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21話 大会最終日(1)

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 大会当日。昨日よりもさらに賑わいを見せた。
時間はまだあるので特別席にいた。
するとクリステルが慌てた様子で扉から入って来た。

「アルマ! 大変よ! ケイたちが!」

「どうしたの?」

 アナウンスが流れた。

『【ウォーリア】のパーティーの棄権選手が出ましたので、ご連絡します。
棄権した選手はケイ、チャロ、エッバ、マルグレット、ヤナ、ドロタ……以上です』


 少し離れた別の特別席から絶叫が聞こえて来た。
声質から大司教だと予測する。

「アルマ!」

「ん?」

「んッ! じゃなくてどうするの!?」

 そこで嫌らしい表情をしたゲルデが歩いて来た。

「あらあらあら! とんでもない事になりましたね。臆病者の挑戦者さん」

 クリステルはその言い回しに驚愕した。

「あ、貴方まさか!?」

「まさか? 何ですの? 何か良いがかりをつけるようなら、
それなりの覚悟をなさってください……伯爵家のご令嬢さん」

「くッ……」


 そのやり取りをジーっと聞いていたアルマは、ゲルデの方を向き、
普通のトーンで質問する。

「それで、あんた誰に賭けるの?」

「は、はぁっ? 教えるはずないでしょう! 
はっ、貴方同士討ち覚悟でっ、私の賭け番号を狙う気ね!? 仕返しになんてみっともない!」

「仕返しぃ?」

「あ、いえ! 被害妄想の逆恨みをしてると言いたいんですの!」

「へー、賭けてるんだ~」

「き、気持ち悪いですね! これだから汗臭そうな平民は! 行きますわよ!」

 従者と共にそそくさと去って行った。

「ごめんなさい……まさか全員降りる何て……私の落ち度だわ」


「気に病むことじゃないわ。それに、クリステル。
こっちの方が面白いと思わない?」

「え?」


 控室に行こうとすると、挙動不審の男がいた。
大司教のお連れ様だ。

「ア、アルマさん!」

「嗚呼……私に全額賭けなさい。それだけよ」

「!? わ、分かりました!」


【観客席】

 彼等は不安そうに話していた。
中々ない事なので動揺している。

「ど、どうなっちまうんだよ。こんな事初めてだ」

「ははは、馬鹿だなー。動揺し過ぎだっての。
16分の1が8分の1になっただけだろ? 得じゃねぇかよ」

「あ! あぁぁああ! お、お前! 
何で賭ける時に言ってくれなかった!」

「え~~~? 気が付いてるかと思ったし~~~。え? 
ど、どどど何処に賭けたのぉ? まっ、まさかー。ブハっ」

「あ、俺ちょっと屑を刺しやすい短剣買ってくる」

「お! おい! 冗談だよ! 勝ったら奢るから!」


「オリハルコン三人とアダマンタイト八人。結果はアダマンタイトが勝利。
じゃあオリハルコンが八とシルバーがニ。どっちが勝つか子供でも分かる」

「問題は誰がアルマを狩るか、か……逆転は無い」

「まあ、アルマの点数を持った奴をあのエルフが倒せば……くらいだな」

「万全だろうが、本質的には最初から何も変わってないけどな」

「嗚呼……赤の八人、その中の誰かが当たりだ」



【どこかの特別席】

 大司教は床に転がり、苦しみもがいていた。
お付きの人とバニーガールが心配そうに声をかける。
他の貴族はドン引きしていた。

(うおぉぉおおお! 二人だとぉ! 信じるか! 信じていいのか! アルマぁぁあ! 
しかし! 幾らつぎ込めば信じてる事になる!?? ぐぬおぉぉぉおおぉおぉお)

