かご喰らいの龍

刀根光太郎

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第二章 オルビス大陸

第1話 手紙の差出人①

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 とある晴れの日。ルーベンがギルドの中で座って居るとナディアに呼び出された。営業スマイルはしているが、先日の強盗事件の真相に、未だ怒っているように感じられる。

「クロウさん。今から二週間以内で採取の依頼をこなしてもらいます。ここの地方には無いハーブになります」
「……白等級でそんな事ある? もしかして、まだ怒ってるの?」

「目的地までは北の大陸なので少し遠いですが、その代わりそこまで危険はありません。それと怒ってませんっ」

 周りでコソコソと話が聞こえる。

「ついに島流しか」
「さよならー、2日くらいは忘れないよ~」
「まあまあ笑えるな」
「あ~、悲しいねぇ」
「お土産よろしく~」

 ルーベンは行きたくないと思ったので、素直に行けない訳を話し出した。

「俺、今大事な賭けをしてるから死ねないんだ。絶対に見知らぬ土地で迷子になって死ぬよ?」

「あ、その事なら事情を知ったコールさんが何故か立て替えてくれましたよ。お金はギルドで預かってます」

「…………」

 ルーベンが言葉にならない顔をしていると、周りでコールへの称賛しょうさんの声が聞こえて来た。
それを無表情で聞き流して悪あがきをする。

「危険の無い場所にあるのに、依頼がある品だろ。貿易が盛んなこの都市で、売って無い事あるの?」
「まあ、課題がある人のために、ギルド側で無理やり作った依頼ですから……」

「……いや、船賃持ってないし。宿代とかも……」
「そこはしっかりとギルド側で用意してますよ」

「あ……」
「諦めて行ってください」

 上から言葉を被せられた。ルーベンが観念したようで表情が変わる。

「分かったよ。宿代は二週間分払ってるの?」

「そうですね。それとあっちにもギルドがあります。事情は伝えてますので、何かあったら寄って下さい」

 オルビス大陸にもギルドある。しかし、それはこの大陸の依頼を受けた者の支援をするためのもので、そこのギルドでは積極的に依頼を取って来ない。そこはサングイスト王国の領土にある港町で、その王国に嫌われない程度に細々とやっている。コツコツと信用を積み重ねた結果、稀にだが国から依頼される事もある。


 そこでルディが現れて隣に来た。

「ナディアさん。この依頼を受けたい」
「オルビス大陸……港町ですか……何故また?」

「友人がそこに暮らしていてな。久しぶりに会いに行く次いでだ。二週間ほど戻れない」

「あっ。丁度そこの方も行きますので、そのついで……いえ、優先順位は最下位で良いので、もし苦痛でなければ見てあげて下さい」

「苦痛?」
「クロウさんの世話をするんですよ? 生半可な気持ちでやると酷い目にあいます……」

 彼女は自分の思い出に浸りながらそう言った。取り合えずルーベンはクロウを演じる。コンセプトはウザイ絡みらしい。

「よー、よー。初めましてー」

「お二人はお話はするのは初めてでしたか?」
「そう言えば、そうなるのか……だが、名前は知っている……気が向いたら相手にしてやる」

「へい! へい! へい! いえ~い」

「五月蠅いですよクロウさん。それで構いません。助かります」
「へい! へい! へい!」

「……船から人が落ちる事故っていうのは多いらしいな、クロウ」
「ハッ、有名人が落ちるとか、その絵は高値で売れそうだなー」

 そんな事をしていると周囲の人達がルーベンをじっと睨みだす。

「お、お願いですから、喧嘩……しないでくださいよ?」


 こうして彼等は北の大陸、オルビスに向かうのであった。ファクティスからはそこに行く船は出て無いので、まずは北西の港町、テュラーで船に乗る。現地集合だ。

 翌日、ルーベンは船乗り場に着いた。すでにルディもそこにいた。彼等は個々で動いて到着した。そこそこ大きな船がある方向に船長と思われる男がいた。ルーベンが少し楽しそうだった。

「貴方が船長だな。西ファクティスのギルド所属、コールだ。よろしく頼む」
「話は聞いてるよ。任せてくれ」

「同じくクロウだ。よろしくな」
「おお! 君がか! 色々と話は聞いているよ。見たまえ!」

 彼が船の隣、海面の方を指刺すと、海にサーフボードほどの大きさで、長方形に加工された板が浮いてあった。その辺の一カ所に小さな穴を空けて、そこにロープを通していた。そして、船長が良い笑顔でロープを渡してくれた。

