上 下
52 / 58

52.どう動くか

しおりを挟む
 意識を取り戻した九重は痛みを感じた。これ以上体を動かそうとすると激痛が走る、予感がする。まるで自分の身体ではないみたいに重い。状況を理解しようと微かに目だけを開いた。

「む。気のせいか」

 九重は既に目を閉じてた。目の前にゴツイ女とゴツイ鎧が座って居たからだ。その隣にはさらにデカイケンタウロスが座って居た。サリナが何故かフラフラとゾンビの如く周辺を徘徊しているのも見えた。

(まさか俺を食料に! 起きてるのがバレたら意識を刈り取られるッ!!)


 そこで腹部に軽い重みを感じる。クローディが片足をそっと乗せたからだ。

「これが竜人と人族の差よ。竜族は全種族で最強の性能を誇ってる。覚えておいてね、ロスト」

 怪我人に足を乗っけて勝ち誇ってる奴がいた。しかし、九重は冷静であり、決して怒らない。痛みは無かったし、怒って力を入れた方が痛いからだ。

「竜人の末裔で竜族に育てられただけはある。だが我も半人だ。グリムが半人は最強の力を秘めていると言っていたぞ」


(なに! グリムだと! だとしたらこいつらは……そうだ。思い出した。あの筋肉と鎧はっ)


 知った人間の名前は出たが、肝心なそれの声が聞こえない。ジッと目を閉じて息を潜める。時間が経つ毎に起きるのが気まずくなってきたからだ。

 暫くクローディとロストが九重を使って、決めポーズの練習をしていた時、グリムの声が聞こえた。リーパーも一緒だ。

「街と周辺を探索したけど、近くに追手とかは居ない」

「一番手っ取り早いのはそいつに話を聞く事だな」


 九重が「ぅ……うん……」と若干わざとらしい声を出しながら目を開いた。

「こ、ここは……おれは……一体……」

 目覚めてすぐじゃないが、すぐな雰囲気を出した。そこで、固まっているクローディと目が合った。彼女はスッと足を退け、ロストと共に、最初から何事も無かったかの様に離れた。

「ィッ……ッ」

 彼は半身を起こしたが、激痛に襲われる。これは演技ではない。

「岸辺に打ち上げられてた。何があった九重?」

「……山田だ……あいつがッ……」

「山田が?」


「奴は王女を真珠に変えて国王を脅迫している」

「なッ……何故そんな事をっ。それに真珠に変えるって?」


「理由なんて知るかよっ。それよりもッ。絶対俺があいつをぶっ殺すッ」


「はぁー、お前ボロボロにされてんだろー。そのまま大人しく逃げてろよ」

「うるせぇなトカゲ!」

 九重は何か焦っている様だった。


「ははぁーん。その焦り方。さては女か?」

「ハァッ! ちげっ。あいつはそんなんじゃねぇッ」

「あいつねぇ。まあまあ、そう隠すなよ」

 リーパーが肩に乗って頬をペチペチと叩く。イラついて振り払おうとすると激痛が走る。

「話せよ。そうしないと治癒魔法かけてやんねぇぞ」

「チッ……このトカゲぇ……」

 九重は思い出す。山田が言った死か服従か。一度冷静になり、話し始める。

「目的は分からねぇが、あの言葉、それに最初の公開時……山田はスキルを二つ持っている。一つは技術の模倣をするスキル。もう一つはスキルを真似るスキルだ」

「スキルを真似るってっ!」


「……正確には真珠になった奴から能力を引き出している様だ。スキル持ちを真珠に変え始めた。恐らく真珠にするトリガーは恐怖心か服従心だろうな。心が折れた時点で負けだ」


「ね……」

 リーパーが何か言おうとすると九重に睨まれた。

「あのスキルの数。英雄候補もすでに何人か変えてやがるッ……早くぶっ殺さねぇと全員真珠に変えられちまう。その前に俺のスキルで暗殺する……ッ」


「良いのか~? そいつ死んだら真珠から戻んねぇかもよ?」

「なっ……」

 九重がそれを聞いて固まった。明らかに計算外と言った表情をしていた。

「なるほど、厄介だな。無条件で戻る保証がないってだけで。殺されそうになったら、そう言えば。俺たちは信じるしかないしな」

「本当か嘘かはどうでも良い。交渉材料に使ってくるだろうな。最善は交渉が出来ないくらい圧倒的な力でねじ伏せ、相手に強いる事だな」

「……」


「どう倒すかはおいて、九重。大鳥たちは無事なのか?」

「……やつ等ならきっと大丈夫だ。相当の実力者になってる。そんなヘマはしねぇよ」


「お前がしたのにか? 本当に大丈夫かよー」

「……うぜぇトカゲだ」

「でもまあ、スキルはバレてるって考えた方がよさそうだな。一人は捕まってるだろうと考えたら」


 リーパーがストレートに聞いた。

「お前はどうするんだ? 山田って奴を倒しに行くのか?」

「当たり前だ。傷が治り次第、奇襲をかける」


「俺たちも手を貸そうか?」

「はっ、断る。慣れ合うつもりはねぇよ。それにあれは俺の責任だ。俺がケリをつける」

「そうか……」


 グリムはある事を思い出し、それを伝える。どんなに強制しても、彼は着いて来ない。ならばと一番力になりそうな彼女等の居場所。

「ここから南東の大陸。魔王領がある。八竜の山の北側だな。そこに近藤や暗夜たちがいた。数日前だけどな」

「奴等が……」

(いつの間にか体が少し回復して来たか? もう少し経てば……)

 その時、九重はハッとした。癒しの風、以前にも。辺りを見渡すが誰かは分からない。恐らくは気品あふれる黒い鎧か大人しいケンタウロスだ。隣のオークもワンチャンある。


 その頃、サリナが異様にゴロゴロと転がっていた。グリムに見せつけるかの如く。多分、お風呂に入りたいアピールだ。

 それを余所にリーパーが悪い笑みを浮かべて黒いロングフードと仮面、僅かな路銀を渡して来た。

「なんだぁ? 俺はそんな厨二シリーズ付けねぇぞ。絶対にな」

 リーパーは笑みを崩さずに紙を広げた。見事、九重が指名手配の仲間入りをしていた。

「……ッ。な、なにぃッ!」

「ククク、俺のとは少し違うが……それを付けた事で、俺は今まで無事に生きて来たッ」

「ぁ……が……ば……馬鹿、な……ッ」


「助けたい女のためにもー。掴まる訳にはいかないよなぁー……なぁー」


 それに反応してロストが近寄って来た。

「えー、我のは?」

「……また今度な」

(ロスト用のサイズ探さないとな……金を稼いだ後で)


 九重が苦い顔をして、「クソがッ」という言葉と同時に、それをパッと受け取った。これにはリーパーもニッコリしていた。

 グリムも治癒の魔法を使う中。リーパーはお昼寝をしていた。「あいつさっき自分が治癒出来るみたく語ってなかったか」、という疑問を胸にしまい無言で治療を受ける九重。

 その間、ミリウが食えと肉を差し出した。断ろうと思った矢先、取り返したいのだろう? と言われ、それを渋々口にする。


 九重は仕方なしにそのままグリムたちと野営をする。彼は仲良くはしゃぐグリムたちを見て、大鳥たち思い出す。さらに現地人の女性を。そして、朝日が昇る前に彼は姿を消していた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...