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19.三つの勢力
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【集会・2】
ある日、英雄候補たちは会議をしていた。山田が今宙が獣人の村から戻って来たことで緊急に開いた。
「度々集めてすまない。早速始めさせてもらう。最近、鈴木に会った者はいるか?」
関根が皮肉交じりに言う。
「山ちゃ~ん、もし俺が出会っていたら、今頃鈴木はここに居るってわけっ」
(お前には招集かけてないんだが……何故ここに居る? てかラグナロクが来てない。何かあったか?)
「そうかもな。他に会った者は?」
他の者たちは時に何も言わない。
「と言う事は、今宙たちだけか」
「え? ってことはまさか君たちも逃がしちゃったかな?」
「はぁ? 仕方ないでしょ。とんでもない化け物が居たんだから!」
「噂の巨大な竜って奴?」
木村がそれを否定する。
「いや、オークだ。温森の怪力を軽く上回る。不意を突いたと思ったが、容易で反応し、子供の如くあしらわれた」
「木村。そこまでじゃない。多分こっち、三。向こう七くらい」
「それは無い。0、10だ」
「まだそんな戦力を隠していた何て……」
近藤が山田の方を見た。
「山田君はオークのレベル、どのくらいだと思う? 作戦を組み立てるためには必要よ」
(俺に詳細を聞くんじゃない。分かるはずないだろ……だがしかしッ、ここで当てたら大きい。俺の信頼が増す。博打……間違っていても誤魔化す方法を考えれば)
「山田君?」
(35……いや、50くらいと見た……違うだろ。ここは42で決定だ。俺の勘がそう言っている)
イケボを出そうと咳ばらいをする。何度もやっていると、むせてしまう。
「ねぇッ、山田君っ?」
「あ、ああ! オークの推定レベルはヒィッャクィっ!」
むせたせいもあり、肝心なタイミングでしゃっくりが出た。
「え? そんな……」
「おいおい……嘘だろ、聞いたかよ……」
「恐怖の余り声が裏返っていたが……確かに聞こえた……」
「101……だと……」
「三桁……次元が違う……」
(違うっ! 今のはしゃっくりが出ただけだぁあ!)
「もうおしまいだ……勝てねぇよ……」
「ええ……人族はもう滅んでしまうのね……」
「地球に帰りてーよぉ!」
「私が聖剣を使いこなし、【極魔賢聖】ヨーク様の如く強ければッ」
(やばい! 絶望をまき散らしてしまった……どうする……冗談だったというか? しかし、こんな真剣な会議でボケるやつだと思われる訳には……くっ!)
「君たちは……世界を救う英雄だろ?」
「し、しかし!」
「倉木、杏花君が居る……」
「わ、わわわあわあ私!?」
「な、何言ってんだ。無理だろ……倉木に出来るはずがねぇ!?」
「そうだぞ山田ッ。そんな何の役にも立たない小娘に何が出来るってんだ!」
(小娘て……同級生だろ。だがまあ、無理もない。彼女のスキルを知っているのは俺だけだからな。密かに利用しようと思っていたが仕方ない)
「そうだ! そうだ! 嘘つき野郎を除いたら最弱だぞ!」
倉木と呼ばれた弱弱しい小柄の女子は緊張しながらも小声で言う。
「やや山田君。以前私のスキルは、魔王に撃つべきだと……」
「そうは言ったが事前に試してくれるかと思っててな。この際だ一度は使って見た方が良い……解除も出来るのだろう?」
「そ、そうですけど……でも帰って来れるかな……私、怖くて……死んじゃうんじゃないかって……」
「大丈夫だ。今宙と【スピリットサモナー】を付ける」
二人は顔を見合わせた。今宙が言う。
「山田。それは私たちが居れば成功する作戦なのね?」
「ああ、彼女がスキルを使い逃げるまでを支援して欲しい。接近はせず、すぐに引け」
「分かったわ」「オーケーよ」
「彼女は確かに今までは積極的に動くことが出来なかった。でも俺は信じるよ……仲間の可能性を……」
「わ、わ私! 頑張って見ます!」
「それは良いけど、何処に居るか分かんのかぁ?」
(……分かるはずないだろうがぁ。完全に忘れてた)
「大丈夫よ皆。彼の言った事は今まで間違った事が無かったもの! 私たちの期待を裏切ることは絶対に無い!」
(勝手にハードルを上げんじゃねぇ!)