「どういう事?」
「さあ? 俺は言われたとおりにしただけだ」

「……無理だろ。普通に死ぬぞ」

「はっはっは! 冗談だよ。その板を持ってから、この船に乗り込ませて欲しいと直接交渉に来たんだ。ユニークなだったよっ」

「最高に怒ってんな……」

「馬鹿が……お前どれほど怒らせたんだ……」
「いや……服は脱がせようとしてないんだよな……」

 その後、彼等は木製で、良い感じの大きな船に乗り込んだ。
本日は晴天。船の上は広く風が心地よい。優しい波の音に耳を傾けている間に、どんどん港町が小さくなっていく。

 いつの間にかルディが釣りを始めていた。ルーベンも道具を借りて隣に座った。防音と認識阻害の魔具を発動させる。

「向こうの大陸は美女が多いらしいっ。楽しみだ!」
「それで昨日までとは違って元気なのか……呆れた奴だ」

「お、そうだ。お金を払ってくれた件、ありがとよ」
「はぁ? 普通に依頼料から引くぞ。何言ってんだお前?」

「……どうせそうなるなら。何でわざわざ接点が無いのに払ったんだよ」
「ほっといたら永遠に払わんだろ」

「ふーん、納得。で、何で来たんだ?」
「依頼だ」

「だと思った。それでどんな依頼だ?」
「少し前に手紙が来た。内容は合流してから話すそうだ」

「受けるのか?」
「話を聞いてからだな。依頼料はかなり高額……」

「はぁー、そいつは嬉しいね……」
「察しの通り厄介そうだな。お前ならギルドの依頼は二時間もあれば終わるだろう。早く終わらせろ」

「面倒な……」

「そう言うな。ナディアさんはお前の重要性を上に報告して、その依頼を提案したんだからな。定期的にお前の処分が話題になるようだ」

「それは嬉しい事を……後でちゃんとお礼言っとくよ」
「そうだな」

「おい、ルディ」
「何だ?」

「引いてるぞ」
「おっ。来たか……ッ」

「慌てんなよっ」
「俺がそんなヘマするかよ!」

「でかいぞ!」
「分かってるっ」

 彼等は港町、オスティウムに向かうまで釣りを楽しむのであった。そして、翌日の午後過ぎに彼等は港町に到着した。港町の陽気な雰囲気を感じながらルーベンは背伸びをする。

「良い感じに賑わってるな」
「そうだな」

「こっからどうすんだ?」
「アジトの場所だ」

 ルディが簡易な地図を渡して来た。ルーベンはそれを見るとすぐに返した。

「何時の間に」
「少し前に下見に来た。俺の方は一時間もあればギルドの依頼は終わる。先に行ってるぞ」
「りょーかい」

 ルーベンは最初に酒場に足を運んだ。周りを少し見て、少し怪しめの男を発見し、それに話しかける。

「この辺でさぁ。情報屋してる人っている?」
「……偶然だな。俺がそうだ」

「それは助かった」
「何が知りたい?」

 ルーベンはギルドからもらったハーブの絵と地図を見せる。

「近場でこれと同じハーブがある場所知らない?」
「かなり遠くだな。くっくっく。あんた意地悪でもされたのかい?」
「安全を考慮したそうだ」

 そこでルーベンはオノールをちらつかせた。それを目にした男は表情を変えないまま話し出す。

「ん? あんたは戦えないのか。確かにそう言う理由ならここが最善だ。近場はやめて置け。結構厄介な魔物が出るぞ」

「ふーん。俺はあんたが気に入った」

「何だそれは。安くしないぞ……それを貸しな描いてやろう。生息する魔物もサービスだ」
「助かる」

 ルーベンは地図をもらうとオノールを渡した。すると彼は少し嬉しそうに言った。

「……あんた、面白いな」

「それとファクティス西のギルドにハーブを届けられる?」
「いいぜ。銀貨一枚もらったんだ。現物を持って来れば俺がそれをしてやる」

「信用してる」

 さらにルーベンはもう一枚銀貨を渡した。

「これはこれは、上客だな。お前さんの名は?」
「クロウだ。最後に……護衛を雇える場所はあるか?」

「ここから西のでかい建物がそれだな、割と早く対応してくれるだろう」
「ありがとな」

「へへへ、そうだ。上客に注意事項だ」

 彼が紙を渡して来た。

「何だ?」

「これは10年くらい前だったかな……凶悪な指名手配だ。名は……ウィルヘルム……」

「結構な懸賞金だな」
「連続殺人犯だからな……死体は毎回酷いモノだったよ。とにかく恐ろしい男だ」

「掴まってないのか?」

「突然現れなくなったから魔物に食われたと噂はあるが……ひと気のない所に隠れている可能性もある。気を付けろ」

「ありがとよ」


 ルーベンはそこから出て行くと、教えてもらった西の建物に入った。何人かの女性に声をかけると彼はそこから出て来た。そして、彼は適当に歩いて路地裏に入ると一人で目的地を目指した。

 彼は不気味な森の中へと入る。魔物が何体も出て来たが彼はそれを瞬殺していく。次第にそれを感じとった魔物が彼から離れて行って寄り付かなくなった。しばらく走っていると彼はそれを発見する。

「あった、あった」

 彼はハーブを適当に採取し、小さな木箱にそれを放り込む。

「さて、帰るか……」

 その時、彼はピタリと止まった。すると素早く茂みに隠れて耳を澄まし集中する。すると彼はその場に倒れ、動かなくなった。この時、彼はクロウではなくなったのである。



☆☆☆☆☆☆☆

「かご喰らいの龍~」をお読みいただき、ありがとうございます。

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