かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第三章 ギルドの厄介ごと

第10話 プリシラの抵抗

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【ある日の出来事】

 遡る事八日前、プリシラは夜道を歩いていた。家に帰宅する途中だった。

 その道中で彼女は嬉しそうな表情を浮かべて静かに走り出した。そして、少し離れて様子を見る。ルディの背中が見えたからだ。

 何時ものは一緒に動こうとしてもいつの間にか居なくなる。隠れて尾行もしたが、彼の家を突きとめた事はなかった。

 だが、今回は上手く尾行していく。彼女は喜びの余り人通りの無い道に入っているっているのに気が付いていなかった。終にルディが家に入って行くのが見えたので、彼女は扉を叩いた。するとルディが出て来たのだ。

「こんばんは、コール様」
「プリシラか……こんな遅くにどうした?」
「遊びに来ちゃいましたぁ」

「……はぁ。こんな夜中に追い出すわけにはいくまい。入れ」
「やったーお邪魔しまっーす」

「お茶で良いか?」
「は~い♪ 嬉しいなぁありがとう」

 プリシラは嬉しそうにキョロキョロして部屋の隅々まで凝視する。彼がお茶を出し、二人は席に座った。出されたお茶を飲みながら嬉しそうに話し始める。

「お洒落なお部屋だねぇ」
「そう言われると嬉しいな」

 彼女は大胆に動く。椅子を隣に持って来た。

「そうだー♪ 今日は泊めて欲しいなぁ~♡」
「そこまで嬉しそうにされると断れないな。プリシラがそれを望むなら構わない」

「……んー。それにしても……」
「何だ?」

 プリシラの顔つきが少しだけ変わった。少しだけ低めの声色で言う。

「……君は誰?」
「……何を言っている? コールだが」

「……不覚だね。舞い上がって気が付けなかった。冷静に考えるとコール様ならこんな簡単に家に入れないかなぁー。それに……コール様なら泊めずに私を家に送ってくれそうな気がするんだぁ」

「……くくくく」

 彼女が距離を取り、短い杖を構えた。

「それで何者なのぉ?」

「プリシラ・ミラージェス。君の最愛の夫さ。正しく生きるために、俺が君を救いに来たんだよ」

「死ねよ……」

 彼女が地魔法を発動しようとした瞬間、眩暈めまいがしてひざを付いた。

「ぅ……これは……はぁ……君、何をしたのっ?」

「ようやく効いてきたか……クククク、強力な睡眠薬だよ。それに魔法が上手く発動出来ないだろう?」

「ふざけ……っ」

 プリシラは為す術もなくその場に倒れてしまった。嬉しそうに変装を解くと普通の顔の男になった。そして、男は嬉しそうに高笑いをする。

 プリシラが目を覚ますと壁に貼り付けられていた。鎖でつながれ身動きが取れない。それに魔法も上手く発動せず体がだるい。下着姿になっているが、長めのドレスグローブとニーソックスも身に着けていた。

「お目覚めのようだね。お姫様」
「気持ち悪い。悪趣味……どうでもいいけど外してくれないかなぁ」

「そんな事をするとでも?」
「君ぃ私の事が好きなんだよね? お願いぃ♪」

「……ふぅ……残念だが君は優しすぎる。俺と言う者がありながら他の男の誘いを断れない。だから外すのは調教した後だ。ああ……勿論、君が浮気はしないと信じているよ」

「は、はぁ? 頭が可笑しいの?」
「クククク、照れているのも良いな。君のそう言う所も好きだよ」

「……ぅぇっ。本当に気持ち悪いんだけどぉ」

「ふむ。血の循環が悪いのか……最初は無理だが、今よりもう少し従順になれば食事の時は、そこから降ろしてやる。フフフ。そしていずれ……聖なる日。その晩にベッドで愛を育む時にもなぁ」

「……君には何を言っても無駄なようね」

「そろそろ食事にするかい」
「外してくれるの?」

「さっきも言ったろ。今は駄目だ。俺が食べさせてやる」

「なら要らない……」
「それでもいいが……その虚勢は何時まで持つかな。早く真実に気が付き給え」

「真実? 笑わせるね。バカみたいっ」

 プリシラは男を凄まじい形相で睨み付けてながら床に唾を吐いた。男はプリシラの腹部を殴った。彼女が小さく苦痛の声を出す。

「ッ……」
「駄目じゃないか。行儀が悪いぞ」

 男は言う事を聞かないと、本当に食事と水を与えなかった。

 何も食べずに半日が経った頃にプリシラがどうしても我慢できずに言う。

「ねぇ……お手洗いは何処?」
「その言葉……前提が可笑しいぞ……これにしろ」

 彼は吊るされているプリシラのまたの下につぼを置いたのだ。

「ふざけるなよ……ぶっ殺すぞ……」

「おやおや、お姉ちゃんの汚い口調がうつってしまったのかな。本当にあの姉は不要な存在だ。引き剝がさないと君が汚れてしまう」

「ああ? それ以上口を開くなッ……本当に殺すよぉ?」

 姉を馬鹿にされて怒りを隠さない。彼女以外がそれをする事は許さないのだ。

「くくくく、だからその状態で何が出来るっ。プリシラちゃんは俺がしっかりと矯正きょうせいする。それをは喜んでくれるさぁ」

 彼が近づいてきて足を撫でまわしながら鼻をつけて、聞こえる様に匂いを嗅いできたので、プリシラは嫌がって暴れるが鎖は外れる様子が無かった。

「気安く触らないでッ。絶対にお姉ちゃんやコール様が来るっ。その時は覚悟しろよっ。お前は死ぬんだよッ!」

「クククク、俺が死ぬ? あり得ないな。俺はずっと前から計画を念入りに立てて、じっとこの時を待った……君がここに来た痕跡は無い。ここは何年もかけて見つからないように造った。誰もここに気が付くことは無いんだよッ……」

「この変態野郎がっ」

「……ああ、分かる……分かるよ君の本当の気持ちがぁ。俺に会えて照れているんだよね? 大丈夫。俺も一緒さ。愛しているよ、プリシラ」

「……ッ。ほんっとッ何を言っても駄目なようね……ッ」

 彼女は食事に時に壁から降ろされて食事を許されるようになっていった。とはいっても最低限の拘束はしていた。彼女は何度か逃げようとしたが、全て失敗に終わる。失敗すれば気持ちの悪い事をされるので、次第に気力がなくなってしまった。

 何日も経った時、男が外から帰って来た。早速仕掛けを作動し、隠し部屋に入って声をかける。

「プリシラちゃん……ごめんね。帰るのが遅くなって」

「はぃ、ご主人様……お帰り……なさい……」

「フフフ。相変わらず可愛いねプリシラちゃん。うん、お漏らしもしてないようだね。お利口さんだ。そろそろ次の段階に移行しても大丈夫か……」

 彼がそう声をかけながらプリシラの足や腹部、顔に触るがそこには嫌悪も怒りもなかった。むしろ笑ったのだ。しかし、それは条件反射するように刷り込まれたのだろう。力の無い笑顔だった。彼女は男を見ているというよりは、何処か虚空こくうを見ていた。

 そんな時、ドアを叩く音が聞こえた。

「……ああ!? 俺がプリシラちゃんと愛を語り合ってる時に何だぁ!」

 無視をしようと思ったが、しつこいので仕方なく部屋から出て仕掛けを起動させて隠した。

「ったく! 何なんだよッ」

 男は怒りながらも困惑した様子でドアを開く。
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