かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第4話 名乗らぬ二人②

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 ルーベンとルディは一階と二階をつないでいる場所、玄関付近の広いエリアに集まっていた。ルーベンが聞く。

「全部調べたか?」
「ああ、奴はいなかった」

「となれば、気が付いて逃げたか……元から知っていて避難ひなんしてたか」
「警備のしつからして後者こうしゃは考えにくい」

「外か……もしくは、かく通路つうろ……」
「探すぞ」

 その時、ナイフとかみなりがルーベン達をおそった。彼等はんでそれを回避かいひした。遅れて男の声が聞こえる。

「気が付かなければ良かったものの……」
「あ-らら。皆やられてるじゃん!」

 茶色ちゃいろいローブを着たシンプルな男と、軽装の上に一枚落ち着いた色の服を羽織はおってる男がルーベン達を一瞥いちべつした後、さらに話を続ける。

うでをしているな……」
「けけけ、こわいね~こわいね~♪」

 そこで軽装の男がを見た。

「けけ。お前、魔導師まどうしか? だとしたら悲しいね~。なぜなら~」

 すると男は話の途中でふところからげナイフを出し、向いていなかった方。魔導師では無く、それをはなった。ローブの男が手からするど蛇行だこうするせんのような雷の魔法を放ち、ルディを狙う。

 ルディが手を前にかざす。手に雷がふれれる寸前で半透明はんとうめいの小さないた出現しゅつげんし、それをふせいだ。防御用ぼうぎょよう障壁魔法しょうへきまほうだ。

 ローブの男はそれにおどいた。無駄むだのない最小限さいしょうげんの大きさの障壁魔法でそれをふせいだからだ。一歩間違えればふかいダメージを負ったであろう。ローブの男は感心かんしんしたようにうなる。

「……ぅむ」

 しかし、ルディは何事もなかったかのように、氷の針で反撃はんげきしていた。ローブの男はそれを避けるも、かたにかすってしまう。男は負けじと雷魔法で牽制けんせいし、上手うま距離きょりを取った。

 彼はポーカーフェイスをたもとうとするが、顔が引きつってしまい、思わず冷や汗が出る。何故なら氷のようにつめたい瞳をした男は一連の攻撃を受けても無傷むきずだったからだ。

 一方、軽装の男は初撃の投げナイフで勢いにのり、続けていくつも投げていた。ルーベンが小さくんでそれをすべけている。彼が近くのはしらかげかくれると、相手はそれをゆるすまいと回り込む。

 その時、軽装の男は違和感いわかんを覚えた。ふとゆかを見ると小さなボールが落ちていた。それがはじけて中から鉄製てつせいはりが飛び出して来たのだ。

「ちぃっ!」

 軽装の男がそれを避けると、彼はすぐちかくまで来ていた。彼はこし短剣たんけんいてそれをふせいだ。金属がかさなった音がひびいた。鍔迫つばぜいになる。

 そこでルーベンが左手ひだりてのスナップだけで小さなはりを飛ばして来たので、それを防ぐためにからだをくねらせた。服の金属部分きんぞくぶぶんで受け止め、かろうじて間に合った。

 短剣に力を込める。だが今回はわるいと感じて上手く後ろに跳んだ。その時にげナイフを放つが、彼は剣で容易よういはじく。お互いが最初と同じような距離になった時、彼等は心当たりがある人物を同時に言う。

「こいつ……【早打はやうち】か……」「まさか……【九つの道具エルガレイオン】」

 しかし、そう呼ばれた二人からは何も。それを気にせずに男達はうれしそうに話し始めた。

「こんな所で会えるとは……ねがっても無い……」
「けけけ、これで俺達のが一気に上がるってもんよっ」

 その時をさかいにローブの男は魔法の展開速度てんかいそくどが、軽装の男は移動速度いどうそくど格段かくだんに上がる。

 軽装の男は投げナイフを上手く使いながら、今度は自分から積極的せっきょくてきに接近する。ルーベンは防戦ぼうせんに追い込まれていた。

「けけ、好きな道具は使わせない♪」

 そこでルーベンは青い球を少し後ろに投げた。同時に後ろに下がりながら攻撃を受ける。

「けけけ、その手はもう食わないぜ~!」

 彼は上手く投げナイフを使つかって球を遠くに弾いた。遠くのゆかでそれは小さく弾けただけで終わる。だが、一瞬のすきいたルーベンの剣による一閃いっせん。彼は仕方なく後ろに跳んで距離をとった。

