約2935回の呪いをかけられた最弱女剣士。ヒロインと出会い最強無双の魔法剣士へ~暗殺を企てておいて、今更助けを求められてもね~

刀根光太郎

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27話 スタンピード(2)

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 【ドラゴンスレイヤー】と【スカーレットフラワー】が、
前に出る。範囲の広い高火力な魔法、魔剣で正面を攻める。
【ゴールドキング】や【フォーリングスター】は目にも止まらぬ速度で、
各個撃破をしていく。

「お前等! もっと気合を入れろ! ここで如何に食い止めるかにッ、
王都の未来がかかってんだぁッ!!」

「「「「うぉおぉぉお!」」」」


「限界以上を引き出せ!」

「俺たちが全部倒すつもりで突っ込め!!」

「「「「「うぉおぉぉお!」」」」」


 戦いながらもさらに士気をあげて挑む。
しかし、それも虚しく、どうしても全てを排除しきれない。
彼等の防衛を抜けた何体かの魔物が、第二ラインまで近づいて行く。

 最前線が抑えてくれている御かげか、
そこは何とか処理出来ている。

 薄々は気が付いている。
オリハルコンパーティーが少しでも崩れれば終わる。
だが、誰もその事には触れない。
ただ、自分が出来る事を。
愚直に、ひたすらに目の前の魔物を狩り続ける。


 戦闘が始まり、時間が経つと次第に魔物がまばらに、広がり始める現象が起きた。

「ちっ、そこまで手が回らねぇ! ニコラス!」

「俺たちも余裕が無い! 他は!」


 他のリーダーも首を横に振る。
最強のパーティーが他のリーダーに助けを求めるくらいに、
追い詰められていた。

 その時、騎士団の騎馬隊が飛び込んで来た。
リーダーたちはそれを見て、口元を少しほころばす。
いい仕事だと、騎士団の団長を称賛する。

「私は赫月騎士団、団長ブライアン。加勢する!」

「……確かハディントン伯爵のとこの。良い判断してるッ!!」


 軽い挨拶を終えると速やかに助功に似た動きを取る。
用途は違うが、臨機応変に動けるのは日頃の訓練の賜物だろう。
逆側。左には副団長のケヴィンが指揮をしていた。

 いい流れが出来ていた。
だが、千五百を倒した頃、彼等は疲労を隠せなくなる。
倒しても倒しても留まる事は無い魔物の群れ。
第二ラインは崩れ、最終ラインもすでに戦闘を始めていた。

「もっと全力で止めろぉぉお!」

 しかし、そう叫んだニコラスが膝を付いた。

「な……に……」


 自分が何故膝を付いているのかも理解出来ていない。
自身でも気が付かない程に体力を、魔素を酷使していた。
魔物が向かって来ている。間一髪、ラファエルが彼を救った。

「くッ……俺がッこんな失態をッ」

「離脱しろっ。後は俺達が」

「ふざけんな! 俺はオリハルコンだッ。そんな真似が出来るか!」

 そこでリーダーですら対処できない事実を見た【スカーレットフラワー】の面々、
いや、ここにいるパーティー全体の士気が落ちてしまった。
これは彼のせいでは無い。
ラファエルも、他の二人もやせ我慢をしているだけで、
すでにボロボロであった。
張り切りすぎた彼が少しだけ、誰かよりも早かっただけのこと。

「クソ! 離せ! 戦わせろ! 突破されされるぞ! 
ここで食い止めないと王都がぁ!」


 下っ端がこの場から強制離脱させようとニコラスを掴む。
その下っ端を振り払う力すら残ってない彼は必死に抵抗する。
そんな時、最終ラインで喊声が鳴り響く。

 この状況だ。彼は見たく無かった。
最終ラインが落ち、王都が壊される光景が、
最初に頭に浮かんだ。

 しかし、それは違っていた。


 そこには子供を連れた女がいた。
黒い刃が地面から大量に突き出ていた。
それが魔物を全て貫いているのだ。


 その瞬間、空気が変わる。
この喊声。
まるで開戦前、
魔物と接触する前のような気合に溢れたものであった。
ニコラスは呟いた。

「なにが……」


「ちっ。俺一人でも十分だったのによぉ」

「嗚呼、間に合ったんだね」

「アルマ……今、空から来なかったか?」

「跳んだんじゃないか?」




 竜を討伐した後、手紙が届いた。
王都に来て欲しい。
危険度プラチナのスタンピードが起こっていると。
なのですぐに魔馬を近くに街に預けて、
カレンを抱え全力で走った。
山とか谷とかは関係ない。
ただ、王都へ一直線に走る。

 そして、王都が北門が見えた。
どうやら南側でそれはおきているらしく、
急いで門を飛び越える。

 さらに、南門に着くと、大きく跳躍をした。
空から状況を全て把握し、
影の刃で第二ラインを突破している魔物全てを撃破した。
カレンも風魔法で何体か倒す。
着地するとカレンを下ろした。