 すぐ近くには体をプルプルと震わせている男がいた。

「くそ! 不公平な! 罠だ! 昨日までは元気だった! 
こんな事をした奴ッ……絶対にあぶり出してやるぅぞぉ!」


 そして、悩みに悩んだ末、二人はほぼ同時に掛け金を提示した。

「金貨1万枚」「金貨20万枚」

「「青①!!」」

 二人はアルマの番号に賭けた。

「ふぇぇ!!」


 唐突に告げられた余りの額にバニーガールが驚く。
お互いに目が合った。


「ほ、ほぉ……」

「なかなかどうして……」


 男は気さくな感じで話しかけて来た。

「まあ、私は信じてますからね……娘を。
そして、自身の慧眼を……訂正、金貨35万枚だ」

「はははは、慧眼ですかな。
ちょうど私も鍛えている最中でしてねぇ……私も、金貨50万枚」


「ぇ……いえっ……あの! 良いのですか!?」


 大司教は彼の素晴らしさを称える。

「いやー。娘さんを信じておられるのですね。
ご立派だ。その金額からもよく分かりますなぁ」

 その分かりやすい挑発に男ものってきた。

「ハハハ、当然ですよ……金貨70万枚」


「でも……余り無理は良くないですな。お体にも障りますし……金貨80万枚」


「ぐぬぅ……無理など。そんな事はありませんよ。まだまだ若いつもりです……金貨95万枚!」

「はっはっは。これは失礼しました。職業がらつい他人の心配を……金貨400万枚ッ!」


「ぬぅぅうぅ……!?」


「ぇ……いや……ぁ……ょ……ほ、ほほほほ本当にっ、よろしいのですかッ!?」


「「無論だッ」」


 震えるバニーガールを余所に、父親らしき男は金貨95万枚。
大司教は金貨400万枚と言うイカれた金額を賭けた。


「それにしても、当初の予定の20倍の額を賭けるとは、
豊富な資金と強靭な精神をお持ちで……
私はたった95倍にしか出来ませんでしたよぉ」

 別の方向から勝負を仕掛けて来る父親らしき男。
それに余裕の笑みを持って返す大司教。

「ははは……面白い御仁ですな」

「ははは、そちらこそ……実に面白い」


「「フフ! フハハッ。フハハハハ!!!!」」


((やってしまったぁ……))


 何か違う試合をしている者たちは心の中で大いに後悔をしていた。



【リング】


 舞台に二人と八人が揃った。
歓声は全部【ドラゴンスレイヤー】に向いている。

(あら? 倍率がまだね……)


『それでは最初に【ドラゴンスレイヤー】の倍率から発表します!』

(決勝になると少し趣向を変えるのね)

☆☆☆☆

ドラゴンスレイヤー(赤)
①:1.44 
②:4.24 
③:14.40
④:18.70
⑤:30.64
⑥:9.66 
⑦:26.66
⑧:44.75

☆☆☆☆


『中々面白い判定になりましたね~! 平均は18.81。これはもう優勝はきまりかぁ』

『いえ、二人組のパーティーでこの倍率になるのは、凄いですね。これは期待している人がまだいますね~』

『なるほど! それでは青①、アルマ選手の倍率から見て見ましょう!』


 会場が騒めく。表記された倍率は何と。


『2057倍だぁぁぁぁああ!? 四桁倍率が出ましたぁぁぁぁ!! 大会初ですッ!?』

『いやぁぁー! 初めて見ましたね。これは凄いぃ』

 会場から笑いが巻き起こる。
それはクリステル自身と彼女が連れて来た選手への嘲笑だった。
そして、その傲慢な思い上がりをした者たちへの罵倒である。


「イヤー! オレモカケレバヨカッタナー!」

「マジでそれだよ!! キャハハハハ」

「賭けたやついるんだ!! 面白すぎんだろ!」

「きっと馬鹿だぜ!」

「頭わるそー」

「今頃ストレスで胃が死んでんじゃないかー」

「大丈夫だって。見つけたら頭ペチペチ叩いてやんよ! 
これで胃の痛みが分散して軽減出来るだろっ」

「いいねそれ!」


 さらにカレンの倍率も表記された。
アルマは他人事のようにそれを眺めていた。

(なんか凄い頭の悪い数値が出てるね……)


『え!?』

『これは…………』

☆☆☆☆☆

ウォーリア(青)

①:2057
②:11,663,264,645

平均:5,831,633,351 

☆☆☆☆☆


『前代未聞の倍率だぁぁぁ! あり得るのかこんな事がぁぁぁああ! いや違う! 
我々が見ているものは真実だぁぁぁああ!』

『悲惨! 余りにも悲惨な結果! 始まっていないのに絶望が【ウォーリア】を襲ぅぅぅッ!』

『いやー参りましたねー。もうすでに戦闘よりも実況した感じがします』


『仕方ないでしょう、これはー。赤子に国を落とせと言っているものでしょうからねー』

『それは流石に言い過ぎかと~。スライム対、ギルド全体ってところじゃないですかねー』



 大司教は地面に倒れ泡を吹いていた。
司教が心配していた。
父らしき男も数多を抱えている。
現実に戻されたようだ。男の従者が叫ぶ。

「どどどど! どうするんですか! このままではハディントン領が!」

「うぉおぉぉぉお!! まだ大丈夫だ! 貯蓄はあるだろう!」

「で、ですが……ッ」

「黙れぇい! 私なら大丈夫だ! 私なら立て直せる! 今までもそうだった! 
そしてこれからも! この程度の損害! 過去に! いや、これが最後だ! パパ力を見せてやる!」

