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8.特別な魔物
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グリムはすでに治癒魔法の生成タイムに入っていた。当たり前だが、無いのと在るのでは、まったく違うのだと実戦を通して学習した。
(想像魔法の強みは柔軟な戦い方にある。兎に角、作れる時に欲しいと感じた魔法を作る。そして想像した魔法の練度を上げ強化していく)
しかし、実のところグリムは闇の誘惑に負けていた。リーパーはそれを知らない。治癒魔法が未だに生成中なのは、その間に大鎌に闇を纏わせるための魔法を差し込んだ事を。
リーパーは宿屋のテーブルに満足そうに座っていた。先ほどご飯を食べたからだ。
「いやー、ほんと参ったぜ。危うく魔族まで敵に回すところだったな」
「問題ない。なんせ四人とも生きてるからな! 先に攻撃して来たのも向こうだしな」
二人は楽しそうに高笑い(現実逃避)をしていた。
「ところでリーパーは竜(?)なのに何で人族の女性が好きなんだ?」
「はぁ? お前たち人族も小さな魔物や動物に愛情を注いでるだろ?」
「いや、それはちょっと違うと思うんだが」
「けっ。変らねーよ。好きなものは好きなんだよ」
「でも、村を襲ってたぞ?」
「生命の危機にそんな事言ってる場合じゃないだろ……もしかして馬鹿かお前? あっ、馬鹿か」
「……違う、黒衣の死神は知性の塊だ」
「と言うか、人族だけじゃねぇぞ。美女なら魔族も獣人族も関係ねぇ。誰でも歓迎だ」
「他の種族がいるのか!?」
「ほー、モテなくてもその辺は興味はあるようだな」
「それは関係ない……なぁに、深淵ってやつを知っておきたくてな」
どうやらこの世界には人族、魔族、獣人、翼人、エルフ、竜人、精霊、吸血鬼。そして竜族が存在するらしい。表立って争っているのは人族と魔族だ。精霊は例えるなら幽霊に近く、見える者が少ない。
竜族とは六災害は別ものとして認知されている。竜族には八体の長がいて、それを八竜と呼ぶらしい。
「神話によると神族様様が創造したらしいな……今でも信仰はそこそこあるようだが」
「ふーむ。なるほどなー」
「それで、何でこんな話をしたか、分かるな?」
「ああ、当然だ。黒衣の死神の名を世に」
「大人しくしてろって事だ。これ以上敵を作るんじゃない」
「でもこの前」
「あれは仕方ないだろ。お前も美女が襲われてたら助けるだろー?」
「いや? 獣だろうが人だろうが、名乗るタイミングを見計らって助けるが? ククク、そして噂は広がり、畏怖と敬意を持って、世界は俺の名を永遠に刻むであろうッ」
「何処にだよ。もはや病だな」
【緊急依頼】
グリムの服が、フードだけでなく内装も全体的に黒くなっていた。それに反比例して稼いだお金が減っている事に気が付く。リーパーは彼を殴った。
仕方なくギルドに向かうと、男性職員がリーパーの名を呼ぶ。少し慌てているようにも感じた。しかし、それに応じずに、女性職員の前に行く。そうはさせまいと、男性職員もその近くに来て強引に話し出す。
「待ってましたよパーリィーさん!」
「誰だお前?」
「やだなー。ギルドのお兄さん、トロルですよ! って不味いんですよ! 緊急の依頼がパーリィーさんたち……というより全員に来てます!」
リーパーは良い顔で即答した。
「断る。危険の香りがするからな」
人の多い場所では仮面フード状態のグリムが割り込む。
「緊急? 俺たちにしか出来ない依頼なのか?」
「それはもう! なんせ四人のスパイ魔族を捕まえた期待の中型の新人ですからね!」
「……よし! 漆黒仮面に任せる」
「任せとけ。どんな相手だろうと、この大鎌の贄としよう」
そう言い残し、その場から逃げようとしたが、腕を掴まれて止められる。
「そうはいきませんよ。登録してるのはパーリィーさんですし、名声にヒビが入りますよ!」
「ははは、俺は名声のために動かない……分かったらその手を離しなッ」
その後も長々と格闘する。結果的に女性職員がお願いすると即依頼を受領した。
【砦:ルイン】
砦を魔物が攻めようとしているので防衛する、という依頼だ。戦士ギルドで多くの傭兵を雇っている。リーパーはその中の一組だ。ギルド所属の者たちがざわざわと騒ぎ出す。リーパーの方を見ている様だ。
「まさか、中型新人のパーリィーか?」
「あれが?」
「ほー、あの若さで……」
様々な声が聞こえてくる。リーパーは焦る。自分だけ目立つと不機嫌になったグリムが絶対に何かやらかす。急いで彼を止めようと振り向くと、意外に大人しかった。
「……逆に気持ち悪いな」
「何がだ?」
「何時もなら馬鹿みたいな自己紹介をするだろ?」
「まったく、お前は何も分かってない。今回のパターンは格好良く敵将を討ち取った時に名乗るのがコツなんだよ」
「良かった。今回は名乗る事はなさそうだな」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
その時、周りの連中の中でもひと際若い男女が話かけて来た。
「へー、あんたが魔族の奇襲を防いだ噂の中型新人、パーリィーか」
「うわっ、すご~く強そ……でも良かった。猛者が多いのは良いんだけどね。怖いおっさんが多くて緊張してたのよ~」
「……なんだお前等?」
「俺かい? 俺は【神代の英雄】ラグナロク」
「私は【金色のスピリットサモナー】遠山よ」
「英雄ぅっ!?」
「もぉ、そんなに驚かないでよ。ここに居るからには立場は同じだよ」
「で、そっちの仮面さんは?」
「俺か? 俺は漆黒の仮面ロキ」
「へ~、センスの塊じゃん!」
「ああ、良い名だ。共に頑張ろう」
彼等は自分の持ち場へと戻って行った。リーパーがその者たちを見送りながら言う。
「なぁ?」
「なんだ?」
「あれ、お前と同じく召喚されたやつ等か?」
「そうだ。ここに来てるのは二人だけのようだな」
「……召喚されたのって、あんなのしかいねーの?」
「ああ、少し前までは田中とただの遠山だったが、どうやらかなり成長したようだ。関りは殆どなかったとはいえ、嬉しくなる」
「……強さは確かなんだろ?」
「今の俺では勝てるかどうか……いや、今の俺なら……」
「まあ、強ければなんでもいいや」
魔族は約千の兵を牽いてやって来る。敵将は三メートルほどの魔族。隣には四メートルほどの狼の魔物を連れていた。
砦の人族はその数を見て恐怖するが、人族の指揮官が皆を鼓舞し、それを受けて約三百の兵が雄たけびを上げる。そして彼等に指示を出す。
「さあ! 魔法障壁を張れ!?」
砦の内部にある巨大な魔法具。それを起動させると城壁より高い半透明の魔法障壁が展開された。円系では無い。それは敵が障壁を壊している内に、上空の隙間から魔法や矢で攻撃するためだ。
何体かは空を飛んで来るので、対空するためのバリスタや魔導兵器の最終チェックも済ませた。魔族が接近しきる前に魔法障壁は展開する。その少し前にコソコソと動く、ラグナロクたちが近寄って来た。
「ロキ……砦に居ては活躍などまた夢だ……分かるだろ?」
「俺の射程は変幻自在……ここからでも活躍して見せよう」
「もぉー、そうじゃないでしょ。歩合、あっ……じゃなかった。前線に出て敵を倒すと目立つでしょ? それは栄誉な事よッ!」
それを聞いたリーパーはそれを拒否する。
「おいおい! わざわざ地の利を捨てて魔法障壁の外に出るとか自殺行為。絶対に行かねぇからな! それに一度障壁から出れば、壊れるか、戦いが終わるまで戻って来れねぇ」
遠山が突然、リーパーを羽交い締めにした。ムニュっと柔らかいものが当たる。
「んっ、これは予想以上! 確かそっちに人目につかない部屋があるから」
ラグナロクがグリムの腕をガッシリと掴む。考える暇も無く彼は叫ぶ。
「ハーハハハハ! イッツショータ~イム!?」
そのまま引っ張り城壁から落下した。同時に彼女も落下し、リーパーが叫び声をあげていた。
「シルフィー! お願い!」
彼女が誰かを呼ぶと何処からか風が発生する。そして、落下の衝撃を抑える。ラグナロクと遠山は恰好よく着地する。対応出来なかった残りの二人は地に転がった。彼等は同時に立ち上がる。
「ふざけんな! 俺は砦に戻るぞ!」
リーパーが戻ろうと城壁方面に走り出した時、ドンと音を鳴らしながらぶつかる。魔法障壁の展開が完了したようだ。
「ィッ……テテ……って嘘だろ! そんな……ッ」
「大丈夫だパーリィーさん、俺たちが協力すれば一騎当千!?」
「お前等、二騎だけでやれよぉ。てか協力すんのかよぉ……助けて~、こいつらイカれてるぅ……ぅぅ……ぅぅぅ……」
悲観に暮れていると、それを気にせずにラグナロクが双剣を抜く。
「さあ目覚めよ、神域を侵す双頭の魔剣……デウストワイライト……ディユ・リコフォス」
彼が剣を抜く際、選ばれた者にしか見えない輝きに魅入られたグリムが呟く。
「神々の黄昏……だというのか……ッ」
「お前には分かるのか? この輝きが……」
「当然だ……」
「そこは黄昏ろよ」
リーパーが切れ気味に言った。砦に戻れなかったのが余程ショックだったようだ。グリムがラグナロクに語りかける。先ほどの意味不明なやり取りはまだ続いていた。
「その名は時代の終わり……」
「ふっ、またの名を全ての始まり……」
「あぁもう、分かんねぇ~よ。何言ってんだこいつ等っ」
「ふふ。盛り上がって来たわね……確かにそれは大事ね……分かってる……うん……うん……大丈夫よ。さっ、行くわよっ、シルフィー! サラマンダー!」
リーパーはそれを目撃して震える。彼女は彼女であらぬ方を向き、見えない何かと会話していた。
そして、ラグナロクと遠山は敵殲滅のために急加速する。逆にグリムは大鎌を携え、戦地に向かって、ゆっくりかつ堂々と歩き出す。一方リーパーは、静かに背景と同化した。
【砦前:敵陣】
ラグナロクは敵のど真ん中に突っ込んで行く。その双剣を持って次々と撃破し、遺体の山を積み上げていく。遠山は風や炎の魔法を主体とし。彼を援護するように戦っていた。グリムの魔法よりも範囲が広く強力な魔法。
その出力は異常だ。魔法という洗礼された括りでは無く、例えるなら蛇口を思いっきり捻ったかのように垂れ流している風に見える。竜のブレス、或は自然のエネルギーそのものにも見える。
何より不思議だったのは、彼女の死角であろう位置からの攻撃も、そこを見ずに防いでいたことだ。それはまるで何かに守られているかのよう。
敵の被害が80を超える頃、突然道が空き。奥から大柄の魔族が歩いて来た。
「お前を倒せば俺たちの勝利」
「安心して。魔王とやらも貴方と同じ。すぐに地獄に送って上げるから」
「何たる侮辱……我と大魔王イビルゼクス様を同列に扱うなどッ。許さぬ。魔物の餌にしてやるぞッ」
「違うな。お前は我が双剣の錆となる」
そこで魔族が背後から襲い掛かる。それに対処しようとした時、敵将が氷の魔法で攻撃を重ねた。遠山たちは全てを防ぎきれずにダメージを負う。
「ちっ……武人として恥ずかしくないのか!?」
「笑止……勝利以外は要らぬッ」
「ラグナ。貴方はボスに集中して。周りの雑魚は私がやる」
「任せたぞ。【金色】……ッ」
「フェンリルよ。遥か遠くから歩いて来ている、大鎌を持った男は任せた」
「承知ッ」
隣に居た巨大な狼はグリムの方へと走り去って行った。
「くっ……あれはロキに任せるしかない」
「大丈夫よロキなら。それに期待の中型新人、パーリィーもいるわ!」
「そうだな!」
少し前、リーパーは元の小さな姿に戻りコソコソとしていた。良い感じに隠れることが可能な場所を見つけたので、そこにすかさず入りホッと一息ついた。
「まっ、重要なのは戦いに参戦したって事実なんだよなー」
戦いが終わるのを安置でずっと待っていた。
少しお腹が空いたなどと考えたその時、何かに弾き飛ばされたグルムが近くに勢いよく転がった。リーパーは変わらず静かにその場で息をひそめていた。状況を観察する。
グリムが負っている深い傷を放置している所から察するに、どうやら魔法は完成していない、もしくは治癒が間に合っていない。つまり強敵のようだ。
「ッ……魔浪フェンリル……なんてパワーだ……」
「諦めろ人族……お前たちに未来などない……今度こそ滅ぶ時が来たのだ!」
「……仕方ない。これだけは使いたくなかったのだが……」
「なに?」
グリムが大鎌を恰好よく構え直す。
「幸い、今は奴がいないからな……存分に戦える」
「ふん、先ほどからずっと一人ではないか。下らん強がりはよせ……貴様の動きは既に見切った」
「強がりかどうかはこれを見て決めるが良い……死よ……我に力を。舞え、《甘美なる誘惑》」
グリムはその大鎌に黒い霧。いや、暗いオーラの様なモノを纏わせた。狼がうろたえる。体中に嫌な悪寒が走ったからだ。
「な、何だ……それはッ」
「逃れられぬ運命……則ち死だ……」
彼が接近し、その大鎌を振る。狼は先ほどと同じ対処をする。しかし、爪で防ごうと受け止めた時、爪が容易に切断された。二撃目。狼は切断された事実を受け止め、素早く後方へ跳んだ。
「一体なにが……ッ」
狼が落ち着いて対処法を考えようとした時、冷酷な声が聞こえ、ハッとした。先ほどの位置から一歩も動かない男が言う。
「気を抜くな。そこはまだ俺の領域……」
「!?」
地面に黒い影のようなものが近づいていた。そこから大きな刃が出現し、狼を襲う。体に深く刺さる。離れただけでは、圧倒的に不利であった。深手を負った狼は流れを変えるため、勢いで突進する反撃に出る。
鋭い攻撃だった。しかし、彼は動じず、まるで動かなかった。渾身の一撃がグリムを襲う。しかし、狼は彼に触れる事は叶わず、その前に作られた黒い何かに防がれた。それどころか、その黒い何かの鋭い刃による反撃を受ける。
「あ……あ……馬鹿な……!? 何故貴様のようなやつがっ」
リーパーは寛容だった。治癒魔法を差し置いて、いつの間にかコソっと作った魔法を許した。勝てるのなら問題は無い。意外にも実用性があった魔法をむしろ心の中で称賛する。
「漆黒に帰せ。其は我等の故郷なり……」
止めを刺そうとしたその時、大鎌の黒いオーラが消えた。グリムから声が漏れた。
「あ……」
狼は思わずその声を復唱した。
「あ……?」
「……今日のところはこの辺で勘弁してやろう……さあ、帰るが良い。家族が待っているのだろう?」
「……いや、嘘やろ? 時間制限だよな?」
「ふっ……止めておけ。俺の気が変わらない内にとっとと帰えんな……」
そこで怒りの鉄拳が飛んで来た。
「馬鹿かってめーはぁ!?」
「ぐばぁっ! お、お前が何故ここに!?」
グリムは人姿のリーパーに結構吹き飛ばされた。それを見た狼は顔を引きつる。
「なっ!? 新手!?」
「げ!? 思わず出て来てしまった!」
彼を殴るためについ姿を現してしまったリーパー。しかし、狼は警戒する。彼を容易く殴った者はきっと強いのだろうと。その証拠に黒衣の男は殴った者を恐れているようにも見えた。
深手を負ってこの二人を相手にするのは危険だと体が告げていた。ずっと先を読むと漂って来る死の臭い。狼は語り出す。
「私は……小さき頃、両親を殺された……人族になっ……」
「急になにを」
「私たち家族はもともと人族の番犬だったのだ。お互いの特性を活かし、生活を助け合っていた……あの時までは……」
「……何が起こったんだ?」
「忘れもしない、ある日の……」
「おい、ロキ。さっさと殺そうぜ。これ嘘だぞ」
「はぁ? そんな訳ないだろ。何を証拠に。そうだろっ、フェンリル!」
「ウン、ホントダヨ」
「俺も大概嘘つきだからな。分かるんだよ。これはグリムとは違う、どす黒い嘘つきの臭いだ」
「違う! 嘘を吐いているのはその人族だ!? どうかっ信じてくれ!?」
「まあ、お前がそう言うなら……《偽りの勇士》」
狼を倒そうと強化魔法を自身に使う。追い詰められた狼。そこで鼻と耳が動いた。そして、一瞬だけ口元が緩んだ気がした。大きな声で狼が吠える。
「計画通りですねッ。これで人族を滅ぼす事が出来る。最後まで油断せずに戦いましょう。ロキさんッ」
それを聞いてリーパーは呆れた。そんな下らない嘘に引っかかるはずが無い。
「あのなぁ……」
しかし、狼は彼に言ったのではない。二人に言ったのである。ボスを討ち取って近づいて来た英雄の二人に。
「今の話は……本当か……?」
「ラ、ラグナロクッ、違うぞ。これはフェンリルの嘘だ」
「くっ……駄目だロキさん。もう騙しきれ無い! ここは私が食い止める! 貴方はお逃げ下さい! ここで貴方を失う訳には行かない! 魔族の希望なのだから!」
そこで遠山は思い出したかのように言う。
「ロキ……確か悪戯好きの神。何か色々といたずらやって、結果、死と滅亡を招いたとか、招いて無いとか!?」
「悪戯で死と滅亡を招いたのッ!?」
リーパーはそれに驚く。しかし、彼女が最後にボソッとうろ覚えだけど、と呟いたのは聞こえなかったらしい。
「くそっ……今まで俺たちを騙していたのか!?」
「当たらずと雖も遠からず……」
「そこは否定してくれ! てかなんでそれを名乗ったぁ。何時もの病か!?」
一方フェンリルは覚悟を決めていた。
深手を負い、味方は半数がやられ、かつボスは倒れ、敵の主力は欠ける事無く四人。死を悟っていた。だからこそ最後は味方の同士討ちに賭ける。全ては魔族のために。二人の英雄に決死の覚悟で襲い掛かる。
「後は任せましたよ、ロキさん!」
「違うぞ! 俺たちをっ。人族を信じてくれ!」
リーパーが必死に否定する。しかし、僅かに。命がけのフェンリルに天秤が傾いた。
「……君たちはそいつさえも切り捨てるというのか? 見損なったぞ」
「……くっ、何を言っても無駄か!」
「待って、逃がさないよ!?」
ラグナロクが狼と戦い、遠山がグリムたちに魔法を放って来る。必死にそれを避ける。
「駄目だ。今のうちに逃げるぞロキ!」
スプラッシュで視界を塞ぎ、幻影で上手く隠れる。視界が塞がれている内に身体能力を強化したグリムの鞄に入ると、全力でその場を後にした。
見失った事で一度フェンリルに集中し、難なく撃破した二人。フェンリルの口元は笑っていた。厄介な二人に足枷を付けることが出来た事を。魔族は既に大半が敗走していた。
障壁が消え、味方の兵が一人急接近して来る。
「流石は英雄。凄い戦いでしたよ……ところで……パーリィーさんたちは何処へ?」
「それは、後で指揮官に話す……」
「了解です。それと、忘れるところでした。重要なお知らせが……」
「何があったの?」
「どうやら、捕えていた四人の魔族が脱獄したみたいです」
「……そうか……分かった」
今は防衛に成功したことを喜ぶ。この事件は人族と魔族の間に広がって行った。
(想像魔法の強みは柔軟な戦い方にある。兎に角、作れる時に欲しいと感じた魔法を作る。そして想像した魔法の練度を上げ強化していく)
しかし、実のところグリムは闇の誘惑に負けていた。リーパーはそれを知らない。治癒魔法が未だに生成中なのは、その間に大鎌に闇を纏わせるための魔法を差し込んだ事を。
リーパーは宿屋のテーブルに満足そうに座っていた。先ほどご飯を食べたからだ。
「いやー、ほんと参ったぜ。危うく魔族まで敵に回すところだったな」
「問題ない。なんせ四人とも生きてるからな! 先に攻撃して来たのも向こうだしな」
二人は楽しそうに高笑い(現実逃避)をしていた。
「ところでリーパーは竜(?)なのに何で人族の女性が好きなんだ?」
「はぁ? お前たち人族も小さな魔物や動物に愛情を注いでるだろ?」
「いや、それはちょっと違うと思うんだが」
「けっ。変らねーよ。好きなものは好きなんだよ」
「でも、村を襲ってたぞ?」
「生命の危機にそんな事言ってる場合じゃないだろ……もしかして馬鹿かお前? あっ、馬鹿か」
「……違う、黒衣の死神は知性の塊だ」
「と言うか、人族だけじゃねぇぞ。美女なら魔族も獣人族も関係ねぇ。誰でも歓迎だ」
「他の種族がいるのか!?」
「ほー、モテなくてもその辺は興味はあるようだな」
「それは関係ない……なぁに、深淵ってやつを知っておきたくてな」
どうやらこの世界には人族、魔族、獣人、翼人、エルフ、竜人、精霊、吸血鬼。そして竜族が存在するらしい。表立って争っているのは人族と魔族だ。精霊は例えるなら幽霊に近く、見える者が少ない。
竜族とは六災害は別ものとして認知されている。竜族には八体の長がいて、それを八竜と呼ぶらしい。
「神話によると神族様様が創造したらしいな……今でも信仰はそこそこあるようだが」
「ふーむ。なるほどなー」
「それで、何でこんな話をしたか、分かるな?」
「ああ、当然だ。黒衣の死神の名を世に」
「大人しくしてろって事だ。これ以上敵を作るんじゃない」
「でもこの前」
「あれは仕方ないだろ。お前も美女が襲われてたら助けるだろー?」
「いや? 獣だろうが人だろうが、名乗るタイミングを見計らって助けるが? ククク、そして噂は広がり、畏怖と敬意を持って、世界は俺の名を永遠に刻むであろうッ」
「何処にだよ。もはや病だな」
【緊急依頼】
グリムの服が、フードだけでなく内装も全体的に黒くなっていた。それに反比例して稼いだお金が減っている事に気が付く。リーパーは彼を殴った。
仕方なくギルドに向かうと、男性職員がリーパーの名を呼ぶ。少し慌てているようにも感じた。しかし、それに応じずに、女性職員の前に行く。そうはさせまいと、男性職員もその近くに来て強引に話し出す。
「待ってましたよパーリィーさん!」
「誰だお前?」
「やだなー。ギルドのお兄さん、トロルですよ! って不味いんですよ! 緊急の依頼がパーリィーさんたち……というより全員に来てます!」
リーパーは良い顔で即答した。
「断る。危険の香りがするからな」
人の多い場所では仮面フード状態のグリムが割り込む。
「緊急? 俺たちにしか出来ない依頼なのか?」
「それはもう! なんせ四人のスパイ魔族を捕まえた期待の中型の新人ですからね!」
「……よし! 漆黒仮面に任せる」
「任せとけ。どんな相手だろうと、この大鎌の贄としよう」
そう言い残し、その場から逃げようとしたが、腕を掴まれて止められる。
「そうはいきませんよ。登録してるのはパーリィーさんですし、名声にヒビが入りますよ!」
「ははは、俺は名声のために動かない……分かったらその手を離しなッ」
その後も長々と格闘する。結果的に女性職員がお願いすると即依頼を受領した。
【砦:ルイン】
砦を魔物が攻めようとしているので防衛する、という依頼だ。戦士ギルドで多くの傭兵を雇っている。リーパーはその中の一組だ。ギルド所属の者たちがざわざわと騒ぎ出す。リーパーの方を見ている様だ。
「まさか、中型新人のパーリィーか?」
「あれが?」
「ほー、あの若さで……」
様々な声が聞こえてくる。リーパーは焦る。自分だけ目立つと不機嫌になったグリムが絶対に何かやらかす。急いで彼を止めようと振り向くと、意外に大人しかった。
「……逆に気持ち悪いな」
「何がだ?」
「何時もなら馬鹿みたいな自己紹介をするだろ?」
「まったく、お前は何も分かってない。今回のパターンは格好良く敵将を討ち取った時に名乗るのがコツなんだよ」
「良かった。今回は名乗る事はなさそうだな」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味だ」
その時、周りの連中の中でもひと際若い男女が話かけて来た。
「へー、あんたが魔族の奇襲を防いだ噂の中型新人、パーリィーか」
「うわっ、すご~く強そ……でも良かった。猛者が多いのは良いんだけどね。怖いおっさんが多くて緊張してたのよ~」
「……なんだお前等?」
「俺かい? 俺は【神代の英雄】ラグナロク」
「私は【金色のスピリットサモナー】遠山よ」
「英雄ぅっ!?」
「もぉ、そんなに驚かないでよ。ここに居るからには立場は同じだよ」
「で、そっちの仮面さんは?」
「俺か? 俺は漆黒の仮面ロキ」
「へ~、センスの塊じゃん!」
「ああ、良い名だ。共に頑張ろう」
彼等は自分の持ち場へと戻って行った。リーパーがその者たちを見送りながら言う。
「なぁ?」
「なんだ?」
「あれ、お前と同じく召喚されたやつ等か?」
「そうだ。ここに来てるのは二人だけのようだな」
「……召喚されたのって、あんなのしかいねーの?」
「ああ、少し前までは田中とただの遠山だったが、どうやらかなり成長したようだ。関りは殆どなかったとはいえ、嬉しくなる」
「……強さは確かなんだろ?」
「今の俺では勝てるかどうか……いや、今の俺なら……」
「まあ、強ければなんでもいいや」
魔族は約千の兵を牽いてやって来る。敵将は三メートルほどの魔族。隣には四メートルほどの狼の魔物を連れていた。
砦の人族はその数を見て恐怖するが、人族の指揮官が皆を鼓舞し、それを受けて約三百の兵が雄たけびを上げる。そして彼等に指示を出す。
「さあ! 魔法障壁を張れ!?」
砦の内部にある巨大な魔法具。それを起動させると城壁より高い半透明の魔法障壁が展開された。円系では無い。それは敵が障壁を壊している内に、上空の隙間から魔法や矢で攻撃するためだ。
何体かは空を飛んで来るので、対空するためのバリスタや魔導兵器の最終チェックも済ませた。魔族が接近しきる前に魔法障壁は展開する。その少し前にコソコソと動く、ラグナロクたちが近寄って来た。
「ロキ……砦に居ては活躍などまた夢だ……分かるだろ?」
「俺の射程は変幻自在……ここからでも活躍して見せよう」
「もぉー、そうじゃないでしょ。歩合、あっ……じゃなかった。前線に出て敵を倒すと目立つでしょ? それは栄誉な事よッ!」
それを聞いたリーパーはそれを拒否する。
「おいおい! わざわざ地の利を捨てて魔法障壁の外に出るとか自殺行為。絶対に行かねぇからな! それに一度障壁から出れば、壊れるか、戦いが終わるまで戻って来れねぇ」
遠山が突然、リーパーを羽交い締めにした。ムニュっと柔らかいものが当たる。
「んっ、これは予想以上! 確かそっちに人目につかない部屋があるから」
ラグナロクがグリムの腕をガッシリと掴む。考える暇も無く彼は叫ぶ。
「ハーハハハハ! イッツショータ~イム!?」
そのまま引っ張り城壁から落下した。同時に彼女も落下し、リーパーが叫び声をあげていた。
「シルフィー! お願い!」
彼女が誰かを呼ぶと何処からか風が発生する。そして、落下の衝撃を抑える。ラグナロクと遠山は恰好よく着地する。対応出来なかった残りの二人は地に転がった。彼等は同時に立ち上がる。
「ふざけんな! 俺は砦に戻るぞ!」
リーパーが戻ろうと城壁方面に走り出した時、ドンと音を鳴らしながらぶつかる。魔法障壁の展開が完了したようだ。
「ィッ……テテ……って嘘だろ! そんな……ッ」
「大丈夫だパーリィーさん、俺たちが協力すれば一騎当千!?」
「お前等、二騎だけでやれよぉ。てか協力すんのかよぉ……助けて~、こいつらイカれてるぅ……ぅぅ……ぅぅぅ……」
悲観に暮れていると、それを気にせずにラグナロクが双剣を抜く。
「さあ目覚めよ、神域を侵す双頭の魔剣……デウストワイライト……ディユ・リコフォス」
彼が剣を抜く際、選ばれた者にしか見えない輝きに魅入られたグリムが呟く。
「神々の黄昏……だというのか……ッ」
「お前には分かるのか? この輝きが……」
「当然だ……」
「そこは黄昏ろよ」
リーパーが切れ気味に言った。砦に戻れなかったのが余程ショックだったようだ。グリムがラグナロクに語りかける。先ほどの意味不明なやり取りはまだ続いていた。
「その名は時代の終わり……」
「ふっ、またの名を全ての始まり……」
「あぁもう、分かんねぇ~よ。何言ってんだこいつ等っ」
「ふふ。盛り上がって来たわね……確かにそれは大事ね……分かってる……うん……うん……大丈夫よ。さっ、行くわよっ、シルフィー! サラマンダー!」
リーパーはそれを目撃して震える。彼女は彼女であらぬ方を向き、見えない何かと会話していた。
そして、ラグナロクと遠山は敵殲滅のために急加速する。逆にグリムは大鎌を携え、戦地に向かって、ゆっくりかつ堂々と歩き出す。一方リーパーは、静かに背景と同化した。
【砦前:敵陣】
ラグナロクは敵のど真ん中に突っ込んで行く。その双剣を持って次々と撃破し、遺体の山を積み上げていく。遠山は風や炎の魔法を主体とし。彼を援護するように戦っていた。グリムの魔法よりも範囲が広く強力な魔法。
その出力は異常だ。魔法という洗礼された括りでは無く、例えるなら蛇口を思いっきり捻ったかのように垂れ流している風に見える。竜のブレス、或は自然のエネルギーそのものにも見える。
何より不思議だったのは、彼女の死角であろう位置からの攻撃も、そこを見ずに防いでいたことだ。それはまるで何かに守られているかのよう。
敵の被害が80を超える頃、突然道が空き。奥から大柄の魔族が歩いて来た。
「お前を倒せば俺たちの勝利」
「安心して。魔王とやらも貴方と同じ。すぐに地獄に送って上げるから」
「何たる侮辱……我と大魔王イビルゼクス様を同列に扱うなどッ。許さぬ。魔物の餌にしてやるぞッ」
「違うな。お前は我が双剣の錆となる」
そこで魔族が背後から襲い掛かる。それに対処しようとした時、敵将が氷の魔法で攻撃を重ねた。遠山たちは全てを防ぎきれずにダメージを負う。
「ちっ……武人として恥ずかしくないのか!?」
「笑止……勝利以外は要らぬッ」
「ラグナ。貴方はボスに集中して。周りの雑魚は私がやる」
「任せたぞ。【金色】……ッ」
「フェンリルよ。遥か遠くから歩いて来ている、大鎌を持った男は任せた」
「承知ッ」
隣に居た巨大な狼はグリムの方へと走り去って行った。
「くっ……あれはロキに任せるしかない」
「大丈夫よロキなら。それに期待の中型新人、パーリィーもいるわ!」
「そうだな!」
少し前、リーパーは元の小さな姿に戻りコソコソとしていた。良い感じに隠れることが可能な場所を見つけたので、そこにすかさず入りホッと一息ついた。
「まっ、重要なのは戦いに参戦したって事実なんだよなー」
戦いが終わるのを安置でずっと待っていた。
少しお腹が空いたなどと考えたその時、何かに弾き飛ばされたグルムが近くに勢いよく転がった。リーパーは変わらず静かにその場で息をひそめていた。状況を観察する。
グリムが負っている深い傷を放置している所から察するに、どうやら魔法は完成していない、もしくは治癒が間に合っていない。つまり強敵のようだ。
「ッ……魔浪フェンリル……なんてパワーだ……」
「諦めろ人族……お前たちに未来などない……今度こそ滅ぶ時が来たのだ!」
「……仕方ない。これだけは使いたくなかったのだが……」
「なに?」
グリムが大鎌を恰好よく構え直す。
「幸い、今は奴がいないからな……存分に戦える」
「ふん、先ほどからずっと一人ではないか。下らん強がりはよせ……貴様の動きは既に見切った」
「強がりかどうかはこれを見て決めるが良い……死よ……我に力を。舞え、《甘美なる誘惑》」
グリムはその大鎌に黒い霧。いや、暗いオーラの様なモノを纏わせた。狼がうろたえる。体中に嫌な悪寒が走ったからだ。
「な、何だ……それはッ」
「逃れられぬ運命……則ち死だ……」
彼が接近し、その大鎌を振る。狼は先ほどと同じ対処をする。しかし、爪で防ごうと受け止めた時、爪が容易に切断された。二撃目。狼は切断された事実を受け止め、素早く後方へ跳んだ。
「一体なにが……ッ」
狼が落ち着いて対処法を考えようとした時、冷酷な声が聞こえ、ハッとした。先ほどの位置から一歩も動かない男が言う。
「気を抜くな。そこはまだ俺の領域……」
「!?」
地面に黒い影のようなものが近づいていた。そこから大きな刃が出現し、狼を襲う。体に深く刺さる。離れただけでは、圧倒的に不利であった。深手を負った狼は流れを変えるため、勢いで突進する反撃に出る。
鋭い攻撃だった。しかし、彼は動じず、まるで動かなかった。渾身の一撃がグリムを襲う。しかし、狼は彼に触れる事は叶わず、その前に作られた黒い何かに防がれた。それどころか、その黒い何かの鋭い刃による反撃を受ける。
「あ……あ……馬鹿な……!? 何故貴様のようなやつがっ」
リーパーは寛容だった。治癒魔法を差し置いて、いつの間にかコソっと作った魔法を許した。勝てるのなら問題は無い。意外にも実用性があった魔法をむしろ心の中で称賛する。
「漆黒に帰せ。其は我等の故郷なり……」
止めを刺そうとしたその時、大鎌の黒いオーラが消えた。グリムから声が漏れた。
「あ……」
狼は思わずその声を復唱した。
「あ……?」
「……今日のところはこの辺で勘弁してやろう……さあ、帰るが良い。家族が待っているのだろう?」
「……いや、嘘やろ? 時間制限だよな?」
「ふっ……止めておけ。俺の気が変わらない内にとっとと帰えんな……」
そこで怒りの鉄拳が飛んで来た。
「馬鹿かってめーはぁ!?」
「ぐばぁっ! お、お前が何故ここに!?」
グリムは人姿のリーパーに結構吹き飛ばされた。それを見た狼は顔を引きつる。
「なっ!? 新手!?」
「げ!? 思わず出て来てしまった!」
彼を殴るためについ姿を現してしまったリーパー。しかし、狼は警戒する。彼を容易く殴った者はきっと強いのだろうと。その証拠に黒衣の男は殴った者を恐れているようにも見えた。
深手を負ってこの二人を相手にするのは危険だと体が告げていた。ずっと先を読むと漂って来る死の臭い。狼は語り出す。
「私は……小さき頃、両親を殺された……人族になっ……」
「急になにを」
「私たち家族はもともと人族の番犬だったのだ。お互いの特性を活かし、生活を助け合っていた……あの時までは……」
「……何が起こったんだ?」
「忘れもしない、ある日の……」
「おい、ロキ。さっさと殺そうぜ。これ嘘だぞ」
「はぁ? そんな訳ないだろ。何を証拠に。そうだろっ、フェンリル!」
「ウン、ホントダヨ」
「俺も大概嘘つきだからな。分かるんだよ。これはグリムとは違う、どす黒い嘘つきの臭いだ」
「違う! 嘘を吐いているのはその人族だ!? どうかっ信じてくれ!?」
「まあ、お前がそう言うなら……《偽りの勇士》」
狼を倒そうと強化魔法を自身に使う。追い詰められた狼。そこで鼻と耳が動いた。そして、一瞬だけ口元が緩んだ気がした。大きな声で狼が吠える。
「計画通りですねッ。これで人族を滅ぼす事が出来る。最後まで油断せずに戦いましょう。ロキさんッ」
それを聞いてリーパーは呆れた。そんな下らない嘘に引っかかるはずが無い。
「あのなぁ……」
しかし、狼は彼に言ったのではない。二人に言ったのである。ボスを討ち取って近づいて来た英雄の二人に。
「今の話は……本当か……?」
「ラ、ラグナロクッ、違うぞ。これはフェンリルの嘘だ」
「くっ……駄目だロキさん。もう騙しきれ無い! ここは私が食い止める! 貴方はお逃げ下さい! ここで貴方を失う訳には行かない! 魔族の希望なのだから!」
そこで遠山は思い出したかのように言う。
「ロキ……確か悪戯好きの神。何か色々といたずらやって、結果、死と滅亡を招いたとか、招いて無いとか!?」
「悪戯で死と滅亡を招いたのッ!?」
リーパーはそれに驚く。しかし、彼女が最後にボソッとうろ覚えだけど、と呟いたのは聞こえなかったらしい。
「くそっ……今まで俺たちを騙していたのか!?」
「当たらずと雖も遠からず……」
「そこは否定してくれ! てかなんでそれを名乗ったぁ。何時もの病か!?」
一方フェンリルは覚悟を決めていた。
深手を負い、味方は半数がやられ、かつボスは倒れ、敵の主力は欠ける事無く四人。死を悟っていた。だからこそ最後は味方の同士討ちに賭ける。全ては魔族のために。二人の英雄に決死の覚悟で襲い掛かる。
「後は任せましたよ、ロキさん!」
「違うぞ! 俺たちをっ。人族を信じてくれ!」
リーパーが必死に否定する。しかし、僅かに。命がけのフェンリルに天秤が傾いた。
「……君たちはそいつさえも切り捨てるというのか? 見損なったぞ」
「……くっ、何を言っても無駄か!」
「待って、逃がさないよ!?」
ラグナロクが狼と戦い、遠山がグリムたちに魔法を放って来る。必死にそれを避ける。
「駄目だ。今のうちに逃げるぞロキ!」
スプラッシュで視界を塞ぎ、幻影で上手く隠れる。視界が塞がれている内に身体能力を強化したグリムの鞄に入ると、全力でその場を後にした。
見失った事で一度フェンリルに集中し、難なく撃破した二人。フェンリルの口元は笑っていた。厄介な二人に足枷を付けることが出来た事を。魔族は既に大半が敗走していた。
障壁が消え、味方の兵が一人急接近して来る。
「流石は英雄。凄い戦いでしたよ……ところで……パーリィーさんたちは何処へ?」
「それは、後で指揮官に話す……」
「了解です。それと、忘れるところでした。重要なお知らせが……」
「何があったの?」
「どうやら、捕えていた四人の魔族が脱獄したみたいです」
「……そうか……分かった」
今は防衛に成功したことを喜ぶ。この事件は人族と魔族の間に広がって行った。
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