たとえ世界を敵に回したとしてもOREの病いは治らない

刀根光太郎

文字の大きさ
上 下
3 / 58

3.そっちがそのつもりなら

しおりを挟む
 就寝時間、俺はテーブルに着いていた。窓を開け、月明かりに照らされる。美しい月を眺め、誓うのだ。

ちからが要る……英雄やつらあざむけるちからがっ」

 思い出すのは昼間の出来事である。

「お前等が悪いんだ……俺に本気を出させたお前等がッ」


 現状の魔法では太刀打ちできない。かと言って強力な魔法は生成出来ないだろう。残された時間はあと半月。静かに先を見据える。

「条件を付ける……死んだふりをするために、汎用性全てを犠牲にして作れば……フフ、フフフフ! ハーッハッハッハッ!?」


 合理性を捨ててでも彼にはやり遂げたい事がある。その時、ドアをノックする音が聞こえた。開けてみると見覚えはある程度の女子がいた。

「あの……笑い声が五月蠅うるさくて、もう少しだけ静かにしてください……」

「ごめんなさい」

 それを聞くとドアがパタンと閉じた。そして、魔法を生成する。生成するは前代未聞ぜんだいみもんの大魔法になるだろう。


☆☆☆☆☆

条件:
一、一度しか使えない。
二、魔素を8割消費する。
三、疲労する(例えば20㎞のランニングする疲労感)。
四、発生場所の自由指定。ただし、30メートル以内。
五、この魔法を使うと丸一日、全ての魔法の使用不可。

☆☆☆☆☆



 完成するまでの時間、魔法の特訓をする。魔法を沢山使う事で魔素量を増やし、力を込める事で魔力を徐々に高め、細かい操作が出来るように魔法を自由に操作して遊ぶ。

(待てよ……日頃から走り込んでないのにそんな条件にしたらやばくないか?)

 俺はゾッとした。山の中で動けずに一人になることを想像する。そして、大人しくランニングをするのであった。


【二度目の魔物狩りの日】

 29日目、何人かに貫禄かんろくが見え始めた。

 俺は剣を持つ。そして、初日に支給された硬貨を持つ。さらに短剣。獣の革で作った水筒。それ等を茶色のローブの中へと隠した。

 今回かなめの魔法は二日前に完成してある。準備万端だ。出る時にお世話になったこの部屋に一礼をする。ドアを開ける前に呟いた。


「勝利を我が手に……」


 先日とは違う山。しかし、教官から情報を聞き、下調べはしてある。そして、俺たちは山へといざなわれた。

 皆の様子を静かに観察する。そろそろ自身の強さに過信する頃だが。それが運よく見られるか。それ次第でも成功率が変わる。

 後は教官だ。最初の頃に比べて数が減っているから一見楽に思える。だが、逆に言うと彼等がそれだけ力を付けたと言う事だ。現に彼等は効率よく魔物を処理していく。

 終に、落下ポイントに差し掛かる。後は魔法を発動させるだけ。俺は目を瞑る。

(まだだ……感じろ。魔物の足音、気配……焦るな。ベストを狙え……)

 そこで魔物が現れた。同時に俺は叫んだ。


「ぐぁぁあああ!? ま、魔力が暴走する!?」


 数人がこちらを見た。ここで発動させる。炎、風、光、闇属性を合させた特別な魔法である。


(《偽装演出ジバポート》!?)

 
 俺から怪しげな光が発せられた。同時にそよ風アウラーも使い地面が無い方へ、不自然に大きく跳躍ちょうやくする。

 すると、それに気が付いた数人が超反応で俺へと接近しようと踏ん張る。何故近づけないかには理由がある。

(無駄だっ。俺を中心に四方八方に発生する強力な風。それが向かい風となり、君たちをこちらに寄せ付けない!?)


 そして、あと数秒で俺は爆発する。


(だが、位置指定!? 俺は爆発では死なない。爆発を受ける前に崖の下へと空間転移するからだッ)


 その時、数人の風使いが俺の風を相殺し始める。恐ろしい判断力だ。そして、聖剣の乙女が俺の方へと飛んだ。

(馬鹿な!? 死ぬ気か!?)

 幾ら彼女でも後五メートルは足りない。それは彼等の身体能力や妨害を考慮した距離。

 普通ならこちら側に来ずに諦めるはずだった。しかし、彼女はあと数十センチという位置まで来ていた。強い瞳。限界を超えようとする強い意思を感じた。

 このままでは彼女は爆発に巻き込まれるばかりか、落下する。


(駄目だ。君は死ぬべきじゃない。強く正しい英雄になるべきだ)


 俺は四方八方に放出している風を一点に集めた。そのまま彼女の方へと収束させ、追い返す。この操作こそ特訓の成果。

「きゃっ!?」

 彼女は元の場所へと帰った。それでも俺を助けようとするが、他の者たちに無理やり止められる。そして、俺は最後に大切な一言を叫ぶ。


九重ここのえーーーーーっ!!」


 俺が自爆する寸前、九重はかなり遠くにいた。自慢の鈍器で何度も魔物を殴打し、ひたすらに狩っていた。実に楽しそうだった。


(あ……こっちに気付いて無い……)


 時間が来た。俺は空中で盛大に爆発した。さらに死角へと空間転移する。偽装の魔法は成功した。しかし、茂みの中でぐったりとしていた。

 息切れだ。頭もクラクラする。嫌な汗が出て来る。まるで動けない。力が入らない。

 これがこの魔法の疵瑕しか条件だ。その代わり、途轍とほうもない性能を見せてくれた。


(これは中々きつな……ハハ……予想外……)



【崖の上】

 大爆発を目撃した者たちは地に手をついて伏していた。地面にポタポタと水が滴る。

「守れなかった……」

「くそぉ!? 何でぇ!?」

「彼……最後は私を守ろうと……ぅぅ……」


 九重ここのえたちが魔物を倒し終えると近づいて来た。

「どうした?」

「……鈴本すずもとが……死んだ……」

 彼等の嗚咽が交差する中、九重は眼を細める。

(誰だぁそいつ?)

 残念ながら、彼等は名前を間違えて覚えていた。


「魔力の暴走で……くそッ」

 取り合えず九重は慰めの声をかけた。


「お前等のせいじゃねぇ……まあなんだ。そいつの分まで頑張ってやれ」

「ああ……俺は自分を許せない……もっと強くなるんだ。今度は誰も死なせないために……ッ」


 そこで、男子の山田が言う。

「魔力ってやつは暴走すると爆発するものなのか?」

 教官が少し考えた後にそれに答える。

「魔素を込め過ぎると魔法が暴発する事もある……魔力はむしろそれを抑え込むことが出来る」

「ほう、魔導師がそれを魔力の暴走と口走った……怪しいな……そいつは前回も崖に落下しそうになっていた奴だろ?」

 泣いている男たちが鈴木を庇う。


「お前は【パクリ王】っ」

「彼は最弱だぞ。うっかり落ちかけても何の不自然さは無い!」

「仮に何か企んでいたとしても、ここまでして何が得られるのか……それに緊急時だったんだ。言い間違えもあるだろう……」


 怪しいと声を上げた男は小さくパクリ言うな、と切れぎみに呟いていた。教官は引っかかっていたことがあった。そして、その違和感に気が付いてそれを口にする。


「しかし……あれほどの暴発……かなりの魔素量を有していることになる。彼は本当に最弱なのだろうか?」

 それには誰も答える事が出来なかった。そもそも半数近くの人は彼の爆破を見ていない。

 誰が爆ぜたのだろうと疑問に思っていたが、全員知ってるだろうの雰囲気だったので、とても言い出しにくかった。


 そして数日後、九重はトイレをしている時、鈴木すずきがいない事にふと気が付いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...