あ、アーちゃん。スピード上げて~」
「!? っと人使いが荒いわねっ」
ハーヴィーは口から出ると上手く頭まで登る。その過程で肉を掴んだのか、蛇が痛がっていた。彼は言う。
「行け」
「……?」
「あの船を追え……邪魔をしたんだ。逃げられたら殺す」
「!?」
海蛇が言葉を理解したかは分からない。だが、海蛇は船の方に全力で泳ぎ出したのだ。再び、海での追いかけっこが始まった。しかし、それは長くは続かない。ルディが海蛇を魔法で攻撃し続ける。
ハーヴィーは拳で消し飛ばし、魔法の被弾を軽減する。
「貴様等っ。何故俺の前に顔を出したッ。覚悟を決めて戦え!」
それを聞いてルーベンは、はっはっはっは、と面白いジョークを聞いた時の様に笑っただけだった。しばらく追いかけっこをしていると、海蛇がついに氷魔法に倒れる。蛇は勢いよく転覆した。
その影響でハーヴィーは勢いよく海に投げ出された。そして、彼はまた流れる様に泳ぎ出す。
ずっと追いかけっこをしているとさらに事故は起きた。鯨のような大きな魔物がハーヴィーと船の間を丁度横切ろうとしたのだ。
彼はそれを見て魔物の上に立つと、魔物を強く蹴って大きく跳躍する。魔物は海深くへと沈んで行った。それとは逆に大きく空を飛ぶ男は船にもの凄い速度で近づいて来る。
「うぉっ。やっべっ」
そこでルーベンが船尾の甲板に剣を置いた。
「アッシュ。迎撃するぞッ」
ルディが少し本気を出そうとした時、ルーベンがそれを止める。
「それは殺せるか、殺されそうかの時だけ見せた方が良い。下手に見せると更に気に入られるぞ」
「それは嫌だな」
「俺は一度見られてるからな」
「頼む」
会話が終わった時、ルーベンが目の前の空間を掴む。すると空間にヒビが入り、穴が開いた。その穴の中から剣を掴むと取り出す。それは少しだけ黒ずんでいるようにも見えた。ハーヴィーはそれを見て空中で嬉しそうに笑う。
「待ちわびたぞッ」
「悔いの無いように全力で殴れよ」
「愚問ッ」
ハーヴィーが拳を振り下ろすと、ルーベンは跳びながらそれを剣で真っ向から受ける。その衝撃の影響で船が大きく揺れる。
「ちょっとぉ何してるのっ!? 船が沈むわよッ」
アリスは命の危機を感じながらも前方を見ていた。次の瞬間、彼等はお互い吹き飛ばされた。
ルーベンは船の進行方向に。船よりも高速で船外に吹き飛ばされる。ルディがそうはさせまいと風の魔法で包み込むが、余りにも凄まじい力ですぐには戻せない。船に戻そうと歯を食いしばっていた。
一方、ハーヴィーはある事をする。それは彼の中で新しい試みだ。それは空中で拳と蹴りを意識的に放つ事。それにより強力な風圧が船を襲ったのだ。彼はそれと同時に叫んだ。
「そこから降りろっ」
そして、ハーヴィーはそのまま勢いよく飛ばされる。まるで平らな石のように海を跳ねて遥か遠くに飛ばされて、その内見えなくなった。
ルディが風魔法を操りながら、同時に氷の大きな壁を一枚作る。それがぶつかり合った時、氷にはひびが入った。だが、彼の放った風はその氷に阻まれて消えていく。
ようやくルーベンの勢いが衰えて、船に音を立てながら落ちると、何事も無かったかのように立ち上がりルディの方に歩き出す。
アリスの死角に入ると、剣は虚空へと消えていった。そして、一仕事終えた雰囲気で実体の剣を拾う。そこでアリスが心配そうに話しかけた。
「だ、大丈夫っ、る、アッシュちゃん!」
「問題ない。それよりもそのまま大陸に行ってくれ。これだけ寄ればもう大丈夫だろう」
「わ、分かったわ……」
ようやく勢いを失ったハーヴィーは海に沈むんだ。少しすると彼はザバンっと水面上に出る。
「……もう少しだった。たったあれだけの距離が。何という遠さか……」
彼はかつてない強敵に出会った嬉しさと、戦えなかった不満が合わさった表情をしていた。
「それにあの魔導師……奴の魔法の速度、恐ろしく凶悪……フフフ、だがその本質は速度では無く……魔力、か? フハハハハハ、愉快だ。魔導師でありながら俺と似るとは……世界は広いものだなッ」
この時ハーヴィーは北では無く、かなり東に寄っていた。しかし、彼にとってはそれはどうでもいい。このままルーベン達を追う。
そして数時間後、陸に上がると彼等が乗っていた船があった。船内を調べるが誰も居ない。燃料の魔素が少なくなっている事を確認すると彼は外に出て一撃でその船を沈める。そのまま楽しそうにその大陸に入って行った。
一方ルーベン達は予め用意していたもう一艘の船でオノール王国へ戻っている最中であった。
「本当に怖かったわぁー……作戦、上手く行ったのかしらね?」
「さあな、後は偵察の報告待ちだ」
ルディが操縦室に入る。
「ゴライアス。操縦を変わる。疲れただろう?」
「……残念だわ。その呼び方さえ何とかすれば、まるで船上でデートする恋人同士の会話のようなのにね」
「それと狭い。早く外に出ろ」
「酷いわねぇ……女の子に何て事を言うのよぉっ」
「俺は船の話をしたのだが」
「あー、酷い酷い」
ルーベンが淡々とそう言うとが、それを気に留めずにルディに操縦を変った瞬間、船は超加速した。
「でも、ルーベンちゃんも人の事は言えないけどね」
「なんで?」
「貴方ぁ、プリシラちゃんはどうするの?」
「どうするって、特に何も? いつも通りだ」
「何も、って……聞いたルディちゃん。しかも、クロウちゃんを助けようと頑張ったプリシラちゃんの絶体絶命の危機に駆け付けなかったのよぉ。彼女、今も落ち込んでるわよ……」
「それは酷いな。責任でも取ったらどうだ?」
ルディもまるでお返しとばかりに淡々と言う。
「はぁ? その時は重要な、外せない用事があったんだよ。何も無いのにタイミングよく駆けつける方が怖いだろ……それ以前に、元々ルディの案件だろ?」
「違うな。プリシラがそれを選んだ。俺には関係の無い話だ」
「よく言う。まあ、確かに俺の不注意ではあったけどな」
「だろ?」
「どっちもどっちね……本当に素直じゃないんだから……それでこの船は誰に返せばいいの?」
「え? 普通にもらうけど?」
「これで船釣りが出来るな。楽しみだ」
「だなっ。この前やったら思ったより楽しくてな。どうにか手に入らないかと考えてたんだよ。いやー運が良いな」
「まさか、あんた達……その為に事が起こるまで隠れてたんじゃないでしょうね……」
「っなわけーねーだろ」
「俺はギルドの依頼を優先しただけだ」
「……はぁー。プリシラちゃんに謝るしかないわね」
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