山田は地図を見ながら思考を巡らせる。最後に目撃証言があったのは王都から南東にある獣人の村近辺。そこから北に逃げた。魔王領に逃げたので、それ以上追跡は不可能。
彼は諦めた。特定は不可能。なので、地図上の地形を適当に指差した。
「こぉ、ここだ」
(犯人は現場に戻る……はずねぇな……さて、言い訳どうしようか)
【魔王領・魔王城・玉座】
「イビルゼクス様ぁぁ!?」
兵が慌てて玉座に入って来た。
「何だ騒々しい」
灰色に近い肌。白髪で赤い眼光の男が、眼を細める。
「大変です! 英雄たちが英雄たちの武具を集めてます!」
「先般、召喚された英雄候補たちが、古代英雄たちの常用していた伝説武具を回収していると?」
「イビルゼクス様のおっしゃる通りでございます。いかがいたしましょうか?」
「面白い……ならば我々もそれなりの準備をしようではないか」
「と申されますと?」
「【九滅の魔王】の遺産……至急、それらを全て回収しろ!」
「御意!」
「あ、イビルゼクス様。オークの件をご存知でしょうか?」
「四天王ほどでは無いと予測している。恐らく100前後の器であろう」
「なんと!」
「勧誘を忘れるな。それと逆らうなら……」
「心得ております。それでは失礼します。大魔王イビルゼクス様……」
【とある北の山】
「ここが俺が初爆破をした場所だ」
「ここが! ここから全てが始まった、ということか」
「ククク、ロスト。しっかりと目に焼き付けて置くが良い」
グリムは機嫌が良かった。次は防御系の魔法を作っていたからだ。デフォルトでは体に薄い膜を作り、ダメージを軽減する無属性魔法。追加で魔素を補充することで延長できる。そして、形も変え色々な防御に使える仕様になっている。
リーパーは欠伸をしながらその様子を見ていた。
「……あほくさ。はしゃぎ過ぎて、落ちるなよ」
(まっ、ロストが居るから落下しても大丈夫だし、ミリウが居れば多少の事件が起きても何て事は無い。リッスは大きいし。そう、世の中平穏が一番)
リーパーがそう考えを張り巡らしていると、道端にうずくまる人族の女性を見つけた。フードを被っていて顔が良く見えない。彼が近づいて声をかけた。
「大丈夫か、お嬢さん」
手を伸ばすが、それを取らずに言う。
「す、すみません。宜しければそこの大きな……」
ミリウをご指名の様だ。顔を上げると思ったより幼かったのでリーパーは興味を無くした。
ミリウが手を伸ばし、手を掴む。
「わ、わー、凄い大きな手ですね……」
「ふむ。鍛えてあるからな。其方、筋肉に興味があるのか?」
「え! ええ、まあ……」
彼女は何かを確かめるかの様に手をずっと握り締めていた。そして、10秒程たった時、声が上がる。
「ぬおぁぁぁあおお!?」
「ミリウ?」
その声を聞いてグリムたちもそっちを向いた。同時に彼女は手を離し、走り出した。
「ぬぐぁぁああ!? 力が抜けて」
ミリウは意識を失ってしまった。
「おい、待て! 何をした!?」
その時、隠れていた今宙と遠山が、虫と魔法で行く手を遮る。リーパーが叫んだ。
「あいつ等! ってことはあいつも英雄候補!」
「《黒焔》ッ!?」
グリムが慌てて黒い炎でそれらを呑みこむ。ロストが接近し、今宙に切りかかるが、遠山の攻撃に阻まれる。
「思ったより対応が早いっ。もう限界。逃げるよ!」
「ええ! あんなのに触れる何てごめんだわッ」
彼女等が去って行った。追いかけたいがミリウが心配だ。
「あいつら一体何をした……」
「なんで……仕掛けて置いて逃げる?」
「力が抜ける……? まさかスキルか!?」
ミリウのレベルを魔道具で確認すると31に落ちていた。
「嘘だろ……レベルが、奪われた……ッ」
数十分後、ミリウが目を覚ました。