 ルーベンが休ませまいと、さらに針と球を素早く取り出し、自分の真上まうえに投げる。一瞬だけ上に気を取られた瞬間しゅんかん、軽装の男は驚愕きょうがくした。いつの間にか背後はいごにルーベンが移動しており、既にするどい一閃を放っていた。

 男はそれに気が付いて大きく跳んで避けるが、左腕ひだりうでが切り落とされてしまう。

「ぐ、馬鹿なっ」

 男は着地する間際まぎわ、ルーベンが剣をさやおさめている様子を呆然ぼうぜんと見ていた。

「……まったく……何て…………だ」

 そして、彼はひざを付いて吐血とけつした。既に全身ぜんしんきざまれていたのだ。朦朧もうろうとする意識の中、彼は問う。

「けけ、それほどの速度……何故……道具を使う……?」

「……」

 ルーベンは何も言わず、最後まで彼をと見つめていた。彼はその立ち姿を見てさとる。仮に今、万全ばんぜんな状態で動けたとしても、絶対に不意ふいを突けない。何をしようと。つまりはたおせないだろう、と。

「けけ、けけけけ。はっずれ♪ こんな依頼……受けるんじゃなかったっ、ぜ……」

 軽装の男は倒れ、そのまま絶命した。


 時間は少し前に遡る。ルディはローブの男と戦っていた。間入れずの雷魔法。ルディは障壁魔法だけでなく移動しながら回避をしてそれ等を凌ぐ。

「お見事……だが、これはどうかな……ッ」

 彼は三つのかみなりを出し左右と直線、三方向からの攻撃を仕掛しかける。ルディは素早く前進移動ぜんしんいどうし、直進してくる雷だけを障壁魔法で防いだ。

「なるほど……しかしっ」

 残り二つの雷が曲がってルディを追う。それを跳んで見事に回避するがローブの男は不敵ふてきな笑みを浮かべていた。間入れず、ルディの真上まうえからが落ちた。

 最初に放ったのはおとり役割やくわりを持たせた雷で、時間をかせいでる間に強力なそれを構築こうちくしていたのだ。

 さらに追加で構築速度を重視じゅうしした雷を連続で飛ばしてとどめをさす。それを気が済むまで放つと、ローブの男は声をまらせた。

「……ッ」

 ルディは自分の全方位ぜんほうい半球はんきゅうの障壁魔法を展開して、それを全て防いでいたからだ。障壁は範囲はんいを広げる程、もろくなり壊れやすい。

 ローブの男は、自身の全力ぜんりょくの魔法を防がれたため、すぐには言葉が出せなかった。少ししてそのので、それを答えを口にする。

「何と言う……」

 しかし、そう言った男のこころれていない。魔法を使うには体内たいないにある魔素まそと呼ばれる力を変換へんかんして発動する。自分は消費しょうひおさえながら多方面たほうめんからの攻撃を展開し、防戦に追い込んでつかれさせる作戦さくせんに出る。

持久戦じきゅうせんだッ……魔素がきるまで叩くのみッ」

 右手から雷を出そうとしたその時、腕が大きく

「がっ……」

 何が起きたのかと右腕みぎうでを見ると、氷の針が三本うでさっていた。彼は急な激痛げきつうと状況の混乱から魔法の構築に失敗しっぱいしてしまう。雷がし右の手のひらがし飛んだ。それは彼の実力じつりょくからは考えられないミスだった。

 彼は納得が出来ないまま、今度は左手ひだりてで魔法を放とうとする。しかしその瞬間、左腕には氷の針が五本刺さったのだ。

 さらに同時に太ももやふくらはぎにも激痛げきつうが走っていた。彼の雷の魔法は大気たいき。今度はしっかりと魔法の暴発を防いだようだ。

「ぁが……」

 ローブの男は倒れぬように全身に力を入れて耐える。

「俺の魔法は……どうだった? 【早打ち】……」

「……」

 ルディは何も言わず最後まで彼から。ローブの男はそれに満足まんぞくした様子で言う。

「くく、くくくくっ。この依頼……受けて……良かった……」

 お互いが静かに睨み合う。彼は絶望ぜつぼうしながらもわらい、すきさぐる。

 そして、その刹那せつな。彼の周辺で雷魔法かみなりまほうが再び構築された。しかし、それが放たれるよりもさきに、氷の針が脳天に突き刺さるとローブの男は倒れる。軽装の男もそれと同時に倒れていた。決着はついたのだ。

 彼等は隠し通路を見つけようと再び走り出す。まるで最初から何事なにごときていないかの様なかる足取あしどりで……。
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