約2935回の呪いをかけられた最弱女剣士。ヒロインと出会い最強無双の魔法剣士へ~暗殺を企てておいて、今更助けを求められてもね~

刀根光太郎

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23話 有名人

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【翌日】


 酒場で早めの昼食を食べる三人がいた。
その中の一人は場違いなほど高価な服を身に着けていた。
そこに一人の男が近づく。それを見た他のテーブルの男たちは笑っていた。

「お、また殴られに来た。何回目だ?」

「さあ? 忘れた」


 男は緊張しながらも声を絞り出す。

「ア、アルマさん! ぼ、僕と付き合ってください!」

「え? 僕とド付き合って下さい? 
まずそっちから殴って来て。
その後、私が全力で殴るから」

「すみませんでした!」

 男はそそくさと帰って行った。
もう一人、男が酒場に入って来る。
目的の女性を発見すると近づいて来た。

「アルマさん! 俺と結婚してください!」

「え? 俺に鉄拳制裁ください?」

「すみませんでした!」

 見事なフットワークで帰って行った。

「そろそろ出ようか」

「そうですね」

「次は何処行くの?」

「カレンが行きたいところ」


 そんな時、上品な身なり。金髪碧眼の美男子が、
酒場に入って来た。誰もがその姿に目を奪われた。

 男は、タンゴのような情熱的なステップで近づいて来た。
膝を付き。床を見つめ、目を閉じる。
そこで思いを今一度込める。
そして、それを想いを解放し、
詠うような美声を放つ。

「この様な場所で出会うとは、何という運命……アルマ嬢……僕と」

 僕のタイミングで顔を上げ、アルマを見つめる。
しかし、そこには誰も居なかった。誰かが言う。
彼女ならもう会計済ませて行ったと。

 数秒前、店員はアルマに言った。
お会計は銅貨二枚だと。クリステルが言う。
金貨しかないと。
アルマが代わりに銀貨1枚を支払う。
ちょっと騒がしくしたので、
お釣りは要らないと言って出ていった。


 コミカル男は急いで外に出て行った。
先ほどの会計のやり取りを思い出した客は言う。

「いやー。貴族連れてるうえに、
優勝して銀貨一枚とかの金銭感覚が地味に可愛いよなー」

「俺だったら調子に乗って金貨出してたわー」

「あ~上目遣いでチュポチュポ奉仕してもらいてー」

「……本人の目の前でそれを言った時にはぁ、
俺はお前と友達を止め、暫く教会に匿ってもらうぞ」


「わ……分かってるって……冗談だよ冗談……ハハハ……」




 歩いていると、背後から金髪の男に声をかけられた。
何故か息を切らしていた。

「はぁ……はぁ……はぁ……あのですね……僕は謎の男っ……アルフレッド!!!」

 アルマは誰だろうと思った。
クリステルは気が付いた、殿下だと。
カレンは思い出した。昨日陛下の横に居た人だと。

 そこで、知らない男が会話に割り込み突如叫んだ。

「アルマさん! 結婚してください!」

「全力の鉄拳100発耐えたらいいよ」

「すみませんでした!」

 男は流れるように去って行った。


「……」


 少しの間、沈黙の時が流れた。アルフレッドは言う。

「アルマ嬢……僕に見覚えがありませんか? 昨日……あの時……運命の!」


「?」


(あ、殿下……日和った)(誰?)(謎の男。偉い人かな?)


「……おと……陛下の隣にいたっ……」 

「え? 陛下の隣に誰かいたっけ?」


「……」


(殿下、もう無理です……アルマはカレンと遊ぶ事しか考えてません)(?)(分かった! 王太子様だー)


「実は……僕は……何と……この国の王太子! アルフレッドなのです!」

「あっ、そういう。
あー、アルフレッド王太子殿下こんにちは。
私たちは用事があるのでー」


「っちょっと! 待ってくださいぃ、アルマ嬢……僕と婚」

「え? 私に用事……もしかして内乱の計画? 
ごめんなさい、ちょっと無理です」

(それはそうですよ殿下……色々と無理があります)


 王太子が急に本妻または側室したいとなるだけでも大事件になる。
それが平民となればなおの事。
しかもただの平民では無く、武力を持ち合わせている。
王族、貴族、平民のすべてが不穏に感じ、
少なからず争いの種がまかれる事になるだろう。


「……たッ、確かに……運命を信じる余り、
少々短絡的になってしまいました。
それでは今度パーティーにご招待します……
そこから始まり、紡がれる詩も、また素敵かと……」


「誰が出場するんです?」


(アルマは戦いたいのね……)


「……き、貴族とのパーティーにご招待しましょう」


「領主様かー。よく分かんないけど、
辺境伯とか籠城戦が強そうね! ね、カレンっ」

(アルマ、それは色々と前提がおかしい……)

「うん! 次は負けない!」


 殿下は思った。わざとなのか天然なのか分からない、と。
どう返すか迷うアルフレッド。
そこで、従者という名の追手に捕まった殿下は抵抗も虚しく、
王宮へ連れ戻されていった。
去り際に諦めない的な事を言っていたが、
アルマには届いて無かった。

「大変ねー。従者の人」

「そうですねー……」


 歩いていると見知った男に出会う。

「あ、ラファルコン」

「繋げるんじゃねぇ……ッ」


「思ったよりも軽傷ね。流石はオリハルコンってところかしら。それじゃあね」

 去ろうとするアルマを見ると慌てて、
ツンとした様子で話し始めた。

「ふん……言って置くことがある」

「なに?」

「ゲルデと取引をしたあいつはクビにした……くそ! 
最近はあんなに頑張ってやがったのに、くだらねぇことに手を出しやがって!」

(……? それは残念ね)

