1 / 58
1.英雄召喚
しおりを挟む
気が付くと、薄暗い草原を走っていた。目的地は分からない。ただ闇雲に。
いつの間にか現れた黒髪の少女。顔がぼやけていて誰なのかは分らない。何も理解出来ないまま、ぼんやりと見続ける。黒ベースのゴスロリに眼帯。右腕には鎖を巻き付けていた。
(さては邪気眼系ロリババア)
そんな時、彼女の口が動いた。しかし、何を言っているのかよく聞こえない。
「……て……す……」
「なに?」
「……て……わ……しは……蟻……」
そこでベッドから跳び起きた。目覚まし時計が鳴っていた。俺はそれを止めると呟く。
「蟻? 黒い服……漆黒の蟻、と言ったところか……」
俺は黒衣の死神、グリム。本職を隠して高等学校の一年生という機関に潜入している。この家の両親、実は真の両親では無い。彼等の記憶を少しいじって、一緒に暮らしている。全ては潜入のためだ。
「一郎っ。早く食べないと遅刻するよ~」
一郎。ああ、一郎ね。これはこの家族での仮の名。鈴木一郎と呼ばれている。未だに慣れないものだ。テーブルに着くと眼鏡をかけた男が言う。
「一郎。食事の時くらいその包帯を取りなさい」
「勘弁してくださいよ、お義父さん。まだ力を制御出来て無いのです」
「……毎回それを言っているが、何時になったら制御出来るんだ?」
そこで、こんがりと焼かれた食パンをモグモグと口に頬張る少女が割り込んで来た。
「お父さん、無理だって……お兄ちゃんの病は当分治らないよ」
「ぅ……む……」
「不治の病じゃないから安心して。飽きるまでの辛抱だよ~」
「そうか……」
(他人に病気扱いをされると心外だな……しかし、俺の能力を知られる訳には……今はこれで良しとしよう。これ以上の会話は危険だ……)
急いで朝ご飯を完食し、学校に潜入するために外へと出る。周りの人が俺をチラ見する。最初は俺の正体がばれたのかと考えた。しかし、どうやら俺の身長が181㎝あり、それで目立っている様だ。
学校に着くとクラス委員長が遠目に見えた。すれ違いざま、皆に話しかけている。
「おはよう!」
「カナちゃん、おはよう!」
しかし、俺の横を通り過ぎるとき、彼女はやるせない表情のまま沈黙する。どうやら俺の真実に勘づいているらしい。
(危険な記憶だけを消すか……いや、消えた事で彼女の発言に整合性が無くなり、怪しまれるかもしれない。今はそっとしておこう……いざとなったら俺が助ければいいだけだの話だ)
一番後ろの席で窓から外を眺めていると、教師がやって来た。どうやらテストの返却をするらしい。そこで俺は先読みの能力を使うと、今日はどの教科もテスト返却になることが分かった。
返却後、クラスで笑いが起きる。どの時限でも同じだ。皆は俺の事を見て大笑いする。恐らく、毎回赤点が返って来るからだろう。
(ふっ……この紙切れ数枚で俺の何が分かると言うのか……理解に苦しむ……実に滑稽だ)
放課後、屋上で風を感じているとドアが開いた。数人の男子が現れる。
(この世界の腐敗に耐えきれず不良に堕ちた男、龍燃九重とその従者たちか……)
「ククク、オール欠点の鈴木じゃねぇかぁ」
「なにか用か……九重?」
「おっと悪いっ。原初の神龍、グレムリン君だったかな?」
彼等はそれを聞いて大笑いする。しかし、俺は許せなかった。
「ッ天空の龍神。ファフニールだ!?」
「ぷははは! どっちもいいよそんなの!」
「腹がぁ! 腹がぁ!」
「……前世を知られたからには生かしてはおけない……消えてもらおうか……」
「ああ? やめとけって……死ぬぞ」
彼の身長は185㎝。若干彼の方がムキムキで体格が良いが、俺には本で鍛えた技術がある。勢いよく接近し、一発拳を繰り出すと、九重はそれを避けて、顔面にカウンターを放った。
「がぁ……ッ」
地面に伏した男を見下しながら九重は言う。
「言って置くが……俺は昔、格闘技を」
(馬鹿が! 語りすぎだ!?)
油断している隙にもう一度殴りかかるが、受け止められて腹に一発、強烈な拳の一撃をもらった。
「がぁ……ッ!? ……はぁはぁ……駄目だ……封印を解くのは危険すぎる……いくら九重でも流石に可哀そうだ……」
「……うぜぇから、二度と逆らわない様に教育してやるか」
彼の従者たちも集まってきた。一斉に蹴りを入れようとしたその時、地面に六芒星の魔法陣が輝き始めた。
「はぁ? なんだこれ?」
彼等が動揺している。それはそうだ。
「異世界への扉……ッ」
「ああ? そんな事あるはずねぇだろうがぁ」
「ふふふっ……なら、自分の眼で確かめると良い……」
「ちっ、気持ち悪いぃ。お前等、離れるぞッ」
しかし、それは間に合わず空間が歪んだ。頭の中、思考がぐしゃぐしゃになり、意識を失った。
目覚めると見知らぬ城にいた。
辺りを見渡すと30人ほど、制服を着た男女が居た。知っているのは九重を入れた五人のみ。制服が違う所を見ると他の人は別の学校から召喚させられたのだろう。
国王、王妃、宰相、らしき人物が、こちらを凝視していた。護衛兵は緊張した様子でこちらを警戒している。
「よくぞ、召喚に応じてくれた。歓迎しよう」
「俺の」「何だお前等は! ここは何処だ!?」
一郎の声が、状況を理解出来ない人間によってかき消された。
「俺は」「こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!?」
「……」
状況が分からないなら静かにして欲しいものだ。しかし、名案が彼の脳裏をよぎる。
(いや、ここは静かに成り行きを見守り、裏で動くパターンッ)
言葉は召喚する際に翻訳の魔法をかけているらしく、普通に通じるので楽だ。文字はよく分からない形だが、じっと見ていると地球の言語に変換して見える。
分かった事はこの王国はレガルゥイ。大魔王イビルゼクスが率いる魔族軍と戦争中である。
このままでは人族に分が悪く、負けてしまう。なので膨大な魔素を集め、英雄を召喚するための魔法を発動させた。転移魔法陣から離れなかった事が、召喚に応じた証だと捉えられた。
古代の文献によると、地球には存在しない、魔素というモノがあり。それに耐えるために体内に無理やり魔素を生成する器官を作る。急激な差異に突然変異を起こし、スキルと呼ばれる異能力が発現するそうだ。
そして、この世界にはレベルと呼ばれる概念がある。その数値により、個人の心技体魔の成長を可視化することが出来る。それを知るにはステータスを半透明の板のようなモノに提示出来る魔道具が必要で、それを配り始める。
まだまだ、現実を受け入れられずに騒いでいる者が多数いる。それはほっといて自分の能力を見る。
☆☆☆☆
レベル:1
スキル:想像魔法
魔法:
☆☆☆☆
(創造……いや、想像魔法……名前から察するに全てを手に入れた様なもの。勝ったな。やはり俺には途轍もない力が隠されていたようだな)
その時、何故か皆の能力名を公開する事となった。一人ずつ目に着いた者から読み上げる。どうやら能力に応じて、この世界の戦闘に長けた者たちと共に、訓練方法を考えると言った名目、その他に王や記録者へ伝える時間の節約のためらしい。
そこで、思いつく。この国王は本当に信用出来るのだろうか? 何か善からぬ事を考えているのではないか。
ならばここは一度国から追い出された後に自分の眼で世界を見て、世界を知り、そこから本当に魔王を倒すべきなのか、自分の意思で決める事としよう。
(ククク、陛下には悪いが、俺のやり方で世界を救おう。早速使わせてもらうッ)
想像魔法起動! 魔法生成。偽装魔法!
(……? ……あれ?)
