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第四章 忍び寄る影。実は忍んでない
第1話 彼女のちょっとした変化
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ある日、ルーベンがギルドで水を飲んでいるとプリシラが目の前に座った。少し機嫌が良いようだ。
「……ヘシカちゃんは?」
「最初の一言がそれっておかしくない?」
その一言で彼女は少しだけムッとした。
「何時ものプリシラの取り巻きは?」
「それもおかしくない?」
「喧嘩したのか?」
「なんでそうなるのよ……お姉ちゃんは私を探すために必死だったじゃない? 感謝はしても喧嘩はしないから……」
「そうだな」
プリシラはヘシカの居ない理由を言う。
「その行動が、お姉ちゃんのファンを動かしたの……」
「ああ、その時に話しかけた事で、距離が縮まった感じか?」
「うん。歯止めがかからなくなったみたいだね。今頃は可愛い女の子達に追われてるよ」
「羨ましい……で、お前のファンは?」
「私は逆。あんな事があって不安だからって理由で、皆から距離を置いてるのー」
「おい、止めろ……」
「何が?」
「いや、それで俺に話しかけたらお前のファンが切れるだろ?」
「アハっ♪ それで君が死にかけるのも面白いね」
「……ちょっとコップを片付けて来る」
「いってらっしゃーい」
プリシラが手をひらひらとしていた。ルーベンが木のコップを持って行きカウンターに出すと、そのまま自然に外に出て行った。
それを見たプリシラが目を僅かに細めた後に、悪い笑みを浮かべて追いかける。ルーベンが歩きながら面倒そうに聞いた。
「何だよ?」
「別にー」
「なに、暇なのか?」
「暇ではあるね。そうだ、何処かに行く? 可愛い女の子からのお誘いだよ~♪」
「行かね。てか訓練しないとコールに追いつけないぞ」
「……」
彼女はそれを聞いて少し顔を曇らせた。
「お姉ちゃんにも追いつけないぞー」
それを聞いて彼女は悲しい表情になった。
「……そうだね……うん、そうだよね」
ルーベンはそれをジっと見つめた後に、少しトーンを落として聞いた。
「諦めたのか?」
「……ぁ……ぅうん、そうじゃないよ」
「自信でも無くしたのか」
「なんでそう思うの?」
「……気分転換。上を見るのが辛くなったってところだろ」
「……やっぱり、君は……何か、変だね……」
「それで、白等級でもからかいに来たのか?」
「うん……そんなところ……少し疲れちゃったかも……」
「姉ちゃんの方が疲れたに決まってんだろ。街中走り回ってたぞ」
「アハハ♪ お姉ちゃんらしい……何時だってそうだよ。私を守ってくれる」
「ふーん。色々あるんだな。まあ元気が無いのはお前らしくないな」
「まるで私の心配をしない……君らしいね……」
「それだけの力を持って、何を落ち込むのかが俺には分からない」
「ふーん。聞いてくれるの? それは君らしくないね」
「面倒だから帰ってもいいけど?」
「アハハ……♪ いつも通りだ……」
そんな事を言ってるととある建物についた。
「ここが君の家? 大きくない?」
「いや、安い宿屋」
それを見て彼女は少してテンションを上げて、からかう。自分の何かを隠すかのように。
「えー、私を連れ込んで何をするの~?」
「ここに放り込んでる間に、保護者を探して来る」
彼は話を聞くだけだと目で訴える。それを察した彼女は言う。
「……やっぱりムカつくね、君」
「じゃあ家に帰れば?」
しばらく呆れた顔でルーベンを見ていたが、彼女は気分を切り替えて宿屋の個室に入って行った。プリシラが椅子に座るとルーベンがベッドで仰向けになって言う。
「で、何が気に入らないんだ?」
「君のその対応の仕方かな? 普通は落ち込んでる女の子と面と向き合って~、丁寧に接するよねー」
「……あ~、かもな」
彼女は諦めたように話し始めた。
「つまらないよ?」
「いいよ。俺は話を聞くのは好きな方だ」
「……そう」
「そうだよ」
彼女はそれを聞いて、少し思い出に浸りながら話す。
