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第二章 オルビス大陸
第15話 帰還
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翌日のお昼すぎ。ルーベン達は帰宅するために城の門に居た。まだまだ怪我が完治しておらず安静にするべきなのだが、ラーラは見送りに来ていた。
「ルーベン様……挨拶が遅れてしまいました。ラーラと申します。この度は私の大切な家族をお救い頂き、ありがとうございます」
「いえいえ~とんでもございません。ラーラ様の可愛らしい元気なお顔を拝見出来て嬉しい限りです。体を張ったかいがありました」
ラーラはそれを聞いて照れながら嬉しそうに言った。
「これは私からのお礼です。時間が無くてちゃんとしたもの用意出来ませんでしたが、もしよろしければお持ちになって下さい」
ラーラが高価なカチューシャを少し恥ずかしそうに渡した。
「ありがとうございます」
一方、ヘリュは先日購入した服。ルーベンが選んだ中でも一番露出度の低い町娘の様な服を着ていた。
しかし、積極的であったが顔を真っ赤にして横を向いていた。誰とも目を合わせられないようだ。ヘリュは横を向いたまま少し低めの声で言う。
「や、やっと五月蠅い男が居なくなるな。清々する……っ」
「……」
ルーベンは一瞬彼女をチラっと見た後、ジェイデンの方を見る。
ヘリュがその反応を見て寂しそうな表情で彼を一瞬見たが、恥ずかしくなってすぐに横を向いた。逆にジェイデンはいつの間にか気合が入った男らしい表情になっていた。
「ルディさん、ルーベンさん。ありがとうございました。おかげでお父様やお母様の無念も晴らす事が出来ました。これは約束の報酬です」
ジェイデンは彼等から出た言葉に驚愕した。ルーベンがいつも通りの適当さで言ったのだ。
「いらね。最後の依頼を完了したのはマリエル嬢だ」
「し、しかしそれでは!? それにそんな事はありません! これは貴方がたのっ」
ルディも同意見らしく淡々と答えた。
「だから要らないと言っている。お前が大切なのは民だろう? 彼等を守れ。少ないだろうが教会にでも寄付した方が有意義だ」
「し、しかし!」
「真面目な領主様だな……たまにはずるしても誰も怒らねーよ」
「ジェイデン……今は大事な時です。彼等の言葉に甘えましょう。それでも納得が出来ないなら後になって返せばいいのですよ」
「マリエル……確かに君の言う通りだ……」
「っと、言う訳でお別れだ」
「本当にありがとうございました。たまには遊びに来てくださいね」
「…………」
彼はニッコリと曖昧に笑った。その様子をチラっと見たヘリュがやっと真正面を見て訝しげに聞いた。何か違和感があったからだろう。
「ん? 待てルーベン、昨日の約っ……」
「大丈夫! 記憶力は良い方だっ」
ヘリュは不安そうな表情をしたが、ルーベンの目を見ると目を細めて言う。
「信じるからな……」
「ああ、またな、ヘリュ」
「う、うむ。ま、またなルーベンっ」
彼等が歩き出すと皆がその場で見送ってくれていた。そんな中、マリエルが一人走って少し小声で話しかけて来た。ジェイデンも気になって近づいて来た。
「……ルーベンさん。ルディさん」
「何?」
「私は……貴方達が恐ろしいです……」
「はーい、悪魔でーす」
「ちょっとマリエル! すみません。ちょっと臆病なところもあるので……ははは」
ジェイデンがそれをやんわりと伝えるが彼女は優しく手で静止させた後にさらに続けた。
「失礼とは思いましたが、少し調べさせて頂きました……【早打ち】と【エルガレイオン】。ここまでは簡単に辿り着けました。貴方がたがそう呼ばれ始めたのはここ1~2年だそうですね……」
「あー、そうなのか。気にした事なかったなー」
「そうだな。誰が言い始めたのかは分からんが」
「しかし、問題はそれ以前の話です……彼等はそれ以上聞かれる事を皆恐れている様子でした……それ以上は深く聞かれない為にどうでもいい情報をすぐに出して、我々を満足させたのではないでしょうか」
そこでルディが振り返って、彼女達に背を向けて歩き出すとルーベンもそれに続いた。そして、歩きながらルディが淡々と言う。
「確かに俺達は、その辺の盗賊に小銅貨一枚を渡されたらジェイデンを暗殺しに来る可能性もある」
「ッ……」
マリエルはそれを知っていた。逆にジェイデンはポカーンとしていた。
「え? え? 冗談~……ですよね?」
「ああ、冗談だ。安心しろ……俺達は気に入った者の依頼しか受けない」
「今は……それを信じましょう……」
「ええっと……」
「か、勘違いしないで欲しいのは……私達は貴方と敵対するつもりはありません。これだけは言いたかった……」
「分かってるよ」
「気にするな。それと、ジェイデン……良い人に巡り合えたな……」
その声はとても優しい声だったとジェイデンは感じた。
「え? あ、はいっ。マリエルは最高の女性です!?」
彼等はそのまま振り返らずに去って行った。そして、街から出ると港に向かって走り始めた。
「おお、怖い怖い。まあ、素直過ぎるジェイデン卿にはお似合いだな」
「あの様子……マリエル嬢はどんな手を使ってでも守るだろう」
「次依頼が来たら絶対に受けないぞ」
「マリエルが対処出来ない依頼……絶対に碌な依頼じゃないな……」
「それな」
ルディが気になる事を思い出した。
「そう言えば、ハーヴィーはどうした?」
「それならその辺の盗賊に銀貨六枚渡して向かわせた」
「川を渡る駄賃には高すぎだな。次会った時は知らんぞ」
「俺達はこの大陸の北に向かった事になってるから大丈夫だ」
「そうじゃない。何処かで偶然会いでもしたら問答無用で襲い掛かって来るぞ」
「あー、ありそうだ。その時は適当に相手をするよ」
「理想は二人で殺す事だが……」
「かみ合いそうにないな……」
「だな……」
「まあ、あれは関われば損害だが、放置してればいい感じに荒らしてくれるんだよな」
「それが生かす理由か?」
「そう思う様にしてるだけだ……」
その後、彼等は半日で港町に着いた。異様な速さだった。
「それと……ヘリュはどうだった?」
「んー、最初は恥ずかしがって可愛いものだった……まあ、その後はさらに可愛」
「違う……グッドマンの話だ」
「そっち?」
「そっちだ」
「……俺には人の心なんてもんは分からないが……彼女が救われそうな方を選んだ」
「そうか……」
「……」
「さて帰るか」
「だな。また魚釣り勝負するか? 再挑戦がしたいんだろ?」
「ああ? 視力が落ちたか、ルーベン? 俺の方がこのくらい大きかった」
指で一センチほどを表現する。
「誰との勝負の話だ? 普通に俺の方がこんくらいでかかっただろうがっ」
彼もまた三センチほどを指で表した。
「何が記憶力は良い方だ……数日前の出来事を忘れてるぞ」
「おいおいおい。忘れてる? 終に面白い冗談を覚えたようだな……」
「分かった……覚えて無いなら仕方ない……帰りの船で勝負すれば答えは出るだろう」
「いいぜ……決着をつけようか」
彼等は帰りも仲良く釣りをするのであった……。
☆☆☆☆☆☆☆
「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。
面白いと思った方は、お気に入り・評価をよろしくお願いします。
「ルーベン様……挨拶が遅れてしまいました。ラーラと申します。この度は私の大切な家族をお救い頂き、ありがとうございます」
「いえいえ~とんでもございません。ラーラ様の可愛らしい元気なお顔を拝見出来て嬉しい限りです。体を張ったかいがありました」
ラーラはそれを聞いて照れながら嬉しそうに言った。
「これは私からのお礼です。時間が無くてちゃんとしたもの用意出来ませんでしたが、もしよろしければお持ちになって下さい」
ラーラが高価なカチューシャを少し恥ずかしそうに渡した。
「ありがとうございます」
一方、ヘリュは先日購入した服。ルーベンが選んだ中でも一番露出度の低い町娘の様な服を着ていた。
しかし、積極的であったが顔を真っ赤にして横を向いていた。誰とも目を合わせられないようだ。ヘリュは横を向いたまま少し低めの声で言う。
「や、やっと五月蠅い男が居なくなるな。清々する……っ」
「……」
ルーベンは一瞬彼女をチラっと見た後、ジェイデンの方を見る。
ヘリュがその反応を見て寂しそうな表情で彼を一瞬見たが、恥ずかしくなってすぐに横を向いた。逆にジェイデンはいつの間にか気合が入った男らしい表情になっていた。
「ルディさん、ルーベンさん。ありがとうございました。おかげでお父様やお母様の無念も晴らす事が出来ました。これは約束の報酬です」
ジェイデンは彼等から出た言葉に驚愕した。ルーベンがいつも通りの適当さで言ったのだ。
「いらね。最後の依頼を完了したのはマリエル嬢だ」
「し、しかしそれでは!? それにそんな事はありません! これは貴方がたのっ」
ルディも同意見らしく淡々と答えた。
「だから要らないと言っている。お前が大切なのは民だろう? 彼等を守れ。少ないだろうが教会にでも寄付した方が有意義だ」
「し、しかし!」
「真面目な領主様だな……たまにはずるしても誰も怒らねーよ」
「ジェイデン……今は大事な時です。彼等の言葉に甘えましょう。それでも納得が出来ないなら後になって返せばいいのですよ」
「マリエル……確かに君の言う通りだ……」
「っと、言う訳でお別れだ」
「本当にありがとうございました。たまには遊びに来てくださいね」
「…………」
彼はニッコリと曖昧に笑った。その様子をチラっと見たヘリュがやっと真正面を見て訝しげに聞いた。何か違和感があったからだろう。
「ん? 待てルーベン、昨日の約っ……」
「大丈夫! 記憶力は良い方だっ」
ヘリュは不安そうな表情をしたが、ルーベンの目を見ると目を細めて言う。
「信じるからな……」
「ああ、またな、ヘリュ」
「う、うむ。ま、またなルーベンっ」
彼等が歩き出すと皆がその場で見送ってくれていた。そんな中、マリエルが一人走って少し小声で話しかけて来た。ジェイデンも気になって近づいて来た。
「……ルーベンさん。ルディさん」
「何?」
「私は……貴方達が恐ろしいです……」
「はーい、悪魔でーす」
「ちょっとマリエル! すみません。ちょっと臆病なところもあるので……ははは」
ジェイデンがそれをやんわりと伝えるが彼女は優しく手で静止させた後にさらに続けた。
「失礼とは思いましたが、少し調べさせて頂きました……【早打ち】と【エルガレイオン】。ここまでは簡単に辿り着けました。貴方がたがそう呼ばれ始めたのはここ1~2年だそうですね……」
「あー、そうなのか。気にした事なかったなー」
「そうだな。誰が言い始めたのかは分からんが」
「しかし、問題はそれ以前の話です……彼等はそれ以上聞かれる事を皆恐れている様子でした……それ以上は深く聞かれない為にどうでもいい情報をすぐに出して、我々を満足させたのではないでしょうか」
そこでルディが振り返って、彼女達に背を向けて歩き出すとルーベンもそれに続いた。そして、歩きながらルディが淡々と言う。
「確かに俺達は、その辺の盗賊に小銅貨一枚を渡されたらジェイデンを暗殺しに来る可能性もある」
「ッ……」
マリエルはそれを知っていた。逆にジェイデンはポカーンとしていた。
「え? え? 冗談~……ですよね?」
「ああ、冗談だ。安心しろ……俺達は気に入った者の依頼しか受けない」
「今は……それを信じましょう……」
「ええっと……」
「か、勘違いしないで欲しいのは……私達は貴方と敵対するつもりはありません。これだけは言いたかった……」
「分かってるよ」
「気にするな。それと、ジェイデン……良い人に巡り合えたな……」
その声はとても優しい声だったとジェイデンは感じた。
「え? あ、はいっ。マリエルは最高の女性です!?」
彼等はそのまま振り返らずに去って行った。そして、街から出ると港に向かって走り始めた。
「おお、怖い怖い。まあ、素直過ぎるジェイデン卿にはお似合いだな」
「あの様子……マリエル嬢はどんな手を使ってでも守るだろう」
「次依頼が来たら絶対に受けないぞ」
「マリエルが対処出来ない依頼……絶対に碌な依頼じゃないな……」
「それな」
ルディが気になる事を思い出した。
「そう言えば、ハーヴィーはどうした?」
「それならその辺の盗賊に銀貨六枚渡して向かわせた」
「川を渡る駄賃には高すぎだな。次会った時は知らんぞ」
「俺達はこの大陸の北に向かった事になってるから大丈夫だ」
「そうじゃない。何処かで偶然会いでもしたら問答無用で襲い掛かって来るぞ」
「あー、ありそうだ。その時は適当に相手をするよ」
「理想は二人で殺す事だが……」
「かみ合いそうにないな……」
「だな……」
「まあ、あれは関われば損害だが、放置してればいい感じに荒らしてくれるんだよな」
「それが生かす理由か?」
「そう思う様にしてるだけだ……」
その後、彼等は半日で港町に着いた。異様な速さだった。
「それと……ヘリュはどうだった?」
「んー、最初は恥ずかしがって可愛いものだった……まあ、その後はさらに可愛」
「違う……グッドマンの話だ」
「そっち?」
「そっちだ」
「……俺には人の心なんてもんは分からないが……彼女が救われそうな方を選んだ」
「そうか……」
「……」
「さて帰るか」
「だな。また魚釣り勝負するか? 再挑戦がしたいんだろ?」
「ああ? 視力が落ちたか、ルーベン? 俺の方がこのくらい大きかった」
指で一センチほどを表現する。
「誰との勝負の話だ? 普通に俺の方がこんくらいでかかっただろうがっ」
彼もまた三センチほどを指で表した。
「何が記憶力は良い方だ……数日前の出来事を忘れてるぞ」
「おいおいおい。忘れてる? 終に面白い冗談を覚えたようだな……」
「分かった……覚えて無いなら仕方ない……帰りの船で勝負すれば答えは出るだろう」
「いいぜ……決着をつけようか」
彼等は帰りも仲良く釣りをするのであった……。
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