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31.準備

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 南東の大陸に行くための準備をする。リーパーが色々とワーワーと言っていたが、何かを察して諦めた。準備は鉱山に行ってお金を稼いだり、訓練をしながら大鎌の完成を待つ。その合間、サリナが起きている内に訊ねる。

「魔素を誰かに与えたり、魔素を何処かに蓄えて取り出すって事は出来るのか?」

「ん~。与えると言うのは通常なら難しいかもー」

「通常なら?」

「体内の魔素はそれぞれ性質が違うー。でもそれを合わせる事が出来たらー。変換の際にロスは生じるけどね」

「おお! その言い方をするって事は俺なら作れるってこと?」

「作れー、そー。難易度的にも時間はかからないと思う。でも、魔素を蓄えるのは今のグリムじゃ厳しいようなー?」

「でもそっちは厳しいか。困ったな」


「ただ、何か媒体があれば、いけるかもー」

「出来るのか!?」

「ミスリル以上なら魔素を伝え易いし、魔素を蓄える量も増えるー」


「なるほど……」

 サリナはそこで想像する。グリムにアクセサリーを沢山付ける姿を。これならお風呂に困る事は無いと。


「じゃらじゃらするから嫌だ」

「ええー! よく分かったねー」

「……分かりたくなかったけどな」

 グリムは何か手ごたえを感じながら両手を握りしめた。成功するれば、今よりも戦闘時間が長くなる。ロストが戻って来る。アクセサリーのイメージ図の事は話してくれない。

 そこはお楽しみなのだろう。魔素を溜めるアクセサリーの事を少し話すと、嬉しそうに聞いてくれた。頼んでくれるようだ。


  一週間と少し。間接的になるが進捗を聞きにブラックロックさんの家を訪ねる。出されたお茶を飲んで待っていると、奥からロストと娘さんが出て来た。どうやらアクセサリーが完成したようだ。

 満面の笑みでそれを持って来た。ネックレスタイプで革もケースが装着された、小さな鎌があった。仮にこれを大きくすると躍動感溢れるデザインで実用性は無いだろう。しかし、アクセサリーにはぴったりだ。

 こそっと黒い翼の模様が刻まれていた。この辺りがロストが手伝った部分だろう。

「なんと素晴らしい、理想の鎌。そして、何よりこの模様、最高の一品だ。ありがとうございます。ロスト、ありがとな」


 跳びはねるがごとく喜んでいた。さらに指輪も作っていた。こちらは余計なデザインは入れずシンプルなもので、魔法文字を刻みやすい造形になっていた。オリハルコンだそうだ。

「おお!」

「どうじゃ? 我が考案した!」

「すげーよ! 死神のイメージにピッタリだ」


「え? 死神?」

「あの馬鹿兄妹は気にしないでください。それで俺のは……」

「ええ、作ってますよ。何と魔除けにもなるんですよ!」

「すげーなー」

 娘さんが笑顔で指輪を渡す。ミスリルだ。早速左手に装着しようとする。

「あ、それ右手専用なので」

「? そんなのがあるのか?」

「ええ、間違えると指輪が割れます」

「へぇー、知らなかった」

 早速つけると、リーパーは喜ぶ。


「良いな! これ!」

「喜んでもらえて何よりです」


 そのやり取りを見てロストに聞く。

「これはどっちの手?」

「……んー、両方いけるぞ!」


 ロストが指輪を渡して来たので受け取ると、右手の人差し指に装着した。左手を右手首に添えて銃のような構えをしてり、グーパーしたり、指を動かしても違和感は無く、色々なポーズを取って確かめるも良い感じだ。

 一週間足らずでこれを作ってしまう娘さんの技術と集中力に脱帽した。もう少し話を聞いて見ると魔法を活用しながら作業するらしい。


 その後、リーパーが元の姿に戻ってそれを自慢して来た。胴体に指輪が丁度フィットしている。

「どうだ? 似合ってるだろ!!」

(なんか間抜けだな。散歩中というか何と言うか)