「……私達は両親がいなくてね……あっ、正確にはいるけど、あれは父親じゃないから」
「母親も?」
「私達を庇って、刺されて死んじゃった……やったのは父親……あれは何時も私達に暴力を振るった」
「……」
「私達は逃げて逃げて逃げまくってさぁ……でも、生きるために必要だから。強さを求めたの……」
「……」
「……ひたすら強くなって、何時しか私達は粗暴な男達を倒せるようになったんだぁ……」
「嬉しかったか?」
「当然だよぉ……誰も私達に文句は言えない。力こそが全て……この世界は何時だってそうだよ……」
「……」
「でもさぁ……私は……」
「……」
「……お姉ちゃんには届かない……コール様の強さは理解出来ない……挙句の果てに簡単に捕まるしぃ。私は、もうお姉ちゃんの隣を歩けない……そう感じちゃった……」
「それは悲しいな」
「そう、悲しい……悲しいはずなのに……」
彼女の話は飛ばし飛ばしだったが、強い想いが込められていたように感じた。
「まっ、俺にはどうする事も出来ない」
「知ってる……ただ愚痴を言っただけだから……まあでも、多少楽になったかも」
自らを守るために強くなった少女達、何時しかそれを忘れて攻撃的になった。いや、ならざる得なかった。しかし、誰よりも強くなった彼女等はコールに惹かれている。
それは目標を作って高みを目指すためか、あるいはその矛盾を受け入れたのか。その心の底は分からない。
「それは良かった。気分転換に赤等級の依頼でも行くか? 良い景色の所を知ってる」
「は、はぁ? 何でそうなるの?」
「赤等級の依頼は怖いか? それともお姉ちゃんが居ないと怖いのか?」
何時もとは違う。自分が煽られている事を感じ取る。しかし、自然と怒りは込み上げない。
「……き、君と行くのが怖いんだけど……戦えないよね?」
「当然だ。プリシラに守ってもらうに決まっている」
「……自信満々に言う事じゃないよー、それ……」
不思議だった。彼は不思議な男だった。まるで何時もの自分が崩されていく、そんな感覚に近いのかもしれない。
「気分転換だ」
「……気分転換、ねー……」
☆☆☆☆☆☆☆
「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思った方は、お気に入り・評価をよろしくお願いします。
「……ヘシカちゃんは?」
「最初の一言がそれっておかしくない?」
その一言で彼女は少しだけムッとした。
「何時ものプリシラの取り巻きは?」
「それもおかしくない?」
「喧嘩したのか?」
「なんでそうなるのよ……お姉ちゃんは私を探すために必死だったじゃない? 感謝はしても喧嘩はしないから……」
「そうだな」
プリシラはヘシカの居ない理由を言う。
「その行動が、お姉ちゃんのファンを動かしたの……」
「ああ、その時に話しかけた事で、距離が縮まった感じか?」
「うん。歯止めがかからなくなったみたいだね。今頃は可愛い女の子達に追われてるよ」
「羨ましい……で、お前のファンは?」
「私は逆。あんな事があって不安だからって理由で、皆から距離を置いてるのー」
「おい、止めろ……」
「何が?」
「いや、それで俺に話しかけたらお前のファンが切れるだろ?」
「アハっ♪ それで君が死にかけるのも面白いね」
「……ちょっとコップを片付けて来る」
「いってらっしゃーい」
プリシラが手をひらひらとしていた。ルーベンが木のコップを持って行きカウンターに出すと、そのまま自然に外に出て行った。
それを見たプリシラが目を僅かに細めた後に、悪い笑みを浮かべて追いかける。ルーベンが歩きながら面倒そうに聞いた。
「何だよ?」
「別にー」
「なに、暇なのか?」
「暇ではあるね。そうだ、何処かに行く? 可愛い女の子からのお誘いだよ~♪」
「行かね。てか訓練しないとコールに追いつけないぞ」
「……」
彼女はそれを聞いて少し顔を曇らせた。
「お姉ちゃんにも追いつけないぞー」
それを聞いて彼女は悲しい表情になった。
「……そうだね……うん、そうだよね」
ルーベンはそれをジっと見つめた後に、少しトーンを落として聞いた。
「諦めたのか?」
