43 / 58
43.リーパーと西古の再戦
しおりを挟む 想像していたより、事は簡単に運んだ。懸念していた人目につかぬ侵入も、悲鳴を上げさせずに終わらせる殺しも、問題なく行うことができた。少し離れた位置に車を停めて友弥と共に来たヨウは、自分の仕事はなかったなと転がる死体を見て思う。
今回の事件は泥棒目的で入って来た犯人が家主に見つかって咄嗟に殺してしまったという筋書きになっている。友弥は家にある包丁を使って素人のように妻の腹を貫き、夫は背中から何箇所か突き刺した。効率的な殺しが体に馴染んでいると急所を外してわざと下手くそに刃を入れる方が難しい。そう言いながらも友弥は返り血を一滴も浴びず、背に突き刺したままの包丁にも当然指紋など残していなかった。
ヨウは適当に物色したように見せかけるために部屋を荒らし、金になりそうなものは回収して工作を施した。友弥もヨウと一緒に部屋を回りながら漂う違和感に眉を顰めた。
「なんか、この家……」
友弥が低めた声でぼそりと呟く。上手く聞き取れず聞き返そうとしたヨウだったが、キシッと床が軋んだ音に息を殺した。友弥もすぐに気づいたようで、部屋の暗がりに身をひそめる。互いに目を合わせれば考えていた事は同じようだった。
はたして予想通りに小さな足が床を踏んでいるのが見えた。唯一明るいキッチンの床で、母親が変わり果てた姿で倒れているのを見つけたようだった。
子供の姿を捉えた瞬間、ヨウはこの家庭の内情をなんとなく掴むことができた。子供は随分と薄汚れた、体つきにしては窮屈な寝間着を纏っていた。剥き出しになった手や足には打撲痕が残っている。顔にも大きな痣があり、目の上が腫れて右目がほとんど開いていなかった。顔に残っているのは殴られた痕だ。あの腫れならば成人男性の力か。腕に残っている火傷は煙草を押し当てられたもの。歩き方からして腹にも怪我を負っている。ヨウの目は一瞬にしてそれだけのことを読み取った。
「おかあ、さん……?」
掠れきって潰れたような声が小さく聞こえた。ヨウも友弥も、気配を消し続けている。幸介に言われていた通り、どうするかとヨウは少年の様子を伺いながら思考を回す。このまま叫ばれたら面倒だと友弥へと目をやった。
ヨウは目を眇める。友弥は見慣れない顔つきをしていて、長年の仲間にしては珍しく感情が読み取れなかった。殺し屋としては騒がれる前に全ての物事を片付けてしまいたいのだが。
次の友弥の行動に今度こそヨウは絶句して目を見開いた。友弥は物陰に隠れるのをやめ、その場で静かに立ち上がったのだ。ゆらりと影が揺れ、少年がハッとこちらを見やる。なに考えてんだ、とヨウは非難の目を送るが友弥は真っ直ぐに少年を見据えるばかりでヨウには一瞥もくれなかった。
「誰か、いるの……?」
少年は小さな声でそっと呼びかけてきた。友弥は答えず、ただ少年を見つめ返す。こちらは完全な暗闇のため、見えたとしてもせいぜい輪郭程度だろう。顔を認識するには明度が足りないはずだ。
「お父さんとお母さんを……殺した人?」
そう囁くように聞いてくる少年の唇はよく見れば切れてまだ塞がらない傷があった。
「そうだよ」
友弥はいつもの彼の声で穏やかに肯定した。ヨウは怪訝な顔でそれを見守るばかりだ。念のためにヨウの手は懐のナイフへと伸び、いつでも飛び出せるように膝に力を溜めている。常は冷静かつ正確に仕事をこなしている友弥のらしくない行動に少なからず動揺していた。
今回の事件は泥棒目的で入って来た犯人が家主に見つかって咄嗟に殺してしまったという筋書きになっている。友弥は家にある包丁を使って素人のように妻の腹を貫き、夫は背中から何箇所か突き刺した。効率的な殺しが体に馴染んでいると急所を外してわざと下手くそに刃を入れる方が難しい。そう言いながらも友弥は返り血を一滴も浴びず、背に突き刺したままの包丁にも当然指紋など残していなかった。
ヨウは適当に物色したように見せかけるために部屋を荒らし、金になりそうなものは回収して工作を施した。友弥もヨウと一緒に部屋を回りながら漂う違和感に眉を顰めた。
「なんか、この家……」
友弥が低めた声でぼそりと呟く。上手く聞き取れず聞き返そうとしたヨウだったが、キシッと床が軋んだ音に息を殺した。友弥もすぐに気づいたようで、部屋の暗がりに身をひそめる。互いに目を合わせれば考えていた事は同じようだった。
はたして予想通りに小さな足が床を踏んでいるのが見えた。唯一明るいキッチンの床で、母親が変わり果てた姿で倒れているのを見つけたようだった。
子供の姿を捉えた瞬間、ヨウはこの家庭の内情をなんとなく掴むことができた。子供は随分と薄汚れた、体つきにしては窮屈な寝間着を纏っていた。剥き出しになった手や足には打撲痕が残っている。顔にも大きな痣があり、目の上が腫れて右目がほとんど開いていなかった。顔に残っているのは殴られた痕だ。あの腫れならば成人男性の力か。腕に残っている火傷は煙草を押し当てられたもの。歩き方からして腹にも怪我を負っている。ヨウの目は一瞬にしてそれだけのことを読み取った。
「おかあ、さん……?」
掠れきって潰れたような声が小さく聞こえた。ヨウも友弥も、気配を消し続けている。幸介に言われていた通り、どうするかとヨウは少年の様子を伺いながら思考を回す。このまま叫ばれたら面倒だと友弥へと目をやった。
ヨウは目を眇める。友弥は見慣れない顔つきをしていて、長年の仲間にしては珍しく感情が読み取れなかった。殺し屋としては騒がれる前に全ての物事を片付けてしまいたいのだが。
次の友弥の行動に今度こそヨウは絶句して目を見開いた。友弥は物陰に隠れるのをやめ、その場で静かに立ち上がったのだ。ゆらりと影が揺れ、少年がハッとこちらを見やる。なに考えてんだ、とヨウは非難の目を送るが友弥は真っ直ぐに少年を見据えるばかりでヨウには一瞥もくれなかった。
「誰か、いるの……?」
少年は小さな声でそっと呼びかけてきた。友弥は答えず、ただ少年を見つめ返す。こちらは完全な暗闇のため、見えたとしてもせいぜい輪郭程度だろう。顔を認識するには明度が足りないはずだ。
「お父さんとお母さんを……殺した人?」
そう囁くように聞いてくる少年の唇はよく見れば切れてまだ塞がらない傷があった。
「そうだよ」
友弥はいつもの彼の声で穏やかに肯定した。ヨウは怪訝な顔でそれを見守るばかりだ。念のためにヨウの手は懐のナイフへと伸び、いつでも飛び出せるように膝に力を溜めている。常は冷静かつ正確に仕事をこなしている友弥のらしくない行動に少なからず動揺していた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
トレジャーキッズ
著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。
ただ、それだけだったのに……
自分の存在は何のため?
何のために生きているのか?
世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか?
苦悩する子どもと親の物語です。
非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。
まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。
※更新は週一・日曜日公開を目標
何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。
【1】のみ自費出版販売をしております。
追加で修正しているため、全く同じではありません。
できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる