かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第二章 オルビス大陸

第3話 少年の話

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 ルーベンはアジトに到着するとドアを開けた。すると子供の叫び声が聞こえた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! ごめんなさい! ごめんなさい! しっかり責任を持って埋葬してきますので、お許しくださいぃぃぃぃ!」

 お化けでも見たかのような反応をした少年は浄化魔法を連続で放った。腐敗などを清潔にする光系統の魔法だ。しかし、まるで効き目が無く、その恐ろしさの余り彼は気絶した。

 そのほかにも、知らない男女が居た。ジェイデン様と叫びながら駆け寄る二人。あわただしい中、ルディが淡々と言う。

「戻ったかルーベン」
「……ルディ」

 彼の名を呼んだ後、ルーベンは部屋に入らずにそのままドアをそっと閉めた。

「さて……少し早いが娼館にでも行くか……」

 その途端、もの凄い勢いでドアが開いた。彼は思いっきりドア攻撃を喰らい、その場に倒れる。

「ぐあああああああ!!」
「貴様! ジェイデン様に何をしたッ!」

 細身で軽装の甲冑を纏った女騎士がご立腹の様子でまくし立てた。彼は倒れたまま痛みを我慢して言う。

「ぐ……右腕が……デートしてくれないと治らないかもしれない……」
「知らんっ。それよりも、このお方を誰と心得るッ!」

「ウォルデン子爵の息子。ジェイデン卿だろ……」
「なん……だと……何故ほかの大陸の男がそこまで知っている! 怪しい奴ッ!」

「……それはお前達だろ。何でここでたむろってんだよ。それとそこのおっさん、見てないでこの剣を突きつけてる人、止めてくれない?」

 女騎士は紳士的な初老の男性になだめられてようやく大人しくなった。

「ルーベン、もしかして知り合いか? 話が早くて助かる」
「っなわけねーだろ……」

「それで依頼の内容なんだが」
「嫌だ。受けない」

 その即答を聞いて女騎士は怒りのあまり暴れそうだが、先ほどの初老執事がそれを鎮める。

「何故だ、ルーベン?」
「普通に考えてやばい案件だろ……誰がこのんで受けるかよ」

 ルディは仕方ないという表情になる。

「ふむ……そこの女性は美人じゃないか?」
「俺の好みは優しくて気品がある女性だ。狂暴なやつは知らん」

「なんだとぉ……」

 それに反抗的な反応を示す女騎士。そこでジェイデンが唸り声を出しながら起き上がる。

「ぅぅ……ここは……」
「ジェイデン様!! ご無事ですか!?」

 一旦、意識が戻ったばかりのジェイデンを介抱かいほうしていた。彼が落ち着くとゆっくりと話し出す。

「ルディさん。貴方が待っていた方とは……禁忌を侵した……いえ、これは呪いですか……生ける伝説、つまり不死の方だったんですね」

「違う。そいつは一応人間だ」
「一応って何だよ?」

 それには答えないルディ。何時もの冗談だ。しかし、ジェイデンが純粋に疑問をぶつける。

「で、でも貴方は……あの時、確かに冷たくなって……息も……」

「氷の魔具を使って体温をごまかしたに決まってるだろ……それに少しの間なら誰だって息くらい止められる。このあわてんぼめ」

「ああ……それでか」

 ルディは呆れながらルーベンを見ていた。話をある程度知っているのにも納得する。そこに女騎士が割り込んできた。

「つまり貴様はジェイデン様が危機的状況なのにも関わらず死んだふりをしていたと……グッドマン……やはりこの者は信用できません! ルディ殿と我々だけで十分です」

「ふむ、確かに……先ほどの反射神経のを踏まえると、然程さほど戦闘力は高くないようです。ルディ殿だけで良いのかもしれませんな……」

 しかし、ルディはそれを即否定した。

「いいや。ルーベンは必要だ。でないとこの依頼は受けない」

 それは確信に満ちた表情だった。

「し、しかし……」

 女騎士が嫌そうな感じを隠さずにそれを拒否しようとしたが執事に止められる。

「ヘリュ、今の我々には……贅沢を言う余裕が無いのも事実です」

 それを聞いて大人しくなっていく女騎士。

「そ、それはそうですが……くっ、私がもっと強ければ……わ、分かりました。その男も連れて行きましょう」

「? やるって言ってないけどね」
「貴様ぁ……子供か?」

「あ~金だけじゃー、わりに合わないなー」
「……何が望みだ」

「一日暴力無しデート」
「何だと? さっき私の事は、好みでは無いと言っていたではないか?」

「悔しそうにデートをするのを見るのも一興かな、ってね」

 ジェイデンがその嫌そうな表情を見て代案を立てる。

「ヘリュ……無理にする事はない。お金で何とか解決するから……」

 しかし、今そんな余裕は無い事は分かっている。彼女はしぶしぶ了承する。

「くっ、下衆が……良いだろう、一日……なら。今までどんな地獄を乗り越えた私なら大丈夫だ……そう大丈夫だ……」

「ヘリュ!」
「いえ、いいのです。奪還のためなら私はッ」

「おぉー、楽しみー」

 そこでルディがルーベンが来る前に軽く聞いていた事を短く話した。

「本当に受けるかどうか、依頼料の決定は詳しい話を聞いてからとして。さっき俺が聞いた依頼内容は領土の奪還だ」

「どういう事? てか何で敵さんはジェイデンを捕まえるだけなんだ?」

 ルディと話していたらジェイデンが説明しようと割り込んで来た。

「……そこまで知っていましたか。それは僕から話しましょう」


【三週間前のウォルデン領・回想】

 ジェイデンが部屋に呼び出されて入って来たところであった。

「お父様、お母様……何か御用ですか?」

「ジェイデン……最近は剣術も勉強も頑張っているそうじゃないか。ナルシス団長とヘリュも喜んでいたぞ」
「私も嬉しいわよ。ジェイデン、貴方は私達の誇り」

「ありがとうございます」

 彼はウォルデン家十代目領主、カスト・ウォルデン。父は厳しく、それでいて優しさを兼ねた素晴らしい父親。そして、母はロレッラも心がとても強く、そして誰よりも優しい女性で誇らしく思ってました。

「……すまないな、ジェイデン。まだ、幼いお前に期待を寄せてしまって」

「いいえ、とても嬉しいです。ヘーゼルお姉様、ラーラお姉様。どちらも幸せになって欲しいですから。きっと良きパートナーに出会えますよ」

「まあ、優しい子ね。フフ、あなたに似ているわ」
「いいや、この強さ。君にそっくりだよ」

「僕はお父様とお母様の子で……ウォルデン家に生まれて良かったです」

「ジェイデン……一週間後に10歳の誕生日だな。そうだ。欲しがっていた私の剣をあげよう」
「本当ですか!? 嬉しいです!」

「……その時に……大事な話がある」
「大事な話?」

「我々の一族についてだ」
「……」

「そう不安そうにするな。ほら今は報告したい人がいるんじゃないか?」

「はい! ヘリュにも教えてきます!」

 僕は嬉しさのあまり屋敷中を走り回りました。

「あ、ナルシス団長!」

 彼はウォルデン家お抱えの重黒じゅうこく騎士団の団長。彼は変わっている。数年前に戦場で大暴れした黒鉄くろがね剣士けんしを未だ探しているらしい。子供の僕にも気さくな感じで、もし兄がいるならこんな感じだろうなと思ってる。

「おお、これはジェイデン坊ちゃん。嬉しそうですね。何かありましたか?」
「聞いてください! 僕の誕生部にお父様から! お父様の剣をいただけるそうです!」

「ほう……確かにあの頃と比べて断然に強くなられた。感慨深かんがいぶかいですな。はっはっは、もう坊ちゃんとは呼べませんな!」

「もう、からかわないで下さいよ。そうだ。ヘリュを見ませんでしたか?」
「さあ? 見てませんな」

「そうですか」

「おお、そうだ。ピエールとノーランを見つけたら、私が探していたと伝えてください」
「ハハハ、またサボりですか?」

「流石は坊ち……ジェイデン卿。よく分かっておられる」

「……ナルシス団長から言われると少し照れくさいですね」
「貴方ならすぐに慣れますよ」

「お二人を見つけたら伝えておきます」

 僕は次にグッドマンの部屋に行った。彼は僕が生まれる前からこの屋敷の執事として働いている。武道の心得もあり、とても頼りになる。お父様がその力を気に入り、15年程前から仕えている。彼は仕事を手際よくこなし、そうして作った時間で綺麗な風景画を描いている最中だった。グッドマンはその中でも花を丁寧に描く。この部屋にはとても美しい花が年中咲き誇るのだ。

「おや、ジェイデン様。どうされました?」

「へへん。次の誕生日にお父様から贈り物としてあの剣を頂ける事になりました」
「ぉお。あの愛用の剣を……それはそれは。おめでとうございます。ヘリュもきっと喜びますよ」

「そうだ、ヘリュの居場所は分かりますか?」
「先ほど庭で様とお話ししておりましたな」

「そうでしたか。ありがとう、グッドマン」

 ガリウスは18年前、お母様が才能を買い雇った優秀な男だ。少し気難しいところもあるが、彼もまたお父様の執事しつじをしている。彼の息子も共に働いている。

 庭に出てみるとガリウスは居なかったが、ヘリュがいた。彼女は7歳の時に路頭で迷っている所をグッドマンに拾われた。もう13年前の事だ。彼が無理を言ってこの屋敷に仕える事が出来たらしい。ヘリュはグッドマンに鍛えられ立派に育った。僕のもっとも信頼できる家臣の一人だ。

「あれ、ガリウスさんは?」
「……先ほどお出かけしました」

「少し元気がないようだけど?」
「いえ……何でもないです」

「そうだ。僕誕生日にお父様の剣を頂ける事になりました!?」
「……おお、それは素晴らしい。ジェイデン様。おめでとうございます」

 こうして、一週間後に楽しみにしていたお誕生日の祝いにパーティーが開催された。色々な方々がお祝いに来てくれました。そこで白髪で赤い瞳の少女が近づいて来たのです。僕は美しさと儚さを併せ持った、その女性にたじろいでしまった。

「初めましてジェイデン様。クリスタル家の三女、マリエルと申します」

 彼女は伯爵の三女。体が少し弱い。しかし、聡明な方だ。そして、僕の許嫁でもある。

「ウォルデン家の嫡男、ジェイデンと申します。お初にお目にかかります。お、お話で聞いていたよりもお若いですねっ」

「あら、ジェイデン様の方がお若いですわよ」
「そ、そうでしたね! その、似顔絵よりもずっとお綺麗です!」

「まあ……そんな風にで言われたのは初めてですよ」
「え……?」

「皆は少し表情を引きつらせて言うのですよ……この容姿が余程珍しい様で。それを上手く隠しておりますが、私には分かります……一方で同じ年の子供は分かり易すくて良いですね……大人達はこんな子供のために、本心を隠し、こびへつらうのです」

 彼女は自らを嘲笑するように言った。でも、僕は其れすらも美しく見えた。

「僕は好きだよ。その髪も瞳も……」

「うふふ、ありがとうございます。ジェイデン様、ここは少し騒がしいですね」
「あちらの方に静かな場所がありますよ。マリエル様」

「それでは……少し散歩しませんか?」

 その後、僕は紳士的にエスコートして彼女を楽しませた……。緊張はしていなかったと思う。だけどこれだけは言える。彼女と一緒にいるのは楽しかったと。

 その話を聞いていたヘリュは、慌てふためく初々しいジェイデンを思い出していた。

【宴の終焉】

 パーティーが終わり、皆が帰った頃それは起こった。僕がお父様に呼び出された。大事な話を聞くために。だが、部屋に入ると。お父様は血を流して倒れていた。僕は慌てて駆け寄ったんだ。

「お父様! 一体何が!?」
「ジェイデン……か……」

「すぐに医者を呼んで参ります!」
「私は……もう……助からない……それよりも逃げろ……」

「い、嫌です。出来ませんっ」
「これを持って……これを誰にも渡してはいけない」

「な、何ですかこれは」
「これは……ぅぐっ……良いから逃げ……」

「ぅぅ……そんな事出来ません!」

 そこでドアが開き、ピエールが倒れこむように入って来た。

「お逃げ下さいお坊ちゃま。ヘーゼル様とラーラ様は……ロレッラ様が連れて逃げてます……」
「そんな……ピエールまでッ」

「ジェイデン……時間が無い……手を出せ……」

 僕が言われたままにすると、お父様は魔法陣を描き人差し指で右手の甲に触れた。

「愛していたぞ。ジェイデン……ロレッラ……ヘーゼ……ラー……」

 そして、お父様は息を引き取ったのです。僕は隠し通路から逃げました。ピエールが最後まで残り何かと戦ってくれたのです……。
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