かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第四章 忍び寄る影。実は忍んでない

第8話 ギルドの小競り合い。王都VS大都市

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 プリシラは走っていた。クロウを探し回っていた。しかし、一旦足を止める。問題がある。

「クロウの家が分からない……そもそもリーンハルトは何で知ってるのッ?」

 焦っていたのでそこに至らなかった。その時、背後からリーンハルトが話しかけた。

「その程度の事を思いつけないとは……お前らしくないな……」

 その方向に振り向いて言う。

「……ははは……君の言う、私らしいって何かな?」
「力を求め。力を愛す……それがお前だ。だから俺は強くなった。お前のためにな……」

「……確かに君は私より弱かった……それは素直に凄いと思う……」
「そうだ。だからお前の望み通りに、俺の女にしてやる」

「コール様はそんな事を言わない」
「ああ? 黒等級ごときがどうした? コールは認めた! 俺にひれ伏したッ」

「クロウは私に道を示してくれたんだよ」
ごときが道を示す? それは勘違いだ! それは偽物にせもの……その道に先は無いっ」

「偽物、か……そうだね。彼はきっと……」
「分かってるじゃねーか。早くこっちに来い」

「でも彼は残酷ざんこくな偽物なの……」
「ああ?」

「それでいて……とても……上手く説明できないけど……確かにそう思ったよ」

「……はっ、そんなモノに何の意味があるッ。それにまるな。お前にやさしさなんて似合にあわねーッ」

「……」

「そうじゃないだろ! 不敵ふてきにいたずらに、それでいて可愛らしく他者たしゃ嘲笑あざわらってろ。そして、俺がそれをゆがめてやる。そうすれば俺の物だッ」

「……もう君と話す事は無いよ。私は私のやりたいように動くだけだからっ」
「クククク、それは俺も同じ事だッ」

 リーンハルトの風魔法とプリシラの地魔法が作り出された。二人の戦いが開始する。そして、ヘシカ達も殺し合いはもうすでに始まっていた。


 ニクラスが魔槍で雷を発生させてヘシカに牽制けんせいした後に接近して来た。彼女は自身の周りに球体の障壁で雷から身を守る。同時に金属の針がヘシカ周辺に発生し、襲い掛かる。それはマルティナの援護だった。

 展開していた炎を操り、自身の体の周囲に巻きつくようにまとわせるとそれを全て防ぐ。残った炎を直線に飛ばして、接近して来た槍を持つ男にカウンターを狙う。彼はそれを避ける。

 避けた後、先ほどよりも接近するニクラスに対して、彼女は炎をからそらに上昇させ、大きな炎の壁を展開する。

 流石に接近を止めた彼は、軽く横へ跳んだ。しかし、その真逆まぎゃくから大剣たいけんを持った女が一閃いっせんを放っていた。障壁魔法と炎を混ぜてそれを防ぐが、大きく吹き飛ばされる。建物の壁に当たると彼女は吐血とけつした。

「はっはッー! 手ごたえありだっ」
「流石に三体一だと弱い者いじめになってつまらないわね」

「よく言うぜ。お前はその方が好きだろうが……それに、飛竜よりは抵抗ていこうして来て楽しいぜ?」
「うふふ。それはそうね……」

 ヘシカはそれを聞きながらいらついた表情を見せるが、ある魔法を完成させた。彼女は痛みをえながら軽く笑みをこぼす。

「……ぜろ。クソ共……ッ」

 ヘシカが座ったままそう呟いた瞬間、三人の間に爆発が起きた。

「へっ。ざまぁみろよ……」

 しかし、彼女は再び怒りに満ちた表情をする。声が聞こえたからだ。

「な? 面白いだろ?」
「私は最初から肯定こうていしていたわ」

 彼等は皆、例外なく無傷むきずであった。

止めを刺そうかしら?」

「なぁ、……」

 彼はカルロッテに同意を求められ、仕方ないと言った感じでボソッと言った。

「カルロッテ、お前に譲る」

「へへんっ! 空気くうきめる奴だ! 愛してるぜぇ」
「そういう圧力あつりょくはずるいと思うけど……」

 カルロッテが接近しようとした瞬間、ヘシカと彼女の間に、が発生した。

「誰だっ? いい所でっ」

 水色の髪、水色の瞳。淡いその色は、堂々と彼等を睨み付ける。

「私はツィーディア。憲兵だ」
「憲兵っ!?」

「てめぇー、邪魔するんじゃ……」

「止めろカルロッテ……」

「そうね……ここまでよ」
「ああ? 俺に指図するんじゃねー」

「……それでもいいけど。王国と戦いたいなら続ければ? それをすれば逃亡生活とうぼうせいかつになって、二度にどとジークムントに会えなくなるでしょうね」

「……くっ……分かったよ」

「事情を聞きたい。全員同行してもらおうか」


【一対一の決着】

 その頃、プリシラはボロボロだった。圧倒的なリーンハルトの力。彼女は手も足も出なかった。そして、止めに彼は風の塊をプリシラの腹部ふくぶにぶつける。彼女は吹き飛ばされて倒れた。

