たとえ世界を敵に回したとしてもOREの病いは治らない

刀根光太郎

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48.光属性解禁となるか

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 グリムは、背後で噓八百を並べるリーパーを汚ねぇと感じながら接近する。大きく跳ぶと大鎌に付与をかける。

「《喪失の鎌炎ブレイズロスト》。アインス……」

「!?」


 大鎌が焔に包まれる。その焔が辺りに広がりながら前方に飛散する。近藤は歯を食いしばる。魔法の純粋な威力は【エレメントロード】に軍配が上がる。

(でもこれは……なんて多彩な魔法。対応しにくい。彼の魔法は毎度変な現象が起こるッ)

 近藤は背後に跳んでそれを避けると深く構える。

「聖光一刀流……《光焔こうえん》」


 光の斬撃が発生した。まるで剣が伸びたかのような薙ぎ払いを放つ。それは焔をかき消し、グリムを襲う。

(くっ、四重。《変化する盾セヘルスクード》!!)


 近藤は単純に驚く。決める気の一撃が凌がれた。しかも、飛ばした炎はかき消したが、大鎌にはまだ残っていた。慌てて受け止める。金属音が鳴り響く。

 グリムは先に付与していた分を合わせ、一気に五つ分の盾を失い内心冷や汗をかいていた。背後のゴーレムは今の一撃の余波で完全に沈んだ。しかし、それを感じさせない様に堂々と相手を褒める。

「良い技だ。死ぬかと思った」

「今のを防ぐなんて……ッ」

「おっと。まだこっちの攻撃は終わって無い」


 近藤は驚いた。纏っていた焔が消え、凍り始めたからだ。

「なっ!?」

 大鎌から剣に浸食した氷でお互いの固定された。

「しまった!?」

 グリムは心の奥底で笑う。今から最高の魔法を放つ。相手は三択を強いられる。剣を放すか、魔法を喰らうか。もしくは何か切り抜ける術、切り札を出すか。


「終わりだ。《感知魔法トリアレイシス》ぁっ……」「!?」


 そこで《魔法回収マジックキャンセル》で凍結を解除すると、大きく跳んだ。その位置に細い短剣が飛んで来た。


「ジャッジ失敗……よく……気が付いたね……」

「俺に隙など……無いと思った方が良い……」

(ジャッジ?)


 今まで静かに息を潜めていた山崎が攻撃をしてきた。

「山崎さん! グリムは私が倒すって約束を!」

「まだそんな事を言ってるの? 私たちの目的はあくまで大魔王。だけどそいつは人族の敵になるから捕まえる。そうでしょう?」

「わ、分かってる。でも!」


「それに私……男が嫌いなの……潰しておかないと」

「クク、それならメイスでも投げた方が良かったんじゃないか?」


「それだと二つ同時に潰れるから面白くないじゃない……」

(え……?)

 グリムに呆けている暇は無く。細い短剣が宙を舞い飛んで来た。軌道が明らかになる。彼女は恐らく太腿周辺を狙って来ていた。

(物を操作するスキルか!?)

 それを大鎌で弾いている間に背後から近藤も切りかかる。一旦仕切り直すために適当に跳んだ。

 グリムは横目でサリナとアノ、ミリウを探す。しかし、良く見えない。多分今は手を離せそうになかった。二人の猛ラッシュを避け続ける。やばい捕まったら終わる。グリムは凄まじい集中力で避け続ける。


 その時、山崎の背後でリーパーが現れ、手刀で首を叩いた。

「がッ!」

「恐ろしい奴……だが、もう大丈夫だグリ……」

 山崎は倒れずに足を出して踏ん張った、

「ッ……何をする! 卑怯者!」

「なんで!?」

 山崎は気を失って無かった。慌ててリーパーは茂みの中へと消えて行った。余りの怒りにグリムを忘れて、リーパーを追いかける。


「「……」」


「決着を付けようか……」

「そうね……」


 近藤は剣を両手でしっかりと握る。

「エヴィニス・ティリオ……解放ッ」

「懐かしい光だ。いや、前よりも強い光……」


「出しなさい……貴方もッ」


 《偽りの勇士シラ・フォルト》をこそっとかけた。続けて大鎌に闇を纏う。

「《甘美なる誘惑アイト・ファルチェ》」


 影を大量に這わせ、刃を無数に出す。何時もとは違い。まだ魔素に余裕がある。近藤は前回とは比較にならない数の影の対処に追われる。

「クッ……」


「彼方へと轟け。其は偽りの雷名。《雷火紫炎ヴァノスフロガ》」

「そんなっ、まだ魔法を隠してッ……」


 大器晩成。ゆっくりと着実に力を蓄える。グリムの想像魔法スキルは時間をかければかける程、脅威が跳ね上がる。


 大量の影の刃と紫電が襲い掛かる。近藤を中心に光が広がる。それが全てをかき消そうとする。完全には消せはしなかったが、ダメージをそれなりに軽減出来た。同時に彼女は接近する。大鎌と聖剣が大きな音と共に重なり合う。

 グリムは《変化する盾セヘルスクード》をお互いに二重にかけた。ただし、追加で魔素を出来るだけ込める。そして。

「……《不可視の爆炎シュティルフラルゴ》」

「何故……」

 大爆発が起きた。凄まじい火力にお互いは吹き飛ばされた。煙が消える頃、影があった。それはグリムだった。予め覚悟をしていた彼がその魔法に耐えた。しかし、彼女もタフで地面に伏せながらも意識はあった。


「……ッ……」

「俺の勝ちだ……」


「わ、私たちを、どうする……気……」

「クク、どうもしないさ。ただ、悔しがっていろ……」


「ッ……どうして……どうして勝てないの……私はあの時より格段に強くなった、のに……」


「……【聖戦王姫せいせんおうき 英勇者えいゆうしゃ】。お前は、前回の戦いで手を抜いていた」

「ッ……それはっ。まだ真の目的が分からなくて!」


「それだけ強い技を持っていながら……自分が危機になった時にしか使わない。相手の力に合わせて死なない技を振る……王都に帰るがいい。お前は優しすぎる……」


「あ、貴方だってッ!? 私に魔法をッ」

「クク、お前には別の利用方法があるからな……」

「り、利用方法……どういうことっ」

 返答はしない。グリムは《尋常な治癒エクスヒール》を使うと、その場を離れる。そして、魔王領の奥へと進む。


 通常と変わらぬ様子のミリウが合流する。リッスはサリナとクローディを乗せていた。彼女の鞄から魔石を取り出し補充するアノ。久しぶりに良い勝ち方をしたご機嫌なロスト。息切れしたリーパーが茂みから出て来た。


「おい、グリム。炎の後に氷って、明らかに魔素効率悪くねぇ?」

「……お前には、そう見えたか」

「誰にでもそう見えるだろ、馬鹿が。凍結で相手の武器固定したのも偶然だろ。後、一番いい所で魔法間違えなかったか? まあ、その御かげでたま拾いしたがな」


「うるせー、俺は勝った」


 これによりグリムは光属性魔法を解禁する。近藤に勝利せずにそれを生成してしまうのは、闇属性を捨てる感じがして、許せなかったからだ。効率では無く、彼の気持ちの問題。ただ浅はかな。しかし、譲れない拘りであった。

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