「プラフープトカゲだな」

「はぁ? どういう意味だ?」


「俺たちが居た世界。俺の知る限りでは最強かつもっともカッコイイトカゲだ」

「ふっ。だろうな」



 魔法生成が空いた時、指輪を媒体に魔素を溜め、任意で取り出せる魔法を作る。フィルター機能は付けるのが難しそうなので、自身の体内から少しづつ送り込む形を取った。自動充填にはオンオフも出来る機能を付けた。

 魔法を極めた者は自身が作り出した別空間に大量の魔素を溜める事も出来たと伝わっているそうだ。言い方から察するに、恐らくサリナでも見たことが無い様だ。

 落ち着いたところで早速大鎌を置いて、甘美なる誘惑アイト・ファルチェを試してみる。ロストも固唾を呑む。すると見事に発動した。お互いにタッチをするほどに喜ぶ。


「さすが我! 計算通りだったぞ!」

「まったく頼りになるなっ」

 そこで冷静になり、ポーズを取って決める。それを見ていたリーパーが言う。

「グリム。俺の指輪にも効果を付けてくれ」

「ククク、良いだろう……最高の能力を付けよう」

「あ、やっぱいいわ……なんか不安を覚えたわ」


「良いのか? 力が欲しいのだろう?」

 既にリーパーはサリナの所に行って同じ問いをしていた。

「……」


 隣に居たミリウが言う。

「魔法文字を刻む、か。昔、やった事がある」

「……」

 リーパーは聞こえない振りをした。今の状態でやったらどうなるか想像は付いた。何より、息を吸うかの如く、鉱石を持ち運べるようにしているのは彼女だ。彼はふと考える。もしも、という事もある。僅かな希望を信じ訊ねてみる。


「魔道具生成。それが成功した事はあるか?」

「今思えば……筋肉を得ることになったきっかけの一つかもしれぬ」


「鉱石を運び易い大きさにカットするのを頼む」

「了解した」


 リッスも自信あり気な様子で言う。

「リーパーさん。私器用ですよ!」

「……」

 確かに彼女は器用だが、無理だと一瞬で悟る。

「魔法文字書けるのか?」

「書写すればいいんでしょ?」


「文字の間にも意味があるらしいぞ?」

「それなら見本の指輪を!」


「もう本体出来てるだろ、それ」

「……」


 道具に魔法文字を刻み、その者が苦手な魔法でも使用できる様に補助をするのが魔道具の目的の一つだ。他には魔法の制御や威力増幅などがある。それをひたすら破壊目的のために特化していく。それを魔導兵器と呼ぶ。

 魔法文字を刻める者は本来は少ない。ヴァラックの娘ですら勉強中。それを数か月で成してしまうのがスキル。魔族が焦るのはそこの部分なのだろう。


「どんな魔法ー?」

「強力な強化魔法だ。魔素を余り消費せずに、長時間使えて、無理なく何度も使えて、急激に全てが上昇するみたいな!!」

「はぇー、強欲トカゲ。それ無理ー」


「ククク、その願いっ」


「お前は座ってろ。危険なうえ破滅に向かうことになる」

 リーパーは続ける。

「それを出来る範囲で頼む」


 グリムがシュンとなっているとロストが寄って来る。

「我もそれが欲しい」

「魔素を溜める指輪か?」

「うむ!」

「ククク、良いだろう!」


 鉱石を運ぶついでに再びブラックロック宅に寄る。リッスのも作る予定だ。工房に入ると、「うわぁぁあああ!」とか「なんでぇぇえええ!?」だとか、「ヤバいヤバいヤバい!?」などの悲鳴が聞こえる。娘さんも一緒に叫んでいた。


 そして数十分後、静かになった工房からグリムだけが出て来た。

(任せておけば!)

「上手くいきそうだ!」


「さすがグリムじゃ!」


 こうして時間は過ぎていくのであった。

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