「……ぁ……ぅうん、そうじゃないよ」
「自信でも無くしたのか」
「なんでそう思うの?」
「……気分転換。上を見るのが辛くなったってところだろ」
「……やっぱり、君は……何か、変だね……」
「それで、白等級でもからかいに来たのか?」
「うん……そんなところ……少し疲れちゃったかも……」
「姉ちゃんの方が疲れたに決まってんだろ。街中走り回ってたぞ」
「アハハ♪ お姉ちゃんらしい……何時だってそうだよ。私を守ってくれる」
「ふーん。色々あるんだな。まあ元気が無いのはお前らしくないな」
「まるで私の心配をしない……君らしいね……」
「それだけの力を持って、何を落ち込むのかが俺には分からない」
「ふーん。聞いてくれるの? それは君らしくないね」
「面倒だから帰ってもいいけど?」
「アハハ……♪ いつも通りだ……」
そんな事を言ってるととある建物についた。
「ここが君の家? 大きくない?」
「いや、安い宿屋」
それを見て彼女は少してテンションを上げて、からかう。自分の何かを隠すかのように。
「えー、私を連れ込んで何をするの~?」
「ここに放り込んでる間に、保護者を探して来る」
彼は話を聞くだけだと目で訴える。それを察した彼女は言う。
「……やっぱりムカつくね、君」
「じゃあ家に帰れば?」
しばらく呆れた顔でルーベンを見ていたが、彼女は気分を切り替えて宿屋の個室に入って行った。プリシラが椅子に座るとルーベンがベッドで仰向けになって言う。
「で、何が気に入らないんだ?」
「君のその対応の仕方かな? 普通は落ち込んでる女の子と面と向き合って~、丁寧に接するよねー」
「……あ~、かもな」
彼女は諦めたように話し始めた。
「つまらないよ?」
「いいよ。俺は話を聞くのは好きな方だ」
「……そう」
「そうだよ」
彼女はそれを聞いて、少し思い出に浸りながら話す。
「……私達は両親がいなくてね……あっ、正確にはいるけど、あれは父親じゃないから」
「母親も?」
「私達を庇って、刺されて死んじゃった……やったのは父親……あれは何時も私達に暴力を振るった」
「……」
「私達は逃げて逃げて逃げまくってさぁ……でも、生きるために必要だから。強さを求めたの……」
「……」
「……ひたすら強くなって、何時しか私達は粗暴な男達を倒せるようになったんだぁ……」
「嬉しかったか?」
「当然だよぉ……誰も私達に文句は言えない。力こそが全て……この世界は何時だってそうだよ……」
「……」
「でもさぁ……私は……」
「……」
「……お姉ちゃんには届かない……コール様の強さは理解出来ない……挙句の果てに簡単に捕まるしぃ。私は、もうお姉ちゃんの隣を歩けない……そう感じちゃった……」
「それは悲しいな」
「そう、悲しい……悲しいはずなのに……」
彼女の話は飛ばし飛ばしだったが、強い想いが込められていたように感じた。
「まっ、俺にはどうする事も出来ない」
「知ってる……ただ愚痴を言っただけだから……まあでも、多少楽になったかも」
自らを守るために強くなった少女達、何時しかそれを忘れて攻撃的になった。いや、ならざる得なかった。しかし、誰よりも強くなった彼女等はコールに惹かれている。
それは目標を作って高みを目指すためか、あるいはその矛盾を受け入れたのか。その心の底は分からない。
「それは良かった。気分転換に赤等級の依頼でも行くか? 良い景色の所を知ってる」
「は、はぁ? 何でそうなるの?」
「赤等級の依頼は怖いか? それともお姉ちゃんが居ないと怖いのか?」
何時もとは違う。自分が煽られている事を感じ取る。しかし、自然と怒りは込み上げない。
「……き、君と行くのが怖いんだけど……戦えないよね?」
「当然だ。プリシラに守ってもらうに決まっている」
「……自信満々に言う事じゃないよー、それ……」
不思議だった。彼は不思議な男だった。まるで何時もの自分が崩されていく、そんな感覚に近いのかもしれない。
「気分転換だ」
「……気分転換、ねー……」
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