おかしい、起動しない。ステータスが元のままだ。疑問が浮かびつつも取り合えず適当に透明な板をタッチする。想像魔法の項目付近に指が触れた時、詳細画面に遷移した。長々と説明が書かれていた。要約するとこうだ。
☆☆☆☆☆
・強い魔法ほど生成には高いレベルが必要。
・次回生成までのクールタイムがあり、強い魔法を生成した時ほど、それが長くなる。
・単純に強い魔法ほど生成の時間が長い。
・付加する能力に応じて生成時間が増加する。能力付加の数に比例して、生成時間が増加する。
※マイナス条件を付ける程、短時間で生成でき、クールタイムも短い。
・合理的であるほど、短時間で強い魔法を生成できる。
・自身が持つ、所有魔素範囲内の魔法しか生成できない。
☆☆☆☆☆
隅々まで見ていると、偽装魔法の生成まで四分三十二秒と書かれていた。
(制限あるのかよ! ま、不味い! 陛下に想像魔法を知られると非常に不味い!)
冷や汗が止まらない。時間が一秒一秒、ゆっくりとカウントが減って行く。カップメンを作る時は何かしてるとすぐに経つ。明らかに時間の流れがおかしい。
(はっ……この世界にも相対性理論はあるのだろうか……)
などど考えている内、終に自分の番となる。まだ偽装魔法は完成しない。このままじゃ間に合わない。ステータスを読み上げているのは歴戦の猛者感のただよう女性戦士。彼女に呼ばれる。
「ぁ……麗しのレディー。ファフニーーールをご存じですか?」
「知りません。早くステータスを見せてください」
「あ、はい……」
冷たい対応で、シュンとしたが、ギリギリで魔法は完成した。
☆☆☆☆
レベル:1未満
スキル:役に立たない最弱クソ弱魔法(蟻も殺せない)
魔法:汗かき
備考:幾ら努力しても無駄
☆☆☆☆
表記された事が無い項目の数々。悪意は無いが、初めての体験に思わず彼女はスキル名以外も読み上げてしまった。知り合いもそうでない人からも例外なく、爆笑の渦が巻き起こる。九重なんかは転げ回り、床を連続で叩いて涙を流していた。
「しぬぅぅ! しぬぅぅ! 鈴木に殺されるぅぅ!!」
(あ、慌てすぎて何も思いつかなかったぁあ。何時もと違って難しすぎんだろぉぉおお。くそっ! クソぉっ!?)
「あっ……その……ご愁傷様です」
「い、いえ……お気になさらず……」
(なにはともあれ計画通り)
読み上げが進むつれて、自由になった者たちが増えて行く。自身のスキルの話に夢中になり、他人のスキルを気にしなくなる。それが終わると一度静かになった。
ここからが本番。俺は深刻な表情を見せて、国王の方を向いて尋ねる。
「国王陛下……私はここには居られないのでしょうか……いえ、訊くまでもありませんね……」
(何故なら俺は役立たずなのだから……クク)
「ふむ、どちらにせよ。一か月はここで訓練をしてもらう。そこに書かれている事だけが、全てではないのだからな」
「……へっ? おお、お、おっしゃっていることの意味が……っ」
(ちょっ、話とちがっ……)
「つまり、一か月後に魔王討伐の旅に出るのか。最終的には自らで決め、答えを出してもらう。もちろん我等は、其方たちが帰還するまで、最善を模索し続ける」
(ここだッ見えたッ)
「……もし……旅に出ないと言ったら……どうなさるおつもりですか?」
「それ相応の報酬はしっかりと出すが、其方の言う通り。どうしても戦えぬものも居よう。その者たちにはこの国で労働をしてもらう……なぁに、そこまで厳しいものでは無い。軽いお手伝いのようなものだ」
「そ、それは……どういう意図でしょうか?」
「本来なら魔王討伐の間、不自由ない生活を送って欲しいのだが……それでは国民がな。彼等も頭では理解しているが、納得するのは中々難しいだろうて……すまぬが帰還まで、この茶番に付き合ってくれ……」
「……は、はい」
(……ぁ……ぅ……ぐぬぅぅぅうう……そ、それが陛下の本心ならなッ……こ、こうなれば! 事故だッ。それしか無いっ。事故に見せかけて、国から消えるしか無いッ)
こうして、どうしても黒衣の死神をやりたい男の挑戦が始まったのであった。
いつの間にか現れた黒髪の少女。顔がぼやけていて誰なのかは分らない。何も理解出来ないまま、ぼんやりと見続ける。黒ベースのゴスロリに眼帯。右腕には鎖を巻き付けていた。
(さては邪気眼系ロリババア)
そんな時、彼女の口が動いた。しかし、何を言っているのかよく聞こえない。
「……て……す……」
「なに?」
「……て……わ……しは……蟻……」
そこでベッドから跳び起きた。目覚まし時計が鳴っていた。俺はそれを止めると呟く。
「蟻? 黒い服……漆黒の蟻、と言ったところか……」
俺は黒衣の死神、グリム。本職を隠して高等学校の一年生という機関に潜入している。この家の両親、実は真の両親では無い。彼等の記憶を少しいじって、一緒に暮らしている。全ては潜入のためだ。
「一郎っ。早く食べないと遅刻するよ~」
一郎。ああ、一郎ね。これはこの家族での仮の名。鈴木一郎と呼ばれている。未だに慣れないものだ。テーブルに着くと眼鏡をかけた男が言う。
「一郎。食事の時くらいその包帯を取りなさい」
「勘弁してくださいよ、お義父さん。まだ力を制御出来て無いのです」
「……毎回それを言っているが、何時になったら制御出来るんだ?」
そこで、こんがりと焼かれた食パンをモグモグと口に頬張る少女が割り込んで来た。
「お父さん、無理だって……お兄ちゃんの病は当分治らないよ」
「ぅ……む……」
「不治の病じゃないから安心して。飽きるまでの辛抱だよ~」
「そうか……」
(他人に病気扱いをされると心外だな……しかし、俺の能力を知られる訳には……今はこれで良しとしよう。これ以上の会話は危険だ……)
急いで朝ご飯を完食し、学校に潜入するために外へと出る。周りの人が俺をチラ見する。最初は俺の正体がばれたのかと考えた。しかし、どうやら俺の身長が181㎝あり、それで目立っている様だ。
学校に着くとクラス委員長が遠目に見えた。すれ違いざま、皆に話しかけている。
「おはよう!」
「カナちゃん、おはよう!」
しかし、俺の横を通り過ぎるとき、彼女はやるせない表情のまま沈黙する。どうやら俺の真実に勘づいているらしい。
(危険な記憶だけを消すか……いや、消えた事で彼女の発言に整合性が無くなり、怪しまれるかもしれない。今はそっとしておこう……いざとなったら俺が助ければいいだけだの話だ)
一番後ろの席で窓から外を眺めていると、教師がやって来た。どうやらテストの返却をするらしい。そこで俺は先読みの能力を使うと、今日はどの教科もテスト返却になることが分かった。
返却後、クラスで笑いが起きる。どの時限でも同じだ。皆は俺の事を見て大笑いする。恐らく、毎回赤点が返って来るからだろう。
(ふっ……この紙切れ数枚で俺の何が分かると言うのか……理解に苦しむ……実に滑稽だ)
放課後、屋上で風を感じているとドアが開いた。数人の男子が現れる。
(この世界の腐敗に耐えきれず不良に堕ちた男、龍燃九重とその従者たちか……)
「ククク、オール欠点の鈴木じゃねぇかぁ」
「なにか用か……九重?」
「おっと悪いっ。原初の神龍、グレムリン君だったかな?」
彼等はそれを聞いて大笑いする。しかし、俺は許せなかった。
「ッ天空の龍神。ファフニールだ!?」
「ぷははは! どっちもいいよそんなの!」
「腹がぁ! 腹がぁ!」
「……前世を知られたからには生かしてはおけない……消えてもらおうか……」
「ああ? やめとけって……死ぬぞ」
彼の身長は185㎝。若干彼の方がムキムキで体格が良いが、俺には本で鍛えた技術がある。勢いよく接近し、一発拳を繰り出すと、九重はそれを避けて、顔面にカウンターを放った。
「がぁ……ッ」
地面に伏した男を見下しながら九重は言う。
「言って置くが……俺は昔、格闘技を」
(馬鹿が! 語りすぎだ!?)