 ニコラスは驚く。
さっきまで遥か後方にいた者が、
すぐ隣まで来ていたからだ。
それが近づいたと同時に、
影の刃が周りの魔物を蹂躙する。


「ッ……」


「お疲れ様。後は私がやるわよ」

「走って来たのかよ。アルマこそ、疲れてんじゃねぇのか?」

「そこそこに。でも、休んでる場合じゃない状況だし」


 そう言って、超スピードで走り出した。

「誰なんだ……あれは……ッ」

「ギルド対抗戦、あの大会の優勝者だ……」

「奴が!?」


 ラファエルが口元を僅かに広げていた。

「ふん。またアルマの戦いを見れるとは光栄だな」

「いや、ラファエル。お前見るの初めてだろ……」

「瞬殺だったからね」

「……黙れ」





(多い。予想以上ね)


 影の攻撃は便利だ。
誰一人傷つけずに魔物を全て撃破出来た。
速度も威力も申し分ない。
しかし、魔素の消費が凄い。それなら。
今持っている剣を左手に持ち替える。


(今なら聖剣を制御出来る。密かに練習したんだからっ)


 鞘からそれを抜くと光り輝く。
それだけで周りの魔物が何十体も絶命した。

(相変わらず凄い剣ね……)


 力を込めて、魔力を込めてただ剣を振るう。
一閃。それだけで魔物が次々と消滅していく。
大雑把に聖剣で倒し、細かいのを闇の刃で蹴散らす。


 彼等は魔物が蹂躙されていく様をただただ見ていた。
暫く経つと、アルマは何事も無かったかのように歩いて戻って来た。
背後では皆がアルマを称えていた。


 ボロボロのニコラスは多少、回復したのか自分で立ちあがる。

「うおおおおお!! 尋常に勝負しろ! 勝った方が優勝だぁ!」


 そう言いながら襲い掛かって来た。
両手には剣を持っているので蹴りで対応した。
ニコラスは吹っ飛んだ。彼は意識を失う。
強力なヒールキックだったので、
ニコラスは肉体的にはかなり元気になった。

「あ、ごめん……よく分からないけど蹴っちゃった。誰だっけ?」

「気になさらず……きっと錯乱していたんだろう。
眠らせるのが適切な処置かと」

「馬鹿が。万全な状態でも無理だっての」


 アシュリーが軽く教えてくれた。

「彼、オリハルコンのパーティー。【スカーレットフラワー】、ニコラス」

「あー、大会より依頼を優先したっていう、良い人ね。ごめんって伝えておいて」


「それよりも助かった」

「ははは、結局俺たちは要らなかったな」


「なわけないでしょ。私は一人、パーティーはカレンだけよ。
全部に対応出来ないの。
ここまで抑えてくれなかったら王都が危なかったでしょう?」


「そういってもらえると有難いよ」


 辺り一帯に勝利の歓声が鳴り響びいていた。
その日、戦闘をした戦士のために特別な宴が開かれた。



 皆がお酒を飲み楽しんでいる。
あるテーブルを見て、皆が注目していた。
アルマ、カレン。
そして、オリハルコンのリーダーが一緒に座って居たからだ。

「最強の美男子が同じテーブルに……素敵ね」

「あれ見て!」

「きゃー、アルマ様もいる!」

「カレンちゃんもいるぅ! 可愛いわねー!」


 オズワルドが黄色い声を聞いて、
満足そうに言う。

「アルマは女性にも人気なんだね」

「あなたたち目当てじゃない?」

「それで、何処でその聖剣を作った?」


 ニコラスが興味津々に尋ねる。

「んー、知り合いに貰った」

「それを手放す奴って……どんな人間なんだよ。嘘を吐くな、嘘を……」

「ニコラス……それが無くてもアルマの強さは変わらねぇよ。諦めろ雑魚が」

「ああ?」


「まあまあ、こんな時に無粋だよ。ささ、これを飲んでアルマちゃん」

「ありがと」


「おい、オズワルド。酔わせて部屋に誘い込もうって魂胆じゃないだろうな」

「ははは、ラファエル。大切な友人に。そんなことはしないよー」

「前科はあるけどな」

「何を言う? 後から承諾はもらった。前科ではない」


 そこでアルマの椅子が動くと、クリステルが割り込んで来た。

「アルマに手を出すのは許しませんっ」

「おぉ、これはこれは。クリステル嬢……ささ一杯どうそどうぞ」

 それを受け取ってゴクゴクと飲む。

「ぷはぁー!」

「お、いけるねぇー」


「なにクリステル。暇なの?」

「もー。アルマが帰って来ないから心配したんじゃないっ」

「言ってなかったっけ?」

「カレンが手紙を送ってくれたから知ってる」


「ならいいでしょ」

「カレンが居なかったら分からなかったでしょうが」

「ごめんごめん。気を付けるわ」


 そのまま飲みまくる。
カレンは果実ジュースを飲みながら思う。
ラファエルは気まずく無いのかな、と。
後からこういう時は例外だと勉強するのであった。


 クリステルが酔いつぶれたので、
オズワルドが宿まで運ぶと言い出した。
丁重に断って彼女を背負う。

 宿のベッドに寝かせると、
腕を掴まれていた。
呂律が回ってなかった。

「一緒ぃ……寝ぉー」

「それは良いけど、先に」

 カレンに背後から押された。
眼が少し閉じかけている。
素直に眠いと言ってきた。

 クリステルにもそのまま抱き着かれて離れなくなったので、
仕方なくベッドに横になるとカレンも布団に潜り込んで来た。

 三人とも密着した状態になった。
確かに疲れたので、そのまま眠る事にした。

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