「それと……仲間から聞いたぜ。俺を倒した時、俺のために会場中を敵に回したらしいな……
余計な事しやがって……まあでもその御かげか……
名声に傷がつく事もなかった……だが俺たちはそんなので満足はしねぇ。
パーティーはまた一からやり直す事にした……ふっ。久しぶりだ。こんなに高揚したのはよぉ……
結成時を思い出す」

(なんか聞いても無いのに語り出した……しかもなんか違うし)

「いや……それは」

「わぁってるッ。おま……いや。
アルマより強くなってからだろ? 
今より強くなって迎えに来るッ……じゃ、じゃあな!」


 彼は一人でなにか納得したらしく。去って行った。
カレンは幼いながらに何となく思った、
意識を失った彼はあれを見ておらず、
自分の発言の無謀さに気が付いていない。
彼とはもう二度と会う事はないだろうな、と。


 クリステルは悲しんでいた。自分に声がかからないことに。
了承するかはおいて、声くらいはかけられたいと思った。
そんな時、優しそうな男が現れた。

「あ、もしかして! クリステル嬢! 
ち、近くで見ると美人ですね。あの!」

「は、はい……!」

「大会凄く盛り上がりましたね! 最高でした! また主催やってください!」

「はい! 何時か必ず!」

 男は去って行った。クリステルはそれを笑顔で見送りながら思った。

(なんかちょっと違う……)



 カレンの好物、
甘い棒状の食べ物を口に入れながら、
都市を歩く。
すると怒鳴り声が聞こえる。
ゴロツキが女性に絡んでいた。

(まだお祭り中とはいえ、騒ぎが多い所ね)

 しかも、よく見ると大会前日のゴロツキ。
止めるために前に出ると、
アルマと言う名前がちらほらと聞こえてくる。
女性の黄色い声が上がる。
ゴロツキがこちらに気が付いた。すでに後退りをしていた。

「ぉ……ッ」

 偶然大会前日もいた一般市民が叫んだ。
ゴロツキはそれに耳を傾けた。

「で、出るぞ! あいつはオリハルコンにも関係なく立ち向かう危険な輩だ! 
きっとシルバーの塊に変えてやるぞ! とか言い出して挑むぞ!」

「おおおお!」


「ッ……!?」


 刻一刻と近づく。
ゴロツキは女性の方に向き直して必死に叫ぶ。

「さあ! 俺を殴れ! パーじゃなくグーでだぁぁ!!!」

「ぇえ!」

「はぁッ! 早くしろ!!」

 女性が訳も分からずに、ゴロツキを殴る地面に転がる。
そして震えた声で叫んだ。

「う、うわぁぁぁ!!!? か、勘弁してくれぇぇ!」

 ゴロツキは被害者になり、そのまま逃走した。
その場にいた人たちは、その機転に感心していた。
ゴロツキはそれ以降大人しくなったそうだ。
後に彼は仲間に語った。
あの時、俺の頭は一生分の回転をしていたと。

 何もしていないけど、
女性が握手を求めて来たので、
取りあえず右手を出した。
するとお礼を言いながらギュュと手を握られる。
顔が赤かった。それはそうだ。
あんな変なのに絡まれれば誰だってそうなる。


 さらに歩いていると痴話げんかが聞こえた。

「ほっんと! 信じられない! 私を担保にするなんて!」

「そ、それは謝る!」

「五月蠅い! 離婚よ離婚!」

「そ、そんな! ちゃ、ちゃんと当たったんだ……銀貨20枚が……」

 急に小さくなる声。女性はそれが嘘だと思った。

「はぁ? 金貨20枚借りて、たったそれだけ? ふざけてるのっ? 
それで、金貨3枚になった? それとも4枚? それで満足なの? さいってぇッ!」

「1028枚だよ……大きな声じゃ言えないけど……」

「……え? 何言ってるの? う、嘘ついて誤魔化す気ね」

「だ、だって……君はここにいるだろ? あと1000枚残ってるぅ……」

 彼女耳元で囁くように言う。

「……いや……ちょっと? そんなことある?」


 その時、その二人に関わりの無い声が別の場所から聞こえる。

「あ~あ。俺もアルマに賭ければ2057倍だったのになー。まじでもったいなー」

「はぁー。時間戻してぇーー。当たった奴見つけたら奢って貰おうぜー」

「だなー」


 男たちは去って行った。女性は計算した。
すると女性は猫撫で声を出して言った。この間僅か8秒ほど。

「ダーリンっ愛してるわっ。何時までも一緒に居ましょうねっ」

「嗚呼! 信じてくれたのかい! マイハニー!」


 イチャイチャしながら歩いて行く。
彼等はこれから甘い夜を過ごすのだろうか。


 あっという間に夜になり、宿に戻る。
クリステルがソワソワとした後に言う。

「アルマは帰ったらどうするの?」

「何時も通り。依頼をこなすよ」

「もう十分なお金があるじゃない?」

「お金はあっても、困ってる人はいるでしょう?」

「なるほど。じゃあさ。今まで通りの宿に?」

「当たり前じゃない。まだ家作れないでしょ?」


「それならさ、私の屋敷に来ない? 家が完成するまで! 
もうアルマは有名人だから普通の宿だと面倒よぉ~」

「……確かにそうね。カレンはそれでも大丈夫?」

「うん! クリステルのお屋敷楽しみ!」


 クリステルはこそっと嬉しそうに拳を握る。

「今日は寝ましょうか」


 背後に回り込むと背中を押された。
倒れないので数回押す。
さらに体重をかけて押して来たので、
腰を下ろしてベッドに入る。
するとクリステルもベッドに入って来た。
カレンもベッドに飛び込んで来た。

「狭くない?」

「いいのいいの」

「いいの~! いいの~!」

 そのまま三人でぐっすりと寝た。

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