「私は……」
一見なにも変っていない。しかし、不思議な事に内部の力が抜き取られるという感覚があった。
「……落ち着いて聞いてくれ……今のミリウは……レベル31だ」
「うむ」
「くっ……我がもっと早く動ければッ。自分が情けない!?」
「ロストのせいじゃない……俺も油断していた」
「私もです……ミリウさんは無敵だと勝手に決めつけていました」
「俺の楽々人生が……」
しかし、彼等は次の一言で唖然とした。
「素晴らしい……」
「何を言って……」
「なんという中身の無い、なんと未熟な筋肉だろうか。器が90代に入った時、私は気が付いてしまった。この頃の私は……筋肉の鍛え方があまりにもお粗末すぎたッ……」
「……?」
「だが。今ならもっと愛情を持って筋肉を鍛える事が可能。同じ場所に辿り着いた時、私は進化する。筋肉と同じように……」
リーパーは動揺する。何を言っているのか分からなかった。
「鍛え方次第で同レベルになった時に強くなるって、まるで意味が分からんぞ! ていうか何年かかるんだよ!」
彼はリッスの方を不安気に見た。彼女も考えると頭が熱くなってきたので考えるのを止め、とても良い顔で言う。
「はい! 私もそう思います!」
それを聞いて今度はロストに助けを求め、凝視するリーパー。しかし、彼女も困った様子でグリムの方へと顔を向ける。
「冥界の大書庫に接続し、往古来今、あらゆる情報を参照。我が頭脳でそれを統合。結果、理論上は実現可能だ」
「うるせー」
それを聞いてロストが自信に満ちた表情に戻り、ポーズを決めながら口を開く。
「フフフ、我も何かの深淵に接続した。素晴らしい。どうやら机上の空論のようじゃ」
「駄目じゃねぇか、馬鹿兄妹」
「リーパーよ。筋肉を信じろ」
「……」
【集会・3】
レベルを奪う作戦が成功か失敗かで今後の動きが変わる。落ち着きなく部屋をうろうろしている山田。そんな時、今宙と遠山が戻って来た。
「倉木君は!?」
「え、ええ……それが……」
「まさか失敗したのか!?」
「成功だと思うのだけど……」
「? なんか歯切れが悪いな」
そこで倉木が部屋に入って来た。皆は驚愕した。
身長が195センチを超える巨体。ボデービルダー顔負けの筋肉がやって来たからだ。震えながら誰かが問う。
「く、倉木っ。それは一体……何が?」
「可笑しな事を言う。私は何も変わってないが?」
山田が緊張しながら聞いた。
「い、今のレベルは?」
「77……私はそこら辺の雑魚など相手にならない力を得た」
(70も奪ったと言うのか……ということはオークは本当に100相当のレベルを保有していただとッ)
彼はさらに考える。恐らく奪った者の器というよりも、心技体魔の内部の力をそのまま奪うようだ。それにより彼女は凄まじい筋肉と高身長を得た。内部を無視した数値だけが何故差し引きされるかとか、色々と意味は分からないが、そういうスキルなのだろう。
「よっしゃ! 第二陣を送って、このまま鈴木を捕まえようぜ!」
「駄目だ」
「な、何を言ってる倉木」
「あのオークが死ねば私の力が失われる。そうなる前に私のレベルを上げる」
「はぁ? そんな勝手な!? 元々そういう作戦だっただっ……」
「黙れ。雑魚共」
「……ああ? 黙って聞いていれば調子に乗りやがって!?」
彼等が殴りかかるとペチと悲し気な音が聞こえた。そして彼女が軽く腕を振ると吹き飛ばされ壁に衝突する。彼等は意識を失った。それを見て、あわや殴りかかる寸前だった者達はそれを止めた。
「正解だ。仮にスキルや魔法を使っていたら殺していただろうな」
「くっ……」
「反論があるなら聞こう。ただしそれを聞き入れるかは貴様等の実力次第だ」
近藤が去ろうとする彼女を止める。
「待って! 今まで私達は協力して来た。だからここまで来れた!? 勝手な事は許さない!」
「今まではな……だがそれで何が変わった?」
「え?」
「魔王を未だに倒せず、鈴木一行をも捕まえることが出来なかったでは無いか? そんな協力に何の意味がある」
「そ、それは」
「お前だって遠山たちのおかげでその力を!」
「私がその気になれば、あの場で彼等を殺す事が出来た。協力など端から不要だったのだ。しかし、先ほども行った通り。オークが死ぬ前に強くなること、それが私の導き出した答え」
「くっ」
「これ以上の問答は時間の無駄だ。かかって来るが良い、【聖戦王姫 】」
近藤は諦めて聖剣を抜いた。暫く睨み合った後、切りかかる。すると倉木は手のひらでそれを軽く止めた。
「そんな!?」
少し離れ、何度もヒットアンドアウェイを駆使して、全方向から何度も切りかかるが全て受け止められダメージが無い。
「そんな甘い事を言っているから何時まで経っても雑魚のままなのだ」
その挑発に乗ると彼女は大きく跳躍をし、思いっきり切りかかる。
「はぁぁああああ!?」
結果、二本の指で白羽取りをされた。腕を横に振ると、剣を地面に落としてしまった。膝を付く近藤に向かい見下ろす様な位置で倉木は言った。
「小娘よ。弱きことを恥じるが良い」
そして、彼女は振り返ると歩き出す。
「これより私は魔族を屠り、筋肉を鍛える。誰の指図も受けん」
山田は冷や汗をかいた。自分はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない、と。
ある日、英雄候補たちは会議をしていた。山田が今宙が獣人の村から戻って来たことで緊急に開いた。
「度々集めてすまない。早速始めさせてもらう。最近、鈴木に会った者はいるか?」
関根が皮肉交じりに言う。
「山ちゃ~ん、もし俺が出会っていたら、今頃鈴木はここに居るってわけっ」
(お前には招集かけてないんだが……何故ここに居る? てかラグナロクが来てない。何かあったか?)
「そうかもな。他に会った者は?」
他の者たちは時に何も言わない。
「と言う事は、今宙たちだけか」
「え? ってことはまさか君たちも逃がしちゃったかな?」
「はぁ? 仕方ないでしょ。とんでもない化け物が居たんだから!」
「噂の巨大な竜って奴?」
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「いや、オークだ。温森の怪力を軽く上回る。不意を突いたと思ったが、容易で反応し、子供の如くあしらわれた」
「木村。そこまでじゃない。多分こっち、三。向こう七くらい」
「それは無い。0、10だ」
「まだそんな戦力を隠していた何て……」
近藤が山田の方を見た。
「山田君はオークのレベル、どのくらいだと思う? 作戦を組み立てるためには必要よ」
(俺に詳細を聞くんじゃない。分かるはずないだろ……だがしかしッ、ここで当てたら大きい。俺の信頼が増す。博打……間違っていても誤魔化す方法を考えれば)
「山田君?」
(35……いや、50くらいと見た……違うだろ。ここは42で決定だ。俺の勘がそう言っている)
イケボを出そうと咳ばらいをする。何度もやっていると、むせてしまう。
「ねぇッ、山田君っ?」
「あ、ああ! オークの推定レベルはヒィッャクィっ!」
むせたせいもあり、肝心なタイミングでしゃっくりが出た。
「え? そんな……」
「おいおい……嘘だろ、聞いたかよ……」
「恐怖の余り声が裏返っていたが……確かに聞こえた……」
「101……だと……」
「三桁……次元が違う……」
(違うっ! 今のはしゃっくりが出ただけだぁあ!)