「こうなればッ! 私が乱入して大会を潰します!」

「よせ! オリハルコン等級に勝てる……行け!」

 この他にも訳の分からない言葉を叫んでいたという。
彼等は危うく取り押さえられそうになっていた。
ぎりぎりで思いとどまったか隙を狙っているのだろう。


 アルマはカレンに聞く。

「開始直後は少し私から離れててね」

「うん」


「そうだ。夕飯、何食べたい?」

「あの甘いやつー!」

「ああ、あれ。んー。夕飯の後にね」

「わーい!」


 リーダーのラファエルはため息を吐いた。
開始が近づいてきているのに、緊張する素振りは勿論、
構える事も剣を抜く事もしない。赤の⑧が言う。

「ラファエルさん……今回の大会、俺の見せ場が無かったので。ここで貰ってもいいですか?」

「好きにしろ……こんなパーティーに全員で仕掛けたら、後から笑い種になるだけだからな」

「まっ……ラファエルさんがそういうのならお前に譲るよ」

「助かるぜ!」


 決勝では開始の長めのカウントダウンがあった。
そしてゼロになり、試合が開始された。
私はラファエルに問う。

「剣……抜かないの? 流石に油断しすぎじゃない?」

「ふんっ。不要だ……先にそいつを」


 最後まで話しを聞かずに、地面を蹴った。
地面に穴が空く。刹那。ラファエルの腹部に掌底を入れた。
彼は観客席まで吹き飛ぶと、深くめり込んで意識を失った。
ラファエルが真横に飛んで来のにも関わらず、
観客たちは疑問符を浮かべていた。

「……?」


「だから言ったのに……」

 暫く経ったが、まだ誰も状況判断が出来ない。
そこで実況・解説が吠えた。

『ドッ!!! ドラゴンだぁぁぁああ!! 
スライムパーティーにドラゴンが紛れていたぁぁぁああ! 
果たして彼等は真の【ドラゴンスレイヤー】なれるのかぁぁぁ!? 
予測不能! まさかの展開ぃぃぃぃ!!!』

 それに反応して、凄まじい歓声が鳴り響く。


(玄人ね……)


 ようやく状況を理解し、全員が構え、距離を取った。

「安心して。リーダーは恥をかかない。
何をしても無駄だった。
負けて当然だって……そうなれば良いんでしょ?」


「ふ、ふざけんな! 不意打ちで倒したくらいでッ。いい気になるなよ!?」


 赤③が接近して来た。だが、急に止まった。

(なに?)


「ま、魔剣が……抜けない……ッ」

「はぁ? 何言ってやが……」

「ッ!? 剣が……震えてるっ?」


「ん? もしかして、この聖剣に反応してるの?」


「聖剣!? ……だとぉ」


 赤②も剣を抜こうとするが、鞘と一体化しているかのようで抜ける気配がない。

「ば、馬鹿な……!?」

「ひ、卑怯だぞ!? 正々堂々と戦え!?」


「はぁー。良いわ。のって上げる」


 聖剣をカレンに投げ渡す。
そこでようやく二人は魔剣を抜いた。
その時、赤⑥が素早く動き、カレンから剣を奪い、後ろに跳躍して離れた。

「はははは! これがお前の力の源! これを使えば俺も!」

「それは面白そう……来なさい」

 しかし、それは叶わなかった。
鞘から抜いた瞬間、
眩しい光と凄まじい衝撃波と共に、
彼は観客席に飛ばされ、突き刺さった。
大人しくなった聖剣がその場に落ちる。


(それは知らなかった。ごめんね)


『おおっと! まさかの状況だぁぁあ!! 
剣に拒まれたぁっ? と、兎に角っ凄い展開! 
これは点数は誰のものになるのでしょう!!?』

 既に運営に問い合わせていた様で、
結果が返って来た。

『えーー……誰の点数にもならないようですねッー』

『凄いぃぃぃ! これもちょっと前代未聞の流れだぁッ……!!! 
どうなるんだぁぁあ!!』



「まあ、あくまで私を狙ってた。カレンを狙わなかったのは感心したわ」


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