油断している隙にもう一度殴りかかるが、受け止められて腹に一発、強烈な拳の一撃をもらった。
「がぁ……ッ!? ……はぁはぁ……駄目だ……封印を解くのは危険すぎる……いくら九重でも流石に可哀そうだ……」
「……うぜぇから、二度と逆らわない様に教育してやるか」
彼の従者たちも集まってきた。一斉に蹴りを入れようとしたその時、地面に六芒星の魔法陣が輝き始めた。
「はぁ? なんだこれ?」
彼等が動揺している。それはそうだ。
「異世界への扉……ッ」
「ああ? そんな事あるはずねぇだろうがぁ」
「ふふふっ……なら、自分の眼で確かめると良い……」
「ちっ、気持ち悪いぃ。お前等、離れるぞッ」
しかし、それは間に合わず空間が歪んだ。頭の中、思考がぐしゃぐしゃになり、意識を失った。
目覚めると見知らぬ城にいた。
辺りを見渡すと30人ほど、制服を着た男女が居た。知っているのは九重を入れた五人のみ。制服が違う所を見ると他の人は別の学校から召喚させられたのだろう。
国王、王妃、宰相、らしき人物が、こちらを凝視していた。護衛兵は緊張した様子でこちらを警戒している。
「よくぞ、召喚に応じてくれた。歓迎しよう」
「俺の」「何だお前等は! ここは何処だ!?」
一郎の声が、状況を理解出来ない人間によってかき消された。
「俺は」「こんなことをしてタダで済むと思ってるのか!?」
「……」
状況が分からないなら静かにして欲しいものだ。しかし、名案が彼の脳裏をよぎる。
(いや、ここは静かに成り行きを見守り、裏で動くパターンッ)
言葉は召喚する際に翻訳の魔法をかけているらしく、普通に通じるので楽だ。文字はよく分からない形だが、じっと見ていると地球の言語に変換して見える。
分かった事はこの王国はレガルゥイ。大魔王イビルゼクスが率いる魔族軍と戦争中である。
このままでは人族に分が悪く、負けてしまう。なので膨大な魔素を集め、英雄を召喚するための魔法を発動させた。転移魔法陣から離れなかった事が、召喚に応じた証だと捉えられた。
古代の文献によると、地球には存在しない、魔素というモノがあり。それに耐えるために体内に無理やり魔素を生成する器官を作る。急激な差異に突然変異を起こし、スキルと呼ばれる異能力が発現するそうだ。
そして、この世界にはレベルと呼ばれる概念がある。その数値により、個人の心技体魔の成長を可視化することが出来る。それを知るにはステータスを半透明の板のようなモノに提示出来る魔道具が必要で、それを配り始める。
まだまだ、現実を受け入れられずに騒いでいる者が多数いる。それはほっといて自分の能力を見る。
☆☆☆☆
レベル:1
スキル:想像魔法
魔法:
☆☆☆☆
(創造……いや、想像魔法……名前から察するに全てを手に入れた様なもの。勝ったな。やはり俺には途轍もない力が隠されていたようだな)
その時、何故か皆の能力名を公開する事となった。一人ずつ目に着いた者から読み上げる。どうやら能力に応じて、この世界の戦闘に長けた者たちと共に、訓練方法を考えると言った名目、その他に王や記録者へ伝える時間の節約のためらしい。
そこで、思いつく。この国王は本当に信用出来るのだろうか? 何か善からぬ事を考えているのではないか。
ならばここは一度国から追い出された後に自分の眼で世界を見て、世界を知り、そこから本当に魔王を倒すべきなのか、自分の意思で決める事としよう。
(ククク、陛下には悪いが、俺のやり方で世界を救おう。早速使わせてもらうッ)
想像魔法起動! 魔法生成。偽装魔法!
(……? ……あれ?)