「もうおしまいだ……勝てねぇよ……」
「ええ……人族はもう滅んでしまうのね……」
「地球に帰りてーよぉ!」
「私が聖剣を使いこなし、【極魔賢聖】ヨーク様の如く強ければッ」
(やばい! 絶望をまき散らしてしまった……どうする……冗談だったというか? しかし、こんな真剣な会議でボケるやつだと思われる訳には……くっ!)
「君たちは……世界を救う英雄だろ?」
「し、しかし!」
「倉木、杏花君が居る……」
「わ、わわわあわあ私!?」
「な、何言ってんだ。無理だろ……倉木に出来るはずがねぇ!?」
「そうだぞ山田ッ。そんな何の役にも立たない小娘に何が出来るってんだ!」
(小娘て……同級生だろ。だがまあ、無理もない。彼女のスキルを知っているのは俺だけだからな。密かに利用しようと思っていたが仕方ない)
「そうだ! そうだ! 嘘つき野郎を除いたら最弱だぞ!」
倉木と呼ばれた弱弱しい小柄の女子は緊張しながらも小声で言う。
「やや山田君。以前私のスキルは、魔王に撃つべきだと……」
「そうは言ったが事前に試してくれるかと思っててな。この際だ一度は使って見た方が良い……解除も出来るのだろう?」
「そ、そうですけど……でも帰って来れるかな……私、怖くて……死んじゃうんじゃないかって……」
「大丈夫だ。今宙と【スピリットサモナー】を付ける」
二人は顔を見合わせた。今宙が言う。
「山田。それは私たちが居れば成功する作戦なのね?」
「ああ、彼女がスキルを使い逃げるまでを支援して欲しい。接近はせず、すぐに引け」
「分かったわ」「オーケーよ」
「彼女は確かに今までは積極的に動くことが出来なかった。でも俺は信じるよ……仲間の可能性を……」
「わ、わ私! 頑張って見ます!」
「それは良いけど、何処に居るか分かんのかぁ?」
(……分かるはずないだろうがぁ。完全に忘れてた)
「大丈夫よ皆。彼の言った事は今まで間違った事が無かったもの! 私たちの期待を裏切ることは絶対に無い!」
(勝手にハードルを上げんじゃねぇ!)
山田は地図を見ながら思考を巡らせる。最後に目撃証言があったのは王都から南東にある獣人の村近辺。そこから北に逃げた。魔王領に逃げたので、それ以上追跡は不可能。
彼は諦めた。特定は不可能。なので、地図上の地形を適当に指差した。
「こぉ、ここだ」
(犯人は現場に戻る……はずねぇな……さて、言い訳どうしようか)
【魔王領・魔王城・玉座】
「イビルゼクス様ぁぁ!?」
兵が慌てて玉座に入って来た。
「何だ騒々しい」
灰色に近い肌。白髪で赤い眼光の男が、眼を細める。
「大変です! 英雄たちが英雄たちの武具を集めてます!」
「先般、召喚された英雄候補たちが、古代英雄たちの常用していた伝説武具を回収していると?」
「イビルゼクス様のおっしゃる通りでございます。いかがいたしましょうか?」
「面白い……ならば我々もそれなりの準備をしようではないか」
「と申されますと?」
「【九滅の魔王】の遺産……至急、それらを全て回収しろ!」
「御意!」
「あ、イビルゼクス様。オークの件をご存知でしょうか?」
「四天王ほどでは無いと予測している。恐らく100前後の器であろう」
「なんと!」
「勧誘を忘れるな。それと逆らうなら……」
「心得ております。それでは失礼します。大魔王イビルゼクス様……」
【とある北の山】
「ここが俺が初爆破をした場所だ」
「ここが! ここから全てが始まった、ということか」
「ククク、ロスト。しっかりと目に焼き付けて置くが良い」
グリムは機嫌が良かった。次は防御系の魔法を作っていたからだ。デフォルトでは体に薄い膜を作り、ダメージを軽減する無属性魔法。追加で魔素を補充することで延長できる。そして、形も変え色々な防御に使える仕様になっている。
リーパーは欠伸をしながらその様子を見ていた。
「……あほくさ。はしゃぎ過ぎて、落ちるなよ」
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ミリウが手を伸ばし、手を掴む。
「わ、わー、凄い大きな手ですね……」
「ふむ。鍛えてあるからな。其方、筋肉に興味があるのか?」
「え! ええ、まあ……」
彼女は何かを確かめるかの様に手をずっと握り締めていた。そして、10秒程たった時、声が上がる。
「ぬおぁぁぁあおお!?」
「ミリウ?」
その声を聞いてグリムたちもそっちを向いた。同時に彼女は手を離し、走り出した。
「ぬぐぁぁああ!? 力が抜けて」
ミリウは意識を失ってしまった。
「おい、待て! 何をした!?」
その時、隠れていた今宙と遠山が、虫と魔法で行く手を遮る。リーパーが叫んだ。
「あいつ等! ってことはあいつも英雄候補!」
「《黒焔》ッ!?」
グリムが慌てて黒い炎でそれらを呑みこむ。ロストが接近し、今宙に切りかかるが、遠山の攻撃に阻まれる。
「思ったより対応が早いっ。もう限界。逃げるよ!」
「ええ! あんなのに触れる何てごめんだわッ」
彼女等が去って行った。追いかけたいがミリウが心配だ。
「あいつら一体何をした……」
「なんで……仕掛けて置いて逃げる?」
「力が抜ける……? まさかスキルか!?」
ミリウのレベルを魔道具で確認すると31に落ちていた。
「嘘だろ……レベルが、奪われた……ッ」
数十分後、ミリウが目を覚ました。
「私は……」
一見なにも変っていない。しかし、不思議な事に内部の力が抜き取られるという感覚があった。
「……落ち着いて聞いてくれ……今のミリウは……レベル31だ」
「うむ」
「くっ……我がもっと早く動ければッ。自分が情けない!?」
「ロストのせいじゃない……俺も油断していた」
「私もです……ミリウさんは無敵だと勝手に決めつけていました」
「俺の楽々人生が……」
しかし、彼等は次の一言で唖然とした。
「素晴らしい……」
「何を言って……」
「なんという中身の無い、なんと未熟な筋肉だろうか。器が90代に入った時、私は気が付いてしまった。この頃の私は……筋肉の鍛え方があまりにもお粗末すぎたッ……」
「……?」
「だが。今ならもっと愛情を持って筋肉を鍛える事が可能。同じ場所に辿り着いた時、私は進化する。筋肉と同じように……」
リーパーは動揺する。何を言っているのか分からなかった。
「鍛え方次第で同レベルになった時に強くなるって、まるで意味が分からんぞ! ていうか何年かかるんだよ!」
彼はリッスの方を不安気に見た。彼女も考えると頭が熱くなってきたので考えるのを止め、とても良い顔で言う。
「はい! 私もそう思います!」
それを聞いて今度はロストに助けを求め、凝視するリーパー。しかし、彼女も困った様子でグリムの方へと顔を向ける。
「冥界の大書庫に接続し、往古来今、あらゆる情報を参照。我が頭脳でそれを統合。結果、理論上は実現可能だ」
「うるせー」
それを聞いてロストが自信に満ちた表情に戻り、ポーズを決めながら口を開く。
「フフフ、我も何かの深淵に接続した。素晴らしい。どうやら机上の空論のようじゃ」
「駄目じゃねぇか、馬鹿兄妹」
「リーパーよ。筋肉を信じろ」
「……」
【集会・3】
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「倉木君は!?」
「え、ええ……それが……」
「まさか失敗したのか!?」
「成功だと思うのだけど……」
「? なんか歯切れが悪いな」
そこで倉木が部屋に入って来た。皆は驚愕した。
身長が195センチを超える巨体。ボデービルダー顔負けの筋肉がやって来たからだ。震えながら誰かが問う。
「く、倉木っ。それは一体……何が?」
「可笑しな事を言う。私は何も変わってないが?」
山田が緊張しながら聞いた。
「い、今のレベルは?」
「77……私はそこら辺の雑魚など相手にならない力を得た」
(70も奪ったと言うのか……ということはオークは本当に100相当のレベルを保有していただとッ)
彼はさらに考える。恐らく奪った者の器というよりも、心技体魔の内部の力をそのまま奪うようだ。それにより彼女は凄まじい筋肉と高身長を得た。内部を無視した数値だけが何故差し引きされるかとか、色々と意味は分からないが、そういうスキルなのだろう。
「よっしゃ! 第二陣を送って、このまま鈴木を捕まえようぜ!」
「駄目だ」
「な、何を言ってる倉木」
「あのオークが死ねば私の力が失われる。そうなる前に私のレベルを上げる」
「はぁ? そんな勝手な!? 元々そういう作戦だっただっ……」
「黙れ。雑魚共」
「……ああ? 黙って聞いていれば調子に乗りやがって!?」
彼等が殴りかかるとペチと悲し気な音が聞こえた。そして彼女が軽く腕を振ると吹き飛ばされ壁に衝突する。彼等は意識を失った。それを見て、あわや殴りかかる寸前だった者達はそれを止めた。
「正解だ。仮にスキルや魔法を使っていたら殺していただろうな」
「くっ……」
「反論があるなら聞こう。ただしそれを聞き入れるかは貴様等の実力次第だ」
近藤が去ろうとする彼女を止める。
「待って! 今まで私達は協力して来た。だからここまで来れた!? 勝手な事は許さない!」
「今まではな……だがそれで何が変わった?」
「え?」
「魔王を未だに倒せず、鈴木一行をも捕まえることが出来なかったでは無いか? そんな協力に何の意味がある」
「そ、それは」
「お前だって遠山たちのおかげでその力を!」
「私がその気になれば、あの場で彼等を殺す事が出来た。協力など端から不要だったのだ。しかし、先ほども行った通り。オークが死ぬ前に強くなること、それが私の導き出した答え」
「くっ」
「これ以上の問答は時間の無駄だ。かかって来るが良い、【聖戦王姫 】」
近藤は諦めて聖剣を抜いた。暫く睨み合った後、切りかかる。すると倉木は手のひらでそれを軽く止めた。
「そんな!?」
少し離れ、何度もヒットアンドアウェイを駆使して、全方向から何度も切りかかるが全て受け止められダメージが無い。
「そんな甘い事を言っているから何時まで経っても雑魚のままなのだ」
その挑発に乗ると彼女は大きく跳躍をし、思いっきり切りかかる。
「はぁぁああああ!?」
結果、二本の指で白羽取りをされた。腕を横に振ると、剣を地面に落としてしまった。膝を付く近藤に向かい見下ろす様な位置で倉木は言った。
「小娘よ。弱きことを恥じるが良い」
そして、彼女は振り返ると歩き出す。
「これより私は魔族を屠り、筋肉を鍛える。誰の指図も受けん」
山田は冷や汗をかいた。自分はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない、と。
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より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
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カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
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