かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第二章 オルビス大陸

第10話 小さな英雄②

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 ルーベンが前に出る。敵はそれを無視して遠距離攻撃をルディに集中させた。そして、隙あればルディに接近攻撃を仕掛ける。彼等はしっかりと訓練された護衛兵なのだ。しかし、ルディはその護衛兵をしっかりと対処する。

 そこで、ルーベンの前に一人、堂々と構える男が現れた。ルーベンはそれと対峙する。

「お前がさっき呼ばれてたルシアノか?」
「光栄だよ。あの【エルガレイオン】とサシで戦えるなんてね」

「それにこだわるのはあの筋肉だけで十分だ……全員で来いよ」
「ッ……ほざけッ! 強いのがハーヴィーだけだと思うなよ!?」

 ルーベンが牽制のため鉄の針を左手で飛ばす、すると彼の剣周辺に風が集まる。そして、風の塊でそれを弾き飛ばしながらルーベンに切りかかった。魔剣だ。接近して来た彼の攻撃を素直に剣で受けとめると鍔迫つばぜり合いになった。

「無駄だ! 貴様の道具は俺には届かんぞ!」

 彼は再び風が集まり始める。それを避けようとルーベンは腕に力を込めて剣を弾くが、風の塊が襲い掛かる。横に大きく跳んで避けるが、その風の塊は二つあり、後発に当たってしまい彼は吹き飛ばされた。周りで様子を見ていた者達がここぞとばかりに襲い掛かる。

「約束したとおり、全員だ……呆気あっけなかったと言いたいところだが……尊敬するぜ。連日れんじつ動きっぱなし……そしてハーヴィーをも相手にした後では、流石のお前も辛かろう……」

 彼が今度はルディを仕留めようと、そちらを見る。だが、ルディはまるで動揺していなかった。ジェイデン達を守りながらも、どの種類の攻撃にも冷静に対処していたのだ。

「……まさかっ」

 それに違和感を覚えた男はルーベンの方に視線を戻す。その予想通りに態勢を立て直して、何人か切り倒した後に前方に大きく跳躍した。

「ははははっ……あんたすげーなっ……だが……」

 彼も冷静に対応する。魔剣を構え風を作り出そうとする。しかし、彼は驚愕することになった。に引っ張られて尻もちをついたからだ。

「なに!」

 いつの間にか魔糸ましが足に絡みついていた。空中にいるルーベンがそのまま急所きゅうしょ目掛めがけて着地しようと落下らっかして来た。誰が見ても倒れた男が殺されると思った寸前すんぜん。男はニヤリと笑みを浮かべる。

「今だアノっ!」

 糸に絡まり仰向けになった男がそう叫んだ。その時、空中で身動きの取れないルーベンも対して、大勢の護衛の中から一人の男が前に出て来て、攻撃を仕掛ける。強力な雷を最高のタイミングで放ったのだ。彼はアノ。双子の弟だ。

 双子の兄、ルシ。不意打ちに成功した彼は、床に仰向けになったまま一瞬だけ硬直こうちょくしてしまう。先ほどまでの勝ち誇った顔を突然と崩して、怪訝な顔になった。何故ならルーベンがその不意打ちをまるで気にしていなかったからだ。