おかしい、起動しない。ステータスが元のままだ。疑問が浮かびつつも取り合えず適当に透明な板をタッチする。想像魔法の項目付近に指が触れた時、詳細画面に遷移した。長々と説明が書かれていた。要約するとこうだ。
☆☆☆☆☆
・強い魔法ほど生成には高いレベルが必要。
・次回生成までのクールタイムがあり、強い魔法を生成した時ほど、それが長くなる。
・単純に強い魔法ほど生成の時間が長い。
・付加する能力に応じて生成時間が増加する。能力付加の数に比例して、生成時間が増加する。
※マイナス条件を付ける程、短時間で生成でき、クールタイムも短い。
・合理的であるほど、短時間で強い魔法を生成できる。
・自身が持つ、所有魔素範囲内の魔法しか生成できない。
☆☆☆☆☆
隅々まで見ていると、偽装魔法の生成まで四分三十二秒と書かれていた。
(制限あるのかよ! ま、不味い! 陛下に想像魔法を知られると非常に不味い!)
冷や汗が止まらない。時間が一秒一秒、ゆっくりとカウントが減って行く。カップメンを作る時は何かしてるとすぐに経つ。明らかに時間の流れがおかしい。
(はっ……この世界にも相対性理論はあるのだろうか……)
などど考えている内、終に自分の番となる。まだ偽装魔法は完成しない。このままじゃ間に合わない。ステータスを読み上げているのは歴戦の猛者感のただよう女性戦士。彼女に呼ばれる。
「ぁ……麗しのレディー。ファフニーーールをご存じですか?」
「知りません。早くステータスを見せてください」
「あ、はい……」
冷たい対応で、シュンとしたが、ギリギリで魔法は完成した。
☆☆☆☆
レベル:1未満
スキル:役に立たない最弱クソ弱魔法(蟻も殺せない)
魔法:汗かき
備考:幾ら努力しても無駄
☆☆☆☆
表記された事が無い項目の数々。悪意は無いが、初めての体験に思わず彼女はスキル名以外も読み上げてしまった。知り合いもそうでない人からも例外なく、爆笑の渦が巻き起こる。九重なんかは転げ回り、床を連続で叩いて涙を流していた。
「しぬぅぅ! しぬぅぅ! 鈴木に殺されるぅぅ!!」
(あ、慌てすぎて何も思いつかなかったぁあ。何時もと違って難しすぎんだろぉぉおお。くそっ! クソぉっ!?)
「あっ……その……ご愁傷様です」
「い、いえ……お気になさらず……」
(なにはともあれ計画通り)
読み上げが進むつれて、自由になった者たちが増えて行く。自身のスキルの話に夢中になり、他人のスキルを気にしなくなる。それが終わると一度静かになった。
ここからが本番。俺は深刻な表情を見せて、国王の方を向いて尋ねる。
「国王陛下……私はここには居られないのでしょうか……いえ、訊くまでもありませんね……」
(何故なら俺は役立たずなのだから……クク)
「ふむ、どちらにせよ。一か月はここで訓練をしてもらう。そこに書かれている事だけが、全てではないのだからな」
「……へっ? おお、お、おっしゃっていることの意味が……っ」
(ちょっ、話とちがっ……)
「つまり、一か月後に魔王討伐の旅に出るのか。最終的には自らで決め、答えを出してもらう。もちろん我等は、其方たちが帰還するまで、最善を模索し続ける」
(ここだッ見えたッ)
「……もし……旅に出ないと言ったら……どうなさるおつもりですか?」
「それ相応の報酬はしっかりと出すが、其方の言う通り。どうしても戦えぬものも居よう。その者たちにはこの国で労働をしてもらう……なぁに、そこまで厳しいものでは無い。軽いお手伝いのようなものだ」
「そ、それは……どういう意図でしょうか?」
「本来なら魔王討伐の間、不自由ない生活を送って欲しいのだが……それでは国民がな。彼等も頭では理解しているが、納得するのは中々難しいだろうて……すまぬが帰還まで、この茶番に付き合ってくれ……」
「……は、はい」
(……ぁ……ぅ……ぐぬぅぅぅうう……そ、それが陛下の本心ならなッ……こ、こうなれば! 事故だッ。それしか無いっ。事故に見せかけて、国から消えるしか無いッ)
こうして、どうしても黒衣の死神をやりたい男の挑戦が始まったのであった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる