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第6話 喰えない男①
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バークリーの屋敷で依頼をこなした翌日の晩。ルーベンは嬉しそうに小さく飛び跳ねながらアジトへと向かい部屋のドアを開ける。ルディは窓の外を見ながら酒を片手に上機嫌だった。グラスには氷が入っていた。
その氷はルディの魔法で出したモノでは無い。それ用に買った氷を箱型の魔具に冷やして保存してあるのだ。氷を出せる者が氷を買って保存するのは可笑しな事だが、美味しい氷を作る職人が居てそこから買っているのだ。
「ルディ。今日は星が綺麗だなっ」
「……曇りだったぞ」
ルディは振り返らずに言う。
「最近、ピィピ見ないけど、あいつ元気!?」
「元気だ。あとリィな。だから嫌われるんだ」
「はぁー、嫌われてるのか。それは悲しいなー!」
「ほら、これが欲しかったんだろ」
ルディが袋を投げるとそれを満面の笑みで受け取る。昨日の報酬を依頼主から受け取ったのだ。
「待ってましたっ」
「依頼は四日くらいは受けない。どうせここに来ないだろうからな」
「さっすが相棒~」
彼はアジトから速攻で離脱した。
本日は晴天。心地よい風が吹くそんなお昼時、四日ぶりにルーベンはギルドに顔を出した。それに気が付いた男が話しかける。
「お、雑草か。生きてたんだな」
「当たり前だろー」
先日の依頼でかなりの資金が入ったためルーベンは遊びまくっていた。
「そうだ、借りてた金」
上機嫌な彼はその男に借りたお金を返そうと腕を伸ばす。
「お、お前……死ぬのか?」
「……俺は律義な男なんだよ」
「冗談だよ。って銀貨二枚もか!」
「利息分だ。もらっとけ」
「へへっ。サンキュー。これだからお前に貸すのはやめられねー」
他の男が顔を引きつらせながら、それに忠告する。
「やめとけ。何時返って来るか分からん。今回は運が良かっただけだ」
「うへへへ、それも含めてやめられねーんだよッ」
「駄目だこいつ……」
「そう言えばクロウ。ナディアちゃんが探してたぞ」
「どうやら寂しい思いをさせたようだな。ちょっくら行って来る」
「その自信は何処から来るんだよ……」
受付に向かうと彼は良い感じの表情で挨拶をする。
「ナディアさん。一緒にお昼でもどう?」
「あ、クロウさん。丁度良かったです」
「それは良かった。俺達って気が合うな。じゃあ、そっちの休憩時間までそこら辺で時間を潰しておくから」
「いえ、早く草むしりをしてください。何時ものおばあちゃん、楽しみにしてましたよ」
「……たまには新人にね。だから残しておいた」
「なら、貴方は討伐の依頼など、少しは難易度の高いのをこなしてください」
「……さて! 討伐の依頼を選らんで来よっと」
「……? そっちは外ですけど? あの? ちょっと? ちょっと待ってください! 待ちなさいッ!」
彼は外に吸い込まれて行った。
「……まったく。何とかならないでしょうかね」
隣に座っている同僚の女性が可哀そうな眼差しを向けて言った。
「そろそろ匙を投げつけても良いと思うけどね……」
ルーベンは女性に声をかけるも全て失敗していたので適当に散歩していた。するとナディアが店に入って行くのが見えた。カフェのような店だ。彼はその店に入る事にしたのだ。
カウンター席が無かったのかテーブル席に座っているナディアを見つけ無断で相席する。
「綺麗な内装。良いお店だね」
「……クロウさん。何でここに居るんですか? というか勝手に座らないでください」
「席が空いてなくて」
ナディアが周りを見ると確かに空いていない。ため息をつきながらもそれ以上は言及しなかった。沈黙を壊すように彼が話しかける。
「調子悪いの?」
「丁度今、そうなりました」
「それは心配だ。早く仕事を切り上げて休養を取るのが良い」
「……そこまでではありませんよ」
「それは良かった。ん? その花の髪飾り可愛いね。彼氏に買ってもらったの?」
「自分で買いました。何か文句でもぉ?」
「へー、センス良いね。たしか花言葉は希望、信頼、強運、情熱、輝くばかりの美しさ、だったね」
もちろんルーベンは適当に花言葉を言っている。ただし、花言葉は間違っているが、ナディアの性格に多少重ね合わせている。ナディアは自分の記憶と相談するがすぐに答えは出て来ない。
「……ん~。そうでしたっけ? というか花が好きなんですか?」
「うん、好きだね」
「へー、どんな花が好みなんですか?」
「ナディアって花があってね。俺を幸福にする花さ」
「……何ですかそれ……何も注文しないなら出て行ってください」
「すいませーん、注文お願いしま~す」
ルーベンは店員に注文をする。同じころに彼女が注文していた飲み物が届く。それはコーヒーに近い飲み物だ。
「お昼食べた?」
「ええ、食べました。まだ休憩時間があるので、ここにくつろぎに……」
「そんなに疲れてるのか」
「誰のせいですか? ……そういう貴方は何故ここに?」
「ギルドの皆と同じさ」
「はい? 皆ですか?」
「俺も疲れたからナディアさんに癒されに、ね」
「……はぁー。口がよく回りますね」
そこで彼が注文していた紅茶に似たモノが届いた。
「あ、どうも。ありがとうございますー」
「意外。そういう時はお礼を言うんですね」
「え、普通だろ?」
「ぅ……はい、そうですね……」
クロウの日頃の様子を見ていたらその言葉は当然だったのかもしれない。そこで、ふと漂って来る優しいモノに彼女は気が付いた。
「あら? いい香り」