 その答えはすぐに分かった。彼は障壁魔法を使用出来る魔具を取り出してそれを使う。そして、少し大きめの障壁が作られた。

「舐めるな! 魔具程度ていどで防げるものかよッ」

 さらにルーベンは同時に数本の鉄製の針を投げて雷を拡散させて軽減した。結果的には、彼にそれが当たったがそのおかげでダメージをくらいつつも怯む事はなかった。

 不味いと感じたルシは咄嗟に仰向けの状態で剣を素早くてんにかざす。が、ルーベンはそれを避けて、着地と同時にそのまま首を一突き。彼は吐血しながら絶命する。

「兄さん!?」
「だから全員で来いって言っただろうが……」

「き、貴様! まさか……初めから分かって……っ」
「力を持った奴が、人を盾にしてずっと動かなければ誰だって警戒はする」

「う、嘘だ!? ありえない! 俺の攻撃に対処出来るはずはない! それに俺の隠密おんみつは完璧だ! バレるはずが無いんだぁぁあ!?」

「……」

 ルーベンはそれを聞いていなかった。魔剣を足で蹴ってルディの方に転がした。もしかするとアノがそれも使える可能性があるからだ。

「許さん……殺す! よくも兄さんを!? 殺した事を後悔させてやるぞぉぉぉ!」

 彼は叫びながら突っ込んで来た。剣に雷の力が集まる。そして、雷を拡散させた後にルーベンに狙いを絞った雷が四方八方から襲い掛かる。

「これでさっきの戦法は使えまい!? 死ねぇぇぇ!」

 雷が当たる寸前でルーベンの周辺に半球体の結界が発生した。

「かっ……かみなりが……防せがれ……ッ」

 刹那。ルーベンがアノを切り刻んだ。彼が倒れる直前にルディと目が合った。それを悟った。この障壁を発動させたのは。いや、彼はそれをする。

「がはっ……馬鹿な。【早打ち】は……手一杯ていっぱいのは……ず……」

 アノはそのまま倒れて絶命した。

「ぅ、嘘だ! ルシアノ兄弟がやられたぁぁ!」
「お、おい……お前から行けよっ……」
「ふ、ふざけるなっ。そっちが先に仕掛けろ……俺が援護するッ」

 軽い譲り合いの喧嘩が始まった時、奥からゆっくりとした大きな拍手が聞こえて来た。そこにいた全員がそれに耳を傾けた。

 ガリウスが安全を確保しながらも前に出て来たのだ。危機的状況で彼は嬉しそうだった。敵は攻撃を止めるとルーベン達は静かに彼を見ていた。

「ここまでの力……素晴らしいッ。実に見事だ……ッ!」

「……」

「君達に良い提案がある。報酬はジェイデンの10倍だそう。だから手を組まないか? 君達が居れば私は。いや、私はもっと上に行けるッ」

「断る」
「つまらん冗談を言ってないで、とっとと降参しろ。お前はもう何も出来ない」

「それはこちらの台詞だッ。君達はぞくだ。私が助けなければ君達がカストを殺した犯人となるのだ! そして、私を殺した場合も同じだ! もっと大きなつみを背負うことになる! 賢明な君達なら分かるだろっ?」

「とりあえず、様を付けろ……お前ごときが呼び捨てて良い人間じゃない」

「は? あの無能に『様』を付けろだと? まったくもって理にかなわない……しかし、君達はそうでは無い! 今の失言しつげんは聞かなかった事にしよう」

「お前は俺達に何を求めている?」

「……クククク、その気になったようだな。ならば教えよう。それは力。この世は力こそがすべてなのだッ。暴力、権力! 君達と私が組めばっ、容易にこの地を治める事が可能ッ!」

 だが、彼等の答えは決まっていた。

「ならば……その力を持って、俺達を従えて見ろ」

「ッ……ま、待て、そうでは! そう言う事ではっ……」

ひたいを守れよ……遅れれば死ぬぞ」
「はぁ?」

 その瞬間ルーベンは鉄針を放った。彼が反応出来るように加減をした。その言葉のおかげで彼は手のひらを出して頭部を守った。しかし、鉄針が手のひらに刺さってガリウスは転がって悲鳴を上げる。苦痛に顔を歪めながらも彼は叫んだ。

「こ、こんな事をしてただで済むと思うなよぉぉおお!」

「それはどうでもいいが……何か聞こえないか?」
「何か……だと?」

 その時、ルーベンとルディは顔と服装を突然変えたのだ。多くの人の証言が食い違えば、その噂はきっと面白い形で広がるであろう。それは一種の都市伝説となる、のかもしれない。

