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13.エルフ

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 グリムとロストはリーパーの背に乗り、空中を移動していた。同時に彼が尋常な治癒エクスヒールで皆の傷を癒していた。自分の傷を見ていると思ったよりも深く、体も重い。ダメージが残っている様だ。

「グリム、何で黒焔くろほむらであの聖剣の女を倒さなかった? 全てを燃やし尽くせただろう」

「無理だ。あの魔法は光に弱い、太陽光……いや、やり方を知っていれば俺のライトでも消せる」


「はぁ? それじゃあ何で昼間に使えてんだよ」

「闇の膜でくろほのおを覆って、光を遮断してるからな。他には銀と聖水せいすいにも弱い。それが疵瑕しか条件だ」

 グリムはそのまま続ける。


「それに、燃やし尽くすのはハッタリだ。俺の手から離れると他人の魔素を喰らって燃えるんだが、魔法は約80%、生物からは8%程度の魔素を喰らえば、闇の部分は消える。後に残るのは、ただ炎の性質を持つだけの黒い焔」


「なるほど……上手く誤魔化してたって訳か……」

試作品しさくひん、黒い炎の第一弾ってところだ」

「おぉ~」

 ロストはそれに歓声を上げる。

「にしても……それは捨てないのか?」


 金属部分はほぼ残っていない大鎌おおがまのことだろう。ロストが心配そうに見つめていた。

「剣返そうか?」

「いや、ロストが持ってな。甘美なる誘惑アイト・ファルチェは鎌にしか付与ふよ出来ないからな。それに、この魔法の強みはかげ部分だから問題は無い」

「おい……もっと早く言えよ」


 ロストが素朴な疑問を言う。

「これからどうする?」

「まあ、グリムが素直な時は相当やばい。一旦何処かに隠れて力を蓄える……あいつらはしつこそうだしな」


(俺の魔法は光属性に弱いのが多い。だが、彼女を対策する魔法は作りたくは無い。そこには俺の目標も、俺が信じる強さもないからだ。作りたい魔法を、必要な魔法を作る)


 グリムは色々魔法を想像する。今回は闇属性の魔法を生成し始める。今度こそ敵を呑みこむために。


「ククク、力だ。もっと強い力が要る!?」

「フフフ、我もなにかを掴めた気がするのじゃ」


「お前等、実は血を分けた兄妹きょうだいだろ……」


 ロストがポーズを決めながら即答した。グリムもそれに参戦した。

「否ッ……」

「我等は闇から生まれ」

「闇の力に繋がれし」

「獣……」


 リーパーは背中に不快な刺激を受けた。

「いてぇから動くな」

「痛い? そうか!? 動きながらでも回復出来る魔法を生成すれば」

「そっか! 背中でもっと激しい動きがが出来るっ」


「落とすぞ? ……敵に勝てるなら何でもいいが。ってそう言いながらこそっと変な魔法生成して無いだろうな?」


「それより、俺専用の大鎌が欲しい」

 彼は堂々と話を反らした。


「あー。お前専用かどうかは置いて、確かに大鎌は必要だな。使い勝手の悪い魔法を作ったからなーっ……」

「それは、どうかな?」

 リーパーはそれに取り合わずに辺りを見渡した。

「でけぇ木、木、川。見渡す限り森だな……さっと街に寄って大鎌を」


 その時、ゴンっ、という大きな音が聞こえた。リーパーが突然何かにぶつかった。意識を失い、元の小さな姿に戻ると落下していった。すぐに目を覚ましたリーパーが叫んだ。


「うわぁぁああ!?」

「こっち!?」

 足をバタバタさせて、その声をがする方へ進む。二人を掴むとロストは見事に着地した。しかし、その瞬間彼女は何故か転んでいた。

「え?」

「いってー。何が起こったんだ」


 その辺に放り出されたリーパーが起き上がる。転んだのもそうだが、ロストは驚愕する。木々が生い茂った森に着地したはずなのに、草原にいたからだ。

「ど、どうなってんだよ……」


「なるほどな……」

「何か分かったのか、グリム?」

「結界と転移……」


「そんな高度な魔法がなんで?」

「クク、そこから導き出される答えは一つ。金銀財宝だ……」

「た、確かに……」


 ロストもそれを聞いて喜ぶ。彼女も宝石は好きな方の様だ。興奮してまた口調が変わる。

「ふむ、ワシの勘もそう告げておる。のじゃっ」


「大発見! やったぜ!? さあ、行くぞ!」


 一度飛んでその位置を確認すると、人に姿を変える。そして、彼等は森の中へと入って行った。植物の魔物を焼き払い、四足歩行の獰猛な魔物を退治しながら奥へと進んで行く。

 何日も経った。それにどの魔物も手強かったが、彼等の物欲がそれを全て上回る。


「この辺りのはずだぜ」

「取りあえず石投げるか?」

「おっけ」

 石を投げると結界に当たり消えた。ロストが尋ねた。

「どうやって突破する?」


「ふっ、こういう時のグリムだろ?」

「あ、黒焔くろほむら!?」

「さて……」


「来い。世界を喰らいし原初の焔……我を阻む全てを焦がせ」

 最初の一度だけポーズを決め、決め台詞を言うと。彼は魔法を連発した。巨大な結界なので早く壊す狙いだ。そして、ついに結界が壊れた。

「ふぅ……一撃か。造作無い」


 今のリーパーは機嫌が良い。寛容な心でその虚言を許した。そして、奥へと進んで行く。

「おい……」

「ああ」


 暫く歩くと空気が変わった気がした。三人が警戒した時、矢が無数に飛んで来た。ロストが前に出た。翼で全てを弾き飛ばす。しばし静寂が訪れた後、憤りの声が聞こえた。

「貴様等、何者だ!?」


「闇に迷いし光……あるいは光と思い込んだ闇」


 暫くして、ささやく程度の声が聞こえた。さらに数分後、森の奥、暗闇から誰かが歩いて来た。


「貴様等何者だ!?」


 その姿を見てグリムは思わず声を張り上げた。

「エルフ!?」

「……人族……それにこの感じ、汚らわしい吸血鬼か。さっさと質問に答えよっ」

 いつの間にか周囲の木の陰や枝にエルフが多数いた。弓を構えている者、魔法を発動させている者がいる。服と顔から性別も判断できる。


「名も無き旅人さ」

 彼女は首を傾げるのを我慢して、震えている。ギリギリで凛とした態度に戻り彼の言動に立ち向かう。

「……何をしにここへ来た?」

 流石のグリムも考えた。彼が想像していた金銀財宝は誰も所有されてない過去の遺産。しかし、今それを言えばエルフから奪いに来た蛮族となるからだ。

「ククク、エルフを救いに来た」

「……何?」

「近々、この世界の戦は今よりも強大になり。そして、エルフたちをも巻き込むであろう!?」

「たわ言を……」

 そこでグリムは見た。人の姿を捨て、小さい体で静かに逃走しているリーパーの姿を。彼は即、リーパーを捕獲する。


「何一人だけ逃げてんだ!?」

 そこでリーパーは苦しそうに言う。

「とかー。とかー。とかとかー」


「? 何言ってんだお前?」

「もしかしてエルフの魔法?」


 ロストも怪訝そうにしていた。そこで男女問わず頬を赤らめて見惚れるエルフが激怒した。


「貴様!? 健気に生きようとするトカゲさんに罪を擦り付けようとするか!? 外道が!?」


「いや、こいつ喋」

「黙れ!?」

 リーパーは追撃をする。

「とかー。とかー」

「こ、こいつ!? こうやって逃げ切る気か!?」


「まだ言うか!? 皆の者!? 奴等を捉えろ!?」


 抵抗するも数が多く、あっさりと捕まってしまった。うつ伏せの状態で取り押さえられている時、グリムが顔を上げる。

 すると何人かの女性エルフがトカゲと戯れていた。男性エルフが羨ましそうに見ている。リーパーはエルフの服に入ったりするが、怒られる気配は無い。

 暫くすると縄で動けない様に縛られ、そのまま村へと連れていかれた。村の牢屋に入れられる。

「ほらっ、さっさと入れ!?」


 投げられる勢いで牢に入れられる。縛られたままで起き上がると、ロストが悲しい表情をしていた。


「どうした? さっきの言われた事か? 気にするな奴等はロストの良さを知らない」

「それは……ううん、違う。喋れるリーパーと、もう会えない?」

「……大丈夫だ。恐らく作戦だろうな」


「ほんと!?」

「ああ、本当だ」


 すると目の前にリーパーがちょこんと立っていた。

「早かったな」


 真剣な表情でリーパーが聞く。

「なぁ、グリム……」

「何だ?」


「俺の体に、任意で粘液ねんえきを発生させる事が可能な魔法陣を描いて欲しいんだ」

「不可能だ死ね」


「でもグリム。よく分からなけど、それが脱出に鍵になるかも」

「不可能だ。ロスト、この件はもう忘れるんだ」


「ちっ……あ、それと俺はここで暮らすから後は頑張れよ」

「え?」

 サラっと発言した言葉に理解が追い付かない。そこで扉が開いた。女性エルフが入って来た。先ほども思ったが、この村は美男美女の集まりだった。彼女は柔らかい口調で言う。

「そこに居たか、トーカ。こっちにおいで」

 リーパーは彼女体を上り、服の中に入り込んだ。すると彼女は目つきが鋭くなり、強い口調で牽制する。


「人族と吸血鬼。変な気は起こさない事だ。その時は躊躇わずに殺す」


 エルフはそう言い残して去って行った。静寂が戻るとロストが涙目になっていた。

「そんな……リーパーが……」

(やろぉ……くっ、それにどうしたものか。こんな時なんて声をかければ。せめて日頃の元気の良いロストになら乗り切れるんだが)


「こ、今度可愛いリーパー人形を作ってやるから!」

 そこでロストが泣きだした。そこに不遜の態度は無く、年相応の子供の様だ。


(くっ……一応信じてるが、あいつなら本当に実行しそうだ……約束を破らない方法、それは約束をしないこと。一番現実的な言葉をかけたいがきっと悲しむ。俺は……あれ以外に彼女を元気づける方法を知らない)


「ククク、奴等にはリーパー人形がお似合いだ。真のリーパーを取り返す計画は既に完成したッ」


「帰ってくる……?」

「当然だ。だから悲しむ事は無い」


「……うん。グリムを信じる」


(ロストは酷く恐れている。俺たちが居なくなることを……当然だ。それは……いや……ましてや彼女は子供だからな。てかあの馬鹿野郎。覚えてろよ)



 翌朝、グリムとロストは牢屋から出されると、何処かに連れていかれる。何も聞けない雰囲気が漂う。黙ったまま少し歩くとお偉いさんが集まる場所に連れて来られた。

 威厳に満ち溢れる男性エルフがグリムとロストを凝視する。何もかもを見通すかのような、そう感じさせる貫禄があった。そのエルフは長老と呼ばれている。


「さて、エルフを救うために来たという事だったかな?」

「そ、その通りです……」


「はて? ならば何故結界を破壊した? 言っている事と真逆に見えるが……」


(やれるか……? だが、下手な事を言うとロストも酷い目に合わされるかもしれない……)


 そこでふとロストと目が合った。しかし、そこに昨日のような儚さは無い。彼女は力強くグリム見ていた。そして、頷いた。


(はは、俺としたことが……)


「答えよ。人族……」


「ククク。あれが、あの程度が結界? それは失礼しました……」

 この部屋に混じっている若い者たちはそれを聞いて怒りを隠さない。昨日の女性エルフがグリムを睨み付ける。


「言葉に気を付けろッ。人族よ……誇りのためならば、我々は戦もやぶさかでないっ」


「外の世界……いえ、人族は英雄たちを既に召喚しました……魔王、六災害。いずれにせよ各地に戦火が広がるでしょう」

「……なに? それは誠か?」

 集うエルフがざわざわと騒ぎ出す。


「この村の結界とは簡単に壊されるものでしょうか?」

「……なるほど。伝承の通りの……」


「長老!? この人族は信用なりません!?」

 彼女はそれ以上言葉を紡がない。否。長老が眼だけで彼女を制した黙ったようだ。

「して、其方は何をしにここへ来た?」


(大胆な皮肉を入れた……だが、この長老は意に介していない。何を考えているのか全く分からない。恐ろしい……これが村のおさ


「今の情報を伝えに来ただけです。差し出がましいですが、警告……ですかね」

「……」

「知らぬとは言え結界の様なモノを壊してしまった。そうですね。もし許されるなら……さらに強い結界を作るお手伝いさせてください」

「……ほう。其方が?」


 彼は無駄な事を話そうとはしない。その態度は余裕を感じさせ、こちらの言葉を待っている。


(どういう意図の発言だッ。クソ!)


「しかし、既に存じ上げてるかもしれませんが、私に出来る事は破壊のみ……間接的な協力になってしまいますが……」

(ここは様子をみる)


「長老!? 人族の言葉を信じるのは危険すぎます!? 出会ったときも訳の分からぬことを! それに罪もないモノを犠牲にする精神を持っております!?」

「ふむ……」


(先に彼女をどうにかしないと……やるか……)


「ならば一つ。貴方の誤解を解きましょう……」

「なんだと?」


「ロスト」

「なに?」

「俺が触れるまで。暫く目を閉じて、耳も塞いでくれるか?」

 言われたとおりにロストは目を閉じ、血の魔法で耳栓をした。一瞬分からない程度に長老がロストを見たがすぐに視線をグリムに戻す。

 周りの雰囲気を感じ取ったグリムは話を進めようと女性エルフを見る。正確にはリーパーを見た。


「その……トーカ、でしたか? それをその男のパンツに放り込んでください」

「俺ぇ!?」

 エルフの男性が驚きの余り後退る。女性エルフが怒りで叫ぶ。


「何を馬鹿な事を!? そんな事をして何が分かる!?」

 意味の分かったリーパーがとんでも無い顔になっていた。

「もしそれが、ただの罪なき生物ならば、私はそれなりの罰を受けましょう」

「……」


「しかし、そのトカゲが私たちの仲間ならば……私の言葉を信じてください」

「意味の分からんことを! それをすることに意味は無い!?」

 埒が明かないと長老が一言だけ述べた。


「許可する」

「長ぉ老ぉ?」

 エルフの男の声が裏返る。リーパーが逃げようとするが、女性エルフが捕獲した。凄まじく暴れているが必死に抑える。


「とかぁあー!? とがー!? とかぁああー!?」

「くっ……すまぬ!? 長老の命令とあらば。だが、一度だけだ!? 信じているぞトーカ!?」


「クク、ククク、フハハハハ!? 早く正体を現さないとツインドラゴンになるぞ!? ハハハハ!?」

 徐々に男性エルフに近づく。どんなに抵抗しても無駄だと悟った時、彼は叫んだ。


「やめろぉぉぉおおおお!? グリム!? てめーぶっ殺すぞゴラぁ!?」

「リーパー、ようやく正体を現したかッ!?」


 怒りに身を任せて発狂するリーパーに驚くエルフたち。長老はようやく状況を理解し、密かに笑いを我慢する。

 リーパーが叫びながら殴りに来たが、グリムはそれを避ける。その拍子に軽くロストに触れた。そして、目を開けたロストが縄を切ると、リーパーを両手でしっかりと捕獲した。

「リーパー!」


 暫く三人はじゃれ合っていた。そして、話を終わらせるべく、一同が笑いを我慢している長老を見る。


「ゴホン、失礼」

 長老が咳ばらいをした後に先ほどの威厳を取り戻す。


「よかろう。ならば、北の洞窟へ行くが良い」


(助かった……のか?)


「北の洞窟ですか?」


「そこには魔素の塊、魔石がある。それは長い年月を経て、魔素を蓄えた石。洞窟の奥に行くほど魔素が濃くなる。故に強力な魔石が手に入ろう」

「それを結界に使うのですね」


「左様……期間限定になるが発掘の許可は出しておく」

「ありがとうございます」


 そして、長老は他のエルフにを見る。


「皆の者、準備に取り掛かれ!」


 怒ったリーパーと共にグリムたちも北の洞窟に向かう準備をする。そこで長老が最後に呼び止める。


「グリムとやら……我々は英雄を含め、異端を決して許さぬ。忘れるでないぞ……」

「……心に留めておきます」


 凄まじい闘気だった。この場に居たくないと思える程の威圧感。先ほどまでとは比較にならない恐怖。


(……エルフを含め、この世界の人々が1000年間もどうにもできなかった脅威を、果たして越えられるか?)









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