「ああ、これ? 疲労回復や緊張をほぐす効果があるって。ナディアさんが調子悪いって言ってたから、香りだけでもと」
「今日、何か悪い食べ物でも口にしました? 何か気持ち悪いですよ?」
それに対するルーベンからの返答は無かった。何故なら。
その氷はルディの魔法で出したモノでは無い。それ用に買った氷を箱型の魔具に冷やして保存してあるのだ。氷を出せる者が氷を買って保存するのは可笑しな事だが、美味しい氷を作る職人が居てそこから買っているのだ。
「ルディ。今日は星が綺麗だなっ」
「……曇りだったぞ」
ルディは振り返らずに言う。
「最近、ピィピ見ないけど、あいつ元気!?」
「元気だ。あとリィな。だから嫌われるんだ」
「はぁー、嫌われてるのか。それは悲しいなー!」
「ほら、これが欲しかったんだろ」
ルディが袋を投げるとそれを満面の笑みで受け取る。昨日の報酬を依頼主から受け取ったのだ。
「待ってましたっ」
「依頼は四日くらいは受けない。どうせここに来ないだろうからな」
「さっすが相棒~」
彼はアジトから速攻で離脱した。
本日は晴天。心地よい風が吹くそんなお昼時、四日ぶりにルーベンはギルドに顔を出した。それに気が付いた男が話しかける。
「お、雑草か。生きてたんだな」
「当たり前だろー」
先日の依頼でかなりの資金が入ったためルーベンは遊びまくっていた。
「そうだ、借りてた金」
上機嫌な彼はその男に借りたお金を返そうと腕を伸ばす。
「お、お前……死ぬのか?」
「……俺は律義な男なんだよ」
「冗談だよ。って銀貨二枚もか!」
「利息分だ。もらっとけ」
「へへっ。サンキュー。これだからお前に貸すのはやめられねー」
他の男が顔を引きつらせながら、それに忠告する。
「やめとけ。何時返って来るか分からん。今回は運が良かっただけだ」
「うへへへ、それも含めてやめられねーんだよッ」
「駄目だこいつ……」
「そう言えばクロウ。ナディアちゃんが探してたぞ」
「どうやら寂しい思いをさせたようだな。ちょっくら行って来る」
「その自信は何処から来るんだよ……」
受付に向かうと彼は良い感じの表情で挨拶をする。
「ナディアさん。一緒にお昼でもどう?」
「あ、クロウさん。丁度良かったです」
「それは良かった。俺達って気が合うな。じゃあ、そっちの休憩時間までそこら辺で時間を潰しておくから」
「いえ、早く草むしりをしてください。何時ものおばあちゃん、楽しみにしてましたよ」
「……たまには新人にね。だから残しておいた」
「なら、貴方は討伐の依頼など、少しは難易度の高いのをこなしてください」
「……さて! 討伐の依頼を選らんで来よっと」
「……? そっちは外ですけど? あの? ちょっと? ちょっと待ってください! 待ちなさいッ!」
彼は外に吸い込まれて行った。
「……まったく。何とかならないでしょうかね」
隣に座っている同僚の女性が可哀そうな眼差しを向けて言った。
「そろそろ匙を投げつけても良いと思うけどね……」
ルーベンは女性に声をかけるも全て失敗していたので適当に散歩していた。するとナディアが店に入って行くのが見えた。カフェのような店だ。彼はその店に入る事にしたのだ。
カウンター席が無かったのかテーブル席に座っているナディアを見つけ無断で相席する。
「綺麗な内装。良いお店だね」
「……クロウさん。何でここに居るんですか? というか勝手に座らないでください」
「席が空いてなくて」
ナディアが周りを見ると確かに空いていない。ため息をつきながらもそれ以上は言及しなかった。沈黙を壊すように彼が話しかける。
「調子悪いの?」
「丁度今、そうなりました」
「それは心配だ。早く仕事を切り上げて休養を取るのが良い」
「……そこまでではありませんよ」
「それは良かった。ん? その花の髪飾り可愛いね。彼氏に買ってもらったの?」
「自分で買いました。何か文句でもぉ?」
「へー、センス良いね。たしか花言葉は希望、信頼、強運、情熱、輝くばかりの美しさ、だったね」
もちろんルーベンは適当に花言葉を言っている。ただし、花言葉は間違っているが、ナディアの性格に多少重ね合わせている。ナディアは自分の記憶と相談するがすぐに答えは出て来ない。
「……ん~。そうでしたっけ? というか花が好きなんですか?」
「うん、好きだね」
「へー、どんな花が好みなんですか?」
「ナディアって花があってね。俺を幸福にする花さ」
「……何ですかそれ……何も注文しないなら出て行ってください」
「すいませーん、注文お願いしま~す」
ルーベンは店員に注文をする。同じころに彼女が注文していた飲み物が届く。それはコーヒーに近い飲み物だ。
「お昼食べた?」
「ええ、食べました。まだ休憩時間があるので、ここにくつろぎに……」
「そんなに疲れてるのか」
「誰のせいですか? ……そういう貴方は何故ここに?」
「ギルドの皆と同じさ」
「はい? 皆ですか?」
「俺も疲れたからナディアさんに癒されに、ね」
「……はぁー。口がよく回りますね」
そこで彼が注文していた紅茶に似たモノが届いた。
「あ、どうも。ありがとうございますー」
「意外。そういう時はお礼を言うんですね」
「え、普通だろ?」
「ぅ……はい、そうですね……」
クロウの日頃の様子を見ていたらその言葉は当然だったのかもしれない。そこで、ふと漂って来る優しいモノに彼女は気が付いた。
「あら? いい香り」
「ああ、これ? 疲労回復や緊張をほぐす効果があるって。ナディアさんが調子悪いって言ってたから、香りだけでもと」
「今日、何か悪い食べ物でも口にしました? 何か気持ち悪いですよ?」
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