 そして、彼等の行動の意味が分からないガリウスは再び問う。

「何を……している?」

 足音だ。金属が擦れる音も含まれている。時間が経つごとにかなりの人数だと自然に理解できた。ガリウスは唖然としつつも、その異様さに冷や汗をかいていた。

「何だ……どうなっている!?」

 そして、が騎士団を引き連れて到着した。その第一声は力強かった。

「ガリウス……カスト卿の殺害及び国家転覆の罪により捕縛しますッ」

 それに驚いたジェイデンが思わず口を開いた。

「マリエル様? 何故ここにッ!?」

 ガリウスは驚いたが、そこで思考停止する暇は無かった。必死に弁明をする。

「……ッ。な、何の事でしょうかマリエル様っ……私はこの真犯人のぞくを捕まて……それに国家転覆などっ!!? 何の事か分かりかねます!」

「黙りなさい!? グッドマン、ノーラン、ハイメ、リオネル。彼等の証言、その他の証拠もこちらで全て押さえていますッ」

「……ち、違う! 馬鹿なっ何を勘違いされているかは知らないが、私ではっ」

「ふふ……諸侯の方々とは良き隣人になれそうです。まだ続けますか? ガリウス……」

 彼女の微笑みを見て、全てを理解したガリウス。

「くそぉ」

 彼が走って逃げようとするが、騎士団がすでにこの場を無力化しており、すぐに捕らえられてしまった。

「ラーラ様を急いで医者に!?」
「はっ!」

 ここでマリエルが安心した表情。そして、優しい笑顔を見せてジェイデンも近づく。

「ジェイデン様……大変遅くなり申し訳ございません」
「とんでもない。ありがとうございます。マリエル様……」

 この時、マリエルはジェイデンの安否を喜ぶと同時に、内心では固唾かたづをのんでいた。そして、震えていた。助けに来る前、それは最悪の状況には見え無かった。むしろガリウスが罪を擦り付ける相手に、冷静さを欠いて激昂していたのだから。

 騎士団の者がルーベン達を捕えようとした時、マリエルが止める。

「その方は今回の件の協力者です……丁重に扱ってください」
「はっ! 承知いたしました!」

 それを聞いたルーベンが近づいて来た。顔は違うが状況証拠から、この前の悪魔だろうと確信して動じないマリエルだった。

「これはこれは、お初にお目にかかります。私はジェイデと申します」
「……」

 彼女はルーベンの冗談を流した。じっと彼を見ていた。

「……冗談です。ルシと申します。嘘をついて申し訳ございません」
「……まあいいでしょう。ルシさん。今回の情報提供の件、ありがとうございます」

「ルーベンさんがマリエル様に頼んでくれたんですか!? ありがとうございます!」
「……おぃ?」

 ジェイデンが嬉しさのあまりポカをした。疲れていたのもあるだろう。それを聞いた彼女は可愛らしい邪悪な笑みをしていた。
 
「そう、ですね。それで、そちらの方は?」
「ルディと申します。この馬鹿が何か失礼な事をしませんでしたか?」

「いえいえ、とても紳士的な方でしたよ」

「それは苦労されたでしょう……心からお詫び申し上げます」

「……流石は貴方の相棒、ですね」
「ははは……」

 マリエルはルーベンを警戒していた。そして新たに警戒する対象が増えた。立ち振る舞いやちょっとした目線。ルディもまた違うくせ者だと感じていた。少し様子を見た後にルディがマリエルに問う。

「私はシルヴェスター卿が出向くと思いましたが……」

「お父様に今回の件は、全て私に任せて欲しいとお願いしましたので……」
「そうですか」

「ご不満でしたか?」
「いいえ、この短い期間での迅速な対応。予想以上の結果に、感服しております」

「……色々とお聞きしたい事はあるかと思いますが、ひとまずはここの処理をしてからにしましょうか」

【その後の処理】

 ガリウスを捕縛した後、彼等は一旦伯爵の城に泊まる事になった。いつの間にか消えるのではないかとマリエルは危惧したが、そこに向かう馬車の中で堂々と熟睡じゅくすいしていたので唖然としながらもほっと肩をなでおろす。

 ラーラとヘリュに命の別状は無かったが、長女ヘーゼルが見つからない事が気掛かりになる。今後、彼女の捜索に伯爵家も協力してくれるようだ。ナルシス団長は毒殺された後に埋められていた。カスト、ロレッラ、ナルシスとピエールは後日、丁重にとむらった。

 今回の件でジェイデンは英雄えいゆうとなった。国王から子爵の爵位を承り、ウォルデン領をそのまま継承した。新たな領主を密かに支える存在も増え、伯爵の支援もある。色々大変だが、今後に期待されている事だろう。

 ガリウス達は牢に入れられた。この後に裁判にかけられる。しかしここには古代兵器の文言は出ない。古代兵器の真偽だが、それは秘密裏に王家とウォルデン家の歴史ある書物を解析するようだ。

 そして、ルーベンとルディの名は、今回の件には存在しない事となっている。これは王族ですら一部の人間のみしか知らされていない。彼等を敵に回す事を恐れたマリエルが全力を持って隠蔽いんぺいしたのだ。彼女はに気が付いていた。貸しを作りそれを一時的だが小さな抑止力としたのだろう。

 こうして事件は幕を閉じたのである……。
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