「っぅぐ……ッ」

「さあて……始めようか」
「……ッ」

 リーンハルトは風の魔法で両腕を拘束した。そして、風の刃を使い服を必要な箇所だけ器用に切り刻む。

「なっにすんのよっ」

 彼女はスパッツを破られたので、足を閉じて抵抗する。

「ヘシカは今頃、三人に殺されているかもな」
「そんな事無いッ」

「……クククク、分かってるくせに。あいつらはヘシカと同格、そしてその内の一人はそれ以上だ。まあだが、お前の、俺が助けてやってもいい」

「……」

「そして、もちろんもな……お前が俺の物になれば奴等には手を出さん」
「……ッ。わ、分かったから……もう止めて……」

「ならまたを開け」
「……ッ」

「俺に逆らったばつだ。意思いしでしろ。でないと姉とクロウを殺す」

「そんなっ……」
「嫌ならそれでも構わないがな……」

 彼女は歯を噛みしめながらも、決意を固めてそれに従う。すると彼はプリシラの上にかぶさった。涙をながしながら彼女は叫ぶ。

「い、嫌ッ」
「クククク! 違うだろぉ……可愛くびながらねだるんだよッ」

 彼が嫌らしい笑みを浮かべながら、腰をした時、彼にはそれが出来なかった。

「……ぅがぁっ!?」

 その瞬間、恐ろしい力で発せられた蹴りがリーンハルトの顔面をとらえたからだ。彼は遥か遠くに吹っ飛ぶ。プリシラは一瞬、何が起こったのか分からなかったが、その大きな背中に心当たりがあった。

「ア、アリス……ちゃん?」

 アリスは彼に向かって叫んだ。

「この外道げどうがっ。私の可愛いプリシラちゃんに何してんのよッ」

 すぐに自分のメイド服の上半身部分をワイルドに破ってプリシラの下半身に被せた。アリスはその下に女性用のタンクトップのようなものを一枚来ていた。

 リーンハルトはしばらくの間、ふらふらしていたが、徐々に正気を取り戻す。すると怒りの表情で睨みつけた。

「何もんだテメーはぁっ!」
「やーねー。見れば分かるでしょう……純真無垢じゅんしんむくな女の子よ」

「……っなわけ……ねーだろうがッよぉッ」

 リーンハルトはその答えに激怒しながら、風の塊を作り出し、六つ連続で放った。アリスはそれを全て素手で弾き飛ばす。彼女の手には僅かに血がにじんでいた。それを見た彼は思わず間抜けな声がでた。

「はぁ……ッ」

 次の瞬間、アリスは彼のふところに踏み込んでいた。

「こいつッ」

 瞬時しゅんんじに風の塊でクッションを作り、それを防ぐが威力を殺しきれずに、またしても吹き飛ばされた。

 しかし、彼も負けてない。空中で態勢を整えながら風のやいばと風のかたまりを飛ばして反撃する。すると刃は蹴りの風圧で弾き、残りを全て拳で消し飛ばす。拳には先ほどよりも血が出ていた。

「あらやだ……凄く痛いわぁ。もっと優しくしてよ」

「……ッ。少しはやるな。最初のダメージもだいぶ回復して来た……そろそろ本気で」
「もうやめにするわよ……」

「ああ? 今更怖気いまさらおじけづいてももうおせー。俺の祝福しゅくふくの時を邪魔したお前は、万死ばんしあたいする」

「もぉー。この都市で余りしちゃー駄目よ」

「何を言ってやがる。説教せっきょうなら子供にでもやってろッ」
「さもないと貴方…………」

「……はぁ? 俺が死ぬ? さっきから何を言ってるんだ」

「苦痛や悲しみ、憎しみの依頼こえは彼等を呼びせる……から彼等がやって来るわ……貴方は誰かから必要とされているわよね。でも、それに出会ったら最後……それに慈悲じひは無いわよ……」

「……なんの話だ?」
「もう少しすればここには憲兵が来る……貴方も彼等と争いたくはないでしょ」

「……ふんっ……見かけによらず賢いようだな。プリシラ。当分は引いてやる。だが、俺は必ずお前を手に入れる……何時いつでもお前を……おびえながら日々ひびを暮らす事だ。クククク」

 彼はそう言い残して去って行った。そこには静寂だけが残った。それを切り裂く様にプリシラがお礼を言う。その声は少し震えているようだった。

「あ、ありがとう……アリスちゃん……」
「偶然通りかかっただけよ」

 アリスはその恰好を見て泣きそうな表情で訪ねる。

「それよりも……もしかして」

「……ぁ……あ、危なかったけどっ……このくらい大丈夫だから……」
「そう……それなら良かったわ……」

「あ、アリスちゃん。って誰……?」
「……この都市にくう畏怖いふ……それはかなしくも不運ふうん悪者わるもの達……」

「それはいったいどういう……?」

 そこで足音が聞こえる。憲兵達がやって来たのだ。

 アリスが一人の憲兵に無言の圧力をかける。彼女はその憲兵に壁に追い詰めた。片手を壁に置いて、自分の好みの男性像を伝えている。その男は涙目になっていた。

 なんとその後、彼はズボンと上着を貸してくれたのだ。アリスとプリシラはそのまま事情聴取に行のであった。

 この事件は表向きはお互いが和解した。ジークムントが無理やりそういう形にしたのだ。

 彼等の等級は王都でもトップクラスであり、国への貢献度は計り知れない。とても重要な存在だ。

 だからそれに少しばかりの忖度をするしかなかったのかもしれない。翌日、一旦は彼等は王都に強制送還される。こうしてギルド間の小さな抗争こうそうは解決して、平和が戻ったのであった。
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